注目される組織開発「ホラクラシー組織」。導入メリットや運営方法を人事が解説!
組織開発の文脈で聞くことが増えた「ホラクラシー組織」。従来の組織管理体制や経営手法に代わる新しい組織の1つとして、日本でもスタートアップ企業などを中心に導入されています。「ホラクラシー組織」について「役職や階級の上下関係が存在しないフラットな組織」といった認識は持っていても、それ以上は理解されていない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「ホラクラシー組織」を導入したカラビナテクノロジー株式会社でコネクターとして採用・広報・組織づくりを担当されている高橋 建二さんに、その概念や運営方法についてお話を伺いました。
<プロフィール>
高橋 建二(たかはし けんじ)/カラビナテクノロジー株式会社 コネクター
2020年からカラビナテクノロジー株式会社に転職し、現在は採用や広報業務に従事。プライベートではファザーリング・ジャパン九州の理事や、北九州市の子ども子育て会議委員など幅広い分野で活動中。
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目次
「ホラクラシー組織」とは
──「ホラクラシー組織」について、その概念や認知が広がりだした背景などを教えてください。
従来型のヒエラルキー型組織やピラミッド型組織は、図の左側のように階層があり、社長や役員、上司や一定の権限者だけが意思決定権限を持つトップダウンな体制であり、人に対して役割がつく形です。右側の「ホラクラシー型組織」はそれとは異なり、ロール(役割)に権限を移譲している自律型の組織体系を指します。ロール(役割)に人がつく形をイメージしてもらえるとわかりやすいかもしれません。またそれらのロール(役割)が並列に集まったものを文字通り「サークル」と呼んでいます。
ロールは目的(a Purpose)・領域(Domains)・責務(Accountabilities)の3つの要素から成り立っており、その達成に向かいタクティカルミーティング(ロールだけのミーティング/週次)とガバナンスミーティング(サークル内で集まってのミーティング/月次)を行います。これらは目標達成すれば解散も可能です。また、ロールやサークルを運営していると理想と現実のギャップ(ホラクラシー的に「ひずみ」という)が生まれることがあるため、それらを解消することも目的達成に向けた重要な要素の1つだったりします。
尚、こうした定義や運営方法をまとめた「ホラクラシー憲法」(※)というものがあり、これをフレームワーク的に活用しながら組織運営を進めていきます。ただ、このホラクラシー憲法をちゃんと理解するのはとても骨が折れるため、正しい理解が広がっていないのが現実です。
(※)参考:ホラクラシー組織用のロール管理ツールGlassFrogを提供するHolacracy Oneの提唱するルール。
ちなみに私が所属しているカラビナテクノロジー株式会社では、2020年初頭くらいから「ホラクラシー組織」を取り入れはじめました。社員数が50名を超え、組織体制を確立する必要性が出てきたという背景があり、「自由と責任の文化」というカラビナの良さを消さずに活かせる「ホラクラシ―組織」体制を導入・アップデートしてきました。
「ホラクラシー組織」とティール組織の違い
──「ホラクラシー組織」と似た概念にティール組織があります。それぞれの共通点・相違点について教えてください。
ティール組織は、社員1人ひとりが裁量権を持って行動する組織体系のことを指します。意思決定に関する権限や責任のほぼすべてを社員個人に委譲し、組織や人材に革新的変化を起こす「次世代型組織モデル」です。権限を委譲するという面では「ホラクラシー組織」と似ている部分はありますが、ティール組織=「ホラクラシー組織」ではありません。
共通点
どちらも「メンバーの主体性を大事にしている」点で共通しています。そうするとメンバーの主体性が運営のカギになるのではと思われるかもしれませんが、仕組みや体制を変えることで自然と主体性が持てるようになる効果が期待できます。個々人が全体最適を目指すチーム、と言い換えることもできるでしょう。
こうしたメンバーの主体性強化やモチベーションアップによる組織全体の生産性向上を目的としている点も、大きな共通点になります。
相違点
ティール組織は「ホラクラシー組織」よりも抽象度が高いもの。そのため「ホラクラシー組織」はティール組織の一形態と捉えることができます。ティール組織がメンバー1人ひとりの自律的判断で機能する組織概念であるのに対し、「ホラクラシー組織」は厳密なルール(ホラクラシー憲法)のもとに運営される実践的な経営手法です。この厳密なルールゆえに導入・運営の自由度こそ低いですが、代わりに再現性高く自由でフラットな組織を構築することができます。
「ホラクラシー組織」のメリット・デメリット
──「ホラクラシー組織」が企業にどういったメリット・デメリットをもたらすのかについて教えてください。
実際に私がカラビナテクノロジー株式会社で「ホラクラシー組織」を運営する中で感じるメリット・デメリットは以下です。
メリット
・主体性のあるチームが築きやすい
・一度仕組みを作ってしまえば、あとは社員が自走してくれやすくなる
・管理職がいらなくなる
・いろいろなロール(役割)を担うことができるため、そこで得た知識や発見を場面で活かすことができる
・全員の自主性が前提のため、自然と各社員がそれぞれの方向性を共有するカルチャーが作られる
・年齢や国籍など越えてのコミュニケーションが取りやすい
デメリット
・従来型のヒエラルキー組織に染まっている社員の場合、急に裁量権を与えられ自発性を求められるので、発想の転換が難しく、切り替えるのに時間がかかり、一時的にパフォーマンスが低下する可能性がある
・従来型のヒエラルキー組織において「仕事をしないのに権力を持っている」社員の場合、彼らから導入そのものに対して批判や反発が来る可能性がある
・通常時の業務以外に「ホラクラシー組織」の概念の浸透や、運営そのものにマンパワーが割かれるため、一時的に関係社員に負荷がかかる
・前例が少なく情報があまりない
上記だけを見ると、デメリットとして挙げているものは導入時の問題や運用工数くらいのもので、そこさえクリアしてしまえばあとはメリットを享受するだけに見えるかもしれません。
しかしながら「自分たちで決めて実行できる」ということは、裏を返せば「自分で課題と向き合い、解決していく必要がある」ということでもあります。自由には責任が伴うのと同じ原理です。そのリスクを取りたくない人ばかりが集まってしまうと、メリットよりもデメリットの方が大きな組織体系になる可能性があります。
「ホラクラシー組織」導入・運営にあたっての注意点
──これから「ホラクラシー組織」を導入・運営しようと考えた際、どのような点に注意するべきでしょうか。
シンプルな話にはなるのですが、ホラクラシーには憲法(ルール)があるので、しっかりと読み込んで基本に則って導入を進めて行くことをオススメします。各社のオリジナル性は、基本に沿って「ホラクラシー組織」を導入した後に追加・修正する形で入れ込むのが良いです。最初から我流で導入を進めてしまうと、ホラクラシー自体の良さを実感せぬままに終わってしまう可能性もあります。
またこれは「ホラクラシー組織」に限りませんが、導入前にはしっかりとメンバーへ導入意図やメリット・デメリットなどを丁寧に説明しましょう。現場の体制や動き方、役職や権限など、大きな変化が伴う取り組みだからです。現場の理解や協力なしには、導入が成功することはもちろん、無理やり導入できたとしても期待した成果を挙げることはできないでしょう。
そうして現場の理解を得るためには、導入を進める担当者が誰よりも「ホラクラシー組織」を理解している必要があります。ご紹介したホラクラシー憲法を読み込み、それらが自組織になぜ必要なのか、どういう結果を得たいのかなどを自身で咀嚼して語れるようになりましょう。尚、ホラクラシー憲法については書籍や翻訳記事(ネットなど)も展開されているので、それらを読み込めば前提知識を身につけることができるはずです。
さらに、運用上におけるポイントは「ドキュメントを残してしっかりと管理する」ことです。「ホラクラシー組織」を運営していく上では目標達成に向け常に組織構造を変化させ続けていく必要があります。その初期段階では以下3つの役割が有効だと言われています。
(1)リードリンク(まとめる人)
サークルの目的に責任を持ち、達成に向けて戦略・重要指標・優先順位などの提示を行う役割。
(2)ファシリテーター(司会進行)
サークルの活動プロセスが組織ルールに沿っているかをチェックしつつ、必要に応じて調整を行う役割。その名の通り、ミーティングのファシリテーターとしても活躍します。
(3)セクレタリー(書紀)
サークルの活動記録や組織ルールで定められたすべての記録を取る役割。ミーティングのスケジューリングや議事録も担当します。
この三役がブレないよう進めつつ、その運用内容をドキュメントで記録しておくことで、組織構造の変化にも対応しやすくなり運営がよりスムーズになります。
また、運営を進める上でのコミュニケーションもとても重要なポイントです。カラビナテクノロジー株式会社では、前述したガバナンスミーティングやタクティカルミーティングを実施しながら目指すべき方向性や目的を正しく共有するようにしています。また、Slack、Google meet、Backlog、Googleスプレッドシート、NotePMなどさまざまなツールを使い、ドキュメントや情報を管理して運営をしています。「ホラクラシー組織」専用のGlassfrogという管理ツールもあるので、こういったものを使うのも一つの方法でしょう。私達も現在導入を検討中です。
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編集後記
組織のレジリエンス(変化に対応できるしなやかさ)を高める上で、社員の自発性ややる気を引き出す組織の在り方はどの企業も模索しているテーマです。「ホラクラシー組織」やティール組織といった概念が日本でもより注目されるようになってきたのがその証左でしょう。
ただ、「なぜホラクラシー組織を導入するのか」の目的なしには期待した成果を得ることはできません。まずはホラクラシー憲法を読み込み、自組織にどんな可能性があるかを考え抜くところから始める必要があるのだと高橋さんのお話を通じて強く感じました。
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