「面接官トレーニング」により面接の質を向上させる方法
企業と候補者がお互いの相性を見極める上で大切な面接。面接官には候補者の適性を見極めつつも自社の魅力をアピールする役割が求められます。候補者が自社に寄せる印象は面接官の応対に大きく左右されると言っても過言ではありません。
今回は、様々な企業の採用業務を支援しており、面接・面談経験も豊富なTalkCamp合同会社 代表の鈴ヶ嶺 友浩さんに「面接官トレーニング」の効果や方法について伺いました。
<プロフィール>
鈴ヶ嶺 友浩(すずがみね ともひろ)/TalkCamp合同会社 代表
2006年に大手総合人材サービス会社に入社し、求人メディア営業に従事。同社内の新規事業立案制度を利用し、新卒紹介事業を起案し、立ち上げメンバーとして事業の立ち上げに尽力。以来、一貫して10年以上新卒領域に携わり、営業、アドバイザー、企画、マネジメント等多岐に渡り事業を推進。その後、パラレルキャリアで会社員として勤めながらTalkCamp合同会社を設立。現在は独立し、TalkCampのコミュニティ運営及び採用コンサルティング事業を行う。
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目次
「面接官トレーニング」の目的と効果
──「面接官トレーニング」の概要について教えてください。
「面接官トレーニング」は、面接官が効果的かつ公正な面接を行うために必要な知識やスキルを習得するためのプログラム(オリエンテーションやワークショップなど)を指します。実施方式は、内製型(人事部の社員がファシリテーションを行う)と外注型(外部の研修機関などを活用)があり、実施タイミングは主に以下3パターンです。
(1)新たに面接官をアサインするとき
(2)面接後の選考辞退など採用の歩留まりが悪化したとき
(3)新たなポジションの採用活動を始めるとき
中途採用では(1)もしくは(2)のタイミングが多く、新卒採用では(3)のタイミング(卒年毎で実施)が多い印象です。採用市場動向、求める人物像、面接における留意事項などを伝える場を「面接官トレーニング」の一環としてオリエンテーションとして実施するケースもあります。
──「面接官トレーニング」はどのような目的と効果を期待しておこなうのでしょうか。
面接官に求められる能力は、大きく『見極める力』と『惹きつける力』に分けることができます。
見極める力
面接という採用手法の特徴を理解した上で、候補者の適性・スキル・経験・志向性・価値観を正しく把握し、組織のニーズに合った人材を見つけ出す能力です。この力を向上させるためには以下の知識・スキルを身につける必要があります。
(1)質問技術
効果的な質問を通じて候補者の経験やスキルを引き出す技術です。ここで重要なのは、表面的な結果やプロセスで評価するのではなく、コンピテンシー・ポテンシャル・根源的な欲求などを理解することです。加えて、候補者の言葉だけでなく、非言語コミュニケーション(表情やボディランゲージ)を観察する力も必要になってきます。
なお、面接技術や手法にはさまざまなものがありますが、「面接官トレーニング」で教える初級者向けのものにSTAR面接(行動面接法)があります。詳細は後述しますが、過去の行動を掘り下げることで候補者の思考プロセスや行動特性を知ることができます。
(2)評価基準の理解と適用
事前に設定された評価基準に基づいて、一貫性のある評価を行う力が求められます。採用ポジション上で求められるものとその背景を「面接官トレーニング」などを通じて重点的に伝えることにより、面接官の好き・嫌いで評価してしまうことを回避できます。さらに、バイアスを排除し公平な評価を実施するために、よくあるバイアスの例を理解し、自身がどのようなバイアスを持っているかを把握することも欠かせません。
(3)語彙力と分析力
候補者の回答や行動から本質的な情報を読み取った上で、応募書類や面接内容と照らし合わせて総合的に分析したものを理解・表現するためには語彙力・分析力が必要です。また、取得した情報を『事実』と『解釈』に分けて整理する力も合わせて求められます。
惹きつける力
候補者に対して自社の魅力を伝え、入社意欲を高める能力です。この力を向上させるためには以下の知識・スキルを身につける必要があるだけでなく、面接官自身が魅力的なビジネスパーソンであることが何よりも重要な要素です。
(1)自社理解・自己理解
明確かつ魅力的に会社と自分自身のビジョンやミッションを伝えることが求められます。そのためには、自身の入社理由や仕事におけるやりがい、苦労、今後のビジョンなどを整理しておく必要があるでしょう。その際、求職者の選社軸に合わせて魅力の伝え方や内容を変えられるよう、引き出しを多く持っておけるとベストです。
(2)プレゼンテーション能力
候補者に合わせて自社の優位性や提供できる機会について魅力的に語る必要があります。構成力、言語力、感情表現力などを総合的に活用し、会社の強みや文化、自身の働き方を効果的にプレゼンテーションしていきます。その際、自社で描ける具体的なキャリアパスや成長機会を示すことも重要です。
(3)関係構築力
画一的な対応でなく、候補者に合わせた柔軟な応対でリラックスした雰囲気をつくれることが重要です。候補者の質問に対して適切かつ誠実に答えることももちろんですが、その際に『自分自身の言葉』として伝えられるとなお良いでしょう。また、関係構築においては共感力も欠かせません。面接における共感とは、候補者の発言に対してフィードバックを行えることが該当します。
──先ほどご紹介いただいた『STAR面接(行動面接法)』について詳細を教えてください。
STAR面接とは、候補者の過去の具体的な行動や経験に基づいて評価を行う面接手法であり、STARは以下4つの要素の頭文字を取ったものです。
Situation(状況)
その時の具体的な状況や背景を説明してもらいます。
例:前職で新しいプロジェクトチームの一員として参加した時のことを教えてください。
Task(課題)
その状況で果たすべき具体的な課題や責任を説明してもらいます。
例:そのプロジェクトであなたの役割や課題は何でしたか?
Action(行動)
その課題に対して実際に取った行動を具体的に説明してもらいます。
例:その課題を解決するために具体的にどのような行動を取ったのですか?
Result(結果)
その行動の結果としてどのような成果や学びがあったのかを説明してもらいます。
例:その行動の結果、プロジェクトはどのように進展しましたか?
STAR面接には以下のようなメリットがあります。
(1)具体性のある回答を得られる
候補者の過去の具体的な行動や結果に基づいて評価するため、実際の業務遂行能力を明確に把握することができます。これにより、抽象的・曖昧な回答を避けることにもつながります。
(2)行動パターン・特性の理解
候補者の過去の行動パターンや問題解決能力を詳しく知ることができるため、将来の業務においても同様の行動を取るかどうかを予測しやすくなります。
(3)比較可能な評価となる
一貫した質問フォーマットを用いることで、複数の候補者を公平に比較することができるようになります。具体的には、特定の状況に対する対応方法を比較する形で候補者の適性をより正確に評価します。
(4)バイアスの軽減と信頼性の向上
過去の具体的な行動に基づいて評価するため、面接官の主観的な判断やバイアスの影響を軽減し、公平な評価ができるようになります。面接官の好き・嫌いで判断をさせにくくすることにもつながります。
このように、STAR面接を用いることにより面接経験やスキルによる評価のばらつきをおさえることができるため、多くの企業で導入されています。
さらに、上記のSTAR面接法をベースにしつつ、『深掘り』と『不意打ち』を重ねていく事で候補者の特性をあぶりだすことができます。『深掘り』は何故を繰り返し、意見ではなく行動を把握し、エピソードが動画でイメージ出来るような状態になる事が理想です。『不意打ち』は、時に『〇〇さんって〇〇(内向的)だったりしますか?』と面接の中で問いかける事です。率直な意見に対して相手の反応をみながら候補者の本質を見極めていくのが有効です。
「面接官トレーニング」の方法
──面接官に必要なスキルを身につけるためには、どのような「面接官トレーニング」を行うと良いでしょうか?
「面接官トレーニング」にはさまざまな種類がありますが、一般的にいくつかの要素を組み合わせて実施されることが多いです。その要素となるものをいくつか紹介します。
質問技術向上トレーニング
面接官役と候補者役に分かれて模擬面接を行い、実践的な質問技術を身につけるトレーニングです。前述したSTAR面接を用いて、具体的な過去の行動や成果を掘り下げる練習を行います。模擬面接後にはフィードバックセッションを設けて、面接官役と候補者役がお互いにフィードバックを提供し合うことにより、技術の定着を図ります。
面接官役は、自身がどのように見立てたのか、評価とその根拠を説明し、候補者役は面接官に対して受けた印象や伝えたかった事が伝えられたか等をフィードバックし合います。オブザーバーとして経験豊富な人事が同席し、客観的な面接の印象等を伝えるのも効果的です。
評価基準の理解と適用トレーニング
評価基準やバイアスの排除についての講義を行います。採用ポジションに求められるスキルや適性の理解、バイアスの種類とその対処法を学ぶことにより評価の一貫性を確保し、公平な評価を行うための知識を習得します。特に採用で多いエラーは主に以下の四点です。
(1)即時的決定
大半の面接では、 開始4分程度で合否を決めてしまっているという報告もある。面接慣れが影響する事も多い。
(2)確証バイアス
「この人はこうに違いない!」と決めつけてしまい、無意識にそれを補強する情報を集めてしまう。(誘導的な恣意的な質問をしてしまう)
23卒においてはコロナ禍で行動経験が減っている中でより顕著になっている可能性がある。
(3)類似性バイアス
自分と近しい経験をしている求職者を評価してしまう。挫折経験や苦労した経験等の共通点は特に共感が評価になってしまう。
(4)ハロー効果
一部の特徴ばかりが目に入ってしまい、他の特徴に対して隔たった見方をして評価につなげてしまう。
先ずは自分の評価の癖、バイアスの傾向を把握する事が重要です。
加えて、実際の面接ケースを分析する形で評価基準に基づいた評価を行う演習も実施します。その際、複数人の参加者がそれぞれの評価を確認し合い、評価の一貫性や基準の目線を合わせるとより効果的です。
自社理解・自己理解トレーニング
自社のビジョンやミッション、個人の入社理由ややりがいについてグループで話し合います。その後、自社および自身の魅力を整理した上でプレゼンテーションの準備を行うことにより、自身の言葉で効果的に伝える能力もあわせて養っていきます。
採用市場・候補者理解
直近の採用市場動向の理解を深めるための講義を行います。候補者の傾向を知り、面接に臨む上で必要な基礎知識としてインプットしてもらう形です。その際、競合の採用施策や自社の採用課題などを合わせて伝えられると、より面接に臨む姿勢が強化されるため効果的です。
「面接官トレーニング」の見直し方法
──面接の質向上のためには継続的にトレーニング方法を見直し・改善していくことが必要かと思いますが、どのように改善していけば良いでしょうか。
「面接官トレーニング」の効果を検証するためには、予めどの指標で効果を測るのかを定めておくことが重要です。課題・目的・トレーニング内容などによっても指標は異なりますが、その指標には定量・定性それぞれ以下のようなものがあるので、採用選考上の自社課題を踏まえて指標を決定し、効果測定するとよいのではないでしょうか。
定量的な指標の例
・特定ポジションにおける選考通過率が極端に低く、正しく見極め切れていない場合
→ トレーニング実施後の選考の合格率
・選考通過者が次選考を辞退する割合が高く、惹きつけが出来ていない場合
→ 合格者の次選考への参加率
・面接官によって合格率のバラつきがあり、採用すべき人を落としている可能性がある場合
→ トレーニング実施後の評価の一致率 など
定性的な指標の例
・面接官の自己評価および相互評価
・アンケートで面接に対する候補者の満足度や評価コメント など
面接実施後の辞退率が高く、歩留まり改善のためにトレーニング実施をした場合は、実施前後で数値の変化を確認する必要があります。
こうした観点を踏まえて、実際に「面接官トレーニング」により面接の質(指標数値)が改善した事例を2つほどご紹介します。
塗料メーカー/従業員規模300~1000名
(1)課題意識・トレーニング実施背景
採用に対する意識が10年以上前から変わらず、自社のブランド意識があり、実際は採用市場で遅れをとっているにもかかわらず選ぶ側だという認識で面接官が高圧的な態度を取っていた。そのため、2年ほど技術者採用の成果が挙げられていなかった。そこで、市場データなどの客観的データを認識してもらい、面接官の意識変容を図った。
(2)実行内容
『採用市場・候補者理解』『評価基準の理解と適用トレーニング』の2つを実施。それぞれの研修で以下点を主にインプットした。
<採用市場・候補者理解>
・新卒中途採用の求人倍率の経年での変化(直近10年)
・人的資本という潮流理解
・Z世代を中心とした若年層の価値観変化
・転職に対する価値観変化(入社1年目4月に転職サービスへ登録する方の人数推移など)
・企業の採用課題に関するアンケートデータ
・求職者が応募企業に対して知りたいことのアンケートデータ
・企業側の採用および人事に関わる施策のトレンド(初任給引き上げ、配属ガチャの不安払しょくのためのコース別採用など)
・市況観を踏まえた今後のトレンド
<評価基準と適用トレーニング>
・採用基準の言語化とレベル感の目線合わせ
・事前に行った面接官へのアンケートデータから、36あるコンピテンシーから何が重視される傾向があるかを明らかにする
・そのコンピテンシーを求職者が保有しているかを面接で確認するためには、どのような問いが有効かをワークショップ形式で実施
(3)結果
採用に対する危機意識が高まり、選考スピード、面接官の選考に臨むスタンス、面接における応対が変化した。具体的には、アイスブレイクや企業側からの情報提供が行われるようになり、面接の中で意図のない感覚的な質問が減った。定量的においても、選考途中辞退率は0%(実施前は約40%)、内定承諾率も75%(実施前は2年間0名採用)に大きく改善できた。
半導体メーカー/従業員規模1000名以上
(1)課題意識・トレーニング実施背景
経験が浅い面接官が増えたことにより、適切な見極めと魅力付け力の低下が危惧されたことを受けて「面接官トレーニング」を導入。
(2)実行内容
『質問技術向上トレーニング』『自社理解・自己理解トレーニング』の2つを実施。具体的なケースを基にしたロールプレイも面接実施前に3回に渡って行った。
(3)結果
2つの「面接官トレーニング」を通じて面接の深掘りが適切にできるようになり、面接後アンケートで『自分のことを知ろうとしてくれた』『自分自身でも考えきれていなかったことを問われ、面接を通じて自己理解が深まった』との声が頻繁に上がるようになった。また、魅力付けの観点でも自社魅力を他者視点も含めたさまざまな立場から自分の言葉で語れるようになったことで、最終選考に臨む前に第一志望の状態に引き上げられるようになった。
定量面においても、「面接官トレーニング」後に行った面接の評価一致率は70%以上、面接後アンケートでも面接官の進行に対する満足度はトップボックス(1番良い評価)が選択される率が90%を超えた。さらに、定性的なコメントを定期的に確認し、どのような発言が候補者に刺さったのかを適宜確認することで自身の面接品質を常に向上させることにも成功した。
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編集後記
ここ数年だけでも採用市場や候補者の価値観は大きく変化しています。そうした変化を常にキャッチアップし対応する上でも「面接官トレーニング」は非常に重要な取り組みです。また、「面接官トレーニング」を通じて自社や自己理解が深まる効果も期待できるため、既存社員にとっても有益な取り組みと言えます。ぜひ継続的に取り組んでいきたいものです。