「ピアフィードバック」が効果的な組織状況や場面を解説
相手の行動に対して評価・指摘を行うフィードバック。一般的には上司・先輩から部下・後輩に向けて行われることが多いものですが、同僚・仲間(ピア)同士で行う「ピアフィードバック」という取り組みがあることをご存じでしょうか。
今回は、企業のエンゲージメント向上をハンズオンでサポートしているASAエンパワメント・コンサルティング代表の残間 朝子さんに、「ピアフィードバック」の概要から導入ポイント・事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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残間 朝子(ざんま あさこ)/ASAエンパワメント・コンサルティング代表
グローバル展開を進めるベンチャー企業を中心にカルチャー変革、マネジャー育成、エンゲージメント施策の立案・実行支援のサポートを幅広く行う。
目次
「ピアフィードバック」とは
──「ピアフィードバック」の概要について教えてください。
「ピアフィードバック」とは、同僚や同じ階層のメンバー同士が対等な関係でフィードバックを行うことを指します。お互いの改善点や評価ポイントを話し合うのが主な目的ですが、より良いコラボレーションの創出やチームワーク向上にも効果があります。
そもそもフィードバックは、仕事の成果・パフォーマンス・行動に対して他者視点を付与することで、以下のような目的達成に寄与する取り組みのことを指します。
・組織の生産性やパフォーマンスの向上
・組織カルチャーの醸成
・相手に感謝の気持ちを伝えて賞賛する
・自己認知を高めて成長を支援・促進させる
フィードバックには上司から部下や先輩社員から後輩社員へ行われる一般的なもの、360度評価(1人の従業員に対してさまざまな関係者が評価を行う方法)など多様な手法があります。「ピアフィードバック」もその中の1つです。フィードバックそのものの目的や内容はどれも同様ですが、「ピアフィードバック」には以下のような特徴があります。
・対等な関係の社員同士が相互フィードバックを行うため、評価的要素が少ない
・より効果的なコラボレーションを可能にするための行動へフィードバックが行われる
・社員同士でよりサポートし合い、チームとしてより良い成果を生み出すためにフィードバックが行われる
つまり、「ピアフィードバック」は異なる専門性を有するメンバー同士が1つのプロジェクト・チームとして協業する場合に特に効果的な取り組みだと言えます。メンバーの当事者意識を高め、自律的にチームワークを改善していく企業文化の醸成にもつながる取り組みです。
「ピアフィードバック」が有効なケース・導入基準
──数あるフィードバック方法の中でも、この「ピアフィードバック」が特に有効なケースはどのような場面でしょうか。
「ピアフィードバック」が特に有効なのは、『異なる専門性をもつ複数のメンバーが、プロジェクトまたはチームでコラボレーションをしている環境下』です。反対に『定型業務を大勢のメンバーが同じように実施している環境下』ではそれほどフィットしません。
他にも以下のようなフィードバックがあるため、目的やシーンによって使い分けると良いでしょう。
360度評価でのフィードバック
上司が被評価者となり、上位職・ピア・部下などすべてのステークホルダーからフィードバックを受ける方法です。匿名で実施する企業が大半で、活用シーンとしては昇格昇進のアセスメント・リーダーシップ開発などを目的とすることが多いです。
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上司から部下へのフィードバック
昨今はフィードバックカルチャーを大事にする企業が増えており、日常業務においてもタイムリーにフィードバックすることが求められています。また、パフォーマンスマネジメントの制度において、四半期・半期・一年の頻度で正式に成果や行動についてフィードバックすることもこのカテゴリーに当てはまります。
なお、「ピアフィードバック」を導入すべきかどうかを判断する上では、大きく以下3つの観点を基準に検討すると良いです。
(1)プロジェクト・チームの状況
・チームやプロジェクト内において年齢や年次などに関わらず対等に発言できる心理的安全性が確保されている関係性があるか
・顔が見える距離感のチームやプロジェクトか
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(2)組織カルチャー
・成長することの重要性を認識しているメンバーが多く、メンバー同士の相互成長支援がフィットするカルチャーか
・『メンバー主導での自発的な改善を良しとするカルチャー』を、プロジェクトのリーダーや管理職が受容できるか(メンバー間での意思の疎通が取れているか)
※部下育成の手法としてこれが効果的であること、また権限移譲が上司・管理職の成長につながることをリーダーや管理職側が理解できていることが重要です。
(3)制度・ルール面
・フィードバックを受け入れるかどうかは受け手次第であることを徹底できるか
・受領したフィードバックをマネジャーなどに共有しないことを徹底できるか
「ピアフィードバック」の導入ポイントと注意点
──「ピアフィードバック」を導入するときに抑えておくべきポイントや注意点などあれば教えてください。
導入時に人事が果たすべき役割は、「ピアフィードバック」の実施目的を正しく伝えて浸透させることです。これはどんな施策においても言えることですが、目的・狙いが抜け落ちた状態ではどれだけ良い取り組みであっても期待する効果を得ることは難しくなります。また、「ピアフィードバック」を手なりで導入してしまうと、ただ単にメンバー同士の『おしゃべり会』になってしまう可能性があるだけでなく、悪口や愚痴の交換で終わってしまうなどマイナスの効果しか得られないことも多々あります。そうならないためにも、目的・狙いを明確に伝えた上で以下のようなルールについても明言・徹底していく必要があります。
・「ピアフィードバック」の内容を人事評価や昇進・昇格判断に使用しないこと
・特定メンバーに対してのみ実施するのではなく、該当するチーム・プロジェクトのメンバー全員が等しくフィードバックの受け手・提供者になる状況を担保すること
・フィードバックを受け取るかどうかは、受け手が判断する権限を有すること
・受領したフィードバック内容はコンフィデンシャルに該当し、上司などに共有しないこと
ちなみに、「ピアフィードバック」の場には人事が入らないことが理想です。とはいえ、最初はメンバーも慣れておらず戸惑ったりうまくできなかったりすることが多いもの。そんな時は人事がニュートラルな立場でファシリテーションを行い、安心安全な場を作り、相手が受け取りやすい具体的かつ事実ベースのフィードバックをするように働きかけていく必要があります。
なお、「ピアフィードバック」が適しているテーマには下記のようなものがあります。
・このプロジェクトでより効果的にコラボレーションするには、どのような行動を各メンバーが実行すれば良いだろうか?
・〇〇さんがより高いパフォーマンスを上げるために、どのようなアドバイスができるだろうか?
・過去半年間のチームワーク振り返り(素晴らしかったこと、もっとできそうなこと、など)
「ピアフィードバック」導入により良い影響があった事例
──「ピアフィードバック」を導入したことで組織やチームに良い影響があった事例について、残間さんがこれまでに見聞きしたものの中から教えてください。
以前ある企業で実施された『次世代リーダー育成プログラム』において、「ピアフィードバック」を効果的に導入・活用できた事例をご紹介します。
このプログラム内には、これまで一緒に働いたことがないメンバー同士でプロジェクトを立ち上げ、その実現に向けて活動するというカリキュラムがありました。それぞれが社内の課題を提起して、その解決をプロジェクトメンバーと力を合わせて進めて行くものです。プロジェクトメンバーは部門もバックグラウンドも専門性も異なる方ばかり。さらに、このプロジェクトには時間制約に加え、通常業務と平行して進めなくてはならないというルールがありました。こうした厳しい環境下でより早く成果を挙げてプロジェクト達成を成し遂げるために、定期的な振り返り機会として「ピアフィードバック」をメンバー全員で実施することにしたのです。
以下に具体的にポイントを解説します。
アジェンダ
・アイスブレイク(例:『今のプロジェクトの状態を漢字1文字か絵にしてみよう』) 15分
・プロジェクトの振り返り(成果と進め方の両方の観点から10点満点で評価) 15分
・自身の貢献度合い(どの程度貢献できていると思うかを10点満点で評価し、同時にジレンマを感じているところもシェア) 15分
・さらにチームで成果を出すにはどうしたら良いか、このプロジェクトを通じて何を実現したいかについての対話 40分
グラウンドルール
「ピアフィードバック」を有意義なものにするには、グラウンドルールとして「ピアフィードバック」の目的を最初に示しておくことが欠かせないので、以下の様に設定しました。
・ピアフィードバックの目的
メンバーの成長支援、チーム全体の成長
・フィードバックする上でのマインド
『自分も出来ていないから言いづらい』という気持ちは横においてフィードバックする
脱線してしまった時の軌道修正
「ピアフィードバック」の会を運営している中で、グチなどが出てきた場合には視座を上げてもらうような問いをして、主体性・リーダシップを高めるようにします。
例えば、以下のような問いです。
・自分がリーダーやマネジャーだとしたら、どう解決しますか?
・3か月後に同じようなグチを言っていたくないですよね。状況を変えるにはどのようなアクションを取ったら良いですか?
このような取り組みの結果、プロジェクト上でのコラボレーションも各段に改善し、大きな成果を上げることに成功。無事プロジェクト目的を達成できました。他にも、互いにフィードバックをすること・受けることに対して抵抗感がなくなったことにより、将来のピープルマネジャーとしての素地を作ることができたとも感じています。
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編集後記
フィードバックは、組織やチームで働く上で非常に大きな効果のある取り組みです。特に今回ご紹介した「ピアフィードバック」は、メンバー同士で行われることにより当事者意識や主体性を高めることにもつながります。しかし、時には相手にネガティブな評価を伝える必要もあるため、やり方やルール次第では逆効果になってしまう可能性も。現場に任せきりにするのではなく、人事が適切に目的共有やサポートをしていくようにしましょう。