【イベントレポート前編】人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは/CORNER DAY Vol.9
前回開催されたCORNER DAY Vol.8の参加企業から、「ミドルマネジメント」に関する課題感が多く聞かれました(マネジメント育成・HRBPとCoE(※1)の設計・エンゲージメント向上・ハイブリッドワーク下におけるマネジメントの仕組みづくりなど)。また、昨今の潮流として「人的資本経営(※2)」があり、人的資本の価値を高める上でもミドルマネジメントに求められる要素は日々大きくなっています。
そこで「CORNER DAY vol.9」(2022年5月18日実施)では、「人的資本経営を実現するミドルマネジメントやメンバーの人材開発とは」を大テーマとして、参加者(人事責任者の方、スタートアップ1人目人事の方など)は以下の2つのディスカッションテーマについてチーム毎に議論しました。
※1:CoE(センターオブエクセレンス)とは、目的・目標を達成するために組織内に散らばる経営リソース(人材・ノウハウ・設備など)を横断的組織として1カ所に集約すること。
※2:人的資本経営とは、人材を経営上の最も重要な『資本』と捉え、すべての人的資本を活かし、その価値を持続的に向上させる人材戦略の実践を通じて、経営目的の実現と企業価値の向上を図る経営のあり方のこと
参考記事:「人的資本の情報開示」の世界情勢と「ISO 30414」出版に伴う日本企業の対策と未来
<ディスカッションテーマ>
チームA・B・C・D:これからのミドルマネジメントとは
チームE・F・G:経営・事業から紐解く人材要件のアップデート
今回はその【前編】として、チームA・B・C・Dのディスカッションハイライトや取り組み事例などをご紹介します。
目次
これからのミドルマネジメントとは
チームA・B・C・Dでは、「これからのミドルマネジメントに求めたいこと/求めなくて良いこと」について意見を共有し合い、その後ディスカッションによって解像度を高めていきました。
「ミドルマネジメントに求めるもの」はこんなにも多い!?
各社のミドルマネジメントに求めるものを聞いていくと、性質の違うミッションが次々に出てきました。
・経営視点を持った戦略立案、実行
・組織ビジョンの浸透、文化醸成
・人材採用
・人材育成
・エンゲージメント向上
・業務改善
・他部署連携
・各種仕組みづくり
・プレイングマネージャーとして成果創出
など
昨今の「ミドルマネジメントに求めるものが急増している」状態を目の当たりにして、「そんなにたくさんのことを求めていたのか」という気づきがあった方もいたようです。チームを牽引する存在としてマルチな能力を発揮して欲しい想いはあるものの、それを1人に求めるのは酷だ……というジレンマを各社ともに感じていました。
中には「ミドルマネジメントの負荷を減らすため、ピープルマネジメント業務はマネージャーではなく部長に一任した」という共有も。それによりマネージャーはプレイング+メンバー層の業務支援に集中することができるようになっただけでなく、メンバーとの1on1でもありのままの声を聞けるようになったなどの効果もあったそうです。
事業推進、ピープルマネジメント、組織運営──多岐にわたるミッションの中から、ミドルマネジメントにどこまで求めるかは企業フェーズや組織規模・状態に合わせて明確にしていく必要があるという認識には多くの同意が集まりました。特に企業規模が200名前後になってくると、経営陣だけですべてのメンバーマネジメントを行うことが難しくなるため、ミドルマネジメントを立てて権限移譲をしていく必要性があると感じる人事担当者の方が多いようです。
ミドルマネジメントにおける課題感
大きく以下3つの観点で課題感が集まりました。
(1)ピープルマネジメント
(2)ミドルマネジメントの定義(経営陣との合意形成含む)
(3)人材不足と登用・採用・育成方法
(1)ピープルマネジメント
多くのグループで話題に挙がったのがピープルマネジメント力の不足でした。成果創出や業務指導については問題なく対応できるものの、多様化する「人」に寄り添ってビジョン・ミッションに沿った育成を行うタイプのマネジメントについては不慣れな方が多く、何をしたら良いかすらイメージできないミドルマネジメントも少なくないようです。会社としても短期的な成果責任を求めてしまう環境も、それらを加速させている可能性が示唆されました。
(2)ミドルマネジメントの定義(経営陣との合意形成含む)
ある企業では、エンジニア組織はエンジニアに、その他専門ポジションはその専門家にミドルマネジメントの定義を委ねていると共有がありました。定義を全社で統一するか部門最適にするかは議論が分かれるところですが、「当社のミドルマネジメントとはこういうものである」という定義や共通認識は、採用や人材育成面で活用できるだけでなく、評価面でも良い効果が期待できそうです。
なお、「定義をつくる上では経営陣との合意形成が重要だ」という意見がいくつかのチームで挙がりましたが、そこも簡単にはいかないようです。実際に経営陣から見た課題感と、人事が把握している課題感に大きな乖離があり、なかなか定義づくりや改革が進まないといった共有もありました。ミドルマネジメント層の離職増など目に見えた課題があれば共有認識を持ちやすいものの、表面上うまく行っている(ように見える)場面においてどう経営陣と合意形成をするかについては、同じポイントで悩んでいる参加者が多い印象です。
一方で、「自社のミドルマネジメントの定義をどこまで固める必要があるか?」は議論の余地が残ります。組織構成や職種によってもマネジメントの仕方が異なるのはもちろん、定義を固め過ぎてしまうことにより柔軟性や多様性が失われてしまうことを懸念する声が多く挙がりました。
(3)人材不足と登用・採用・育成方法
成長フェーズにある企業も多くご参加いただいたこともあり、今後ミドルマネジメントポジションがより増えていく予測から「(ミドルマネジメントを任せられる)人材不足」を課題に挙げる方が多くいらっしゃいました。その中で特に議論が集まったのは「登用・採用・育成方法」について。今回のご参加者からは、できるだけ内部登用したいという意見が多く集まりました。
しかしながら、内部登用を進めるにあたっては特に「若手マネジメント層の育成」に課題感を持っている企業が多いようです。また、事業推進に重きが置かれてしまい、育成・人材開発がどうしても後手になってしまう現状も共有されました。事業の変化スピードが激化したことを受け、マネージャーに求めるスキルが変わりやすいことも育成・人材開発の優先順位を下げる要因になっていると感じます。
内部登用では間に合わず、止むを得ず外部採用を進めている企業もありましたが、昨今の採用難易度の高まりを受けて自社にフィットした人材を採用できない、仮に採用できたとしてもオンボーディングに苦労し定着しない、といった問題が意見として挙がりました。ミドルマネジメントは経営陣とメンバーの間に入る立ち位置のため、両方の期待値に応えないといけません。ゆえに経営陣・メンバーの双方とうまく折衝する必要があり、特に外部から来た新任マネージャーは「お手並み拝見」的な見られ方をすることも多く、自然と定着へのハードルが上がってしまう現状があるようです。
中長期を見据えた、課題に対する取り組み
前述した課題とも連動する形で、現状取り組んでいることや、今後取り組みたいと思っていることについて共有が行われました。特に「育成方法・環境」については意見が多く集まった印象です。どうしても優先順位が下がりがちな部分ではあるものの、やはりこの領域は意思を持って取り組み続ける必要があるという共通認識が見て取れました。
方法論としてはマネジメントに関する研修はもちろん、車座や合宿などを通じてマネージャー同士の“横のつながり”をつくることで自発的に学び合う環境をつくるなど、人事からの一方的な取り組みだけではないものも共有されていました。リモートワークが続く昨今の影響もあり、対面の効果を再認識している企業も多くあるようです。
また、ミドルマネジメント層に対してコーチをつける企業も増えているようです。中には人事自身がコーチとなって希望する社員にコーチングを実施している企業や、社内でコーチを採用している企業も。コーチングの対象者も現マネージャーだけに留まらず、今後マネージャーに引き上げたい人材に対してもコーチをつけて育成を行っているとのことでした。
これによりミドルマネジメント自身のパフォーマンスが上がることはもちろん、メンバーへのピープルマネジメントにコーチングの要素を活用することもできるようになります。これまでは上層部にのみコーチをつけていた企業も、その対象者の裾野を広げてきている様子が感じられました。
ただ、コーチングによりピープルマネジメントへの関心が高まると「マネージャー自体が内向きになりやすい」という弊害も指摘されました。事業推進とピープルマネジメント、このバランスをどう取るかは継続的に議論していく必要がありそうです。
<参加者の声>
「元々は“戦略立案・実行”がミドルマネジメントの役割だと考えていたが、みなさんの話を聞いて“育成”の重要性にも気づくことができた。まずは今日話した内容をひとつずつ着実に実行して、そこから得たインプットでネクストアクションを決めていきたい。」
「ミドルマネジメントの型化について。公平・公正さや評価との連動面を考えると、人事としては一定型化してしまいたいところだが、固め過ぎてしまうと柔軟性や多様性がそがれてしまう。何を型化し、何を型化しないかは今後も議論していく必要があると感じた。改めて経営陣とも目線合わせしていきたい。」
「企業のステージ・フェーズによって異なる部分と、あまり異ならない本質的な部分の両方を知ることができた。特定フェーズを経験した人事や、パラレルワークであらゆる経験を持つ方などいろんな方の視点や知識を知ることができたので、視野が広がった。」
「これまで“ミドルマネジメントに必要なこと・求めるもの”ばかり考えていて、“捨てること”を考えられていなかった。マネジメントとは何なのかをもう1度経営層と会社し、自社なりの定義を作った上で優先順位や取捨選択を進めて行きたい。」
まとめ
直近で注目度の高いテーマだったこともあり、どのグループもかなり具体的なところまで議論が白熱した印象を受けました。次回の記事では、チームE・F・G「経営・事業から紐解く人材要件のアップデート」テーマについてのディスカッションハイライトと取り組み事例をご紹介します。お楽しみに!
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol.9:参加者一覧)※50音順
安食 健太郎 氏(株式会社ビザスク)
伊藤 允晴 氏(株式会社マイクロアド)
石原 健一朗 氏(ダイドードリンコ株式会社)
上林 遼 氏(株式会社カウシェ)
浦川 雄志 氏(ポジウィル株式会社)
小笠原 修裕 氏(株式会社ハウテレビジョン)
唐澤 一紀 氏(株式会社Nint)
金 明正 氏(Creww株式会社)
木元 豪 氏(株式会社NALU)
久保田 慶 氏 (株式会社CAMPFIRE)
小柴 礼生 氏(株式会社TERASS)
小林 剛士 氏(株式会社インタースペース)
小山 浩平 氏(ウェルスナビ株式会社)
杉元 将二 氏(株式会社I-ne)
高橋 真寿美 氏 (ヘイ株式会社)
田口 加奈子 氏(株式会社カラダノート)
永井 慎也 氏(株式会社ユーグレナ)
中澤 真知子 氏 (株式会社I-ne)
成田 赳夫 氏(株式会社サーキュレーション)
平山 鋼之介 氏(Sansan株式会社)
藤田 大洋 氏 (株式会社ツクルバ)
舟木 祐介 氏(株式会社TBM)
吉川 彩加 氏(READYFOR株式会社)
他3名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために