「タウンホールミーティング」により経営陣と従業員の双方向なコミュニケーションを実現する方法
経営陣と従業員が対話する場である「タウンホールミーティング」。日立製作所や三菱UFJ銀行などの大手企業でも実施されている取り組みです。今回は、複数の外資系企業にて人事経験を持つ高橋 恵理子さんに、「タウンホールミーティング」の概要から進め方・注意点に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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高橋 恵理子(たかはし えりこ)/ 人事コンサルタント
外資系企業数社にて約15年人事を経験。人事全般(採用、評価、報酬、福利厚生などの人事諸制度、就業規則策定を含む労務管理、ビジョン・ミッション・バリューの発信といった人事施策から人事システム導入など)における実務経験があり、特に採用プロモーション関連(求人広告・採用ページ作成)において最新トレンドまで熟知するなど専門性を持つ。2019年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得。従業員のキャリア形成サポートも手掛けている。
目次
「タウンホールミーティング」とは
──「タウンホールミーティング」の概要について教えてください。
「タウンホールミーティング」とは、企業の経営陣と従業員がさまざまなテーマで対話を行うミーティングのことを指します。民主政治と市民による政治参加を推進することになった歴史的な背景をルーツとし、特にアメリカの民主政治の歴史に深く根付いた概念です。
タウンホールとは通常コミュニティセンター(公民館)のような公共施設を指す言葉であり、そこに地元住民が集まり直接的かつオープンな対話・議論・意思決定を行っていました。時が経つにつれてタウンホールの概念が進化したことを受け、「タウンホールミーティング」が単に政治的な集まりだけでなく、企業環境を含むさまざまな場面においてオープンなコミュニケーションや対話の場と関連付けられるようになりました。
この「タウンホールミーティング」を開催する目的は、リーダー層からの透明性の高いコミュニケーション促進、エンプロイーエンゲージメント(従業員意識)の向上があります。
「タウンホールミーティング」と似たものに『社員総会』がありますが、社員総会は一般的にアジェンダが事前に決まっており、その内容もかしこまったものが多く一方的なコミュニケーション(伝えるだけ)になってしまうことが大半です。
一方、「タウンホールミーティング」はアジェンダも比較的自由自在であり、カジュアルな雰囲気の中でリーダー層のメンバーと双方向かつオープンなコミュニケーションを生み出すことを目指します。社員総会でも一定の一体感を醸成することはできますが、「タウンホールミーティング」では上述のような性質により、さらに深い一体感を作り出すことが可能です。
「タウンホールミーティング」の効果
──「タウンホールミーティング」の実施によりどのような効果が期待できるのでしょうか。
「タウンホールミーティング」を実施することで以下6つの効果が期待できます。これらの効果が組み合わさることにより、組織の持続的な成長と成功に寄与します。
(1)コミュニケーションの活性化
経営陣と従業員の間に直接的なコミュニケーションの場が設けられることで情報の円滑化が進み、組織全体で同じベクトルを持って連携できるようになります。比較的企業規模が大きい企業にある傾向がありますが、組織の人によって認知が歪んでしまう状況などの改善にもつながります。
(2)情報の透明性の向上
重要な情報や課題を従業員に透明性高く共有することにより、リーダー層に対する信頼感を醸成できます。また、従業員は組織方針や目標について理解を深めることができるため、自分たちの役割や価値に対して、より意味を見出しやすくなります。
(3)従業員の参画意識や主体性の向上
質疑応答など双方向のコミュニケーションを作り出すことで、意見やアイデアの交換が生まれ、主体的に行動できる従業員が増えていきます。
(4)組織文化の強化
「タウンホールミーティング」は企業のMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に対する理解を深める場所でもあります。リーダー層からそれらのメッセージがクリアに伝えられることで、組織の一体感を生み出しやすくなります。
(5)従業員の業務に対してのモチベーションの向上
従業員が組織文化に共感し、自身の貢献が評価されていると感じると貢献意欲がさらに高まります。「タウンホールミーティング」を通じて組織への貢献が見える環境を提供できると、従業員のモチベーションを維持・向上させることができます。
(6)変化への受容
組織内で起こる変化・変更についてリーダー層から直接その背景・目的・影響を伝えることにより、従業員は自分たちが尊重されていると感じます。その結果、変化への受容がスムーズに進み、エンゲージメントが向上します。
「タウンホールミーティング」の進め方
──この「タウンホールミーティング」はどのような進め方で実施すると良いでしょうか。
「タウンホールミーティング」を実施する際の進め方について、準備段階・実施時・実施後に分けて紹介します。これをガイドラインのデフォルト・基礎としつつ、各企業の状況やニーズに合わせてカスタマイズしていくことをおすすめします。
【準備段階】
ニーズの把握
現在の社内での(特に経営層と従業員間の)コミュニケーションの状況や課題、ニーズを把握します。具体的には、何に関して情報共有が必要か、従業員が知りたいと思っているトピックは何か、について理解・整理していきます。
目標・目的設定
「タウンホールミーティング」により何を達成したいかを明確に定義します。その目標・目的は企業によりさまざまですが、上述のように透明性の向上、コミュニケーションの強化、バリュー浸透による組織文化の強化、従業員の参加促進などがその一例となります。
ターゲットオーディエンス(参加対象者)の把握
目標・目的が定まったら、それを踏まえて参加対象者を選定していきます。参加者の特性を理解した上で、コンテンツやアジェンダの調整を行います。異なる部門や職種の従業員が共通のメッセージを受け取り、組織全体で一体感を生み出すことのできるコンテンツを提供することが重要です。さまざまな部門や役職からの発表者を選定し、それぞれの視点や経験を反映させるなどの工夫を行うと、異なる立場からの情報が得られて共感が得られやすくなります。
日程と頻度の決定
「タウンホールミーティング」の開催の頻度は、四半期ごとや上期下期の年2回が一般的です。四半期ごとの実施で業績や目標に対しての進捗状況、次の四半期計画などを共有し、定期的な情報共有を行うことで従業員とのコミュニケーションを強化するための頻度として適しているためです。
「タウンホールミーティング」は重要な情報を共有し、従業員の関与を促進する場で、できる限り多くの従業員に参加いただくことが重要です。そのため、業界特性に応じた時期や、従業員の業務スケジュールを考慮することも重要です。新製品の発表や重要プロジェクトの進捗報告、組織改編実施のタイミングなど、その業界の特性や状況が異なると思います。また、私自身が就業していた企業でも、ほとんどの従業員が週の後半の午前中を希望したというケースがあります。それぞれの業態、企業、従業員の業務の性質やスケジュールから参加しやすい曜日や時間帯があると思いますので、なるべくそこに合わせて計画を立てると良いでしょう。このような企業や従業員の状況は常に変化していますので、日程や頻度の決定についても柔軟性と適応性をもって、調整を行うことをおすすめします。
コミュニケーションプランの作成
開催目的や参加者などの情報を踏まえて、「タウンホールミーティング」内で挙げる議題や発信内容を検討していきます。コンテンツは目的によりさまざまですが、一般的には業績の振り返り、ビジネスの最新情報、全社的な目標に向けた進捗状況や今後の事業計画、従業員表彰などを実施する企業が多い印象です。コンテンツが決まったら、アジェンダを作成します。この際、目的に合わせたトピックの選定や発表者の指定、時間配分などを意識します。
コミュニケーションツールの選定
使用するコミュニケーションツールやプラットフォームを検討し、参加者が利用しやすい環境を整えます。在宅勤務やリモートワークなどが一般的に浸透してきていることを考えると、オンラインやハイブリッド形式にも対応できる選択が必要です。
参加者へのプロモーション
「タウンホールミーティング」の詳細・日時・参加方法はもちろんのこと、開催意義や目的についても明確に伝え、積極的に参加してもらうための広報活動をします。社内メールや社内SNS、ポスターなどを活用すると良いでしょう。
技術確認およびリソース確保
「タウンホールミーティング」を円滑に進行させるために、あらかじめ会場の手配、必要機材の準備、オンラインツールの設定(ビデオ会議ツールの設定、プレゼンテーションソフトウェアの確認、オーディオ機器の動作確認、インターネット接続、参加者向けの技術サポートなど)、発表者のプレゼンリハーサルを実施します。
【実施時】
スムーズな進行とタイムキーピング
アジェンダに基づいて進行する中でタイムキーピングに注意を払い、時間超過にならないように心掛けます。
参加者の意欲を促進
質疑応答セッションやフィードバックの要素を加え、参加者がリラックスしつつもアクティブに参加できる環境を作り出します。オンライン会議の場合にはチャット機能の活用や会議中の絵文字リアクション機能の活用を推奨し、アクティブに参加できる要素を取り入れると効果的です。
【実施後】
フィードバックの収集
参加者からのフィードバックを積極的に収集します。良かった点や改善が必要な点を把握し、次回のミーティングに活かすためです。
アクションアイテムの追跡
発表されたコンテンツにアクションアイテムや取り決め事項がある場合、その後にアクションが確実に取られたかどうかの進捗状況を管理できるプロセスを構築します。
PDCAサイクルの活用
オンラインアンケートなどを通じて従業員からのフィードバックを収集し、「タウンホールミーティング」の成果振り返り、効果の評価、次回の改善点を検討します。コンテンツ内容の変更・改善を行うことでPDCAサイクルを繰り返し、持続的な改善を目指します。
「タウンホールミーティング」における注意点とアジェンダ例
──「タウンホールミーティング」を実施する上での注意点について教えてください。
【注意点】
発表(コンテンツ)を数字の報告だけで終わらせない
リーダー層と各部門による発表(コンテンツ)が数字の報告のみに限定されると参加者の気持ちが離れ、置いて行かれたような感覚になってしまう従業員もでてくるため注意が必要です。
「タウンホールミーティング」に慣れていないケースを想定する
これまでに「タウンホールミーティング」が定例化されていない、認知されていない企業の場合には、事前のプロモーションや準備が重要になってきます。例えば、「タウンホールミーティング」当日の場で質問を受け付けても、全社員の前で挙手をすることに抵抗感がある従業員も少なくないことも想定し、Googleフォームなどを活用して事前に質問を募集しておくなども効果的です。
部門間で連携した上で運営する
「タウンホールミーティング」は経営陣や人事部門が主催部署となることが一般的ではありますが、この「タウンホールミーティング」の成功には複数の部署やチームの連携が何よりも不可欠です。運営するにあたって、具体的には以下のような部門との連携が重要です。
●経営陣:「タウンホールミーティング」の主要なスピーカーとして参加し、組織のビジョンや戦略に関する重要なメッセージを従業員に直接、分かりやすく伝えます。
●人事総務:「タウンホールミーティング」の準備や運営においてオーナーシップを持ち、企画運営を行います。担当領域は「タウンホールミーティング」のアジェンダ作成や会場手配、参加者の招待など全般に渡ります。また、開催後のフィードバックの収集やフォローアップ、次回に向けた課題提議や改善企画も行います。
●広報:社内広報や社内コミュニケーションチャネルなどを通じて、「タウンホールミーティング」の宣伝や広報活動、必要に応じて外部への情報発信も行います。
●IT部門:特にオンラインでの開催を行う場合は、技術的なインフラ整備、当日のトラブルシューティングやサポートなどを担当します。
【アジェンダ例】
「タウンホールミーティング」の成功には適切なコンテンツとアジェンダが不可欠です。アジェンダ作成をする上で、まずは「タウンホールミーティング」の目的を明確にしておくことが重要です。「タウンホールミーティング」の特徴のひとつに、自由にアジェンダを設定することができる点がありますが、それだけに会議の目的や参加者に伝えたいメッセージについて関係各所と共通認識を持つことで、実行しやすさに大きく影響します。また、一方通行のコミュニケーションとならない参加者の参加意欲を高める要素として重要トピックの選定、成功事例の紹介や従業員表彰、質疑応答を組み込むことをお勧めします。
以下に一般的なアジェンダをご紹介しますので、組織ニーズや目的に合わせて調整の上活用ください。
オープニング
「タウンホールミーティング」開始前(10分前程度)はテンポの良い音楽をかけて参加者を出迎える。開始時には、主催者は場の空気が明るくなるような歓迎の挨拶でスタートし、ミーティングの目的、本日の流れを簡潔に説明する。
社長など組織の経営層やトップリーダーによるビジネス状況のアップデート
業績の振り返り(成果のハイライト)、ビジネスの最新情報、全社的な目標に向けた進捗状況や今後の事業計画などについて共有する。会社の状況次第で、ビジョンや戦略、従業員への感謝のメッセージや期待を伝える時間を設けるとよい。
各部門長から事業・部門に関するアップデート
あらかじめ選定した部門よりイベント実施報告、新しいプロジェクトの共有や進捗報告、ベストプラクティス(成功事例)などの発表を行う。
従業員表彰(レコグニション)
従業員の優れた功績や活躍を認め賞賛する機会として、表彰・発表を行う。
質疑応答セッション
事前に収集された質問に対し、適切な回答者(社長・人事部長・経理財務部長などをあらかじめアサインしておく)が対応する。イベント中にリアルタイムで回答するのも良いが、特に日本人の場合はリアルタイムに質問が出にくい傾向があるため、あらかじめ質問を募っておくとスムーズかつタイムマネジメントも効果的にできる。
終わりの挨拶
「タウンホールミーティング」の締めくくりとして、主催者は参加者に感謝や励ましの言葉を伝え、堅苦しくないポジティブなエネルギーを残し終了する。
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編集後記
日立製作所や三菱UFJ銀行などの超大手企業でも実施されている「タウンホールミーティング」。経営陣と従業員の距離感が遠くなる大企業ほど、両者が直接的かつオープンに対話する機会の希少性と効果は大きなものになります。社員総会だけではなかなか期待した効果が得られなかったと感じている企業・組織においては、ぜひ一度企画・実施してみてもらいたい施策だと言えるでしょう。