「採用直結型インターンシップ」が25年卒より解禁。自社の採用に組み込むためには
新卒採用において今や欠かせない取り組みであるインターンシップ。これまでは『インターンシップで得た学生情報を新卒採用に用いてはならない』とされていましたが、2025年卒業予定者からはガイドラインに沿っていることを前提に可能となりました。この変更を受け、2025年度は「採用直結型インターンシップ」元年とも言える年となります。
そこで今回は、ヘルスケアテック企業の人事総務部長を務めている今井 真哉さんに、「採用直結型インターンシップ」の概要、近況から採用へ組み込む設計ステップに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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今井 真哉(いまい しんや)/ヘルスケアテック企業 人事総務部長
一橋大学商学部卒。法政大学大学院経営学修士(MBA)。新卒で不動産デベロッパーに入社。ジョブローテーションをきっかけに人事キャリアを歩み始める。その後、トヨタ自動車、昭和電工(現・レゾナック)を経て現職。採用・人材開発領域をコアキャリアとしながら、HRBP、パーパス・バリュー浸透、人事制度構築・導入、労務コンプライアンス、グローバルタレントマネジメント、国内・海外子会社における人事責任者など人事総務領域全般において22年以上の豊富な経験を持つ。
目次
インターンシップの起源や種類
──「採用直結型インターンシップ」の話に入る前に、日本におけるインターンシップの起源や種類について教えてください。
インターンシップとは、特定職の経験を積むことを目的に、企業や組織において労働に従事している期間のことを指します。このインターンシップの起源は1997年にまで遡ります。当時の文部省・通商産業省・労働省がインターンシップの推進を図るため、『インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方』を作成。ここで共通認識や推進方策を取りまとめられたことを受け、以降は政府・大学・産業界がそれに沿ってインターンシップの普及・推進を図ってきました。その後、社会環境の変化やインターンシップの実施状況・課題などを踏まえ、2014年に『インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方』が改訂されます。ここでは、企業がインターンシップなどで取得した学生情報の広報活動・採用選考における取り扱いの考え方が明示されました。あらかじめ広報活動・採用選考活動の趣旨を含むことが示された場合に限り、学生情報の取り扱いを定めるものです。
具体的には、インターンシップの開始時期によって3つに分類しています。
(1)企業の採用広報活動開始時期前(大学3学年次2月末まで):広報活動・採用選考活動の趣旨を含むことはできない
(2)企業の採用広報活動開始時期後かつ採用選考活動開始時期前(大学3学年次3月~4学年次5月末まで):学生情報を『広報活動』に使用できる
(3)採用選考活動開始時期後(大学4年次6月以降):学生情報を『採用選考活動』に使用できる
なお、『インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方』ではインターンシップの形態を以下3つに類型しています。
(1)大学等における正規の教育課程として位置付け、現場実習などの授業科目とする場合
(2)大学等の授業科目ではないが、学校行事や課外活動等大学等における活動の一環として位置付ける場合
(3)大学等と無関係に企業等が実施するインターンシップのプログラムに学生が個人的に参加する場合
政府の推奨するインターンシップは『就業体験』ですが、『早期に優秀な人材を確保したい企業側』と『早期に内定が欲しい学生側』の思惑が一致した結果、インターンシップと称した就職・採用活動開始時期前の学生早期囲い込みが行われているのが実態です。以前であれば『会社説明会』や『企業研究セミナー』と呼ばれていたイベントも、『1日限定インターンシップ』と名を変え実施されているケースも多くあります。
「採用直結型インターンシップ」の特徴と近況
──「採用直結型インターンシップ」の概要について、以前のインターンシップとの違いも含めて教えてください。
2022年6月に文部科学省・厚生労働省・経済産業省の合意により『インターンシップの推進に当たっての基本的な考え方』がさらに改正されました。大学生などのキャリア形成支援に係る取り組みを類型化するとともに、一定の基準を満たしたインターンシップで企業が得た学生情報を『広報活動』や『採用選考活動』に使用できるよう見直しが行われた形です。
具体的には、以下4つのタイプに類型化されました。
(1)オープン・カンパニー
就業体験を必須とせず、個社・業界の情報提供や教育を目的としたもの。
(2)キャリア教育
インターンシップとは称さず、就業体験を必須として『自身の能力の見極め』や『評価材料の取得』を目的としたもの。
(3)汎用的能力・専門活用型インターンシップ
企業単独、もしくは大学が企業や地域コンソーシアムと連携して実施するプログラムのこと。適性・汎用的能力ないしは専門性を重視したもので、学生にとってはその仕事に就く能力が自らに備わっているか見極めることができる。
(4)高度専門型インターンシップ(試行)
大学院生を対象に、自らの専門性を実践で活かし向上させることを目的としたもの。
上記のうち、インターンシップと称して実施するのは(3)(4)のみです。この(3)(4)に限り、インターンシップで取得した学生情報を『広報活動』『採用選考活動』の開始時期以降に限って使用可能としました。
さらに、日本経団連が2023年4月10日に『インターンシップを活用した就職・採用活動日程ルールの見直しについて』を発出。その中で、2025年度卒業・修了以降の学生を対象に、現行の就職・採用活動日程ルール(※)を原則としつつも、(3)の『汎用的能力・専門活用型インターンシップ』を活用すること、かつインターンシップ後の採用選考を経ることにより、6月の採用選考開始時期にとらわれないことと定めました。これはつまり、実質的にはインターンシップを経ることで採用選考活動開始前の選考を日本経団連が容認したことを意味します。これが2025年卒から「採用直結型インターンシップ」が解禁されたと言われる背景です。
(※)現行の就職・採用活動日程ルール
・広報活動開始:大学3年次3月以降
・採用選考活動開始:大学4年次6月以降
・正式な内定日:10月1日以降
なお、(3)の『汎用的能力・専門活用型インターンシップ』には、以下4つの必須要件があります。
(a)就業体験要件
学生の参加期間の半分を超える日数を職場での就業体験に充てる(テレワークが常態化している場合はテレワークも職場として扱う)
(b)指導要件
就業体験では職場の社員が学生を指導し、インターンシップ終了後には学生に対しフィードバックを行う
(c)実施期間要件
インターンシップ期間を長期(2週間以上)で設計、設定する
(d)実施時期要件
学業との両立の観点から、学部3年・4年ないしは修士1年・2年の長期休暇期間(夏休み・冬休み・入試休み・春休み)を対象とする
4類型について、以下の資料も参考にしてみてください。
※厚生労働省『令和5年度から大学生等のインターンシップの取扱いが変わります』
※経団連『産学で変えるこれからのインターンシップ』
「採用直結型インターンシップ」を新卒採用プロセスに組み込むメリット
──「採用直結型インターンシップ」を新卒採用プロセスに組み込むメリットにはどういったものがあるのでしょうか。
前述した『汎用的能力・専門活用型インターンシップ』の必須要件4つを改めて見ていくと、「採用直結型インターンシップ」を新卒採用のプロセスに組み込むメリットを見出すことができます。
具体的には、大きく4つのメリットがあると考えています。
(1)入社後ギャップの低減
参加期間の半分超を職場での就業体験に充てる条件があるため、学生はインターンシップ期間中の大半の時間を職場で過ごすことになります。すると、表面的なことだけではなく、時としては良い面だけでなく悪い面も含めた企業のリアルな現状を含めて実体験することになるため、入社後に『こんなはずではなかった』などのギャップで早期退職する層を一定程度減らすことができます。
(2)入社前から育成的観点で学生と接点が持てる
職場の社員が学生を指導しインターンシップ終了後に学生にフィードバックを行う条件から、インターンシップ期間中に社員と学生が指導・育成的な接点を持つことができます。学生にとっては社会の最前線で活躍する社員から指導・フィードバックを受けることで成長実感と志望度が高まりますし、企業側も学生の能力見極めや育成により採用の質の向上につなげられるなど、双方にメリットがあります。
(3)意欲の高い学生と出会える
実施期間は最低でも2週間以上となることから、学生にとっては相応の負担があります。そのため、冷やかしやとりあえずの参加ではなく、本気度の高い学生が集まることになります。入社に対して本気度が高い学生ですので、採用の効率・内々定受諾の歩留まり率などにも好影響が出ると考えられます。
(4)通常では出会えない学生と出会える
学業との両立の観点で長期休暇期間での実施条件から、普段は授業・アルバイト・サークル活動などで就職活動の時間を取りにくく、長期休暇期間しか自由な時間が取れないアクティブな学生層からも積極的な応募が期待できます。
「採用直結型インターンシップ」を組み込む設計ステップ
──「採用直結型インターンシップ」を新卒採用プロセスに組み込もうと考えた際、どのような設計やステップで導入すると良いでしょうか。
ここまでの解説をお読みいただくと、「採用直結型インターンシップ」は取り組むべきものだと感じる方が多いと思います。しかし、長期間インターンシップとして学生を受け入れる企業・職場側の負担は決して軽いものではありません。実際にインターンシップ生を受け入れる現場の方にとっては、多忙の中でインターンシップ生への指導やフォローをする時間を捻出することが現実的に難しかったり、ビジネス経験がない学生のアウトプットをどのようにフォローすればいいのかわからずに困惑してしまうなど、戸惑いや反発の声が出ることは少なくありません。かといって、雑用のような業務ばかりをお願いしてしまうと、双方にとって本来の「採用直結型インターンシップ」の目的から大きく外れてしまうことになりますし、悪い印象はSNSなどを通じて簡単に拡散されてしまったりと、採用ブランドに大きな負の影響を与えてしまうリスクもあります。
こうしたリスクを回避しながら採用につなげるためには、以下のようなプロセスで「採用直結型インターンシップ」を設計・実施していくと良いでしょう。
設計
(1)目的(Why)
まず大前提として何のために「採用直結型インターンシップ」を実施するのかを明確にする必要があります。例えば、少しでも多くの学生を集めて選考のスクリーニング的に使いたいのか、少数の学生にターゲットを絞って自社のファンになってもらい育成していきたいのか、などです。目的によって受け入れ部署に協力してもらう際の説明や学生の募集・選抜方法、期間中の学生との関わり方などが変わってきますので、しっかりと目的を定めることが非常に重要です。
(2)受け入れ人数(How many)
目的が設定できましたら、そこから付随するのが受け入れ人数です。「採用直結型インターンシップ」は特に受け入れをする現場ポジションにとって少なからず負荷がかかるため、適切なバランスを取り、受け入れ人数を決める必要があります。多すぎても大変ですが、少なすぎてもインターン学生同士の交流が少なくなってしまったり、インターン学生を相対的に比較できず、選考という観点での見極めが難しくなるなどのデメリットもでてきます。受け入れ人数を考える際には毎年の新卒採用人数が一つの目安になるでしょう。
(3)時期(When)
長期休暇期間での実施が一般的ですが、学部3年次の夏休み・冬休み・学部4年次に上がる直前の春休みなど、実施する時期によってフローが異なってきます。夏休みに「採用直結型インターンシップ」を行い、秋に内々定を出したとしても学生側が決めきれず、その後もフォローを長く続けたものの、インターンシッププログラムの効果が薄れてしまい、良い成果に繋がらないこともあり得ます。自社の業界や採用競合他社の動きなどから、いつ内々定を出すのが最も効果的か、そこから逆算して「採用直結型インターンシップ」の時期を決めるのが良いでしょう。
(4)期間(How long)
「採用直結型インターンシップ」の実施期間は2週間以上でなくてはいけないという条件がありますので、基本的にそれに従って設計する必要があります。その期間中に全社的なイベントなど、普段と異なる会社の一面が見られる機会があると会社の魅力がより伝わると思いますので、実施期間を決める際に考慮するとよいでしょう。
(5)職種(What)
会社の中にある様々な職種の中で、つい学生に人気がありそうな企画やマーケティング、広告宣伝、経営戦略などの職種を選んでしまいそうになりますが、配属の可能性がある職場でなければかえって入社後にミスマッチを感じられてしまう可能性があります。そのため、入社後にも連動するような職種の方が適していると言えるでしょう。
(6)配属部署・職場(Where)
職種が決まればほぼ自動的に部署が決まるケースもあれば、同じ職種でも複数の部署があるケースもあります。新卒社員の受け入れに積極的な部署もあればそうではない部署もあるでしょう。受け入れ部署の対応やマインドセットは非常に重要ですので、部署の選定は極めて重要になります。
(7)担当者(Who)
「採用直結型インターンシップ」の受け入れ期間中の担当者は、必ずしもすべて人事の採用担当である必要はありません。配属部署の若手社員(入社1〜3年目くらい)を担当者として、インターン学生に彼らの業務を一緒に経験してもらうという方法も有効です。
(8)報酬(How much)
会社の営業活動に直結するような業務をインターン学生にお任せする場合には、雇用契約を締結し報酬を支払う義務があります。ですが、通常インターンシップはあくまで『就業体験』であるため、報酬は必須ではありません。しかしこの場合でも、自宅から会社に来るまでの交通費や期間中の昼食代に相当するような手当、遠方のインターン学生であれば期間中の宿泊費(あるいは宿泊先の手配)は会社側が支給するのが一般的です。
実施
(1)導入・開始(1~2日)
自社で働くにあたって必要となる最低限の知識やルール理解、マインドセットを行います。多くの企業が1Dayインターンシップと銘打って実施していたような内容が主で、会社概要・事業説明・経営幹部や人事責任者による訓話、先輩社員との座談会などで構成されることが一般的です。必要に応じてNDA(秘密保持契約)の締結なども行います。
(2)実行(2週間~)
人事がインターンシップ専用のカリキュラムを作り講師までも担当するということは、よほどの大企業でなければ現実的には難しいのではないでしょうか。基本的に受け入れ現場との連携が必須ですが、受け入れ現場側にも余裕がない場合におすすめしたい取り組みに『シャドウイング』があります。受け入れ現場で勤務している若手社員(1〜3年目)のもとにインターン学生をつけ、その社員の影のように業務をトレースしていくものです。会議に参加し議事録を作成する、顧客を訪問し商談をするなど、通常業務を同じように体験させ、業務の合間に先輩社員とさまざまな話をすることで就業体験を重ねます。このやり方であれば学生用に新しくタスクを用意する必要もありませんし、若手社員も指導者として経験を積むことで若手社員の育成にも良い影響が期待できます。なお、1日の終了時には日報にその日の振り返りと学びを言語化してもらうとより効果的です。
(3)振り返り(1~2日)
インターンシップのクロージングとして最終日に振り返りセッションを用意します。あくまでも主体はインターン学生とし、会社側は終日利用できる会議室を用意します。学生は半日ほどかけて学んだことや自身の成長、また学生目線から見た企業に対する提言などをプレゼンテーション資料にまとめてもらい、1人ずつ発表してもらいます。発表の場には人事メンバーだけでなく、実行フェーズで面倒を見てくれた若手社員にも参加してもらうと良いでしょう。
企業側は上記(1)~(3)のフェーズを通じて学生の能力や自社への適性を見極め、インターン終了後に選考プロセスに案内します。その際、学生を『即採用レベル/優先選考レベル/一般レベル』のように分類し、自社にとって優先度の高い学生から動機付け・内々定出しにつなげていくと良いでしょう。
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編集後記
『採用選考活動開始前の選考を日本経団連が容認した』ことを受け、インターンシップの位置づけはもちろん、企業の新卒採用活動が大きく変化していく様子を理解することができました。採用競争がますます激化していくことが予想される中では、「採用直結型インターンシップ」に取り組まない手はありません。学生のメリットや受け入れ体制を十分に考慮・検討した上で、より良い形をつくっていきたいものです。