「外部登用」をうまく活用して組織力を高めるためには

能力に秀でた人材を外部から採用する「外部登用」。近年よりその重要性が増していると言われるミドルマネジメント層などでうまく「外部登用」を活用できればスピーディーな事業立ち上げ・拡大を目指せる一方、クリアすべき課題も多々あるようです。
今回は、組織開発領域で多くの知見と実績を持つ田中 浩敬さんに、「外部登用」における課題や内部登用との違いについて詳しくお伺いしました。
<プロフィール>
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田中 浩敬(たなか ひろたか)/法人代表
個人事業主、ベンチャーの創業メンバー、中小企業コンサル、大企業コンサルを経て、現職。現在、全国に事業所200か所超、従業員2000名超の大手介護福祉事業会社の組織開発室長、その組織開発の実践知を用いて複数企業の「社外組織開発室長」として外部稼働する子会社の代表取締役。外部コンサルとは一味違う「事業会社内での実践知」に裏付けられた支援スタイルが企業経営者から好評価を得ている。変革リーダー群を起点とした「経営数字に貢献する組織活性化」を得意としている。
目次
「外部登用」とは
──「外部登用」の概要について教えてください。
登用には「人材を引き上げ活用する」という意味があります。つまり「引き上げ」が前提となるため、対象者はミドル層・トップ層へ引き上げられることとなります。またその対象者は、組織内部の既存人材を引き上げる「内部登用」と組織外部の新規人材を引き上げる「外部登用」の大きく2つに分けられます。

さらに、今回のテーマである「外部登用」では雇用と業務委託の2パターンがあり、それぞれ以下のような使い分けがなされている印象です。
<雇用>
長期的かつ指揮命令下での業務遂行が好ましい場合
<業務委託>
短~中期的かつ指揮命令下でなくても成果が出せる場合
業務委託は指揮命令下に入りませんので、指揮命令下に置かなくても成果を出せる人物である必要があります。そのため、登用の際には「どういった成果を出せるのか」という成果を定量もしくは定性的に定義できるかどうかがポイントになります。つまり、業務委託による登用の際は、起用時点でその人物が「特定の課題解決について能力の裏付けと実績があるプロフェッショナル」であることが前提になると言えるでしょう。
ちなみに、私自身も現在複数企業の社外社員(エグゼクティブパートナー)としてミドル層の一部業務を受託し、一定の権限をいただいた上で遂行しています。具体的には、以下のような業務の経験があります。
・ミドルマネジメント層の部下育成支援業務(OFF-JT業務)
・次世代経営者候補に対する実践学習業務
(リーダー15名に対するスキルインプット&実践の場提供)
こういった特定業務を業務委託として「外部登用」者に任せるケースは今後も増えてくるでしょう。また、外部登用=雇用と制限するのではなく、外部登用=雇用or業務委託と企業側が考えられるかどうかも組織力の差に大きくつながってくるはずです。
──『内部登用』とはどのような点で違いがあるのでしょうか。
『内部登用』と「外部登用」は、それぞれ以下のように言い換えることができます。
・内部登用……組織に“染まっている”人材の登用
・外部登用……組織に“染まっていない”人材の登用
“染まっている”人材を言い換えるならば、業務理解している、風土を理解している、ミッションビジョンを理解して行動している…といった表現が相応しいかと思います。
“染まっている・染まっていない”から良い・悪いという性質のものではありません。それぞれにメリット・デメリットがあるため、登用しようとしているポジションの役割・期待成果に応じて検討するべきものであるという点が重要な観点です。
なお、それぞれのメリット・デメリットを整理すると以下のようになります。
組織に染まっている人材の登用
<メリット>
・既存の仕組みや風土で成果を出した実績があり、ある程度の成果創出が期待できる
・企業の理念・仕組み・風土との同化レベルが高く、脊髄反射的に正しい判断ができる可能性が高い
<デメリット>
・仕組みと風土が無意識レベルにあり、新しい発想の妨げになる可能性がある
・企業の仕組み・風土との同化レベルが高すぎて、仕組みや風土の問題点を発見できない
組織に染まっていない人材の登用
<メリット>
・新しい視点・知見・スキルで想定以上の成果創出が出せる可能性がある
・企業の仕組み・風土との同化レベルが低く、仕組みや風土の問題点を発見しやすい
<デメリット>
・既存の仕組みや風土で成果を出した実績がなく、想定外に成果が出せない可能性がある
・企業の理念・仕組み・風土との同化レベルが高く、脊髄反射的にした判断が誤っている、ズレる可能性がある
既存の内部人材の登用では、期待する成果の創出が見込めない場合には、外部人材を検証することになるでしょう。もちろん、外部人材だから必ずしも成果が出せるという訳ではありませんが、外部人材の場合であればそもそも「即戦力性」を期待した上で登用しているため、短期成果を上げて即戦力性を証明する必要が内部人材よりも高いと考えます。
ミドルマネジメント層を「外部登用」する際の課題
──昨今その役割が広がり重要度が増しているミドルマネジメント層。この層を「外部登用」する上で出てくる課題にはどのようなものがあるでしょうか。
前提として、「外部登用」をどの層で行うかによって課題にも違いが出てきます。
十分なスキルや経験があることはもちろんですが、CXO人材としてのトップ層には、戦略策定を主業務として企業の最上位レイヤーからの経営改革や事業創出が期待されます。一方、ミドルマネジメント層には策定された戦略の実行・管理を主業務としてトップ層(経営層)とボトム層(実務層)との結節点機能になることが期待されます。
つまり、ミドルマネジメント層へ登用する際に直面しがちな課題としてはトップ層(経営層)とボトム層(実務層)との結節点機能になれない可能性がある(経営と実務視点のバランスが取れない)点があります。
ただし、これは何も「外部登用」に限った話ではありません。「外部登用」ならではの課題としては以下2点があります。
(1)その企業や組織の歴史や背景を知らない
(2)業界経験・知識が乏しい(特に他業界からの登用の場合)
(1)については、企業や組織の歴史や背景を積極的に「学ぶ」「情報を取りに行く」ことが必要です。しかし、外部登用の場合は、そういった過去を度外視して、企業を変革することも期待されているため、あえて「知りすぎない」ことも大事かと思います。
(2)については、業界経験・知識が乏しいことを払拭する「強み」をしっかりとアピールすることに加え、短期成果を出すことが重要です。既存人材が誰も成し遂げることができなかったことを成し遂げられたなら、組織からも一目置かれる存在となるでしょう。しかし、中にはそうした活躍を良く思わない方も一定数いるかもしれませんので、丁寧な信頼関係の構築が必要だと考えます。
また、コミュニケーションやカルチャーの影響や問題についても、外部登用者が「何でもかんでも変えようとしない」という意識を持つことが大事です。外部から来た場合、一見すると変えた方がよいと感じるコミュニケーションやカルチャーだとしても、企業が紡いできた歴史や背景から試行錯誤を経て今の仕組みや風土に辿り着いた可能性があります。手を加えるのであれば、コミュニケーションやカルチャーの「前提」となる背景や理由をしっかりと押さえる、あるいは仮説を立てて向き合うことが肝心です。
企業としては、こうした「外部登用」ならではの課題を理解した上で、『いかに組織の歴史や背景を理解してもらうか』『業界経験の乏しさを補える人間性・汎用性を求めるか』などの事前対策を講じておくことが必要になってきます。
「外部登用」と内部登用における判断基準の違い

──「外部登用」と内部登用では、当該ポジションへの登用における判断基準なども異なってくるのではないかと考えています。「外部登用」ならではの判断基準があれば教えてください。
前述した通り、「外部登用」には新しい視点・知見・スキルを取り入れて想定以上の成果創出ができる可能性がある反面、組織理解の乏しさなどから想定外に成果創出ができないリスクもあります。その両面を踏まえた上で、以下2つの判断基準については事前に検討しておくべきです。
(1)想定以上の成果創出ができる可能性があるか
(2)想定外に成果が出せない可能性があるか
(1)想定以上の成果創出ができる可能性があるか
その人材が持つ外部の視点・知見・スキルが自社に入ることにより、どれだけの成果創出が見込めそうかを見極めます。今の自組織に足りない視点・知見・スキルを明確にした上で、もしそれらが補完されたとしたらどういった成果が生み出されるかをシミュレーションします。
シミュレーションを行う場合は、まず外部登用した際のポジションにおける「主任務」を定義(言語化)することが重要です。その上で、いつまでにどういった成果を出すことを期待しているかという「主任務に対する期待成果」を定量化していきます。外部人材の採用面接時に、以下の質問を投げかけるのも良いでしょう。
<質問例>
こういった主任務で着任した場合、○○さんならどういった考えで、どういった行動を、どういった順番で行いますか?
上記を問いかけた上で、本人がどの程度まで具体的にシミュレーションできるかを確認するのも効果的です。あるいは、その人物が前職までに担っていた「主任務」と「主任務に対する期待成果」をヒアリングした上で、どのような思考で、実際にどういった行動を選択したかを確認しても良いかもしれません。
(2)想定外に成果が出せない可能性があるか
その役割に期待される成果を出すためのコアスキルを保有しているか、再現性があるかを見極めます。登用されるポジションがミドルマネジメント層以上の場合、想定外に成果が出せないとその損失も甚大です。それを防ぐためにも、応募書類には徹底的に数字実績を記載してもらう、面接時に徹底的に掘り下げる、成果創出につながった具体的な行動を語らせる、など“シビア”に見極めることが大切です。
なお、シビアに見極める方法としては以下のようなものがあります。
・面接・面談時に簡単なケース問題を出し、どういった解決をするかを聞く
・その企業で同格の人が何名で、その中でどれぐらいの位置づけにいたのかなど、数字実績についての『同格他者比較』を行う
・前任者との数字成果の比較、昨年対比や一昨年対比などの比較など、数字実績についての『過去前後比較』を行う など
その人材が十分に成果を創出できるかどうか、事前に見極めておくことが肝心です。

「外部登用」を行うために踏むべき4ステップ
──「外部登用」のステップについて、注意点なども含めて教えてください。
「外部登用」のステップには大きく4つのステップがあります。
(1)出会う
(2)選考する
(3)入社する
(4)活躍する
(1)出会う
「外部登用」の期待は、『新しい視点・知見・スキルで想定以上の成果創出が出せる可能性がある』点に尽きます。既存人材では出せない成果・起こせない変革を期待することからも、選考時点でハイパフォーマンス人材であることは大前提です。
そうした人材は、いわゆる求人特化検索エンジンや一般的な求人媒体ではなく、コンフィデンシャル求人を保有するヘッドハンティング会社や人材紹介会社などに登録していることが多いです。ただし、採用コストは、求人特化検索エンジンや求人媒体より大幅に上がってしまいますので、それだけのコストに見合った成果を出せるかどうかについては選考段階でシビアに見極める必要があります。
(2)選考する
採用ポジションの既存人材から作成したコンピテンシーなどを用意できるのであれば、『コンピテンシーに基づく書類選考・面談』を実施することができるようになります。コンピテンシーを軸に選考をしつつ、その外部人材が持つ視点・知見・スキルでより大きな成果が出せるのか、想定外に成果が出ない可能性はどうか、などを事実・数字をベースに適宜掘り下げながら選考を進めていきます。
(3)入社・契約する
入社・契約後は、いかに早く・的確に組織の現状把握をして、問題の明確化、課題の形成、課題解決行動の実行ができるかを見極めます。特にトップ層やミドル層においては、組織内のキーパーソンを早く確実に押さえることがミッション遂行に大きく影響するからです。
企業としては、現状の自社における良い点、たとえば利益創出や企業DNAにつながっている仕組みや組織風土などは残しながらブラッシュアップしていく必要があります。一方で、今度の成長・発展の妨げになっている改善すべきところにテコ入れして成果を出さなくてはなりません。外部登用者にはこの2点を理解した上で自走してもらえるようにすることが入社・契約直後のポイントです。
外部登用者がミッションを遂行するにあたり、企業側は必要に応じて素早く情報を渡せるようにしておきましょう。入社直後は、既存組織に慣れること・馴染むこと・ミッション遂行に必要な関係資産を社内に構築することに集中してもらいます。この段階では変革したい想いを抑え、『何も・誰も否定しない密で濃いコミュニケーション』によって情報を集めてもらうことが有効です。
(4)活躍する
入社・契約後のアクションが確認できたら、成果を出してもらうために活躍の後押しをします。一般的に外部登用者は自ら変革を起こすモチベーションが高い場合が多いので、たくさんの問題点が目に付いてしまって一気に変革を起こそうとしがちです。しかし、既存の仕組みや風土の中には『残すべきもの』も沢山存在しています。変えたいと思っても、過去の背景や前提を確認した上で残すべきか・変えるべきかを慎重に判断する必要があるのです。自分は良かれと思ってした行動が、実は企業にとっては良くないことだったというケースは頻繁に起こります。変革を期待されていたとしても、なんでも変革して良いわけではないということを肝に銘じてもらいながら、行動を促す必要があります。
「外部登用」者の定着率・パフォーマンスを高めた実例
──実際に田中さんが対応された「外部登用」の事例について教えてください。
私が組織開発室長を務めている大手介護福祉事業会社の事例をご紹介します。こちらはミドルマネジメント層への「外部登用」のうち、雇用形態での事例紹介になります。
私が大切にしてきた指標の1つに、『最低1年以上はミドルマネジャーとして定着してもらう』があります。介護福祉業界は元々離職率が非常に高い業界である上に、私の所属企業は急拡大フェーズにありましたから、ミドルマネジメント層の負荷は相当重たいものになっていました。だからこそ1年以上定着することが1つの成功基準となっているのです。また、経営と現場の結節点となるミドルマネジャーが1年も定着しないとなると現場への悪影響は測り知れません。お客様への悪影響も少なからずあるはずですから、それは避けたいという考えもありました。
なお、1年以上の定着を実現するために、以下3つの軸を持って採用選考を行っていました。
(1)経営と現場の結節点としての役割を自分ゴト化できること
(2)成果(≒利益)を創出できること
(3)人間性が確かであること
(1)経営と現場の結節点としての役割を自分ゴト化できること
理念やビジョンなどを中核とした『企業理解』、競争優位や事業特性などの『事業理解』などを中心に、ミドルマネジメント層に経営が期待すること、ボトム層(現場)が期待することの本質を理解しているか、その本質を自分ゴト化ができているかを中核に選考しています。
(2)成果(≒利益)を創出できること
利益を生み出すためには、経営数字である売上増・コスト減の2つの成果創出が必要です。これまでの経験の中で、そうした成果を組織の力ではなく自分で出した証明をできるかどうかを確認しています。
(3)人間性が確かであること
ここは最終的に『面接官自身の人間性との対比』しかないと考えています。ただ、世間一般の道徳感と照らし合わせた上で根本的な人間性がズレている方は採用しないように気を付けています。
こうした基準を持って採用選考に取り組み続けた結果、今やミドルマネジャーの約1/4は私が採用した外部登用者となりました。さらに、採用時よりも上級のマネジャーに昇格するケースも増えてきています。
本事例における特長として、外部登用時に「企業がもっとも大事にするものは何か」を軸とするためこだわりながら採用を行った点が挙げられます。本事例における軸は、「1年以上継続勤務する」という部分でした。早期の成果創出が求められる厳しい環境の中で、1年以上「続けられる」ことが前提条件であったからこそ、そこから選考軸を上記3つに分岐することで、採用・定着・活躍・成果創出を一気通貫で検証できるようになったわけです。
外部登用はあくまで手段ですので、目的から逆算して考えていくことが大事です。ですが、私は案外この部分を軸立てしていない企業が多いと感じています。
私が過去携わっただけでも、面接時に好印象だった相手を雇用したものの早期離職してしまった、あるいは組織を破壊する方向へ導くポピュリスト化してしまったなど、外部登用の目的が果たせないケースが散見されました。外部登用時には「企業にとって何を一番大事な軸とするのか」を改めて考え、中心に据えておくと良いと思います。
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編集後記
世の中の急激な変化に対応するべく、時々に応じた専門人材の獲得は多くの企業において急務となっています。しかしながら、昨今の採用難を鑑みるとそれらの人材を『雇用』という形態だけで確保し続けることは目に見えて難しくなってきているのが現状です。業務委託など雇用以外の形態で「外部登用」を進めること、成果を生み出せる人材の採用基準とサポート体制を事前に検討しておくことは、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。