【イベントレポート】人事は事業に対してどこまで踏み込むか/CORNER DAY Vol. 17
人事として事業にどこまで踏み込むべきか。経営や事業に合わせた人事戦略・施策を推進する中で、どの基準で事業目線を持つべきなのかは各社それぞれだと思います。
そこで、CORNER DAY Vol.17(2024年5月22日実施)では『人事は事業に対してどこまで踏み込むか』をテーマに、Sansan 人事本部 Employee Success部 部長の平山 鋼之介さんをゲストスピーカーに迎え、参加者を5つのグループに分けて以下3つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)人事として、現在どのくらい事業に踏み込めているか
(2)人事として、事業にどこまで踏み込むのが理想か
(3)理想に近づくために取り組むべきこと
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計18名)のディスカッションのハイライト、各社の取り組み事例などをご紹介します。
目次
人事として、現在どのくらい事業に踏み込めているか
まず、現時点でどの程度事業に踏み込めているかについてのシェアからスタートしました。その中で踏み込めていない現状についても話が展開され、その理由についても議論が進んでいきました。
■踏み込めている側の意見
・これまでは「目の前にある課題の火消し対応」がメインだったが、今は事業部門長と未来の事業に向けて人や組織の課題に取り組めるようになった。(例)採用目標へのコミット→どういう組織を作りたいかから対話・介入
・部門付人事(HRBP)が担当部門からの人事相談をすべて対応ができていて、スタートは御用聞き状態から始めたが、繰り返していくうちに、徐々に相談がもらえるようになり、今は提案を聞き入れてもらえるようになった。気付きとして、こうした体制はハイレイヤー人材がいなければ実現不可能だと考えていたが、実際にやってみたら人事未経験者の若手であっても十分にワークしている(事業部長の悩みを把握しながら対応方法を考えられる人)。完璧ではない人事が付くことで人事自体もアップデートできている感覚もある。人材系営業出身者が採用の専門性を武器に、経営陣と対峙できていくストーリーと似ている。
・1日の90%は事業部サイドの仕事をしている。“同じ釜の飯を食べる”ことで事業・人の理解を深くまでできるから。ただ、小規模組織だからできることであり、ずっとこのやり方はできない。組織が大きくなっていけば、適切に任せる部分も出てくるはず。
■踏み込めていない側の意見
・事業計画に対して人員計画が存在する中で、組織毎にPLとして管理するに留まっている。どのような指標を追うと良いかまで踏み込めていないのが現状。
・創業者が人事を一手に握っていた時期が長く、人事戦略を独立部門として考え始めたのはつい最近。事業部門から相談こそしてもらえているが、事業に貢献するパートナーとまでは認識されていない印象。
・主に事業部門からの相談(採用・異動・評価など)に応えている状況。一部で事業部門への提案(マネジメント研修や1on1実施など)もできているが、まだまだ事業のど真ん中に踏み込めてはいない。
・「事業戦略をどこまで理解して踏み込むべきか」が分からない。組織フェーズによる違いもある。
それぞれの現状がシェアされる中で、「そもそも人事はどんな役割を担うべきか」についても議論がなされていました。事業戦略の達成が最優先で、人事機能はあくまで手段。だからこそ解像度の高い事業理解が必要であり、そこが低くては人事としての存在意義が薄れてしまうといった意見には多くの共感が集まっていました。
一方で、「いくら事業理解をして事業側に踏み込めていても、そもそも採用がうまくできていないと発言権がない」や、「営業会社など事業側が強い会社では立場の弱さから人事がなかなか踏み込めない」といった意見も。こうした要因以外にも踏み込みたくても何からスタートすれば良いか分からない方もいるといった観点もシェアされ、事業責任者との対話機会や人事的な育成の必要性についても話が展開しました。
人事として、事業にどこまで踏み込むのが理想か
理想についてそれぞれの考えがシェアされる中で、失敗談や現状とのギャップなどにも話が広がっていきました。また、「組織フェーズによっても理想は変わる」といった意見もあり、いろんなケースにおける理想について議論が進んだ印象です。
■理想
・事業責任者が困った際に秒で相談してもらえる関係性。目の前の採用や労務など“守り”しかやらない人事ではこうした関係性になれない。人事だけが持つ“守り”系の専門知識を持ちながらも、「事業をこうしたい!」という想いを理解することでパートナーとして認めてもらえる。
・思っていることをお互いに言い合える関係性。事業責任者から相談されたり頼られたりするだけでなく、人事側から見てリスクだと感じたことは率直に言える間柄であることがすごく大事。経営戦略のディスカッションができると良い。
・組織PLにまで踏み込めているとベスト。例えば、売上・利益・粗利率を上げるために他社がどのようなスキルセットを持った方を採用しているかなどの事例FBを行うなど。DX推進に向けたフォーメーションや外部人材活用などの提案もここに含まれる。
・組織フェーズ毎に理想は異なる。上場後はコスト削減と生産性向上がテーマになり人事に求められることも変わった。現在は組織拡大を目指す上で課題解決に大きく関与するような役割が人事に求められている。事業戦略と人事戦略がより密接になる中で、人員計画を要員計画などに落とし込む際に人事の踏み込みが足りてないと感じている。
・今の組織規模(数十名程度)では人事が踏み込む次元ではなく、HRBPの概念も存在しない。一方で以前在籍していた300名規模のスタートアップでは人事も事業サイドに踏み込んでいくことが求められ、その中で事業戦略達成に必要なアクションを定義し実行していくことが求められた。反対に大手企業の人事は事業サイドからの要望に応えるだけで精一杯になることも。
■失敗談
・救世主的なポジションは一見良さそうに見えるが、悩んでいる人の味方になることが目的になってしまうと本質が掴めなくなってしまう。中には個人レベルの話や解決しようがないものもあるため、それらにまで範囲を広げてしまうと結局解決できずに信頼を失うことになる。
・「主役は現場」と思い込んだあまり、踏み込まなくて失敗してしまった。スタートアップで優秀な事業部長が多く遠慮してしまったことも要因。スタートアップのように毎日が戦争のような環境では人事も前線で戦う姿勢がないと失敗する。
・プロダクトの急成長に合わせて営業メンバーの増員を行ったが、人員が増えすぎて顧客開拓リストがなくなってしまった。増員の内容や背景を解像度高く人事が理解できていなかったために起きたこと。事業理解並びに事業責任者との対話が欠けていた。
■理想と現実のギャップ
・事業部と人事では目標の性質が異なる。事業部門は短期の話が多く、人事は中長期の話が多い。ただし、人や組織に関する話は短期軸だけではダメ。中長期視点を持ち込みながらも、現場が気にする短期視点にも寄り添えることが重要。ここのバランスを取るのが難しい。
(例)現場としては増員して売上を上げたいが、中長期視点で考えるとマネジメント・育成・評価などに課題が出る可能性もある など
・人事に対して事業部門が「何を求めているか」は場合によって違う。「事業にもっと踏み込んで欲しい(攻めの人事)」を期待しているときもあれば、「労務など専門知識で貢献してほしい(守りの人事)」と考えているときもある。人事として最低限の前提知識は持っておくべきだが、できればHRBPと人事は分けても良いかも。HRBPが攻めで、人事が守りのイメージ。
・人事担当者が全員事業サイドの経験がなく、事業理解をどう進めれば良いか手探りな状態。事業サイドの経験があればこのあたりもクリアできるが、社内の抜擢人事や配置転換には一定時間が掛かることが課題。
なお、理想について語られる過程で「事業サイドに踏み込む“攻めの人事”にはどんな人材が適任か」についても議論されました。その中では人事としての専門性(労務や採用知識)よりも、部門責任者のニーズや課題を適切にキャッチアップできる力や、言語化力・EQ力(感情を理解しコントロールする力)が重要だという意見も。人事としての専門性は一定あった方が良いものの、それよりも事業サイドとの信頼関係を構築してより良く踏み込める能力が重要なのではないかといった意見には発見も多かったようです。
理想に近づくために取り組むべきこと
現状と理想、その間にあるギャップについて議論した後は、それを埋めるためにどんなアクションができるかについて考えていきました。以下の意見が出てきています。
・ステップがあると思う。スタートは、事業にどんなことが起こっているのかをとにかく知ること。各階層別に、注力事項は何か、何を取り組んでいるのか、課題点などを聞き、事業の方向性を組織状態を点でもいいからまずは情報を集めること。それらの活動から、何ができそうかを事業部から聞き、応えていく。これを繰り返す中で、事業部から次第に相談ごとが出てくるようになり、その相談事に応えていく中で、人事からの提案もできる状態になっていくのだと思う。さらに、それが発展していくと事業戦略を検討する中で人事戦略をどうするかといった議論の場に参加できるようになっていく。
・事業理解の中でも「ファイナンス面」を知ることは特に重要。どんな事業構造で、どう利益を創出できているかを知ることで資金状況はもちろん事業に対する解像度が格段に上がる。
・四半期に一回バックオフィスチームの勉強会をしているが、そこでエンジニアの言語勉強会を実施した、参加者からは普段現場で飛び交っている用語が分かって良かったと公表だった。人事が「ちゃんと事業や仕事内容を理解していますよ」と現場にアピールする上でも必要な知識だから。そうして現場を理解しようとする姿勢が信頼にもつながる。
・事業理解はもちろん大事だが、そもそも「リスペクト」がなければ信頼関係は築けない。どれだけ土足で踏み込んだとしても、リスペクトさえあれば現場も受け入れてくれるはず。踏み込むというよりも「歩み寄る」の表現が近い印象。
・事業が年間でどのようなスケジュールで動いているのか、繁忙期はいつかなどを理解をし、その年間スケジュールに合わせて人事組織ごとを動かすタイミングを図るといった配慮を行うことは重要。
・現場が知らない専門分野(労務など)についてはコツコツと学ぶほかない。疑問に対してスピーディに回答できるようになると、自分たちの知らないことを知っている専門家として一目置いてくれる。
なお、今回のテーマでは「事業が今後も成長していく前提」で議論されることが多かった一方で、「事業がシュリンクしていく中でどう踏み込むべきか」についても議論が進んだチームがありました。直近で多くの社員が退職する、M&Aで要職者が抜ける、リストラを行う必要がある、などのシーンにおいては、人事としても踏み込み方が大きく変わってくるのではないかという問いです。しかし、こうした場面の方がある意味人事を必要とされる側面もありそうです。いろんなシーンを想定して理想を考えることができたため、各チーム共に多くの気づきを持ち帰ってもらえたようでした。
イベント参加者の声
『事業理解は解像度の高さが重要。解像度が低いと社内でもお飾りに見えてしまう。経営視点やファイナンス視点も踏まえて多角的に事業を理解し、適切な提案・助言ができる存在を目指すべき』
『“事業には土足で踏み込め”との話もあり、鈍感さをあえて持つことも重要だと感じた。事業責任者とは良い話も悪い話も遠慮なくできる関係性になることが重要。その距離感は会社や組織フェーズによっても違うため、やりながら探っていく必要があると感じた』
『事業側の目線はどうしても短期になりがち(今期の業績をどうするかなど)なので、そこに人事が中長期の目線を持ち込んで関わることが大事だと再認識できた』
まとめ
事業理解や踏み込み力が大事といった話だけに落ち着かず、「どこまで事業理解ができれば良いのか」「踏み込むとはどんな状態なのか」などの具体的な定義やレベル感まで議論されていたのがとても印象的でした。また、イベント実施後には他チームの議事録も全体共有され、より多くの学びに繋がっていました。当社は、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、経営と人事のUPGRADEに貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のUP GRADE”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 17:参加者一覧)※50音順
飯田 竜一氏(株式会社企画人事)
伊藤 允晴氏(株式会社PETOKOTO)
井上 朋一氏(パンチ工業株式会社)
浦川 雄志氏(株式会社KAEN)
小笠原 修裕氏(クリエーションライン株式会社)
小金 蔵人氏(株式会社ZOZO)
小林 杏子氏(株式会社ツクルバ)
笹木 隆之氏(株式会社TBM)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
野本 俊輔氏(株式会社タイミー)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
平山 鋼之介氏(Sansan株式会社)
吉田 有里恵氏(株式会社ツクルバ)
他複数名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには
CORNER DAY vol.16:事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは