何人のチームが一番上手く機能する?人事が知っておくべき「適正人数」の考え方

マネージャー(上司)が直接管理できる人数を定義する考え方を「スパン・オブ・コントロール」と言います。
米AmazonのCEOジェフ・ベゾスも「2枚のピザ理論」を提唱し、1つのチームの適正人数は2枚のピザが分けられるまで(最大8名)と定義しており、それを超えるとマネジメントが行き渡らず想定した成果が挙げられなかったり、組織運営においても悪影響が生じたりする可能性があると指摘しています。またその他の研究においても、「5~7名のチーム編成が最適」とする研究結果が多く発表されています。
しかし、昨今の働き方の変化や、組織の在り方の変化に伴い、必ずしも5~7名のチーム編成が正しいとは言い切れないようにも感じます。そこで今回は、コーナーに登録している人事プロフェッショナルの方に、組織作りにおけるチーム適正人数の考え方を実例も踏まえてお話しいただきました。
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目次
最初に抑えておくべきこと
──適正人数を具体的に定義するために、まず何から考えはじめるのが良いでしょうか。
なんとなく5~7名をチームの適正人数として捉えるのではなく、「その組織にどのようなミッションを期待するのか」という前提から見直すことが組織設計においては重要です。
まずは、その組織・チームの「ミッション」を明確にすることから始めるのが良いと思います。その際、組織形態が以下のどちらかに当てはまるかを見極めます。
(1)課題解決型組織(明確な解がない課題解決や創造がミッション)
何を、どのように、いつまでに行うのか等をゼロから決めていく必要がある組織です。チームの人数規模としては少ない方が理想的であり、組織階層もできるだけ減らし、フラットな形が求められます。
人数や階層が増えると、社内で意思疎通を綿密に行うことが難しくなり、フットワークも重くなります。事業サイドや事業部担当人事、期間限定プロジェクトの元に組成された組織・チームがこれに該当します。
(2)オペレーション型組織(仕事の型がある程度決まっているルーティン色の強いミッション)
日々実施する業務内容、サイクル、工数が比較的固定されている組織です。人数が多くてもある程度対応でき、いくつか階層を作ることで組織がより機能します。給与計算などを行うチームなどがこれに該当します。
チーム適正人数の考え方
──自組織が課題解決型かオペレーション型かを見極めた上で、そこからどのように適正人数を割り出すのでしょうか。
そのチームのミッション難易度や対象範囲によっても異なりますが、以下のように考えることができます。
(1)課題解決型組織
基本的にこの組織は10名を超えるとうまく機能しません。これまでの経験上、4名~7名程度までが最も機能すると感じています。
特に、チームのミッション難易度が高いほど組織人数の重要性は高くなります。なぜなら、解がない課題解決はチーム内のコミュニケーション量がモノを言う世界だからです。
10名以下と定義している背景の一つに、私が事業部担当人事のチームでメンバー12名を統括していた際の事例があります。
事業部担当人事は非定型の業務が多く、事業部の変化に柔軟に対応しながら突発対応や広範な関係者を巻き込む必要がある「課題解決型組織」でした。
案件ごとに各メンバーに業務を任せていたのですが、人数が多い分メンバーと話す時間が物理的に制限され、日々関与が必要なメンバーとは意思疎通が図れていた一方で、コミュニケーションの緊急性が低いメンバーとは数週間しっかりと会話をする時間を取れていないという状況に陥りました。その結果、メンバーのモチベーションが下がり、伴ってパフォーマンスも低下し、チームとして不活性な状態を生み出してしまいました。
このケースにおいて一番の問題は、関与が薄いメンバーにとってはリーダーが何をしているか分からず、チームとして進む方向が見えなくなってしまっていた点だと考えています。
情報を正しく理解しているメンバーとそうではないメンバーの認識格差は、課題解決型組織においては極小化する必要があります。1人のリーダーに対して10名を超えてしまうとリーダーが全員と毎週コミュニケーション時間を取ることが困難になるため、リーダーの業務量にもよりますが、4〜7名までの人数が最適だと考えます。
(2)オペレーション型組織
こちらは最大15名程度まではチームとして機能します。なぜなら、前提情報や実施すべき業務の多くが既にチーム内で共有されており、「業務遂行に遅れはないか」「イレギュラーが発生していないか」等の確認が中心で、コミュニケーション量が少なくて済むためです。
15名と定義している背景としては、過去に労務チームをマネジメントしていた際の事例があります。
労務は定型業務が中心であり、業務の安定遂行だけを見れば15名を超えても事故なく進めることが可能でした。
しかし、各メンバーがどのような状況にあるのか、特に心情面を理解することはほとんど出来ず、リーダーの重要な責務の一つである「メンバーのパフォーマンスやキャリア志向を理解して未来の配置案を考える」ことは難しくなっていました。
そのため15人を超えたタイミングで、サブリーダーという役割を設けてコミュニケーション階層を作ったところ、各メンバーに対する理解やサポートが適切に行えるようになりました。
つまりオペレーション型組織の場合、1チーム15名を超える場合は、組織内に階層を作ってコミュニケーションラインを絞る必要が出てきますが、階層さえキレイに作ることができれば、その階層を重ねたり並べたりすることでより大きな組織作りを構成することも可能だと言えます。
(1)(2)のどちらにも共通して言えることは、「組織を構成するメンバー1人ひとりと、どれくらい時間を掛けてコミュニケーションを取る必要があるか」から適正人数を考える点です。コミュニケーション量が多い場合は少なく、コミュニケーション量が少ない場合は多く、が適正人数の定石だと言えるでしょう。

「リーダーの資質・タイプ」によっても適正人数は変わる
──「ミッション、コミュニケーション量から適正人数を考える」とのことですが、他にも適正人数を考える上で考慮するべきポイントはありますか。
組織ミッション、コミュニケーション量、階層の数などに加えて検討するべきなのは、そのチームを率いる「リーダーの資質・タイプ」です。
仮に同じ様なミッションを持つチームであったとしても、リーダーによってチームの適正人数は大きく変わります。
ガンガン自分で仕事を進めるプレイヤー型リーダー

業務推進力は非常に高い一方で、チーム内の意思疎通を図ることや認識統一のスキルは相対的に低いことが少なくありません。こういったプレイヤー型のリーダーに多くの人数をマネジメントさせることは、あまり適策ではないです。コミュニケーション不全を起こしてしまい、チームが機能しなくなる場面がしばしば発生します。
周囲と意思疎通を取りながら連携し仕事を進める司令塔型リーダー
リーダー自身の業務推進力は高くないものの、他者とうまく連携したり協業したりすることに長けている方です。プレイヤー型リーダーと比較して、多くのメンバーをマネジメントすることができます。むしろ人数が増えることでチームのパフォーマンスがさらに高まることもあります。
リーダーを任せる人材の過去の実績を踏まえて総合評価した上で、ベストな適正人数や階層数を探っていく必要があります。個別性の強いものであるため、リーダーの資質を見極めた上でアレンジすることが重要です。
適正人数にどうしてもならない時の対処法
──適正人数を把握できたとしても、どうしてもその通りに体制を組めない場合はどうすれば良いでしょうか。
こちらも2つの組織形態に沿って説明します。
(1)課題解決型組織
この組織の場合は、仮に理想とされる人員が揃わずとも、そのまま組織設計をして課題解決にあたる方が適策です。そもそもミッションの型が明確には無いため、必要人員数の見積もりも概算になることが多く、明確な根拠に基づいたものであることは少ないためです。
また前述した通り、この組織は関わる人数が少ない方がパフォーマンスを発揮しやすい側面があるため、人数が想定より少なくとも問題はありません。反対に多い時にはチームを分割するなどして対処する必要があります。
(2)オペレーション型組織
こちらは一定の人数が揃うことでパフォーマンスを発揮する組織体のため、人数が想定よりも少ない場合にもしっかりとした打ち手を打つ必要があります。
先ほどお伝えした15名はあくまで最大値であり、ここで言う想定人数とは、過去実績などから業務量を計算し、詳細に見積もった必要人員数のことを指しています。そのため、人員が足りない=業務遂行しきれないという構図になります。
残業で無理やり対処することもできますが、それでは組織として健全ではありません。どうしても人数を揃えることができない場合は、業務の中でやらないことを決めたり、対応期限を延ばすなどの工夫が必要です。
組織再編の事例
──最適人数を考慮して組織再編をするケースもあると思います。組織再編という観点で、参考になる事例があれば教えてください。
これまでさまざまな企業の事例を伺ってきた中で、ニトリ社の人事制度は、組織を大胆に編成していく上で、非常に有効な手法を取られていると思います。
組織再編における壁はいくつかありますが、その中でも特に影響が大きいのは「優秀人材の囲い込み」です。組織パフォーマンスを最大化させるために、優秀な人材を自組織やチームに留めようとする心理は十分理解できます。しかし、全体最適の観点から見ると、その人材は別の組織へ異動させた方が企業全体のパフォーマンスを高められるといったことが往々にしてあるのです。この全体最適と個別最適の2つの観点がぶつかり合うと、組織再編が中途半端なものになってしまいます。
その点を同社では、「配転教育(≒ジョブローテーション)」を経営方針として継続することで未然に防いでいます。この取り組みは単に社員にさまざまな活躍の機会を提供するだけではありません。「社長以外は全員が配転教育の対象者」という方針を経営陣にまで例外なく適用し、複眼的視点の醸成や、組織の蛸壺化に対する根本的な打ち手として効果を発揮しています。
トップダウンで物事を断行できる企業にとっては組織再編は大きな問題になりにくいですが、大半の企業はセクショナリズムや蛸壺化の悩みを抱えています。同社のような「配転教育」や、それに類する取り組みを実施するためには相当な覚悟が必要なため、簡単に真似できるものではありません。
しかし、ここに人事として学ぶべき要素が多く含まれているように思います。
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編集後記
人事領域の中でも「チームの適正人数」についてはあまり議論されてこなかった分野かもしれません。しかし、リモートワークなどの働き方の変化を受け、改めて組織編制を見直す際には避けて通れないテーマだと感じます。
どうしても感覚的になってしまったり、個人の経験則で決められてしまったりしがちな組織・チーム編成。「組織・チームのミッションから見つめ直す」「リーダーの資質・タイプから考える」といったポイントを抑えるだけでも、これまでとは違った編成を検討することができるのではないでしょうか。