【イベントレポート】コロナ禍2年目を迎えるにあたって人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発/corner day vol.3
「corner day」とは、株式会社コーナーが“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして定期開催しているイベントです。
第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただいております。
第1回では「レジリエンスを高める組織・制度」について、第2回では「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)をベースとした自律的な組織の作り方」について、ディスカッションを実施してまいりました。
【過去イベントレポート】
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
発生から1年が経とうとしている新型コロナウィルス感染症は、会社経営における組織マネジメントに大きな影響を及ぼしました。
激しい変化を受容し、共存して生きていかなければならない現在において、今後どのようなミドルマネジメントが求められていくのでしょうか。
2020年12月9日に実施された第3回では、ある会社の実際の企業課題・事例をベースに、理想と現実とのギャップを捉えどのように解決していけばいいのかを議論しました。
<参加者プロフィール(50音順)※所属は2020年12月時点のもの>
・伊藤 允晴様(株式会社マイクロアド 様)
・浦川 雄志様(Fringe81株式会社 様)
・大内 礼子様 (フリーランス)
・唐澤 一紀様 (OLTA株式会社 様)
・木元 豪様 (株式会社NALU 様)
・小山 浩平様(ウェルスナビ株式会社 様)
・佐藤 恵一様(シャインフォース株式会社 様)
・高橋 真寿美様(株式会社ABEJA 様)
・永井 慎也様(株式会社ユーグレナ 様)
・中村 亮一様(株式会社BtoA 様)
・原田 豪様 (株式会社MyRefer 様)
・舟木 祐介様(素材メーカー)
・松岡 広樹様(Supership株式会社 様)
・吉本 猛様 (ベルフェイス株式会社 様)
目次
議論のテーマとスタイルについて
今回のイベントではA、B、Cの3つのチームに分かれ、 以下の2つのテーマについて議論をしました。一つの解を出すスタイルではなく、参加者の経験や知見を元にして発散型の意見をシェアしあうスタイルで行いました。
【問1】
議論テーマ企業におけるコロナ禍が続く中で、起こりえる影響リスクを上げてください。
【問2】
その環境下で、ミドルマネジメントを理想の状態にするにあたって、人事としてできることを議論ください。
Aチームの議論
Aチームの議論テーマ企業の現状・課題
BtoB SaaSサービスを事業展開している。現在はphase1からphase 2への成長段階で、IPOも視野に入れ拡大中。急成長に伴いミドルマネジメント層の採用を積極的に実施しているが、戦略立案・人材育成の考え方・関与にもう一歩期待をしたい。そのため各部署の戦略立案に経営陣が介入している。
ディスカッション内容
コロナ禍であってもミドルマネジメントの本質、考え方は変わらない。しかし、密なコミュニケーションで担保できていた会社や組織へのロイヤリティ・帰属意識が薄れるのではないか。
そのため、これまで以上に会社やカルチャーが目指すところを明確にし、メンバーへの浸透・醸成をミドルマネジメント層が担っていく必要があるのではないかという意見が出ました。
その上で、テーマ企業の課題解決に向けたアドバイスとして挙がったのは「企業カルチャーを理解した新卒入社者への抜擢促進」です。テーマ企業の在籍社員は出身企業のカルチャーが似ている部分もあり、既に暗黙知としてのカルチャーができあがっている部分がありました。
ビジョンやカルチャーに共感して入社した新卒であれば、それを受け入れ、体現しながら飛び越えてくれるのではないか。そのため代表自ら新卒入社者に役割抜擢し、ミドルマネジメント層への育成も重要であるという意見には、多くの方が共感されていました。
同時に、暗黙知である企業カルチャーを言語化し明確にする取り組みも必要だという声も挙がりました。中途入社者でも理解できるように、経営陣から「企業の成り立ちや歴史、ルーツ」を話す時間を設け、理解・腹落ちさせることが重要です。
「こういうビジョン・方針があるから今があり、今後こういう会社を作っていきたいんだ」と納得感持って仕事に打ち込むことができれば、自然にミドルマネジメント層もイズムを体現する存在になるのではないかという意見には、多くの頷きがありました。
そのため人事がすることに対して、以下のような意見が挙がりました。
・経営層とミドルマネジメント層が話し込める時間をしっかりとる。
会社が好きで共感するのが源泉であるが故、経営陣・ミドルマネジメント層が笑っている姿を積極的にメンバーに見せていくべき。
もっとミドルマネジメント層に発信の場を渡してもいいのではないか。
当たり前や暗黙知を言葉に落とし、それを人事自らが積極的に使っていく。
・目標設定・評価のアップデート(フォーマットを作り言語化する)
言語化をもっと細かい粒度に落としていって、すり合わせることが必要。
例えば、「部下に向き合ってください」と言っても全員考えることは異なるため、もう少し指針となる方向性(行動ベース)は示していってもいいのではないか。
また、ミドルマネジメント層への期待値調整は重要。期待値に届いていない方に対して「どこまで求めるのか?どれだけ働いてもらう?」と調整し、期間を設けることも必要。
参加者の声(一部抜粋)
・「なぜこの人は、このような考えに至ったのか?」などと、ルーツを理解・知るための配慮があればいいのではないか。そうすればミドルマネジメント層も吸収する努力ができる。
・経営陣、部長が笑っている姿を見せるのは必要。代表が話しすぎるのではなく、部長に発信の場を渡す。社長以外の人から流れていくような状態を作らない限りいつまでもトップマネジメントになってしまう。「こういう発信をマネジメント全員でやろう!」と促進し、人事はとにかくその言葉を使うようにするのがいいと思う。
・ミドルマネジメント層に数年単位のビジネスモデルを考えてもらうのも大事。
上司である経営者はそれを支援する役割。「足らん」「できていない」ではなく、どうやったら支援できるのかを向き合ってもらう。
Bチームの議論
Bチームの議論テーマ企業の現状・課題
2010年代創業の素材メーカー。既存事業を国内外にグロースさせていくことに加え、新規事業を早期に立ち上げ、マネタイズ化が求められているフェーズ。
事業拡大を加速させるため、組織体制を強化していかなければならないが、仕組みがほぼない状態。今後売り上げの要となるミドルマネジメント層の育成・採用が急務。
ディスカッション内容
このチームでのディスカッションポイントは「型化はいつ、どうやって行うのか」ということ。コロナ禍で事業方針や事業戦略が大きく変わった会社も多いこともあり、マネジメントにおける型化づくりをどうすればいいのかに議論が集中していました。
Bチームのテーマ企業の場合、IPOを見据えて事業成長を求められる中で、半年・一年で個々人のやり方でパフォーマンスを出すだけでは不十分。
今の組織構造のままでは、ミドルマネジメント層の絶対数が足らず、採用と同時に個人に依存していたやり方をフォーマット化しなければならないと感じられていました。
議論するうち、今、従業員が自由に、自律的に動けているのはいい環境なのではないか。それで組織が回っているのであれば、型化を急がなくても良いのでは、という意見が挙がりました。
「会社のフェーズによって変わってくる」部分が大きく、事業変更のタイミング、従業員数の変化などの状況に合わせて、型化を見直してもいいのではないか、と実体験を例に挙げながら、意見が交わされました。
このようなフェーズにおいて、人事がやるべきことは何か−。
・事業戦略を理解し、そこから掘り下げて「今必要なのは何か?」を考える
まずは「人事が事業戦略をきちんと捉え、逆算してどういう組織状態が求められていて、そのためにどういうミドルマネジメント層が必要なのか」を考えていくことが大事だと帰結しました。
なんとなく「ミドル層を強化しよう」とアプローチしても現場メンバーは納得しません。
事業が目指すべき方向性を捉え、その上で「今、量を担保すべきなのか。それとも質を高めるための育成にシフトするのか」が、適切に判断できるのであろうとの意見に全員が頷いていました。
・経営陣の温度感を上げていく
そして、経営陣のやりたいことを実現するために、信頼を構築していくことも重要です。
スタートアップであれば尚更、「創業者の意向=会社の方針」になります。経営者と真っ当に対峙するためには、一般論では通用しません。
人事自らも本気で事業を語れるようになることが、組織形成の第一歩なのではないでしょうか。
参加者の声(一部抜粋)
・型を作ってはめてくださいはよくある。
しかしMVVから浸透させて型化をしないと現場は窮屈になって抜けていくのは起きやすい。そこは重要なポイントだと思った。
・立ち上げフェーズはMVVに共感、ビジネスモデルに共感など、安定を求めずに入ってきているので、そこまで型化にこだわらないほうがいいと思う。
フェーズが変わって人数が大きくなるとそうでない人を増やす必要が出てくる。
・「経営のやりたいことを実現する」のが人事のあるべき姿。
関係性を作りながら信頼してもらってやりたいことをやっていく。
まだスタートアップであれば、創業者の意向=会社の方針。
それをまずはちゃんと形にすることを考えている。
Cチームの議論
Cチームの議論テーマ企業の現状・課題
市場ニーズが急速に高まっているサービスを展開。社員数を急拡大する中で、部長クラスは自組織を見ることに手一杯の状況で部門間の連携が追いついていない。
社内昇格や中途採用によりミドルマネジメント層の強化を図っているが、マネジメントのスタンダードが曖昧であり、個々のやり方に委ねられている。
ディスカッション内容
一気に組織が拡大したCチームのテーマ企業の場合、さまざまなバックボーンのミドルマネジメント層が混在しており、メンバー管理や育成、組織けん引のやり方もさまざま。
マネジメントの考え方の大枠はあるものの、具体的手法については曖昧な状態。
加えてコロナ禍によるオンライン環境でのマネジメントが求められる中、「自社のマネジメントとは?」という統一化が必要なのではないか?というテーマから議論がスタートしました。
起こり得る課題は?という問いについて、
「スタンダードが足らない分マネジメントラインの離職」
「MVVの浸透が弱まる」
「戦略がわからない・共感できない層の増加」
「意思決定に時間がかかり始める」
などの課題が参加者の方よりあがりました。
オンライン環境では横や斜めのつながりが弱くなりますし、より一層役割の明確化が求められるのではないかという意見もありました。
その中で改めて、「マネジメント層は何を期待されるのか?」「何をやらなくてはならないのか」を明確に定義してメッセージすることの重要性に共感が集まっています。
そのために、人事として何ができるのかに議論が移ります。
・トップの思いを踏まえながら、「マネジメント基準」を作っていく
人事が「こんな組織にしたい!」と言っても現場の納得感は得られません。
まず前提には創業者やトップが考える理想の組織を人事が理解することが重要です。
その理想を実現するために、一般論も踏まえつつ「自社ならではのマネージャーとはどんな要素が求められるのか」を分解して言語化していくことが必要なのではないでしょうか。
その際に、現場が共感できるワーディングを用いることが大切になります。
誰もが自然と発することができるメッセージは必要不可欠です。
・マネジメントのゴールは何かを明確化
また、評価基準を定めることも必要です。どうしても1on1に依存してしまうと「個」との関係性に執着しがちです。しかし組織が目指すべきはミッション達成です。
そのために、ゴールは何か、そのために自分は組織で何をすべきなのか、そのためのプロセスはどうすればいいのか……など、ある程度人事がフレームを作っておくのも大切なのではないでしょうか。
カルチャーやMVVの浸透も重要ですが、同時に、成果を上げるためのスタンダードを定めておくことも大切という意見もありました。
参加者の声(一部抜粋)
・フラットな組織の場合、マネジメントという言葉自体に拒否反応も多かった。
そこで、勉強会形式でマネジメントの定義の話をしたり、「階層を作る=カルチャーがフラットでなくなる」ことではないという認識のすり合わせをしたり。ここは丁寧にやっていた。
・基本は「トップがどのように考えているか」に基づいて、発信するメッセージは考えます。それを現場に発信するタイミングで、現場メンバーが共感するエッセンスを入れ込むことが多かったです。一方的な言葉は現場メンバーには浸透しないため、その配慮は必要となります。
まとめ
今回は具体的な事例を元に組織課題について議論し合う場でしたので、さまざまな意見があり、とても有意義な場でした。
コロナ影響も大きく会社や組織が変化を続ける中で、人事は常に事業成長と向き合い、そのための組織づくりに奔走しなければならないのだと、改めて襟を正した次第です。
“経営と人事のレジリエンス”を探求するコミュニティを目指しているcorner day では、引き続き人事・経営者の皆様にとって気づきや発見がある内容を取り扱ってまいります。
次回の「corner day(vol.4)」も近々開催予定です。
イベントレポートを是非楽しみにしていてください。