「インターナルコミュニケーション」で、社員と会社を繋ぎ、事業成長を加速させる方法
「インターナルコミュニケーション」とは、組織内における広報活動のことを指します。社内広報やインナーコミュニケーションとも呼ばれ、社内報や社内セミナー・イベントなどあらゆるものが該当します。ただ従来の社内広報のように経営層からの一方的な情報提供ではなく、“双方向”のコミュニケーションがポイントになるなど、その取り組み方には特徴があるようです。
そこで今回は、株式会社アイスタイルのインターナルコミュニケーション室長として活躍されている田中 秀平さんに、インターナルコミュニケーションの定義から、その効果的な運用方法に至るまでお話しを伺いました。
<プロフィール>
田中 秀平(たなか しゅうへい)/株式会社アイスタイル Associate Vice President インターナルコミュニケーション室長
2007年大学卒業後、金融機関へ入社。その後人材コンサルティング会社を経て、2010年からEコマース・インキュベーションの事業会社で人事としてのキャリアを開始。グループ人事責任者として採用、人事制度、組織開発、カルチャー作りに従事。2014年にアイスタイルに入社し、リクルーティング部長/採用責任者を経て、2020年6月から現職。
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目次
「インターナルコミュニケーション」の重要性
──近年、「インターナルコミュニケーション」の重要性が増している印象があります。その理由は何でしょうか?
大きく以下3つの理由があると私は考えています。
働き方の選択肢が増えたことにより、社員に対してその組織やプロジェクトで働く明確な理由を提供する必要が出てきたため
社員と会社の関係性において、会社が主語に置かれることが大半だった時代は、MVV→事業戦略→組織→業務→社員と上から下へブレイクダウンされる形が一般的でした。こうした縦の関係性で社員と会社は紐付いていたため、コミュニケーションや人的資源マネジメントにおいても、より正確に・早く会社や経営陣からのメッセージをトップダウンで伝えることが重要でした。
しかし昨今はライフワークや価値観がより多様化し、働き方の選択肢も増えたことで、こうした社員と会社の関係性にも変化が見られるようになりました。前述したような”縦の関係”ではなく、よりフラットで並列な”横の関係”に変わってきた形です。
特に採用活動などにおける変化がわかりやすいかもしれません。これまではあくまで会社側が選ぶ立場でしたが、最近では会社と求職者が互いに提供・貢献できるポイントをフラットにすり合わせを行い、入社後もその都度それぞれが提供できる価値の交換(=期待の整合)をする関係に変化しています。
また今後、従来のメンバーシップ型の働き方から、ジョブ型、さらにプロジェクト型の働き方へ移行することが予想されます。それを前提に考えれば、その組織やプロジェクトで仕事をする”明確な理由”を会社側が提供することがより強く求められるようになるはずです。
そうした環境下における「インターナルコミュニケーション」の大きな役割は、前述した”期待の整合”を行って社員と会社を強く繋ぎ、事業成長を推進することです。具体的には、従業員体験(エンプロイージャーニー)の中からその会社で働くモチベーションや目的になるような情報・メッセージを提供し、活躍し得る人材が集まり続ける状態を実現していきます。
戦略と文化の整合を行うことで、事業を加速させることができるため
社員の期待行動(コンピテンシー)が体現されることにより戦略が実現され、事業の成長を促進し・加速させることに繋がります。また、そうした期待行動が再現性をもって繰り返されることにより、会社の企業文化=カルチャーが作られて醸成されていくものだと思います。戦略をドライブさせる大きな要因のひとつが企業文化・カルチャーであることを考えると、その基となっている社員の期待行動を可視化・言語化して、社内外の誰もが理解・体現できるように仕組み化する必要があります。この様に戦略と文化の整合を行うという事も組織としては重要なポイントで、その役割の必要性から「インターナルコミュニケーション」の重要性が増していると考えています。
組織やグループを横断した繋がりを形成し、プラットフォームとしてのシナジーを生み出すことができるから
各事業・サービスが個々に価値提供をするだけでなく、サービスを提供するユーザーやクライアントのLTV(※)に寄り添った価値提供を最大化するためにも、組織として各事業を横断したコミュニケーションや人と人の繋がりを生み出す必要があります。その役割を「インターナルコミュニケーション」が担っているということです。
(※)LTVとはライフタイムバリューのことで、日本語では「顧客生涯価値」と呼ばれる指標。1人もしくは1社の顧客が自社と取引を開始してから終わるまでの顧客ライフサイクルの間に、どのくらいの利益・価値をもたらしてくれるのか、得られる利益の総額を指す。
「インターナルコミュニケーション」の効果を実感できる3つの取り組み
──具体的に効果を実感できる様な施策としては、どういった取り組みが有効なのでしょうか?
取り組み内容はさまざまなものが考えられますが、ここでは先ほど説明した「インターナルコミュニケーション」の重要性が増している3つの理由の、それぞれについて1つずつ代表的なものをご紹介します。
期待の整合をするための全社への方針発表
社員と会社の両者の”期待の整合”をする上で効果的な「インターナルコミュニケーション」ですが、会社が社員に期待していることを目的や内容によって伝え方をアレンジしながら情報発信していくという方法が効果的です。またその情報発信は形式を状況に応じて変化させることも有効です。例えば、全社総会などでは直接トップが前に立ち発信することにより強いメッセ―ジ性を伝えられますし、YouTubeなどの動画で伝えることで社員がいつでも繰り返しタッチできるという方法もあります。
その中で重要なのは、会社やトップのメッセージをミドルマネジメント層の理解を揃え、社員の業務にリンクさせながらメッセージの解像度を上げていくことです。当社ではミドルマネジメント層のメンバーは各事業セグメントの経営会議に参加して理解度にばらつきが出ないようにするなどをしています。反対に「社員から会社に期待していること」は、1on1をベースにした目標設定などの場で拾い上げて向き合うことが理想だと考えています。
期待行動の再現性を高めるための表彰制度
会社からの期待行動を体現した結果、高い成果を出した個人・グループを表彰するような制度は、再現性を高めるための有効な方法です。表彰をすることにより表彰された社員・グループが他社員にとっての良い模範となり、会社からの期待行動の再現性を高めることに繋がり、それが会社文化・カルチャーの定着にもつながっていきます。表彰制度をそういった重要な機会だと位置づけると良いでしょう。
組織横断型の情報発信・社内イベント
複数の事業があり、それらの組織を横断したコミュニケーションを通して顧客への価値を発揮する事が重要だと考えている企業は多いと思いますが、なかなか他事業部がどういったことを行っているのか、どんなプロジェクトがあるのかなどは分からない、ということも多いのではないでしょうか。そのため、各事業部やサービスを横断した取り組みやプロジェクトについて理解を促進するため、社内イベントや社内報を用いて情報発信をする事が有効となります。
当社では以下の様な方法をとっています。
・全社総会:四半期に1回オンラインで開催。基本的には全社員が参加。
・代表による社内限定YouTube動画の配信:基本的には週1回配信。
・社内ライトニングプレゼンテーション:月に1回オンラインで開催。2名の社員に自分の仕事やプロジェクトに関して10分程度でプレゼンテーションをしてもらう。
・社内ライトニングトークセッション:月に1回オンラインで開催。社内の横断プロジェクトメンバー複数人が参加し、そのプロジェクトに関するトークセッションを30~45分程で行う。
こうした様々な手法を取ることにより、横のつながりやコミュニケーションを促進させています。
「インターナルコミュニケーション」施策を形骸化させないための運用具体例
──先ほどご紹介いただいた3つの施策などを、形骸化せず継続して運用するための具体例があれば教えてください。
先ほどあげた表彰制度を例に説明します。社員・グループの表彰制度を企画・運用する際には、単純に成果だけを発表して表彰するのではなく、『具体的にどのような行動が評価されたのか』『そのアクションやスタンスのどの部分が期待行動に繋がっているのか』を丁寧に伝えていくことが欠かせません。
そのため、表彰制度だけではなく、以下4つについても合わせて設計することが重要です。社員への認知→理解→定着→体現化までを一連のストーリーを戦略として、HR領域と「インターナルコミュニケーション」領域を横断して描く必要があります。
(1)会社からの期待行動のアップデート
文字通り会社からどういった行動を期待されているのか、等級や目標設定、評価制度などを随時アップデートをします。
(2)カルチャードックの制作・明示
カルチャードックとして社員と会社が大事にする共通の価値観をまとめて形にし、社内外誰から見ても共通の認識として共有をするプロセスです。
(3)表彰制度の設計・アップデート
上述の様に明示されたカルチャードックに則って、表彰制度を設計し、変更がある場合には随時アップデートを行います。
(4)社内イベントの企画・実施
ここが一番重要で、表彰後に、社内イベントやコンテンツの発信などで、なぜ表彰されたのかの期待行動をさらに明確に言語化し、社員全員が誰でも真似できる状態、再現性が生まれ、カルチャーとして根付くような施策を実施するが重要です。
このプロセスは1度ではなく、(4)の後はまた(1)に戻るなど、PDCAやカイゼンをしていくことが重要です。当社も今まさにこれらのプロセスに則りカイゼンをしている最中で、今後実施内容の変更や、実施の是非を検討しているものもあります。
「インターナルコミュニケーション」の評価指標事例
──「インターナルコミュニケーション」に戦略的に取り組み、効果があがったかどうかを判断する時にどういった評価指標を用いると良いでしょうか。具体的に教えてください。
当社がインターナルコミュニケーション室を立ち上げたのは約1年前であり、現在2期目にあたります。そのため現在取り組んでいる内容においても、まだ道半ばの状況です。
では大きな変化があるまで「インターナルコミュニケーション」の評価をしなくていいかというと、もちろんそうではありません。当社では以下2つを指標として数値を追っています。
(1)全社総会後のアンケート
(2)エンゲージメントサーベイスコア
(1)に関して、全社総会後のアンケートの中の『全社戦略の理解度』について、90%程度が理解しているという回答を得ることができました。
(2)に関しては、エンゲージメントサーベイにおいて『事業戦略の浸透や理解』項目のスコアが改善するなど、効果が明確に現れてきており、「インターナルコミュニケーション」の重要性と効果を実感しています。
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編集後記
どうしても会社から社員への一方通行な社内広報になってしまう傾向がある「インターナルコミュニケーション」。働き方の多様化の中でより高い成果を出すためにも、社員ひとりひとりに正しく適切なタイミングで情報を提供し、また彼らの意見を吸い上げ、双方向のコミュニケーションを取ることが非常に重要なのだとあらためて感じました。
社員に対して企業が何を提供できるのか、またそれをメッセージとしてどう伝えられるのか。社外だけでなく社内に対してもコミュニケーションを強化し、社員と会社が双方にフラットに繋がった状態を目指すこと──これこそが「インターナルコミュニケーション」の本質なのだと、田中さんのお話しから実感しました。
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