「職場コミュニケーション」の課題を正しく捉え、組織の活性化につなぐためには
「職場コミュニケーション」の活性化は企業にさまざまなメリットをもたらします。しかし、近年ではテレワークの導入などもあり、なかなか活性化しきれていないことも多いようです。
今回は、人材開発や教育研修領域の経験を豊富に持つの河村 いずみさんに、「職場コミュニケーション」の現状と変化、課題の傾向から事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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河村 いづみ(かわむら いづみ)/ キャリアコンサルタント・企業研修講師
大手総合人材サービス企業にて21年間就業。営業部門にて転職支援、管理職、人材開発部にて教育企画、社内講師、トレーナー職として従業員教育に従事。その後、転職を経て組織開発・人材開発コンサルティング業シニアプランナー職として企業と協働した組織作り・人づくりに携わる。
現在は、企業領域専門キャリアコンサルタントとして研修講師、キャリアカウンセリング、組織開発・人材開発支援を中心に『働くを楽しむ個人と組織の持続的成長の支援』に携わる。
国家資格キャリアコンサルタント養成専任講師として専門家育成にも携わる。キャリアコンサルティング実績は2万2千人以上。
目次
変わる「職場コミュニケーション」
──世の中の変化に合わせて「職場コミュニケーション」も変わってきていると感じますが、河村さんはどう感じているか教えてください。
「職場コミュニケーション」は、近年特に大きく変容しています。その背景には、新型コロナウイルス感染拡大防止対策に伴ったテレワークの急速な普及があることは言うまでもありません。
時間や場所に制約されず集中して仕事ができるテレワークの浸透は、柔軟性・効率性の重視やオープンなコミュニケーションを試みる組織文化、そして個人の働き方に大きな影響を与えました。その影響に伴い、「職場コミュニケーション」も対面からオンライン上へと移行が進み、ビデオ会議やチャットなどのツール利用が今では一般的なものになっています。その一方で、テレワークにより対面のコミュニケーションの機会が減少し、不慣れな環境で孤立感を抱えながら働く従業員も増えるなどの問題も生まれています。
その後、コロナが5類へ見直しとなったことを受け、オフィスへの出社とテレワークを組み合わせたハイブリッドワークが台頭します。2023年8月公表の『全国上場企業におけるテレワークの実施状況と健康管理状況』によると、テレワーク導入率は70%と中小企業や幅広い業種において拡大しています。テレワーク実施頻度は週2~3回が40%、週1回が18%となるなど、ハイブリッドワークが主流になりつつあることが伺えます。総じて、コロナ禍による「職場コミュニケーション」の変容は、テレワーク普及やコミュニケーションツールの変化、ハイブリッドワークによるコミュニケーションの多様化によって多面的に現在も進行中だと感じています。
令和3年版『労働経済の分析』の『テレワークを活用して働いた労働者の分析(新たなアンケート調査による分析)』結果によると、企業のテレワーク導入が感染拡大前と後では従業員の生産性や満足度・充実度に違いがありました。
感染拡大前からテレワーク活用経験がある企業従業員の方が、感染拡大後に初めて活用した企業従業員よりも『仕事の進め方について上司や部下とのコミュニケーションがうまくとれている』と回答した割合が高く、『生産性・効率性』『充実感・満足感』も高い結果となっています。おそらく、感染拡大前からテレワーク導入企業の従業員はすでにテレワークに慣れており、効率的な仕事の工夫も主体的に進んでいたからだと考えられます。
また、企業において、業務範囲・期限や仕事の評価基準を明確にすること、業務の裁量をもたせることなどのマネジメント上の工夫や、テレワークをする際の環境整備に取り組むことで、テレワークをする際の充実感・満足感が高くなっているなどの結果も明らかになっています。
現代における「職場コミュニケーション」の課題と対策
──「職場コミュニケーション」の変化を受け、よく見られる組織課題について教えてください。
近年よく見られるコミュニケーション上の組織課題は、マネジメント側・メンバー側の双方において発生し、かつ多岐に渡っています。それぞれから寄せられている課題感の例には、以下のようなものがあります。
マネジメント側
・対面と比べて、オンラインコミュニケーションは非言語コミュニケーション(細かな表情や身振り手振りなど)が限られてしまうため、メンバーの心理的な状況や感情の把握が難しくなってしまった
・オフィスでの雑談やランチでの対話など、カジュアルな場面で得られていた情報が減り、メンバーのニーズや懸念を早期に把握することが難しくなってしまった
・コミュニケーションが必要最低限に限られてしまい、新しいアイデアなど自由な発想を生み出すためのコミュニケーションを取ることができていない
・メンバーの業務状況や進捗を正確にリアルタイムに把握することが難しく、適切なサポートやフィードバックをこちらから行うことが難しいと感じる
など
メンバー側
・上司とのコミュニケーションを取る機会が減少したため、気軽に相談や雑談がしづらい状況になり、ストレスや孤立感を感じることがある
・他チームメンバーとの繋がりが希薄となった印象で、自分のモチベーションを維持することが難しいと感じることがある
・通勤時間が無くなったことにより時間を有効活用できるようになったが、一方自宅勤務ではずっと仕事ができてしまい、オンとオフの切り替えなど、タイムマネジメントが難しい
など
先ほどもご紹介した令和3年版『労働経済の分析』で公表されたテレワークにおけるコミュニケーション変化(増減の割合)によると、『上司への報告・連絡・相談の機会』はこれまでと同程度だったのに対し、『ちょっとした問題や困りごとの相談』『同僚とお互いの進捗を気にかけ、助け合う機会』『雑談や思いつきレベルのアイデアの共有』『感謝の言葉をかけられる機会』については減ったとの結果が出ています。業務上の報連相だけでなく、ちょっとした雑談や対話が相互理解や関係構築、仕事の円滑化、そしてモチベーション維持に必要なものだったことが示唆された形です。非対面化やコミュニケーション機会の減少は、孤立感や不安感、ストレスを抱えやすくなる原因にもなります。これらの心理的な負荷は、メンタルヘルスやモチベーション、仕事の満足度の低下などの形で発生・顕在化してしまいます。
また、コミュニケーションツールなど働く環境の変化に伴って、仕事のやり方や進め方に適応が求められることになります。例えば、テレワークでは時間管理・情報管理・自己管理などがより重要になりますが、これらのスキルが充分でない従業員は仕事の効率や質が低下してしまいます。さらに、他のメンバーが何をやっているかわかりづらい環境ではチームの一体感が生まれにくく、チームの連携や生産性などにも影響を及ぼします。メンバーの業務プロセスや途中経過の見えづらさから『成果のみを評価対象とする人事評価』になってしまう可能性も考えられます。適切に評価がなされなければ、従業員のモチベーションや職務行動にもネガティブな影響が及ぶことになるのです。
これらの課題に対処しなければ、管理職側は従業員の監督や評価に困難さが伴い、メンバー側は仕事へのモチベーション、帰属意識、心身の健康面などの不安を抱え続けることになります。それらが中長期化すると、不正行為や不適切な行動の発生リスクが高まり、不満足な職場環境や仕事への意欲低下から離職率の増加、そして企業魅力や信頼性の失墜などに発展する可能性もある重大な問題です。
──こうしたネガティブな影響が発生してしまった際、「職場コミュニケーション」の改善を通してどのようなポジティブな影響や効果を生み出すことができるのでしょうか。
テレワークでは対面でのコミュニケーション不足から孤立感を生み、情報共有の不均衡を招く課題があると述べましたが、これらは必ずしも対面でなければ改善できないわけではありません。オンライン環境下であってもそれに適したミーティングの形式やチームビルディング活動、各種ツールの活用など、コミュニケーションの仕組みを改善し、コミュニケーションを促進させることは十分に可能です。ただし、ハイブリッドワークではオフィス勤務者とリモート勤務者が混在することになるため、情報の偏りやコミュニケーションの乖離の課題が残ります。この場合、情報共有や意思疎通を重視した共通のコミュニケーションツール活用や、ルールの整備などによりチーム間の連携を強化することにより、組織の協働やイノベーションの促進が期待できます。
こうして「職場コミュニケーション」を改善し続けることは、より効率的な組織運営はもちろん、従業員の満足度や生産性向上による組織力強化・組織改善にも繋がります。そもそも、従業員の働き方の選択肢が増えることはワークライフバランスの改善や離職率の低下に繋がる良い取り組みです。『テレワークでコミュニケーション上の課題が増えたから、対面に戻す』といった短絡的な解決方法ではなく、継続的な改善により組織に柔軟性や多様性を持たせられるよう努力を続けるべきだと考えています。
「職場コミュニケーション」における課題を改善できた事例
──「職場コミュニケーション」における課題を改善できた事例について教えてください。
組織も従業員も諦めずに改善と工夫を続けることなくして「職場コミュニケーション」の良化はしないものです。私自身も様々な企業支援に関わらせて頂く中で、業界や企業規模に関わらずコミュニケーションの在り方と組織風土は密接に関連しているという事を実感しています。上意下達の強い組織風土では、意思決定権や権限が上位に集中し、指示・命令型のマネジメントスタイルが強調され、下位のメンバーは自らの考えやアイデアを表明しにくい環境が形成されます。その結果、コミュニケーションが一方向的になり、情報や意見の共有が不十分となります。また、指示に従うことが重視されるため、従業員間の対話や協力が促進されにくくなります。このような環境では、コミュニケーションは必要最低限の伝達手段に過ぎず、従業員の自律性やモチベーションの低下、そして組織の創造性やイノベーションの阻害をもたらす可能性があります。また、リモートワークにおいてコミュニケーションを個人の裁量に担保することにも限界があります。
そんな中で「職場コミュニケーション」の課題に取り組んだ2つの例についてご紹介します。両社とも一時的な課題解消だけに留まらず、組織風土として定着させるために現在でも取り組みを継続しているところです。
IT企業
<背景>
・事業拡大のため新卒者・中途採用者が増加。それに伴いリモートワークに不慣れな方々も増加。
・コミュニケーションはチャット、メールが中心で、必要最低限の業務コミュニケーションのみに終始する慣例
・フルリモートワーク
<課題>
コミュニケーション機会の仕組み化
・ちょっとした事を気軽に聞けない環境のため、ストレスを抱えながらリモートワークで就業している従業員が多い状態(特に若年層、中途入社者、プロジェクト異動者など)。
・チャットやメールなどのテキストベースのコミュニケーションがメインのため、言葉足らずや言葉の解釈に相違が生じ、意思疎通が不十分になってしまうことが多発。
・効率的に仕事を進めるための社内ルールや必要最低限の情報や指示のみになってしまっていたため、文脈や意図が正しく理解されず誤解をされたまま進捗するケースが発生。
<施策の狙い>
リモートワークのメリットを活用し「職場コミュニケーション」機会を増やす
・いつでも誰でも声をあげることができ、どこからでも回答しサポートできる環境を作る
・所属、年次、就業エリアに関わらず従業員同士がつながることができる機会を作る
<取組み例>
①顔出しでのオンラインチーム昼礼
業務上で必要な情報共有と相互理解を目的としたコンテンツの2部構成。毎日15~20分で実施。
②オンラインイベント
誰でも企画ができ、誰でも任意で参加できるイベントを不定期で開催。
オープンランチ会、オンライン飲み会、メタバース会、準備不要のABD/アクティブ・ブック・ダイアローグ(※)など
③社内チャットの立ち上げ
ちょっとした事から専門的な質問まで誰でも気軽に聞きたい事が投稿できる、社内で分かる人がお助け投稿できる専用チャット。投稿はニックネームで記載。
※ABD/アクティブ・ブック・ダイアローグとは、1冊の本を分割して参加メンバーで分担して読み、それぞれの担当部分の要約したものをミーティング内で発表。その後、全員で本の内容について話し合うことで、さまざまな人の考えに触れられると同時に能動的な気づきや学びが得られる取り組みのことです。
<結果>
・気軽に質問できる環境が整ったことにより、社内チャットが頻度高く利用され、リモートワーク環境で、1人で悩む時間が減少し、業務の効率化が進んだと良いフィードバックがあがった。
・職種、就業エリア、年次を超えたコミュニティが自然と形成され、相互理解が深まった。
老舗製造業企業
<背景>
・企業の歴史が長く強い上意下達の風土。数年前からハラスメント・不正が発生し組織改善に取り組んでいる状況。
・感染症対策としてリモートワークを導入。それまで対面で行われていたコミュニケーション機会が減り、業務上最低限のコミュニケーションのみに終始。それにより、部下の状態把握など管理者側のマネジメントの難易度が高まったこともあり、若年層の離職が増加。
・管理職からの情報のトップダウンが多く意見交換の機会が少ないため、一方的な情報伝達のみに終始してしまう場面が散見。
<課題>
部下とのコミュニケーションのキーマンである管理職の傾聴力強化
・『部下の話を聴く』ことに対しての意義の理解や能力、意識において管理職個人差により大きくある状態
・心理的安全性を意識した職場環境がないため、オープンな対話や健全なフィードバックが不足している状態
・部下の意見の真意を理解するためよりも、問題解決策や他のことを考えてしまい、部下の話を遮って自分の意見を挟んでしまうなど、傾聴力が不足。対話の主導権を握る管理職と話したいことがあっても控えてしまう部下という構図ができてしまっている。
<施策>
・傾聴力向上を目的にした教育施策を、部長職以上を対象に半年間に渡り実施。
・知識習得(「聴く」定義と必要な技術理解)と実践(傾聴のプロ国家資格キャリアコンサルタントとマンツーマンで実践とフィードバックの繰り返し)を実施。
・実際に部下や従業員の声を聴く機会を作り、傾聴に注力した実践を重ねる。
<結果>
・傾聴に関する知識習得により、管理職の聴く姿勢と技術が向上。管理職全員で『部下の意見を聴く』ということを定義できたことによる認識合わせができた。
・傾聴の実践と振り返りを重ねることで、管理職が『聴いていたつもりの自分』『本当の意味で部下や従業員を理解していなかった自分』に気づくことができた。
・慣れないながらも相手の話を最後まで聴く姿勢を続けることで、部下に対しての理解が深くなり、部下との関係性が向上。
・上記のような変化に伴い、若手層から上位層に声をかける機会が増えたり、現場部門から新しいアイデアが出るなど、上意下達だった組織に少しずつ双方向の活発なコミュニケーションが増加。
両社とも大きく改善が見られ、確実に「職場コミュニケーション」が良化していることを受け、一時的な課題解消に留まらず、組織風土として定着させるために取り組みを継続しています。
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編集後記
河村さんからもお話があった通り、『テレワークになったから「職場コミュニケーション」が悪化した』など、さもテレワークが原因かのように話されることが近年増えたように感じます。しかし、テレワークが悪いのではなく、そうしたコミュニケーション方法の変化に対応しきれていないこと本質的な原因なのだと言うことを今回の話からも理解することができました。テレワーク・ハイブリッドワーク環境下においても良いコミュニケーションの在り方を粘り強く考えていきたいものです。