「ティール組織は目指すものではなく結果である」オズビジョンが試行錯誤した内容とは?
※2021年1月9日更新
ティール組織とは、個々の社員が意思を持ち、組織目的の達成に向けて変化し続けることができる組織形態のこと。従来型の階層構造やマネジメント管理など、これまでの常識と思われてきた慣例が撤廃された次世代型の組織モデルです。
ティール組織のメリットは、組織の存在目的と個人の能力・強みがつながることで、主体性が自ずと発揮されることにあります。
一方デメリットは、上司による管理がないことにより、メンバーの高いセルフマネジメント力が求められることが挙げられます。
ティール組織は、自社に取り入れようとしてみても、なかなか思い通りにはいかないものです。そこで今回は、書籍『ティール組織』の中で、日本企業で唯一事例として取り上げられた株式会社オズビジョンで人事戦略を担う松田光憲さんに、ティールの捉え方や具体的な実践例などをお伺いします。
<プロフィール>
松田 光憲(まつだ みつのり) 株式会社オズビジョン 執行役員 事業推進部長
理工学部卒業後、システムエンジニアとしてキャリアをスタート。 その後、管理部門にキャリアチェンジをして、博展社とはてな社の2社でIPOを実現。 はてな社では、人事・総務・法務全般を管掌し、IPOに向けたバックオフィス全般の見直し・体制構築を担う。 現職のオズビジョンでは、執行役員としてバックオフィスを管掌しつつ、組織開発をメインで担当。執行役員の肩書を持ちながら業務委託で勤務し、同社が提唱する「自律型勤務制度」を率先して体現。
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目次
ティール組織とはなにか
──はじめに、松田さんは「ティール組織」をどのように捉えていますか。
ティールとは、人の意識の発達段階を色で表現したものです。人類は進化のプロセスにおいて意識レベルを高めてきましたが、それは組織の観点でも同じです。フレデリック・ラルー氏の『ティール組織』では、意識のレベルを下位から順にマゼンタ、レッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールと表現しています。実はティールよりもさらに高次の意識レベルも存在し、ターコイズ、インディゴ…と続いていきますが、ご興味がある方はケン・ウィルバー氏の『インテグラル理論』をぜひ読んでみてください。
ラルー氏は、ティール組織を従来の組織モデルを超えた生命体のような組織と説明しています。この革新的な組織は、「①存在目的」「②自主経営(セルフマネジメント)」「③全体性(ホールネス)」といった3つの特徴を持っており、階層や役職もなく、組織図も肩書もない。信頼に基づく組織だと述べています。
私が考えるティール組織とは、フラットかつアクティブで、一人ひとりがありのままの姿で働いている組織だということ。上司部下は関係なく建設的な議論が繰り広げられ、目的に向かってチーム一丸となって邁進する。メンバーへの配慮はするが、遠慮はしない。時には、厳しいフィードバックもしながらお互いに高めあっていくような組織をイメージしています。
ティール組織のメリットとは
──ティール組織のメリットはどういったものでしょうか?また、ティール組織でのデメリットはあるのでしょうか。
「一人ひとりがありのままの姿で働いている組織」とお話しましたが、組織のメンバーの主体性を伸ばせるというのは大きなメリットでしょう。フラットであるからこそひとりひとりが自律性が求められ、その中で主体性が強化されることで物事の進むスピード感が上がっていきます。
また、上司部下といった上下関係によって業務指示が行われるのではなく、メンバー間チーム間共有・決定がされていき、業務効率が大きく向上されます。
一方デメリットでは、詳細は後ほどお話しますが、単純に組織体制をフラットにするという手段だけではうまくいきません。組織全体がティール組織に対して理解を深め、メンバー自身も自律するという意識化のもと行動が必要となってきます。こうした部分の難易度が高いことがハードルとも言えるでしょう。
オズビジョン流、ティール組織の具体的な取り組み
──オズビジョンでは、なぜティール組織を、企業の「ありたい姿」に位置付けたのでしょうか。経緯を教えてください。
オズビジョンが従来から大切にしてきたことと、『ティール組織』内で体系的にまとめられていたことがフィットしていたのです。そのため、自然と組織づくりの参考にするようになりました。
①存在目的
オズビジョンは「顧客も社員も双方が夢中になる事業の開発に集中すること」をミッションに掲げ、お買い物やお出かけをもっと楽しくするショッピングテイメント企業としてポイントメディアなどのWeb事業を行っています。
社名の由来は、「オズの魔法使い」から。オズの魔法使いの物語では、登場人物それぞれの目的や動機は違うけれども、魔法使いに会ってそれを叶えてもらうビジョンは共通していて、だから力を合わせていきます。
それは弊社が目指す理想の組織に似ており、会社という組織のなかで同じ目標に向かって力を合わせる過程で、個々が可能性を最大化していく場でありたいと考えています。
そのために、「人の幸せに貢献し、自己実現する集団で在る」という企業理念を掲げ、「共通のビジョン(=事業としての価値)」と「個人の自己実現」を叶えるための理念経営をしております。
この「存在目的(=理念)を大切にする」方針が、上で述べたティール組織の3つの特徴の一つ、「①存在目的」に合致しています。
②自主経営(セルフマネジメント)
続いて、弊社には、いつ、どこで働くかを社員の裁量に委ねる「完全自律型勤務制度」があります。労務管理上はコアタイムがないフルフレックス制度で、月の所定労働時間を満たさなくても欠勤控除しない仕組みです。時間で管理するのではなく、パフォーマンスが最大化する働き方を自ら選択する。つまり、ティールで言う「②自主経営(セルフマネジメント)」の考え方を取り入れています。
③全体性(ホールネス)
最後に「③全体性(ホールネス)」。弊社では、働く仲間のプライベートまで含めた人となりを知り合うために、「Good or New」や「サンクスデー」という施策がありました。現在は実施していませんが、この2つは『ティール組織』の全体性(ホールネス)のパートで紹介されています。最近は、形を変えてオンラインでの全社員雑談タイムやWKWK(ワクワク)と呼ぶ社内イベントを通じて、自己開示をする場を設けています。
書籍内では日本でティールをしている企業として、唯一取り上げていただきましたが、実はティールを取り入れてみようと意識していたわけではありません。
私たちの目指したい部分に、ティールがうまく当てはまったから参考にしている、ということです。
──実際に取り組んだことについて教えていただけますか?
時間をかけた取り組みでは、私たちの使命をビジュアル化した「ブランディングプロジェクト」があります。
それ以外の取り組みとしては、
・全社で大切にする価値行動指針を見直し、実践までをゴールにした「クレド委員会」
・採用時にオズビジョンの考え方とのマッチ度を測るための「構造化面接」の整備
・部門・職種を超えた交流を深めるための「社内交流プロジェクト」
・目的の達成に向けて一丸となるために取り入れた「OKR」
・チーム状態や関係性が悪くなったときに実施する「はらわり会」「もやもや会」「立ち止まり会」「2on1」といった施策
さらに、これらの数々の施策をロイヤルティ指標として定量化し、定性面も含めて3カ月に1回定点観測する「eNPSサーベイ」など、挙げればきりがありません。
その時々の状況に応じて、ありたい姿や課題を設定し、試行錯誤し続けています。
また、テレワーク下でどのように組織文化を形成していくのかも挑戦しています。例えば、週に1回経営メッセージを伝えるための「社長ラジオ」や、全社員が自宅から参加した「フルリモート総会」。物理的な距離は離れても、全社員が同じ方向を向くことを大切にしています。
大事なのは、すべての施策が組織文化の発展に向けて一貫していることだと考えていますが、まだうまくいっているとは言い切れる状態ではありませんね。
──今まで実践された中で、成功したもの、反対に失敗だったと思うものはありますか。具体的に教えてください。
結果的に、どれもやってよかったとは思っています。ただ、導入を急ぎすぎたり、自身のエゴを押さえきれなかったりしたときは、期待する結果にはつながりませんでしたね。
特に、「挑戦する風土を高めよう」と実施した採用活動は、逆に組織状態を悪化させる結果となりました。
風土を醸成するために挑戦マインドを持った人材を採用しましたが、いざ入社しても、オペレーショナブルな既存事業にアサインしなくてはならない。入社前後の期待値ギャップが大きかったのでしょう。新入社員にも既存社員にも影響が出てしまうことになりました。
eNPSサーベイが-23まで下がり、半年間で13名の退職(当時の社員数は50名程度)を生む事態になりました。
私自身「成果を出さなければ」と焦ってしまった結果、オズビジョンが大切にすべき本質を見失っていたと感じています。
――その後、どのように改善していかれたのでしょうか。
組織状態が悪い中、もう一度原点に戻るために、「みんなの力を貸して欲しい」と頭を下げ、「クレド委員会」の活動を開始しました。
おざなりになっていたクレドに立ち返り、オズビジョンのコアを取り戻すためのプロジェクトでした。メンバーは公募だったのですが、10名を超える社員が手を上げてくれたのは嬉しかったですね。丸1日のミーティングを月に1、2回、半年かけてクレドを見直し、社内に展開しました。
オズビジョンで働く全員が何か悩んだり迷ったりした際に、意思決定の判断軸として立ち返る状態を目指して取り組みました。
その結果、「自分たちが何を大切にするか」が言語化され、新しいクレドについて語り合うことで組織文化が醸成され、eNPSもプラスに回復しました。
組織に対する取り組みは、どれだけ社員と向き合っていくのか、成果が出なかったら要因を捉えすぐに改善できるのか。いつまでもやり続ける、綺麗事ではない泥臭さがあります。
ティール組織とは、どのような企業にフィットするのか
──御社にはティールの考え方がうまく合っていたと思いますが、ティール組織はどのような企業に適していると思いますか。
ラルー氏の書籍にも書かれていますが、ティール導入にあたって、業種や規模は関係ないと思います。個人的見解ではありますが、チームリーダーと人事責任者の「発達段階」が高い組織ではフィットすると考えています。
発達段階はマンションの階層に例えられます。
1つ目の「チームリーダーの発達段階」について、マンションでは1階の住人が2階の景色を見ることができないように、ティールの発達段階に至っていないチームリーダーは、ティールで実現できるであろう景色を見ることができません。
加えて、最近では「かまくら」みたいなリーダーシップが必要だと考えています。
外がどんなに寒くて、吹雪いていても、かまくらの中は穏やかで暖かいですよね。Googleの研究でも、心理的安全性が高いチームは創造性も成果も高いと発表されています。
社外や上司のプレッシャーからメンバーを守り、誰しもがワクワク働くための「しなやかで大きなかまくら」を作る能力があれば、自ずとティールのようなチームになると考えています。
2つ目の「人事責任者の発達段階」についても同様に、組織文化や制度・仕組みに責任を追う人事責任者がどのような世界観を描いているかが大切です。
これからの時代は、正社員だけを前提とした組織ではなく、フリーランスや業務委託など外部のプロフェッショナルと協働した組織づくりが求められます。
・社外の人材も含めた人事制度をどう設計するか。
・正社員の副業・兼業が広がり、雇用形態の多様性が増す中、組織文化をどう作っていくか。
・正社員の存在意義とは何か。正社員には何を求めるのか。
など、考えることは複雑化する一方です。
複雑なものを統合するには高次の発達段階が求められます。よって、人事責任者の発達段階が高い組織はティール化していくと思います。
ティール組織は目指すものではなく、結果的になっていくものです。
オズビジョンでも、大切にしてきたのは会社としての「ありたい姿」。その実現を目指して泥臭く試行錯誤する中で、結果として現在の組織になっています。
とはいえ、まだまだティール組織と胸を張って言える状態ではありませんが。
ティール組織を学ぶために、お薦めの書籍4冊
──最後に、「ティール」を実践する際に参考となる、松田さんお薦めの本を教えてください。
ティールをより理解するために、参考になる4冊をご紹介します。
ティール組織の世界観を、表面的に捉えるのはもったいない。その背景には成人発達理論、インテグラル理論などの近接した理論から宗教や哲学、自然科学といった、精神と科学を統合した結果としてまとめられています。
私自身もまだまだ模索中ではありますが、多様な視点を取り入れ、組織とは何か、人とはなにかを探求し続けることが大事ではないでしょうか。
『組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』 /日本能率協会マネジメントセンター/加藤洋平著
日本における成人発達理論の第一人者である加藤氏の本。成人発達理論の概要を学ぶための入門書として読むのにお薦めです。部下とのコミュニケーションや育成法、組織マネジメントのあり方など、わかりやすく理解できます。
『自主経営組織のはじめ方』/英治出版/アストリッド・フェルメール、ベン・ウェンティング共著
『ティール組織』で取り上げられていたビュートゾルフ社など、実践例を紹介しています。ティールを実践する上で欠かせない自主経営の基本的な考え方から、組織構造、解決指向のコミュニケーションという独自手法まで解説している良書です。
『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』/日本能率協会マネジメントセンター/ケン・ウィルバー
『ティール組織』の参考文献の一つ。発達段階について解説されており、より深くティール組織を理解したい方にお薦めです。人・組織・社会・世界の全体像をより正確につかむフレームワークである「インテグラル理論」の概要を解説した入門書。
『なぜ世界は存在しないのか』/講談社/マルクス・ガブリエル
哲学書としては異例のベストセラーとなった、マルクス・ガブリエルの著書。グローバル時代の哲学として、ポストモダンに対抗する「新実在論」を一般向けに明快に書いた一冊です。少しマニア向けですが、ティール、あるいはティールを超えた視点でお薦めです。
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編集後記
松田さんも指摘している通り、表面的にティール組織を取り入れたからといって意味がありません。
まずはありたい姿はどういう状態で、それに向かっていくための課題は何かを捉える。その上で具体的に取り組んでみる。そして、経営者や人事だけが努力するのではなく、メンバー一人ひとりがそれを自分事化できるように整えていくことが大事です。
ティール組織は、変化にあわせて進化し続ける組織モデルです。オズビジョンの事例を踏まえながら、変化を恐れず一歩を踏み出してみるののはいかがでしょうか。
また、ホラクラシー組織との違いやまた別のティール組織に関しての事例などはまた別の取材でお伝えできたらと考えています。