「社外メンター」を活用して従業員・組織の双方に好影響を与える方法とは
若手社員への助言・指導を目的に、上司とは別の先輩社員がサポート役となるメンター制度。基本的には社内の先輩社員がメンターとしてアサインされるものですが、近年は「社外メンター」のアサインも増えているようです。
今回は、株式会社kaika 代表取締役の三浦 真理恵さんに、「社外メンター」の概要から活用方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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三浦 真理恵(みうら まりえ)/株式会社kaika 代表取締役
人材コンサルティング会社にて採用支援や人材育成・制度再構築支援を行いながら、法人営業、チーム管理、研修講師、新規事業の立ち上げなど多岐にわたる業務を担当。2014年にフリーランスとして独立し、2015年には株式会社kaikaを設立。ベンチャーから大手までさまざまな業種・規模の企業に対して伴走型の社員研修や1on1代行、研修内製化支援、組織開発支援などのサポートをしている。
目次
「社外メンター」とは
──「社外メンター」の概要について、社内メンターとの違いも踏まえて教えてください。
メンターは指導者・助言者と訳される通り、若手社員への助言・指導を通じて成長や精神面のサポートをする人を指す言葉です。人材育成を目的として導入されることが多いもので、一般的には同じ企業の他部署など少し離れた場所に属している、年代の近い先輩社員がメンターを務めます。ちなみに、助言・指導を受ける側の社員はメンティーと呼ばれます。
「社外メンター」とは、このメンターの役割を社外の人に依頼する制度のことです。社内メンターでは、先輩社員の負担が大きくなってしまったり、メンターがメンターを行う上での知識や経験が不足してしまっていたり、つい業務的な報告や指導だけになってしまうなど、様々な問題が発生することがありますが、このような問題を回避し、うまく機能させるために「社外メンター」を活用する企業が近年増えてきています。『大事な社員を社外メンターに任せて大丈夫なのか』などの不安の声もたびたび挙がりますが、「社外メンター」には社内メンターにはない以下のようなメリットがあります。
本音が引き出しやすい
社内の人には言いづらかったり、言うのをためらったりしてしまうことでも、社外の第三者には話しやすいこともあります。『こんなこと言ったらどう思われるだろう』『これは言わない方がいいかな』『結局のところは評価に影響してしまうのではないか』などの不安が軽減されることでメンティーも本音を話しやすくなるため、より本質的なサポートが期待できます。
客観的視点
「社外メンター」はメンターとしての経験・知識が豊富なことはもちろん、他業種や組織外の視点など社内人材にはない観点からも対話できます。また、社内政治や派閥にも影響を受けないので、より中立な立場からの客観的かつ寄り添った助言やサポートが可能です。
ベテラン社員のサポートも可能
悩みやモヤモヤを抱えているのは若手社員だけではありません。中堅・ベテラン社員や幹部候補など会社の中枢を担っているメンバーにとっても、メンターの存在は大きなものです。しかしながら、そうした人材のメンターを担える人が社内にいるとは限りません。そんな時でも「社外メンター」であれば適任者を見つけることができます。
社内メンター制度の逆効果防止
メンター制度の目的には『社内の人間関係改善』『若手社員の離職防止』『社員の成長促進』などがあります。しかし、研修や育成をせずに社内メンター制度を導入してしまうと、メンタープログラムの質にバラつきが出たりムラがあったり、うまく信頼関係が構築できなかったりなどの逆効果が起こりがちです。その点、プロの「社外メンター」に依頼すればそうした心配も少なくてすみます。
外部ネットワークの構築
「社外メンター」との関わりやそのネットワークを通じて、自社内に新しい機会やリソースを提供できる可能性があります。また、異なる業界・領域の経験に触れることにより、組織に新しいアイディアやアプローチを提供できる場合もあります。
このようにメリットの多い「社外メンター」ですが、社内メンターにも多くのメリット・利点があります。例えば、以下のような観点です。
・迅速かつリアルタイムな助言やサポート
・社内ネットワークに関するサポート
・社内キャリアパスや成長に関する具体的な助言やサポート
些細な変化も見逃せない状況など、常に近くで見守り寄り添った方が良い場合や、サポートの頻度を増やしたい場合などは社内メンターの方が適していると言えます。また、社内ならではの知識が必要な場合も同様です。「社外メンター」と社内メンターのどちらを導入するか、もしくは組み合わせて活用するかは状況やニーズに合わせて検討すると良いでしょう。
「社外メンター」が組織に及ぼす好影響
──「社外メンター」制度を導入することにより、組織にどのような良い影響があるのでしょうか。
導入目的や運用形態によっても異なりますが、以下のような良い影響が期待できます。
女性社員の活躍促進
女性ならではの悩みは男性には話しにくいものが多く、いざ勇気を出して話してもらえたとしても理解しきれないことも多々あるものです。かといって、社内に適任となる女性メンターがいないこともあるはず。そういったときに女性の「社外メンター」の力を借りると、女性特有の悩みやモヤモヤを引き出して解決へ導きやすくなります。また、男性上司が抱える女性社員・部下に関する対応や悩みの解決も期待できます。
規模の小さい企業でも導入できる
社内に人的リソースがない場合でも、「社外メンター」を活用すればメンター制度を導入できます。企業規模が小さいからこそ言えないこと・言いづらいこともある中で、「社外メンター」であれば外部事例や経験を交えた助言やサポートが可能です。さらに、そこから見えてきた課題感を元に組織開発を進めることもできるため、より良い組織づくりにもつなげられます。
若手社員の育成や次期メンター候補の育成につながる
「社外メンター」がいることで、メンターとしての知識や立ち振る舞い、関わり方を学ぶことができるようになり、今後のマネジメントや社内メンターになる際の学びの機会にもなります。定期的な研修を導入する時間や予算が無い場合でも、「社外メンター」を通して若手社員の育成と成長促進が可能です。また、社内でメンターの役割を担っているメンバーのケアとしても活用できます。
「社外メンター」の選定基準・方法
──「社外メンター」を自社で導入する際、どのような方法・基準・条件で「社外メンター」を選定すべきでしょうか。
「社外メンター」を選定する際には、下記の基準を参考にすることをおすすめします。
・人事部やメンティーとの情報共有を円滑に行うことができる
・企業側の意図や目的を理解し、適切なサポートができる
・メンティーが抱える課題や問題を理解し、的確なフィードバックやアドバイスができる
・守秘義務を遵守し、企業やメンティーと信頼関係を構築できる
・知識や経験が豊富で、実際のビジネス課題に挑戦・対処した経験がある
・企業の現状や社風を理解し、中立な立場で助言やサポートができる
なお、「社外メンター」の一種にクロスカンパニーメンタリング(※)があります。これは、メンターとメンティーが異なる企業同士の組み合わせで行う企業横断型キャリア形成支援のことです。これを実施する場合は、情報漏洩リスクの観点からも競合他社は避けるようにしてください。また、規模や社風にギャップがありすぎない企業とタッグを組むとより相互理解度が高まります。
(※)クロスカンパニーメンタリングについて、経済産業省が公表している『クロスカンパニーメンタリング実施に関するPLAYBOOK』も参考になりますのでぜひご一読ください。
選定基準以外にも、人事部と「社外メンター」間の定期的なミーティングも必要不可欠です。会社としての期待・目的・リクエストが「社外メンター」へ明確に伝わっていないと、メンティーの離職に繋がってしまう可能性もあるためです。それ以外にも、問題が放置されたり、進捗が見えにくくなったりするため、必ず定期的に共有の場を設けるようにしてください。
「社外メンター」の活用・成功事例
──「社外メンター」を活用して成果を挙げた事例について、工夫した点などと合わせて教えてください。
ある若手社員の離職率が高いクライアント企業へ「社外メンター」を導入したときの事例をご紹介します。上記でご紹介した選定基準に沿ってメンターを選定した後、特に以下2点に留意して「社外メンター」制度の運用を行いました。
(1)「社外メンター」と人事部の定期的なコミュニケーション体制を構築
・目的や期待値の明確化
・理想状態の共有
・定期ミーティングを開催し、状況確認とすり合わせ
・社内&メンティー状況の共有(随時)
・お互いへのリクエスト共有
ここで重要なのは、「社外メンター」が目的や期待値をしっかりとヒアリングし、解釈の違いや認識のズレをなくすことです。企業の課題や悩みはそれぞれ違いますし、どんな期待を持って「社外メンター」へ依頼をしているか、理想の組織状態がどんなものか、なども定量化しづらいものです。離職率や休職率、エンゲージメント指標の変化などを目標として定めて追うこともありますが、「社外メンター」の取り組みのみでその貢献度合いを測定することは難しいため、そこだけをゴールとするのも現実的とは言えません。だからこそ、お互いにコミュニケーションを取り合って共通認識や合意をとっておくことが大切になってきます。
(2)人事部からのフォロー体制を構築
・メンター&メンティーの変化に気づける体制を整える(定期的なヒアリングや調査)
・各コミュニケーションツールの確立(連絡ツール・対応時間・返信ルールの決定など)
上記のような体制を構築し運用を続けた結果、以下のような効果が得られました。
・メンティーの社内におけるキャリア・目標の明確化
・日々の業務の効率化
・モチベーションや感情の揺らぎの減少
・離職率の低下
・マネジメント力の向上
社内メンターではどうしても寄り添いきれない部分があることを、このクライアント企業も感じていたと言います。「社外メンター」に入ってもらったことにより、そうした部分に切り込んでもらい、良い方向へ導いてもらった実感があったと後ほどフィードバックをいただきました。「社外メンター」をきっかけに社外からの視点を獲得して社内で活かすことができれば、より多くの課題にも対処できるようになるのです。
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編集後記
『外部ならではの視点』がもたらす効果については、パラレルワーカーの活用にも通じる部分が多分にあると感じました。社内だけで情報や関係性を閉じず、社外にも広く知見や力を求めていく企業姿勢の重要性は、「社外メンター」に限らず今後どんなことにおいても高まっていくのではないでしょうか。