「社会人基礎力」への再注目。診断・活用方法について解説
2006年に経済産業省により提唱された「社会人基礎力」。2018年に再定義されてからも今に至るまでさまざまな研修や採用基準などに活用されている概念です。
今回は、新卒向けの採用コンサルティングや採用支援実績を豊富に持つ増山 勝之さんに、「社会人基礎力」の概要から活用方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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増山 勝之(ますやま かつゆき)/株式会社みはらしデザイン 代表取締役
ファクトリーオートメーション機器の法人営業としてキャリアをスタート。その後リクルート、アドプランナーにて求人メディアや適性テスト、広報物の法人営業を経験。コンサルティング事業部では法人向け教育研修サービスの企画からプログラム開発、販促セミナーの企画のほか、企業や学校法人向けの研修講師や企業向け採用コンサルティング、リクルーター・面接官のトレーニング、母集団増加のための施策、学生との面談支援。新卒紹介事業の業務支援に従事。
現在はスタートアップの役員を兼任しながらも、教育体系の構築、階層別・テーマ別研修の企画・実施、組織開発、幹部社員へのコーチング、正社員採用支援、人事評価制度の構築・運用支援を実施。
目次
「社会人基礎力」とは
──「社会人基礎力」の概要について教えてください。
「社会人基礎力」は2006年に経済産業省が提唱した概念であり、『職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力』と定義されています。具体的には、『前に踏み出す力』『考え抜く力』『チームで働く力』の3つの能力と、それらを構成する12の能力要素から成り立っています。
その後、2018年に『人生100年時代』や『第四次産業革命』などの言葉で表現されるような社会状況を踏まえて再定義が行われました。従来の「社会人基礎力」に『個人の企業・組織・社会との関わりの中で、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力』の観点が取り入れられた形です。具体的には、リクレクション(内省)しながら『どう活躍するか/どのように学ぶか/何を学ぶか』の3つの視点を持つ意義・必要性について示されています。
学校を卒業して初めて就職した企業で定年を迎え、その後は定年後の人生を過ごす──こんなキャリアモデルは、もはや一昔前のモデルとなりました。『自分はどのように活躍したいのか』『そのために何をどのように学ぶのか』をリフレクション(内省)によって深めながら、キャリアの方向性を自らが主体となって描き、外部環境と調整しながら、その上で3つの能力(前に踏み出す力/考え抜く力/チームで働く力)を発揮していくことが現代においてはとても重要なのです。
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今改めて「社会人基礎力」を考える理由
──最近「社会人基礎力」に改めて注目が集まっているように感じているのですが、どのようにお考えですか。
これまでは過去に蓄積された成功モデルをベースに先輩社員が新入社員や若手社員に対して培ってきた経験をOJTを通して伝えていくスタイルが多かったかと思いますが、そういった方法だけでは、企業として成果を出しづらくなったり企業の成長が続かなくなってしまったことが背景としてあると思います。また、近年の労働人口減少に伴い、若手社員の採用に苦戦する企業も増えており、なんとか採用できた若手社員をどのように育成していけば良いかと各企業が模索している中で、「社会人基礎力」の概念が人材育成指針の1つになっていると感じます。
また、『パーパス経営』というワードがよく聞かれるように、組織が存続する目的について改めて問い直す企業が増えてきていることも要因にあります。VUCAと呼ばれる変化の激しい時代の中では、多くの企業が将来の方向性やビジョンに対する確信を持ちづらくなってきているはずです。そうした現状を打破するためにも、自社の社員が持つアイデアや知見を最大限引き出して活用しようと考える企業が増えてきたのだと考えています。
「社会人基礎力」における3つの能力と12の指標
──「社会人基礎力」における3つの能力と12の能力要素、そして2018年にアップデートされた3つの視点についても合わせて教えてください。
3つの能力と12の能力要素
(1)前に踏み出す力(アクション)
<能力要素>
・主体性……物事に進んで取り組む力
・働きかけ力……他人に働きかけ巻き込む力
・実行力……目的を設定し確実に行動する力
一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力です。自分からコトを起こす、自分から他者に働きかける、自分から自分で決めたことをやりきるなど、『自分から』がキーワードになります。これは自身の内面に生じる葛藤(やってみたい、けれども面倒だ、どう思われるか不安だ、失敗しないか不安だ、など)を認識し克服する能力とも考えられます。
(2)考え抜く力(シンキング)
<能力要素>
・課題発見力……現状を分析し目的や課題を明らかにする力
・計画力……課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力
・創造力……新しい価値を生み出す力
疑問を持ち、考え抜く力です。将来を構想し、ギャップを乗り越える道筋を描く能力とも言えます。より具体的には、理想やあるべき姿を描き現状を認識し、そのギャップを現実的な判断を交えつつ捉えて、乗り越えなければならない障害と克服プロセスを具体的な計画に落とし込む力です。
(3)チームで働く力(チームワーク)
<能力要素>
・発信力……自分の意見をわかりやすく伝える力
・傾聴力……相手の意見を丁寧に聴く力
・柔軟性……意見の違いや立場の違いを理解する力
・情況把握力……自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力
・規律性……社会のルールや人との約束を守る力
・ストレスコントロール力……ストレスの発生源に対応する力
多様な人々とともに、目標に向けて協力する力です。目的や目標に向かって協働するチームにおける『ひとりの』メンバーとしての能力とも言えます。
3つの視点
『人生100年時代』において上記で述べた3つの能力を発揮するにあたり、リフレクション(内省)を通じて以下3つの視点のバランスを図ることが自らキャリアを切り拓いていく上では必要だと位置づけられています。
(1)どう活躍するのか(目的)……自己実現や社会貢献に向けて行動する
(2)何を学ぶか(学び)……学び続けることを学ぶ
(3)どのように学ぶか(統合)……多様な体験・経験、能力、キャリアを組み合わせる
なお、これらについて考えるためには、自身の強みや興味関心などの自己認識を深め、理想のキャリア像を描き、そこに向けて他者にキャリアを委ねることなく自ら拓いていこうとする生き方が求められていると感じます。
「社会人基礎力」をチェックする方法
──「社会人基礎力」のチェック方法にはどういったものがあるのでしょうか。
経済産業省が『インターンシップ・社会人基礎力自己点検シート』というものを公表しています。これからインターンシップに参加する学生を想定したシートではありますが、自身の働き方を振り返りながら使用することで「社会人基礎力」を点検するシートとしても活用できます。
自己点検欄では3つの能力・12の能力要素について事実ベースの根拠を明らかにしつつ、5段階評価を行います。根拠となる事実を考えることで自分自身を客観的に見つめることにも繋がります。さらに、組織内などで他者とお互いの自己点検シートを共有することで、より一層の自己理解を深める機会とすることも可能です。『自分では不十分だと思ったが案外できている』、あるいは『できていると思ったが不十分だ』など、他者との相対的な比較から自己理解を深めることが期待できます。
「社会人基礎力」の活用方法
──この「社会人基礎力」の考え方や判別方法を採用や教育領域で活用するためには、どのように取り入れるのが良いでしょうか。
企業内教育に取り入れる際には、対象者に「社会人基礎力」(特に3つの能力と12の能力要素)に関する概念を理解してもらった上で、まずは自身の「社会人基礎力」の現状について自己理解を深めていく必要があります。その方法には大きく以下3つの視点を取り入れることが肝要です。
(1)自分で自分自身を観る視点
(2)他者から自分を観る視点
(3)統計上の位置(各種アセスメントなど)から自分を観る視点
上記3つの視点を意識しつつ、研修などの場面において以下のような取り組みを行うことで自己理解を深めることができます。
・課題解決型や合意形成型のグループワークで自身のグループワーク経験について振り返り、メンバーからのフィードバックを受け取る
・自己診断と他者診断との差異を評価検証してみる
・アセスメント結果を基に『なぜそのような状況が起きた(ている)のか』を自身で内省する
こうして3つの視点から「社会人基礎力」に関する自己理解を深めてもらった上で、職場に戻った後の行動計画を立案してもらいます。その計画や進捗は職場の上司にも共有し、定期的に上司との対話を通じて振り返りつつ行動変容を促していく形です。
ちなみに、この「社会人基礎力」は新卒採用シーンでも活用可能です。具体的には以下のようなシーンで活用できます。
(1)書類選考(履歴書・エントリーシートなど)
(2)インターンシップ
(3)選考を目的としたグループワーク
(4)面接
この中でも特にイメージしやすいのは(1)書類選考と(4)面接ではないでしょうか。合否を判断する選考基準として「社会人基礎力」の何を重視するべきかを事前に順位付けしておくことで、自社の社員に相応しいかの判断がしやすくなります。(2)インターンシップと(3)選考を目的としたグループワークは少し活用イメージが持ちづらいかもしれません。活用例を紹介すると、インターンシップ生と接触する自社社員に「社会人基礎力」の12の能力要素について事前に理解してもらった上で、インターンシップ後に具体的事実を根拠にしながら自己点検シートを評価シートとして活用し、添削をしてもらうことにより、学生にフィードバックし、気づきを促すことができます。また、ディベートやチームで課題を達成するグループワークを観察し、その結果を「社会人基礎力」の観点から評価することも可能です。
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編集後記
「社会人基礎力」の3つの能力と12の能力要素は、どれも仕事をしていく上で普遍的に必要な能力だと感じました。これを基準とすれば採用や教育関連の施策も根拠を持って行うことができるようになるはずです。また、自己理解を深める上では他者視点も重要になるため、そうした機会は人事主導で提供していきたいものです。