「採用要件」を正しく設定し、事業成長を加速する人材獲得を実現するには?
経営や現場側からの「こんな人を採用したい!」と要望を元に採用活動をスタートしたものの、思うような人材を採用できなかった──そんな経験をお持ちの採用担当者の方は多いのではないでしょうか。
「その要因は、採用要件の設定にあるかもしれません」
そう話をしてくれたのは、経営戦略・人事コンサルティングを展開する シャインフォース株式会社 代表取締役の佐藤恵一さん。組織が求める人材を適切に把握・言語化し、採用に結びつけるにはどうすればよいか、そのポイントについてお話を聞きました。
<プロフィール>
佐藤 恵一
新卒で映像機器メーカーに入社し、25歳で中国法人の営業本部長として部門再編と営業網整備を実施。その後、組織開発のコンサルタントに転身。IT企業の人事職を経て、東証1部上場企業の経営戦略部門シニアマネージャーとしてグループ組織再編を担当。海外法人設立・経営など、事業会社2社の取締役ならびに人事責任者としてグループ人事部門を再編。そして独立し、経営戦略・人事コンサルティングを手掛けるシャインフォース株式会社の代表取締役に就任。
▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
採用要件の設定は、なぜ重要?
───そもそも、なぜ採用要件を設定する必要があるのでしょうか。
「必要な戦力」と「採用候補者の要件」が合わなければ、事業を成長させることができないからです。どれだけ事業戦略が素晴らしくても、それを遂行できるメンバーがいなければ意味がありません。また頭数が揃っていたとしても、戦略を遂行できる能力や知識がなければ同様です。
ビジネスを戦(いくさ)に例えると分かりやすいかもしれません。織田信長が武田軍を打ち破った「長篠の戦い」を例にして考えてみましょう。
長篠の戦いで織田軍が取った戦略は、「2~3人が1組になり、“弾込め”と“射撃”を分業し、最速で打ち続ける」というものでした。当時、鉄砲が普及してから間もなかったこともあり、弾込めと射撃精度の2つの要件を満たす人材は希少。市場にいる人の数は限られるため、その役割を分けることで、組織として成果を出す方法を考えたというわけです。
ターゲットを明確化し、採用要件を定義したことが結果につながった例と言えるでしょう。
つまり、「事業戦略上どんな人材が必要なのかを明確に理解し、市況感に合わせて採用要件を設定する」ことは、ビジネスにおいて成果を最大限に高めるために欠かせないことです。そこが抜け落ちた状態で、頭数を揃えるだけの採用活動をしていては、まぐれ当たりはあっても再現性のある結果を導き出すことはできません。
事業が実現したいことを理解し、採用要件に落とし込むには
───「事業戦略上、必要な人材を明確にする」には、何が必要でしょうか。
まず大前提として、事業における戦場である「市場」がどのようなもので、事業戦略としてどのように攻めん込んでいきたいのか、作戦を理解することが重要です。その上で、「現状の戦力」と「必要な戦力」のギャップを分析し、言語化します。
そして次に人事の役割として、「必要な戦力」を持った層が、具体的にどのような企業でどのようなミッションで働いている人なのかを調査していきます。
それらの情報を元に、具体的な採用要件に落とし込み、事業部とのコンセンサスをとることが必要になります。
───一方で、組織・現場にヒアリングした採用要件やターゲットではうまく行かないことも多いと聞きます。どんなところに要因がありそうでしょうか。
よくある失敗事例が2つあります。
① 要件が重厚な「神様人材オーダー」
転職市場を理解している方からすれば「神様」を求めていると思えるような現実的ではない採用要件・ターゲット設定がなされる場合があります。
だからこそ人事は、組織戦略と転職市場の双方を深く理解した上で、採用要件を落とし込む必要があります。自社が必要とするスキルを持った方は、具体的にどの業種のどんな会社に在籍しているのかということを把握し、ターゲットを設定してかなければなりません。
② 要件が曖昧な「優秀な肩書オーダー」
肩書は分かりやすいこともあり、「大企業の役職者を採用したい」といった形で活用されることが多々あります。しかし、このような曖昧な要件では組織戦略にマッチした人材の採用は不可能です。よくあるケースとしては、ベンチャー企業の役職者採用。同等レベルの役職者を肩書重視で採用する場合がありますが、企業のスタイルや成長フェーズによって求められるスキルは異なるため、必ずしもマッチするとは限りません。
この事態を避けるためには、自社で期待する役割を明確に言語化し、そこに合致する人材を市場の中から探し出す形で要件定義をしていく必要があります。また面談時にもその役割に該当する事例の実績などをヒアリングし、自社とのフィットを見極めることも忘れてはいけません。
採用市場を理解してターゲットを定める方法
───事業成長のために必要な人材を定義したあとに、実際にターゲットを探すのはどうすればよいのでしょうか。
取り組むべきポイントを3ステップにまとめました。
<ステップ1>ターゲットを明確にする
前項でご紹介したように、組織や現場の要望だけでは本質的ではないターゲット像になる場合が多々あります。その場合は、具体的な人物イメージ(≒ペルソナ)を元にディスカッションを進めていくことが有効です。
・求める人物は今どんな会社にいて、どのポジションで働いている人なのか
・どんなスキルを持ち、どのような志向を持った人なのか
これらを具体的に細かく分析することから始めましょう。実際の募集求人の仕事内容を踏まえて、①スキル/②経験/③志向それぞれについて、以下を設定します。
MUST(必要要件)| WANT(歓迎要件)| NEGATIVE(NG要件)
<ステップ2>自社・競合を知る
ターゲットを明確にできたとしても、同じような人を競合企業も採用しようとしている場合があります。そこに勝つためにも、どんな企業が競合になりうるのか、その企業より自社が優位な点はどこか、候補者にとって魅力に映るポイントはどこかなどを整理していきます。合わせて自社の弱みについても理解し、その対処法についても検討しておくと良いでしょう。
<ステップ3>候補者にとっての魅力を理解する
人が組織に参加する要因は、上記の図のように分類ができます。
さらに分かりやすくお伝えすると、候補者が自社に転職するメリットは、以下の4つの観点で整理することができます。
①人軸(例:風土、他の社員との関係性)
②仕事軸(例:仕事のやりがい、ポジション)
③環境軸(例:福利厚生、給与)
④会社軸(例:社会的意義、将来性)
①~④それぞれの項目に対して、
・競合他社で活躍している人材から見たときにどのような魅力があるのか
・採用したいペルソナが、自社に入社した理由は何なのか
などを言語化して、明確化することが大切です。
組織・現場とターゲットをすり合わせる際のポイント
───ターゲットの調整が必要になった際、どのように進めるとうまく行くでしょうか。
ポイントは3点です。
①採用目的・解決するべき課題を明確にする
特に欠員補充や、採用難易度が低いと思われがちな職種の場合、この点が曖昧になりミスマッチが起こりやすい傾向があります。何のために今回の採用を行うのかという目的に立ち返り、具体的にどんな業務を任せたいのかを理解することで、「それであればこんな人でもマッチするのではないか」といったアイデアが生まれやすくなります。
②採用ポジションへ求める期待値を明確にする
求める要件やスキルに対し、提示する職位や報酬が低すぎる・もしくは高すぎるケースはよくあります。ここがズレてしまうと採用につながらないことはもちろん、仮に採用できたとしても入社後にミスマッチが発生してしまうため注意が必要です。市場や競合、現場の期待値とのバランスを取りながら、適切なところに設定する必要があります。
③具体的人物イメージ(≒ペルソナ)を出しながら、現場と調整する
前々項でお伝えした「神様人材オーダー」にならないよう、「○○社○○部マネージャーの○○さんみたいな人」という現存する人物のスキル・能力・人格を例に出しながらすり合わせを進めてください。中途採用では、時に多くのことを1人の採用候補に求めがちです。そうすると母数は限りなく狭まり、採用可能性は低くなります。
また、上記を実行するには、人事として引き出しを多く持ち合わせていることが非常に重要です。そのためには、様々な企業とビジネスモデル、何よりもそこで働く「人」を研究することが、地道ですが一番の近道だと考えています。
採用の視点から2段階視座を上げて、どのような戦略を進めたいからどのような「人」が必要なのかという人事戦略の視点を持ち合わせること、そして様々な企業における「人」を理解しておくことにより、言語化のレパートリーも増えます。
これができると、採用オーダーに対して受け身の採用担当から、「提案型」の採用担当となることが可能になるのではないでしょうか。
オススメ本 (2冊)
───採用要件設定について学びたいと思っているHRパーソンに向けて、お薦めの書籍があれば教えてください。
事業を創る人事/綱島 邦夫(著)
「事業視点を得るため」に役立つ書籍です。“新しい技術や市場の開拓、事業モデル、業務プロセスを実現する人材基盤と組織能力を開発する”という人事の根源的な目的に立ち返り、事業ラインの支援者・パートナーとしての人事のあり方を、実例と共に紹介してくれる一冊です。
労働経済白書/厚生労働省
「労働市場理解」に役立つ資料です。こちらは書籍ではなく、厚生労働省のサイト内から無料で閲覧することができるものです。一般経済や雇用、労働時間などの現状や課題について統計データを活用して分析する報告書で、毎年公表されています。
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-2b.pdf
■合わせて読みたい「採用手法・ノウハウ」関連記事
>>>「採用代行」の活用において、最大の効果を出すポイントとは?
>>>「採用要件」を正しく設定し、事業成長を加速する人材獲得を実現するには?
>>>戦略的な採用マーケティングとは?採用CX(候補者体験)から考える実践方法
>>>SNSを活用したタレントプール形成・採用力強化の方法
>>>“課題解決に直結する” あるべき採用KPIの設計・運用方法とは
>>>CXO採用にはコツがある?CXO人材への正しいアプローチ方法
>>>難しいエンジニア採用、動向と手法を解説。エンジニア採用に強い媒体12サービスも紹介。
>>>「アルムナイ制度」の導入・運用ポイント。自社理解も外部知見もある即戦力人材の採用
>>>スタートアップでの採用を限られた経営資源の中で進めるための採用戦略・手法
>>>グローバルで戦える企業へ。「高度外国人材」採用のメリットと活躍・定着へのポイントとは
>>>Z世代の採用手法は違う?Z世代人事に聞く、採用やオンボーディングに活かす方法
>>>オンライン化するだけではダメ。ニューノーマル時代の「オンラインインターンシップ」とは
>>>「ジョブディスクリプション」の導入・運用実態と事例について
>>>「外部登用」をうまく活用して組織力を高めるためには
>>>「通年採用」がこれからのスタンダードに?行政の動きからメリット・デメリットまで解説
編集後記
「効果的なターゲット設定力を身につけるためには、様々な企業とビジネスモデル、そこで働く人を知ることが一番の近道です」
佐藤さんがそう話すように、社外に目を向け、採用マーケットを深く理解することが人事にとって大切だと感じました。しかし、社内からの要望や要求が多く、どうしても視点が内向きになりがちなのも人事の特徴。意図的に視点を外に向けられるかどうかが、採用力を高める上で大きなポイントとなるのだと思います。
また、採用要件を考える上では、経営・人事戦略の視点も必要になると繰り返されていたように、イチ人事担当から視座を上げ、戦略から考えてみる。それが佐藤さんの言う「提案型」の採用担当に進化するきっかけになるかもしれません。