「サーベイフィードバック」を組織改善につなげるために知っておきたいポイントとは

私たちが、日々多くの企業様や人事担当者様と接している中でよくご相談をいただくのが、エンゲージメントサーベイ、モラルサーベイ、組織サーベイなど様々な種類があるサーベイについて、『もっと効果的なサーベイがしたい』『サーベイフィードバックがうまくできない』といった声です。
そこで今回は、戦略人事コンサルタントとして活躍しているインスパイアード代表の足立 裕亮さんに、より効果的なサーベイと「サーベイフィードバック」の方法、またその活用事例に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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足立 裕亮(あだち ひろあき)/インスパイアード 代表
人材育成企業の営業として大手・中小・ベンチャーまでの幅広い企業の組織課題に対して人材育成支援を行い、10以上の業界・12,000人以上への成長機会をプロデュース。営業部門長として戦略立案からマネジメントも経験。2014年に研修講師・コーチとしての経験を元に独立。現在は戦略人事コンサルタントとして、人と組織の相互作用とビジネスの成長をつなげることに尽力している。
目次
「サーベイフィードバック」が重要な理由
──「サーベイフィードバック」の概要について、その重要性と合わせて教えてください。
「サーベイフィードバック」とは、サーベイの質問項目に対して得られた定量的・定性的な回答結果を調査対象者や関係者へ伝え、当事者や組織の成長のためにフィードバックすることを指します。サーベイ結果の活用には適切なフィードバックが重要だということはイメージはできると思いますが、いざ『なぜそれが重要なのか』と問われると明確に答えられる方は意外と少ないかもしれません。
「サーベイフィードバック」が重要な理由は、サーベイ結果が人や組織の状態を客観的に把握し、成長に繋げていくことができる点にあります。人は誰しも、自分で自分のことを客観的には理解しづらいものです。周囲からはどう見えているのか、自分の強み・弱み・課題は何なのか──こうした客観的な情報を一つひとつ捉えていくことが、自己理解や自組織の理解をさらに深いものにしてくれます。
よく、『サーベイには回答したけれど、その結果がどうだったのかは知らない・フィードバックされていない』『サーベイ結果のレポートは共有されたが、そこから結果を読み解いたり内省に繋げたりまではできていない』などのケースを見聞きすることがありますが、非常にもったいないことです。なぜなら、『経験→内省→持論化→実践』という経験学習サイクル(※下図参照)が回っていかないためです。

日常取り組んでいる仕事や一つひとつの業務がまさに『経験』に該当します。その『経験』を可視化したものがサーベイ結果です。サーベイ結果を1つの事実として扱い、紐解いていきます。その『経験』が周りからどう見えているのかなどの客観的視点が『内省』を進める上の材料となります。
・なぜ日頃からそうした言動や行動を取っているのか
・その言動の奥にある価値観は何か
・当たり前に抱いている思い込みはないか、あるのであればそれは何か
こうした問いを通じて『氷山モデル(※下図参照)』の水面下にあるパターン・構造・認知を掴み、内省を深めていくことで『持論化』を促進させ、それを『実践』に移すことで成長に向けた一手へと繋げていく形です。

「サーベイフィードバック」を効果的に行うためのポイント
──「サーベイフィードバック」をより効果的に行うためには、サーベイ実施前にどのような準備をするべきでしょうか。
大きく以下に8つのポイントを紹介します。
(1)目的の明確化
サーベイを行う前には、その目的とどのような問題点について回答を得たいのかを明確にしておくことが重要です。目的が明確にされていないと意図が対象者に正しく伝わらなかったりするなどして、対象者が回答に迷ってしまうこともあり、精緻なデータが獲得できなくなってしまう可能性があります。(例:次世代幹部層の成長に向けて客観的視点を得るため)また、対象者にとってこのサーベイがどのような意義や影響があるのかも合わせて考慮しましょう。
(2)対象者への目的共有
サーベイ対象者・対象組織には、(1)で明確にした目的と意義(なぜサーベイを行うのか)はもちろん、回答後の結果をどのように活用するのかの方法まで共有しておくことが大切です。
(3)質問項目の選定
回答者にとってわかりやすく、明確な質問項目を用意する必要があります。(例:幹部層に求めるコンピテンシーを測る目的であれば、コンピテンシーからブレイクダウンされた質問項目を設定する)なお、質問項目は目的に合わせたものを選定し、適宜追加・削除・修正を行っていきます。
(4)回答方法の設定
回答者ができるだけ回答しやすくなるよう、回答方法についても適宜検討・設定しましょう。テキストを自由に入力してもらうのか、単一選択してもらうのか、複数選択してもらうのかなど、回答者の属性や回答されるであろう内容によってアレンジすることで回答のしやすさは大きく変化します。その回答しやすさが回答数にも影響します。
(5)対象者の選定方法を決定
対象者の選定方法次第では、回答者に偏りが生じてしまうことがあります。そのようにならないよう、日頃から接点がある関係性も踏まえて選定していくことが重要です。(例:幹部である対象者が管轄している組織メンバーを回答者にする)その際、回答者が回答しやすい環境作りも忘れてはいけません。
(6)匿名性の確保
回答者から率直な回答を引き出すためには、サーベイ回答が匿名である必要があります。回答者が自分の気持ちや考えを自由に表現できると感じることにより、より正確で具体的な回答を提供する可能性が高くなるためです。
(7)アンケート作成・内容チェック
すべての質問項目に漏れがないか、表現に不明確な箇所がないか、回答方法に不足がないか、などの観点でチェックを行ってからアンケートを配布しましょう。
(8)回答の促進
一度のアナウンスだけで回答者全員に回答してもらえるケースは少ないものです。日をずらしながら何度かリマインドを行うことで、回答率を向上させましょう。
以上のような準備を行うことで、より効果的な「サーベイフィードバック」が可能となります。
また、年次や月次など、定期的に行っているサーベイであれば、回答者の属性や回答内容に合わせて随時サーベイのアンケート形式や質問項目を改善していくことも、より効果的な情報を得るためには重要です。

「サーベイフィードバック」を組織改善につなげるために
──「サーベイフィードバック」を組織改善に繋げるためには、どのようにすれば効果的でしょうか。
人はみなネガティブな情報を避けたがるものです。「サーベイフィードバック」を効果的に組織改善に繋げるためには、下記の前提をフィードバック前に対象者に強調して伝えていくことが大切です。
(1)回答を『成長のための1つの情報』と捉える
回答の一つひとつに良いも悪いもありません。そもそも、自分や個人の主観でジャッジすることは、正しくサーベイ結果を認識することの障害になってしまう場合があります。ネガティブな回答があり、例えそれが自分(対象者)の思う事実でなかったとしても、『成長のための1つの情報として捉えてみてください』と強調して伝えるようにしましょう。この回答が為された背景(どういうことに気づくための情報か)に対象者が着目できるよう、サポートを行っていきます。
(2)回答者の特定をしない
定性的なコメントや自由にテキストを記載するサーベイなどを見ていると『これは恐らくあの人が書いたんだろう』と、文体や表現などから想定したくなりがちですが、そもそも回答者を特定してもまったく意味がありません。回答者も自分の大事な時間を使って回答してくれています。その想いに報いるためにも、回答者ではなく回答内容をベースに、フラットに受け止められるよう支援しましょう。
(3)「サーベイフィードバック」から内省する
「サーベイフィードバック」はあくまで1つの結果に過ぎません。重要なのは、その結果(出来事)の背景にある根本課題を捉えていくことです。前述した氷山モデルの図を参考に、どう内省を進めて行けば良いかを伝えていきましょう。
このような前提を対象者に理解してもらった上で、以下の4つのポイントを抑えられるとさらに「サーベイフィードバック」を効果的に活用することができるようになります。
(1)個人で自己分析する
サーベイ結果を個人にフィードバック(オンラインなどでレポートとして情報共有)した上で、氷山モデルの概念を用いた自己分析シートを活用して自己分析を進めてもらいます。サーベイ結果を成長のための材料として捉える上で重要な工程です。
(2)グループセッションで他者のフィードバックから自己理解を深める
自己分析後は、研修やワークショップなどの場を通じてサーベイ結果・自己分析シートの2つを他者へ共有し、第三者の視点からのフィードバックをもらったり、ディスカッション、問いかけを通して内省を深めていく機会を設けます。
<問いかけ例>
・この結果についてどう捉えていますか?
・一番問題意識を感じた点はどこですか?
・それらを引き起こしているのは何が作用しているからだと思いますか?
こうした問いは非常に効果的で、仕事上のやり取りだけではアプローチできない深い部分にまで内省・自己理解が進むことにより、その後の行動変容へと繋がっていきます。また、同じグループメンバーからは自分がどのように見えているのかというフィードバックや、改善を応援するメッセージによって、より客観的視点から自己理解を進めることができるようになります。
(3)ネクストアクションを明確にする
グループセッションを踏まえて、個々にアクションプランシートを作成してもらいます。自身のありたい姿に向けて、いつまでに・何を行っていくのかを具体化しつつ、その内容が氷山モデルの『見えていない』領域にアプローチしたものになっているかを確認します。
(4)アクションの進捗を確認し合う
グループセッションを一緒に行ったメンバー同士で、アクションプランがその後どこまで進捗しているのかを確認し合う場を設けます。グループセッションでは互いにフィードバックや応援メッセージも受け取り合っているので、課題と向き合っているのは自分だけではないことも励みになり、行動が促進されていきます。
「サーベイフィードバック」から組織改善を行った事例
──足立さんが実際に経験された中で、「サーベイフィードバック」を活用して組織改善に繋げた事例について教えてください。
ある企業において、「サーベイフィードバック」とリーダーシップ実践プログラムを組み合わせて行った事例を共有します。
その企業は創業60年を超える老舗企業で、地域に根差した事業運営を行い4代目社長が組織を率いていました。しかし、次期社長を任せられる人材が見つかっておらず、幹部層が育っていないことを課題視していたのです。
私は、まず社長・幹部メンバーとの個別面談を実施しながら現状を多角的に把握。その後、ヒアリング内容を元に支援内容を検討・設計し、約半年間のプロジェクトをスタートさせました。行った施策としては大きく以下の3つです。
(1)リーダーシップ研修
(2)360度サーベイの設計・実施(幹部層に求めるコンピテンシーを元に、リーダーシップをテーマとしたもの)
(3)グループセッション(受講者同士のフィードバックを行うもの)
プロジェクト前半では、「サーベイフィードバック」を通して対象者(幹部層)に自身の見えていない部分(パターン・構造・認知)を見つめてもらうところからスタートしました。その中で、対象者の1人だったAさんは役割の1つである『部下育成』がうまく進んでおらず、実際にサーベイ結果でもそこに関する項目が軒並み低いスコアになっていました。さらに以下のようなコメントも集まっていたのです。
・ご自身が仕事ができる人であり、尊敬しています。その分もっと部下達を成長できるようサポートしてほしい。
・もっと◯◯さんの役に立ちたいです。信頼して仕事を任せてもらいたいです。
・忙しいのはわかるが、このまま頑張っても長い視点で見て、組織が成長する気がしない
こうした結果を元に、ワークショップ形式で相互フィードバックを行っていきます。その中で一緒に関わったメンバーから、思わずドキっとするような問いがいくつも投げかけられます。
・なぜ、このようなコメントが出てきていると思うか?
・部下に仕事を渡せないのはなぜか?
・成長、部下育成について、どう考えているか?
これらの問いに答えていく中で、Aさん自身の中で整理されていないこと・気づいていなかった視点を発見していきます。その後、Aさんの回答を聞いたメンバーからのフィードバック・アドバイスとして以下のような意見がありました。
・誰でも仕事経験を重ねて成長するもの。部下に仕事を渡すのは、成長の機会を与えるのと同義。部下の成長をサポートしてあげてほしい
・自分以上にできる人を輩出していくつもりで部下にかかわっていくと良いと思っている
・部下に仕事を渡したとしても、いきなり自分と同じレベルでアウトプットが出てくることはないが、だからこそ、その機会にやりとりして成長を支援することで組織の成長につながる
このフィードバック・アドバイスをもらったことで、Aさんは以下のような『恐れ』を自身が無意識的に持っていたことに気づきます。
・部下に任せても期待するアウトプットがすぐ出てこない
・結局、納期に間に合わせるには、自分が引き取って自分が間に合わせるようにしないといけない
・自分が尻拭いするのであれば、自分でその仕事をやってしまった方が早い
Aさんのように仕事ができる人は『成果を出せている自分』に存在価値や意義を無意識に見出してしまい、『できる部下を輩出する・仕事を任せる』ことに及び腰になってしまうケースが多々あります。そんな時は、自身の存在価値への『認知』を変えてもらうことで、その後の判断・行動を変えていくことができます。
Aさんの場合は、その後『本当にありたい姿は何なのか』を言語化(持論化)していく中で『部下の成長をプロデュースできるリーダーとなる』というビジョンが出てきました。その実現のためのアクションプランを実践していってもらうと共に、ワークショップメンバーとアクション進捗を共有したり、応援し合ったりすることで、行動も変化していったのです。実際には以下のような変化がグループセッションの回を増すごとに表面化していきました。
・自分から部下とコミュニケーションを取るようになり、信頼関係を築くようになっていった
・部下と1on1を行うようになり、部下のありたい姿に耳を傾けていくようになった
・部下のありたい姿の実現に向けて、今の目の前の仕事がどのように役立つのか、を伝えていった
・部下への信頼度が高まり、仕事を渡せるようになっていった
今回はAさんを例に挙げて事例を紹介しましたが、本プロジェクトを通じてAさん以外の方も自身の課題に対しての『認知』が変わり、『自分ゴト化』され、担当組織でさらなるリーダーシップを発揮していくようになりました。
なお、プロジェクト後半では同じ項目で2回目のサーベイを実施。それにより定量的(数値面)・定性的(コメント)のビフォー・アフターが見える化され、対象者・社長・役員のそれぞれに大きな変化・成長実感を持ってもらうことに成功しました。言動・行動・あり方が変わった対象者を見た社長・役員に『今までさまざまな手法を取ってきたが、ここまで効果があり、変化を実感できたのは初めてです!』と言っていただけたことは、コンサルタント冥利に尽きる経験でした。
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編集後記
「サーベイフィードバック」は、対象者・組織の経験学習サイクルを回して変化・成長を促すことができるパワフルなアプローチだと足立さんのお話から感じました。一方、制度を形骸化させないためにはポイントを押さえた設計・運用が必要になります。この記事がその一助となれば幸いです。