グローバルで戦える企業へ。「高度外国人材」採用のメリットと活躍・定着へのポイントとは

優秀な人材を採用し働き続けてもらうことは、企業にとって非常に重要です。そのために、国内だけでなく海外在住者や外国籍の方々も視野に入れて、採用・定着に力を入れている企業も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、採用マネージャーとしてグローバル採用・組織開発等でご活躍されている橋野さんに「高度外国人材」の採用と定着にフォーカスして解説いただきました。
<プロフィール>
橋野 恵(はしの めぐみ)/ イー・エフ・コーポレート・エデュケーション株式会社 採用マネージャー
新卒でインテリジェンス株式会社(現パーソル株式会社)に入社後、キャリアコンサルタントとして通算800名の転職支援を行う。新人賞やMVPに選ばれ初期から活躍。現職には中途で入社後、最年少マネージャーとしてスピード昇級を経た後、任期5年間は売り上げ目標連続達成の実績を残す。その後、法人留学部門の日本マーケット拡大の目的で新規事業立ち上げの責任者として抜擢。現在は2児の母で育児と仕事を両立しながら、EF Education First Japanグループ全体の採用マネージャーとして各部門の採用業務全般を担当。
目次
「高度外国人材」とは
──「高度外国人材」とは具体的にどういった方々を指すのでしょうか。一般的な定義に加え、橋野さんの考えも教えてください。
厚生労働省の発表によると、日本国内での外国人労働者は2020年10月末時点で約172万人に上ります。(※1)その発表資料の中に「専門的・技術的分野の在留資格」を持つ労働者数(359,520万人)という表記があり、一般的にはここに含まれている労働者が「高度外国人材」に該当します。
それを踏まえ、私が考える「高度外国人材」の定義は、「採用する時点で日本のビジネスフィールドで活躍できるだけの知識や能力を持っている即戦力人材」です。「国籍以外は日本人の採用候補者となんら変わらないレベルの人材」と言い換えることもできるでしょう。
私が所属しているイー・エフ・コーポレート・エデュケーション株式会社の「高度外国人材」採用でも、すでに日本のビジネスフィールドにおいて何らかのキャリアを確立し、即戦力として活躍できる人材のみを対象としています。研修や育成といった採用後の組織負担も、日本人採用とほとんど変わりません。
(※1)参考:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ
「高度外国人材」を採用するメリット
──優秀な方に入社いただくことは国籍に関わらずメリットの大きいものですが、「高度外国人材」採用にはまた違ったメリットがあるのでしょうか?
知識や能力、入社後の組織負担面でも日本人採用とほぼ変わらない「高度外国人材」ですが、彼らを採用することで得られる特有のメリットがいくつも存在します。
その具体例として2つポイントをご紹介しましょう。
海外本社とローカル拠点の潤滑油的存在になってもらいやすい
本社が海外にある外資系企業にとって、グローバルと日本双方の文化・基準・考え方などを理解し、本社の意向とローカル事情のそれぞれを尊重し、落としどころを見出せる存在はとても貴重です。「高度外国人材」がその条件に合致するケースはよくあります。
これまでにない視点・スタンス・ノウハウを持ち込んでくれる
「高度外国人材」の中には、日本人が不得意としがちな大らかさ、ロジカルさ、周りを巻き込む力などを強みとして持つ方が多く存在します。そんな方にジョインいただくことで、既存社員の刺激となり、結果として組織力が向上したりチームワークが強化されたりといった効果があります。
またこれは良くも悪くもなのですが、日本人は外国人に対して特別感を抱く(遠慮する・寛大になる・尊敬する)傾向があるため、「高度外国人材」の存在がクライアントとの商談時などにメリットとして働くこともあるようです(例:日本人同士では生まれにくいカジュアル且つフレンドリーな雰囲気から商談が始まる、率直な物言いでも受け止めてもらえる等)。

コロナ禍でも変わらない「高度外国人材」の採用意向
──「高度外国人材」採用はこれまでも多くの企業で行われてきましが、コロナ禍で何か変化はありましたか?
コロナ禍の影響により残念ながら業績不振に見舞われた業界や企業においては、新卒・中途採用を控えたり採用人数を減らしたりといった動きが一定数ありました。しかしながら、そうした悪影響を大きく受けなかった業界や企業を中心に優秀層の採用を継続、もしくはこれまで以上に採用を加速していることもあって、全体的には「高度外国人材」採用に対する熱度も上昇傾向にあると感じています。
厚生労働省の発表によると、「専門的・技術的分野の在留資格」を持つ労働者の対前年増加率は2014年に11.1%と二桁となり、以降2016年には20.1%になるなど、増加し続けています。コロナ禍の影響を大きく受けた2020年には9.3%と大きく下がりましたが、増加傾向なのは変わらず、今後もその傾向は変わらないと予想されています。(※2)
パーソル総合研究所が発表した「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査」(※3)によると、外国人採用に積極的な業界には偏りがあるように見受けられます。IT系企業やコンサルティング系企業は特に採用意欲が高いようです。
それ以外でも、このコロナ禍で業績を伸ばした業界・企業を中心に外国人採用のニーズは高まりを見せています。私が所属している企業もIT系・コンサルティング系企業には該当しないと思いますが、今後事業をさらに拡大していくために「高度外国人材」を含む増員採用をしていきたいと考えています。
(※2)参考:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】
(※3)参考:パーソル総合研究所「外国人雇用に関する企業の意識・実態調査」
「高度外国人材」に活躍してもらうために必要なポイント

──せっかく優秀な「高度外国人材」の方にご入社いただいても、その力を最大限発揮してもらえなければ意味がありません。どういったポイントに注意して受け入れを進めて行くべきでしょうか。
採用難易度が高い「高度外国人材」。それゆえに「どう採用するか」に注目が置かれがちですが、それ以上に「入社後活躍・定着」の観点で組織開発を進めることが非常に重要です。
そのための方法論はいくつもありますが、ここでは3つ重要なポイントをご紹介します。
社内公用語をお互いの「第二言語」に設定する
「高度外国人材」の就業がまだ浸透しておらず、これから促進していこうと考えている企業においては特に大きな効果がある取り組みです。
日本語が社内公用語になっている組織では、考え方などもどうしても日本的なものになりがちです。そうすると「高度外国人材」は組織の一員ではなく「特別枠」として扱われている感覚を持ちやすくなります。社内公用語をお互いの「第二言語」にすることで、「相手も自分と同じく第二言語で話してくれているんだ」と感じて精神的な壁が低くなる効果があります。多国籍企業の多くが英語を社内公用語としているのはこのためです。
※「高度外国人材の中には英語ネイティブの方も多いのでは?」と思われるかもしれませんが、実は日本で働く外国人労働者の80%以上が英語ネイティブではない国のご出身です。(※4)
英語を社内公用語にするためには、CEOなどトップ自らが共通言語を身につける必要性や、社員個人にどんなメリットがあるのかなどを、明確に発信し続けることが重要です。語学研修も、導入だけではなくしっかりと結果にフォーカスを当てた仕組みや制度を設けるべきでしょう。
(※4)参考:厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況表一覧
DEIBを意識した取り組み
DEIBとはDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括)、Belonging(帰属)の頭文字を取ったものです。近年さまざまなところで聞くようになった「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I、DEI)」に続く方針だと私は考えています。
代表的なものとしてはLGBTQに対する理解や、異文化に対する理解(宗教関連による食事の嗜好性、服装、断食などの制限)などです。それらの教育に注力することで「会社はありのままのあなたを受け入れている」という意志表示に繋がり、それは「高度外国人材」から見ても良い印象として映るはずです。
➡️「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I、DEI)」についての記事はこちら
管理職への教育
「高度外国人材」をマネジメントする管理職への教育も非常に重要なポイントです。管理職のヒューマンスキルやマネジメントスキルは「高度外国人材」の入社後活躍や定着率向上に大きく影響します。
企業として前述したDEIBに対する取り組みが盛んであっても、直属の上司がその取り組みに理解を示していなければプラスに働くことはありません。直属の上司がDEIBやLGBTQをはじめとする企業の取り組みに対して正しい理解と知識を持ち、日々の行動や言動、マネジメントで体現できるかどうかが、非常に大切になってきます。
具体的な取り組み事例
──橋野さんが所属している企業では、かなり「高度外国人材」採用が進んでいるそうですね。具体的にどんなことに取り組んでいるか、またその影響や効果などについても教えてください。
ありがたいことに私達の会社では以前から多様化が進んでおり、自然とそれぞれの現場メンバーや管理職メンバーがコミュニケーションの取り方を含めて意識をする土壌が備わっています。しかしそこで良しとするのではなく、前述したような語学研修やマネジメント研修などを定期的に継続しており、多様性への意識を再認識してもらうことでレベル感を維持している状態です。
具体的には社内・社外両方へオープンなHPに「We are EF」というブログページを設け、そこでEFで行っている取り組みについての紹介やインタビューなどを掲載しています。
・様々なバックグラウンドに対しての理解を深めるためのラウンドテーブルの実施
・女性活躍の情報発信や、更なる推進のためのプロモーション動画の作成
・社員ひとりひとりのバックグラウンドやキャリアについてのインタビュー記事掲載
このような発信に加えて、本社CEOからも随時発信があるため、組織のトップや企業の姿勢が頻繁に私たち1人ひとりに届いていることも長期的な視点で重要な施策になっていると感じます。こういった施策は一朝一夕には結果が出ませんが、継続していくことが何よりも重要です。
これらの継続的な取り組みがもたらす良い影響は多方面から聞こえてきます。例えば「高度外国人材」の活躍によりグローバル企業との商談がスムーズに進み契約数が増加したり、日系企業に対してもグローバルな視点からこれまで以上に大きなご提案を実現できたりなど、社外に対してこれまでにない価値を提供してくれています。
さらに社内においても彼らの多様な考え方を既存社員が知ることで、考えや働き方に対する視点・視野が広がり、これまで以上の活気を帯びています。
■合わせて読みたい「採用手法・ノウハウ」関連記事
>>>求人広告や人材紹介だけに頼らない。自社採用力を高める「採用マーケティング」の始め方
>>>「採用要件」を正しく設定し、事業成長を加速する人材獲得を実現するには?
>>>SNSを活用したタレントプール形成・採用力強化の方法
>>>“課題解決に直結する” あるべき採用KPIの設計・運用方法とは
>>>CXO採用にはコツがある?CXO人材への正しいアプローチ方法
>>>難しいエンジニア採用、動向と手法を解説。エンジニア採用に強い媒体12サービスも紹介。
>>>「アルムナイ制度」の導入・運用ポイント。自社理解も外部知見もある即戦力人材の採用
>>>スタートアップでの採用を限られた経営資源の中で進めるための採用戦略・手法
>>>グローバルで戦える企業へ。「高度外国人材」採用のメリットと活躍・定着へのポイントとは
>>>Z世代の採用手法は違う?Z世代人事に聞く、採用やオンボーディングに活かす方法
>>>オンライン化するだけではダメ。ニューノーマル時代の「オンラインインターンシップ」とは
>>>「エクスターンシップ」を理解し、効果を高める上で必要な考え方とは
>>>「ジョブディスクリプション」の導入・運用実態と事例について
>>>「外部登用」をうまく活用して組織力を高めるためには
>>>「通年採用」がこれからのスタンダードに?行政の動きからメリット・デメリットまで解説
>>>「面接官トレーニング」により面接の質を向上させる方法
>>>「エントリーマネジメント」で人が長く活躍する組織を作るには
>>>「採用直結型インターンシップ」が25年卒より解禁。自社の採用に組み込むためには
>>>「AI採用」の世界的なトレンドと日本の展望を解説
>>>「三省合意」の改正内容と中小企業におけるインターンシップの意義・導入方法について解説
>>>「学校訪問」から効果的に採用につなげる方法とは
編集後記
人口減少や高齢社会化など、労働力の確保が大きな課題となっている日本。その代替としての外国人採用ではなく、シンプルに優秀な方を採用したいと考えた結果、組織の多国籍化はこれからさらに広がり、いずれスタンダードになっていくでしょう。
橋野さんが効果の大きな取り組みとして紹介してくれた「お互いの第二言語で話す」ということは、立場の同じ人間として日本人が少し歩み寄る姿勢に他なりません。言語だけでなく文化や考え方なども同じ。違いを楽しみながらお互いを理解しようとする姿勢が何より大事だと今回の話を受けて再認識しました。