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キャリアの多様化に対応する「複線型人事制度」とは?メリット・デメリットと導入ステップ

キャリアの多様化に対応する 「複線型人事制度」とは? メリット・デメリットと導入ステップ
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多様な専門性をもった人材が組織に必要となり、統一された一つの人事制度では対応できなくなってきことを受け、複数のキャリアコースを用意する「複線型人事制度」を導入する企業も増えてきました。従業員のキャリア選択肢が増えることで定着率や仕事に対する満足度の向上などが期待できますが、運用が複雑化するなどのデメリットもあり、その導入は一筋縄ではいかないようです。

そこで今回は、人事評価・育成制度の企画運用において15年以上の実務経験を持つ岸 悟史さんに、「複線型人事制度」のメリット・デメリットをはじめ、制度構築・導入時のポイントなどについてお話をお聞きしました。

<プロフィール>
岸 悟史(きし さとし)
鉄鋼建材商社、地図情報SIerを経て、自動車部品メーカーの現役人事として、給与労務を中心に制度企画からオペレーション改善まで幅広く担当。評価、育成の制度企画・運用において15年以上の実務経験を持つ。
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複線型人事制度とは

──「複線型人事制度」とはなんでしょうか?単線型人事制度との違いも含めて教えてください。

複線型人事制度とは、企業が用意した複数のキャリアコースから、社員が自分の意思で1つのコースを選べる人事制度のことです。

複線型を定義する軸としては大きく以下3つがあり、いずれの軸も社員自らが希望するコースでキャリアを積んでいくことができます。

キャリア志向:職務内容や勤務地により、総合職・一般職などのコースを設定
キャリア適性:将来的に部下のマネジメントを担うか、特定領域の専門家を目指すかにより、管理職・専門職のコースを設定
職種:経理・マーケティング・研究開発といった職務内容・職務領域に応じてグルーピングを行い、コースを設定)

一方、単線型人事制度は「係長→課長→部長」のようにラインの管理職として昇格していくことを前提とした単一コースの人事制度であり、それ以外のキャリアパスを選択することは基本的にはできません。つまり、複線型・単線型の違いは、「その企業で自分が求めるキャリアの方向性を選択できるかどうか」にあります。

複線型人事制度の「導入目的」と「メリット・デメリット」

──「複線型人事制度」を導入する目的にはどのようなものがありますか?

複線型人事制度は、主に以下2つの課題を解決する手段として多くの企業で採用されています。

①事業の課題

自社が属する業界において競合優位性を確保するためには、技術革新・製品開発・新規事業などで新たな価値を生み出せる人材の存在が欠かせません。複線型人事制度によって複数のキャリアコースを許容することにより、そういった人材の育成や定着を図ることができます。

②処遇の課題

単線型人事制度の場合、基本的に管理職ポストは組織の数と同数しか設けられません。そのため「管理職につけなければ収入が上がらない」といった課題が発生します。その点、複線型人事制度であれば管理職以外にも高度な専門能力・スキルを持った人材に対して「スペシャリスト」として昇格・昇進させるなどの道を作ることも可能です。

つまり、複線型人事制度は「事業と社員両面の課題を解決できる仕組み」と言えます。

──ここまでのお話を聞くと、複線型人事制度は今の時代においてメリットが大きいように感じますが、デメリットもあるのでしょうか?

確かにメリットが多い制度ではありますが、当然ながらデメリットも存在します。それぞれを具体的にご紹介すると以下のようになります。

メリット

・本人の希望にあったキャリアを選択できるため、社員のモチベーションを高めやすい
専門領域に特化した社員を育てることができる
・管理職ポストが不足しても、別の形で昇格・昇進の道を作り、同等(もしくは同等以上)の給与を支給できる

デメリット

・評価制度や報酬制度、昇格昇進の仕組みを設計したり、人事の関連業務のプロセスを再構築するのに工数・コストがかかる
評価や昇格昇進のルールが複雑になり、人事・社員がルールを正しく理解して運用することが難しくなる
・管理職以外でも管理職と同等以上の給与支給をする社員が増えることにより、人件費が増加する

世の中の多様化を受け、複線型人事制度の重要性や得られるメリットは大きくなっていますが、実際に導入・運営する上ではその複雑性を前もって正しく理解し、工数やコストがかかることを覚悟しておく必要があります。

複線型人事制度の導入ステップ・ポイント

──現在は単線型の人事制度しかない、もしくは人事制度そのものが整っていない企業が「複線型人事制度」を構築・導入するには、どのようなステップで進めると良いでしょうか?

大きくは以下3つのステップで進めていく必要があります。

①キャリアコースの設定

最初に、自組織においてどのようなポジションが必要であるかを定義し、各ポジションに適したキャリアコースの設定する必要があります。この部分については、以下の手順で進めます。

・まずは中長期の事業計画に基づき、人材が必要とされる事業領域を明確にする
 ↓
・その事業領域において必要な「役割・成果」を洗い出し、ポジションを定義する
 ↓
・定義した各ポジションにおいて、成果を出す上で必要となる「専門性・スキル・能力」を洗い出す
 ↓
・洗い出した「専門性・スキル・能力」の項目に基づいて、最適なキャリアコースを設定する

ここでのポイントは、「項目の洗い出しをする段階から社内を巻き込むこと」です。キャリアコースは今後の会社の方向性に大きく関わってくるため、社員の様々な意見を集約し、協議して決めるようにしましょう。

②評価制度・報酬制度とのリンク

上記①で設定したキャリアコースごとの「役割・成果」と「専門性・スキル・能力」に対して、評価項目やその反映先となる給与・賞与の設計を行います。

ここでのポイントは、「コースによって柔軟に設計を変えること」です。コースごとに求められる要素が異なるため、評価項目もコースごとに設計する必要があります。

給与・賞与反映においても、例えば成果に差がつきやすいコースは差がつきにくいコースと比べて賞与の変動幅を大きく設定するなど、コースによって設計を変えることでその企業の処遇についてのメッセージを発信することにもつながります。

また、エンジニア・営業・企画などの職種ごとの専門性をどのようにグレードに落とし込むのか、という点についても検討が必要です。職種における専門性は、自社内だけでなく「市場価値」という物差しも理解した上で、柔軟に対応していくことが求められます。

③キャリアコースの審査ルールを設け、ルール通りに運用する

コースごとの審査基準(キャリア志向・適性、能力・スキルなど)を設けます。

事前にそのコースで育成・処遇する社員の人数を中長期的に計画しておき、その人数を輩出するためにはどのような基準とするのが良いかを決定しておくことが、設定したキャリアコースを長期的に存続させるために重要なポイントとなります。

また、キャリアコースの定義とコースに属する社員の働きにギャップが生じないよう、ルールを満たさない社員はそのコースの選択を認めないといった判断をすることが運用上では求められます。

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複線型人事制度の導入・運用「成功事例」

──岸さんがこれまでに関わった企業の中で、特に成果が出た事例について具体的に教えてください。

私が過去に在籍していた情報通信系の企業(社員数:約1800名)の事例をご紹介します。

導入背景

元々は管理職ポストを目指す単一コースしかありませんでしたが、社内にある複数事業それぞれで特性が異なるため、特性に応じたキャリアコースが必要でした。具体的には、その領域のスペシャリストを目指す「専門職コース」や、複数事業を経験し経営幹部を目指す「ジェネラリストコース」の2つを新設しました。

社員に多様なキャリアコースを用意し、それぞれのコースでパフォーマンスを最大限発揮して企業に貢献してもらうことを目的に、複線型人事制度を導入した形です。

制度詳細

一般社員の最上位階層(係長相当)に昇格する際に、前述した2つのコースから社員が希望を選択する形にしました。それ以降は選択したコースに応じて昇格・昇進をしていく仕組みです。これを毎年の昇格試験実施時に行い、管理・運用していきました。

また導入時には移行措置として、すでにその基準を満たしていて、かつ本人が希望しその上司が承認した方については「専門職コース」に転換させました。

結果

①毎年企業内で実施しているエンゲージメント調査の「働きがい」に関するスコアが、経年的に上昇傾向になった
離職率が低下した

またそれ以外にも、キャリアコースを分けたことで事業横断の階層別研修や育成目的の異動施策に結び付けやすくなったという効果もありました。今でも事業戦略に合わせた効果的な育成施策を検討する際の基盤として機能しています。

オススメ本(1冊)

──今回のテーマ「複線型人事制度」について学びたいと思っているHRパーソンに向けて、オススメの書籍があれば教えてください。

ダイアローグ(対話)型人事制度のすすめ~会社と社員がともに成長するための 戦略浸透、人材育成、既存の人事制度で悩んだら読む本~/ 島森 俊央、吉岡 利之(著) 

中小企業において複線型人事制度を設計・運用する上での注意点を、実務者の視点から詳細に解説している点が非常に有益であり、他にないものとなっています。

編集後記

社員の多様性を受容しキャリアの選択肢を増やすことができる複線型人事制度は、まさに昨今の時流に沿った制度であり、企業・社員の双方にメリットの多いものであると岸さんのお話を受けて感じました。

しかしながら、きちんとデメリットにも目を向け事前に対策しておくことの重要性も同時に理解しました。メリットばかりに注目するのではなく、正しく制度の特徴やデメリットを理解し対策を検討しておくことが導入成功の第一歩になりそうです。

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