【イベントレポート】リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために/corner day Vol. 8
ここ数年で一般浸透した感がある「リモートワーク」。通勤時間の削減や生産性の向上など良い面が多く聞かれますが、一方でメンタルヘルス不調を感じている方も増加しているようです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「テレワークの労務管理等に関する実態調査」でも、リモートワークのデメリットとして「同僚や部下とのコミュニケーションがとりにくい(56%)」「上司とのコミュニケーションがとりにくい(54.4%)」が上位2つを占めるなど、コミュニケーション面でのやりづらさを感じている様子が見て取れます。
そこで、「corner day vol.8」(2022年2月9日実施)では、「メンタルヘルス」を大テーマとし、参加者は以下の2つのディスカッションテーマについてチーム毎に議論しました。
<ディスカッションテーマ>
チームA・B・C:リモートワーク環境下でのメンタルヘルス不調を未然に防ぐマネジメント体制とは
チームD・E・F:メンタルヘルス不調者を生み出さないためのチーミング・社内コミュニケーションとは
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計20名)のディスカッションのハイライト、各社の取組事例などをご紹介します。
目次
リモートワーク環境下でのメンタルヘルス不調を未然に防ぐ「マネジメント体制」とは
チームA・B・Cでは、直近1年で起こった各社の「マネジメント起因によるメンタルヘルス不調の要因」を共有し合い、それらを未然に防ぐためにはどのような方法が考えられるかについてのディスカッションが行われました。
今現場では「コミュニケーション不足」による影響が顕著に
どのチームでも共通して挙げられたのは「コミュニケーション不足」による影響でした。特に単身者や社歴の浅い方ほどその影響が顕著のようです。中には真面目にやっていた方と急に連絡がつかなくなり、心配して様子を見に行ったら家で倒れていた……なんて事例も。それは際たる例だとしても、視覚的な情報がないことでメンタル不調者の発見が遅れるなどの問題が発生しているのは事実のようです。
また、コミュニケーション量は一定であったとしても、その方法が今までとは変わったことによる影響も共有されました。例えばチャットでのテキストコミュニケーションでは相手の感情を読み取りづらく、意図せず上司からの連絡を「怖い」と感じてしまう若手もいるようです。その結果、上司への相談頻度が下がり、業務上の問題を1人で抱え込んでしまった……などの事例も共有されました。
加えて、コミュニケーションが減ったことによる「過重労働」問題も取り上げられました。周囲のメンバーがどれだけがんばっているかなど、視覚的な情報が少なくなったことで自身の頑張り度の相対評価ができなくなり、思わず頑張りすぎてしまうなどの現象があるようです。これは経験の少ない若手だけでなく、役割責任を持った30代~40代にも多く見られる傾向だという声も聞かれました。
これらの影響から休職者や退職者が増えたにも関わらず、業績目標が変わらないことで残っているメンバーへの負荷が増加し、ドミノ式に求職や退職が増えていく可能性についても指摘がありました。また別の視点として、リモートワークによる運動不足がメンタルヘルス不調にも大きく影響しているのではないかという意見にも多くの同意が集まりました。
現場の課題解決は「ミドルマネジメント頼り」に
コミュニケーション不足によるさまざまな影響への対処が、ミドルマネジメントに集中している現状に問題意識が集まりました。個別性の高い各事象に対して、マネジメントメンバーが個別対応をせざるを得ない状況になっているのは一定仕方のないことかもしれません。また各マネージャーの対応レベルにもバラつきがあるなど多くの課題が共有されました。
その要因として、プレイングマネージャーが多いことや、マネージャーへの昇格基準(成果を挙げたメンバーがマネジメントへ昇格し、マネジメントスキル・適性が加味されていないこと)などが挙げられました。また組織としても「メンバーが育ったかどうか」を計る指標が売り上げ以外にないことも、マネジメントのレベル感を引き上げられない要因ではないかという意見もありました。
一方、上記とは違う視点として「世代間GAP」についても言及がありました。そもそも若手は自分から上司や先輩にコミュニケーションを取りに行きにくいもの。ですが、上司や先輩からすれば「(少なくとも配属後は)自分で情報は取りに来て欲しい」と考えてしまいがちです。その世代間GAPがこのリモート環境下ではより顕著なため、オンボーディングの重要性についても再認識されました。
どうすればメンタルヘルス不調を未然に防げるか
大きく以下2つの観点から、人事として何ができるかについてのアイデアが出ていました。
(1)コミュニケーションの「量」を増やし、コンディションを定点観測・把握できるようにする
(2)コミュニケーションの「質」を上げ、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ
(1)コミュニケーションの「量」を増やし、コンディションを定点観測・把握できるようにする
ただ「量」を増やすだけでなく、それによるコンディションの「定点観測」が重要だという意見には多くの賛同がありました。中には「毎日10分だけでもいいから定点観測できる機会が必要なのでは」という提案も。そうした機会創出のために各社がやっていることとして、以下のような事例が共有されました。
・1on1の頻度を高くする(1回あたりの時間は短くなってもOK)
・1on1などで得られたポジティブ・ネガティブ情報をマネージャー間で横連携して共有する
・パルスサーベイのツール導入、またはその実施頻度を高める
・雑談時間や余白を意図的に作る(ミーティング冒頭のアイスブレイク、ランチタイム、出社奨励、オンライン座談会の運営など)
・人事チームに相談窓口を設置。社内の簡易アンケート(コンディションを「晴れ」「曇り」「雨」の3段階で回答)で雨や曇りが続いた従業員には人事部がヒアリングを行い改善を実施。
(2)コミュニケーションの「質」を上げ、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ
現場課題に直面するマネジメント陣はもちろん、メンバー自身へもメンタルヘルスに関する情報提供や機会を提供することで、より未然にメンタルヘルス不調を減らせるのではという視点についても多くのアイデアや事例が集まりました。
・マネジメント層に対してメンタルヘルス系の基礎知識や労務管理研修を実施
・効果的だった取り組みの全体共有(例)「今週のわたし」など自分の話をみんなにしてもらう時間を作ることで、その個人を知れるだけでなく、発表者の承認欲求も満たすことができる
・入社後3カ月のオンボーディグプログラムを実施し、月1回ワークショップで社内キャリア形成を考えて発表し、その間にメンタリングも合わせて実施
・メンタルヘルス系の情報配信でセルフケアの方法や、「こんな兆候があれば危ない」といった情報を全員に共有することで、組織内での早期発見ができるように対策
また、上記ディスカッションが行われる中で「人事がやるのか、現場に任せるのか」といった視点は特に注目が集まっていました。共通したのは「人事が出張るのは最後」という意見。
基本的にはその問題に直面する現場のミドルマネジメント層が矢面に立ちながらも、その問題解決を裏側でどう支援できるかが人事のミッションではないかという声が多くありました。
<参加者の声>
「マネージャー1人に問題を背負わせず、全社で分担できるゆるい仕組みをつくることが重要だと感じた。例えば、エントリーマネジメント、オンボーディング、マネージャー同士の横連携創出など。また、時には外部の力(産業医など)も積極的に活用していくことができれば、より負担を分担することができる。」
「メンタルヘルス問題は、リモートワークだから起こっていることではない。ただ可視化され顕著になっただけで、そもそも議論したような問題は組織内に多かれ少なかれあったはず。そうした原則論があることをこの機会で思い出すことができた。」
メンタルヘルス不調者を生み出さないためのチーミング・社内コミュニケーションとは
チームD・E・Fでは、まずメンタルヘルス不調が出やすいチームや組織の特徴について共有し合い、そこからリモート環境下での効果的なチーミングやコミュニケーションのアイデアについてディスカッションが行われました。
メンタルヘルス不調が出やすいチームの特徴
大きく3つの観点で意見が集まりました。
まず1つ目は、「コミュニケーション問題」。リモートワークでテキストコミュニケーションが増えたことにより、対面や電話などでは起こらないようなミスコミュニケーションや誤解が生まれるだけでなく、そういった組織はそもそもの信頼関係も薄いことが想定されるため、メンタルヘルス不調につながりやすいのではないかという意見が挙がりました。また、これらの傾向は年齢や社歴の浅い若手に多く見られる傾向があるようです。
加えて、そのコミュニケーション内容が「業務中心」になってしまっている組織についても指摘がありました。オンラインでは目的やゴールが決まった「収束型の議論」になりがちで、雑談や相談といった「対話」の機会が減っていることもメンタルヘルス不調を誘発する要因なのではないかと議論されました。
2つ目は「業務特性」によるものです。例えば、営業のような高い目標を追う組織。オフライン時代はアポが取れた・受注できたなどの際には互いに褒め合ったり喜び合う文化があったりした組織も多くありましたが、オフライン上ではそういった機会が減少したことで一気に疲弊した部署もあったようです。
さらに「セルフワーク系」の業務を担当している方がメンタルヘルス不調になりやすい可能性も指摘されました。社内だけでなくお客様を含め、人と話す機会があると誰かと協働している感覚が持てるため、孤独やつらさを感じにくいのではないかという意見には共感が集まっていました。
最後3つ目は「ミドルマネジメント」の観点です。プレイングマネージャーであるがゆえの「対応時間の不足」、マネジメントスタイルやレベル感の違いによる「心理的安全性の醸成不足」などがメンバーのメンタルヘルスに大きく影響している可能性が指摘されました。尚、マイクロマネジメントを得意とするマネージャーはリモート環境下では苦戦を強いられており、反対にモチベーションコントロールやパーパスなどを重要視するマネージャーはリモート環境下でも成果を残せている傾向にあるようです。
リモートワーク環境でも社内コミュニケーション・チーミングが活発なチームの特徴
先ほどの「メンタルヘルス不調が出やすいチームの特徴」が洗い出されたのち、反対にどのようなチームであれば社内コミュニケーションやチーミングが活発になるのかについてディスカッションが進められました。ここでも大きく3つの観点から意見が集まっていました。
まず1つ目は「心理的安全性の高いチーム」です。ここが欠けてしまっては、そもそもコミュニケーションが生まれなかったり、本音で関わりあったりすることができません。またテキストコミュニケーションの頻度が高くなるとその影響はより顕著になるため、なんでも発信できる環境づくりの重要性を各自が再認識しました。
2つ目は「部署間をまたいだコミュニケーションができているチーム(組織)」です。ある組織では、部署間の関係性が悪く、リモート環境下でほぼ関係性が断絶されていたことから、従業員のエンゲージメントが低下していたとのこと。そこでその両部門の管理職同士をつなげていく取り組みを実施し、「上から繋いでいく」ことで部門間のコミュニケーションを活発化させています。
最後3つ目は「フィジカル面でも健康なチーム」です。フィジカル不調はメンタルヘルスにも大きな影響をもたらします。リモートワークによって自然と失われた生活習慣についてのフォローについても意見が挙がりました。
人事として実行できる対策、または事例
ここまでの話を踏まえた上で、実際に今取り組んでいることやこれまでの事例について共有がなされました。
<事例1/営業組織オンライン化への対策>
リモートワーク環境下で賞賛や励ましあいがなくなったことにより、メンタルヘルス不調者が増加したことに対する対策として、以下のような取り組みを行い改善したそうです。
・定期的にコミュニケーションできる機会の創出(朝礼や夕礼、オンライン上での常時接続、チャットの場など)
・飲み会費用の支援によるオフラインコミュニケーション促進(外部環境に配慮し、時期を選んだ上での任意参加&少人数開催)
・出社頻度の向上(総合職は週3日をマストとし、オフィスを拡張して出社したくなる環境づくりも並行)
・社内よろず相談窓口の増設(コーチング、キャリアカウンセリング、産業医など、多様な相談を面で受けられる仕組みづくり)
・パルスサーベイによるコンディション定点観測(スコアが下がった部署へはマネジメントラインへアラートを出しつつ人事側からも必要に応じてサポート)
<事例2/オンライン研修プラットフォームの活用>
若手がメンタルヘルス不調になりやすいこと、リモート環境下では新入社員OJTに課題があることから、オンライン研修プラットフォームを活用して「組織全員で育てる」環境づくりに取り組んだ事例が紹介されました。
具体的には、全ての新入社員・トレーナー・上司の3者に参加をしてもらい、縦・横・斜めからフィードバックができる仕組みを作ったそうです。例えば、新入社員が1カ月の学びを3分の動画で出すと、多方面からコメントが寄せられます。これにより全員が当事者となり、何かよくない兆候があった時もすぐに気づいて多角的な対処が可能になるなど、高い成果が出たようです。
<事例3/組織・人員構成の変更>
リモートへの環境変化に対応するべく、チームをより細かく分割して「ミドルマネジメントが目の届く人員構成」に変更した事例も紹介されました。それと合わせてパルスサーベイなども併用することで、これまでよりもコンディションのモニタリングが丁寧にできるようになり、必要に応じた対策もより的確なタイミング・内容で実施できるようになったそうです。
またこうした組織変更に合わせて、ミドルマネジメント層に対して心理学系の研修やワークショップなどを実施することでさらなる効果向上が期待できる点も合わせて共有がありました。
<事例4/社長や副社長など経営陣からの積極的な情報発信>
昨今、全社員を集めて何かをオフラインで行うことが難しいのを受け、オンライン上での「社長交流会」や「社内ラジオ」などを実施してオンボーディングやカルチャー浸透に活かしている企業もありました。
「社長交流会」では同期入社メンバーが集まった場に社長も参加し、互いの自己紹介やウェルカムメッセージなどを展開。さらにその自己紹介はスライド化されて全社に共有することで、全社からもチャットで「ようこそ当社へ!」といったコメントが多くされるなど、ウェルカム感の醸成に成功しているようです。
「社内ラジオ」では社長や副社長がメインで出演し、ゆるい空気感の中でMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に関する真面目な内容から、社長が今考えていることやプライベートについてなど、社員のアンケートからテーマを決めて発信しているそうです。その結果、社員と経営陣の距離感が縮まり、親近感を持つメンバーが増えるなどの成果が見られたそうです。
<事例5/産業医活用>
実際に産業医面談を受けてみたという参加者の体験から、その良さについて共有がありました。社外の方と業務から離れた会話をすることで、社内コミュニケーションとはまた違う気づきや心地よさがあったそうです。産業医との面談は人によっては心理的ハードルが高いものにもなりがちですが、そうした先入観を取っ払って気軽に活用できるようになると、よりメンタルヘルス不調を未然に防げるのではないか、といった意見もありました。
<参加者の声>
「リモートワークによるコミュニケーション減少が直接的な理由ではないことが多いと改めて感じた。せいぜい3割くらいのもので、残り7割はコロナ以前から発生していた印象。ただリモートワークによってマネジメントスタイルの転換が必要となり、それに対応しきれない部分から歪みが起きている現状はあると思う。」
「より組織開発的なアプローチで人事が関与していく必要があると感じた。現場コンディションを定点観測することで正しく理解し、起こりうる問題に対して『現場のサポートをする』のか『仕組みをつくる』のかを随時見極めながら、最も効果的な方法を選択していくことが重要になる。」
まとめ
今回のcorner day Vol.8ではテーマを2つに分け、それぞれのテーマについて3つのグループが議論をするスタイルで実施しました。その結果、同じテーマであっても議論される視点が少しずつ違うなど、参加者の発見も多くあったようです。当社コーナーは今後も、corner dayを通じて、先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<corner dayとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<corner day Vol. 8:参加者一覧)※50音順
石原 健一朗 氏(ダイドードリンコ株式会社)
井元 敦也 氏 (株式会社エクサウィザーズ)
小笠原 修裕 氏(株式会社ハウテレビジョン)
小河原 英貴 氏(株式会社Schoo)
小口 徹 氏(フリーランス)
小島 隆秀 氏(株式会社ベクトル)
小林 剛士 氏(株式会社インタースペース)
久保田 慶 氏 (株式会社CAMPFIRE)
隈元 瞳子 氏 (Story Design house株式会社)
山藤 茂樹 氏(ネットイヤーグループ株式会社)
高橋 達也 氏 (株式会社Z-Works)
高橋 真寿美 氏 (ヘイ株式会社)
中澤 真知子 氏 (株式会社I-ne)
中野 晋太郎 氏(株式会社アンティル)
中山 康平 氏 (株式会社アドグローブ)
西野 雄介 氏(ランスタッド株式会社)
平岩 力 氏(株式会社 人的資産研究所)
藤田 大洋 氏 (株式会社ツクルバ)
松岡 広樹 氏(Supershipホールディングス株式会社)
他1名(東証一部ソフトウェア企業)
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る