【イベントレポート】事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは/CORNER DAY Vol. 16
事業や組織が成長した結果、社員の価値観や行動が徐々にマッチしなくなってしまうことがあります。それに対してどのようにアプローチ&アップデートをすればよいかと頭を悩ませる人事の方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、CORNER DAY Vol.16(2024年3月6日実施)では『事業成長とともにアップデートする価値観と行動様式とは』をテーマに、株式会社ZOZO 組織開発責任者の小金 蔵人さんをゲストスピーカーに迎え、参加者を5つのグループに分けて以下3つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)自社の成長に伴い、従業員の価値観や行動様式にどんなギャップが起きているか
(2)ギャップの背景・要因として考えられることは何か
(3)従業員の価値観や行動様式が自社の成長にフィットし続けられるようにするために必要なアプローチとは
今回は、本イベントに参加した人事責任者や管理職の方々(計18名)のディスカッションのハイライト、各社の取り組み事例などをご紹介します。
目次
自社の成長に伴い、従業員の価値観や行動様式にどんなギャップが起きているか
まず、実際に今起きているギャップについてのシェアから議論がスタートしました。事業や組織の「フェーズ」から来るギャップに意見が集まっていましたが、他にも人・プロダクトからの発生するギャップもあるなど発見も多くありました。
■フェーズによるギャップ
・上場前後のタイミングで外からの期待や見方が変わった結果、ギャップが大きく生まれた。創業期から所属してくれている方だけがわかるようなハイコンテクストなものではなく、新しく入社した方も迷わず受け止められるようなローコンテクストなものにすることが必要だと感じている。
・創業期には“個人商店感”が組織内にあり、それを良しとしていたメンバーが多くいた。しかし、ビジネスや組織フェーズが年々変わってきていることを受け、経営層として携わる形で残っているメンバー以外の多くはギャップを感じてすでに組織から抜けている。
・創業時からカルチャーは変わっていないものの、「どれだけ本気で良いと思えているか」は入社タイミングによって違う。「最近入社する人はうちのカルチャーをちゃんと理解できていない」と古参メンバーからも声が上がっている。新しく入社してくれる方へのオンボーディングを強化するだけでなく、古参メンバー側にも働きかける必要性があると考えている。
■人によるギャップ
・自社らしさの解釈は人によって変わりやすい。たとえば、「顧客思考」も一見具体的に見えるが人によって解釈にズレが生じやすいものだと思う。一方で、解釈を制限してしまうと「解釈の自由」が生まれず自分ゴト化されづらい側面も。このバランスをいかに保つのかが人事の腕の見せ所でもある。
・そもそも価値観や行動様式のギャップは「どこと比較するか」でも変わる。各人の解釈、社長の解釈、掲げている言葉の解釈など。特に言葉の解釈はなかなか捉えづらいため、言語化が難しいところ。
■プロダクトによるギャップ
・プロダクト単位でMVVがあれば大きなギャップもなく組織運営できる状況ではある。しかし、それではプロダクトを横断する異動はしづらいし、プロダクト側に何か大きな変化があれば急に求心力が弱くなることもある。チームなどの小さい単位の集合体としてプロダクト単位のMVVも保有しつつ、会社として大事にしていることはメッセージを出して共有する必要があると考えている。
ギャップの背景・要因として考えられることは何か
特に多くの意見が集まっていたのが、「そもそもズレはあって当然のものである」という考え方です。経営はすぐに変化する一方で、人の集合体である組織はすぐには変化できません。特に組織の価値観や行動様式は日常生活の積み重ねから生まれるものであるため、そこにギャップが生まれてしかるべきであるとの意見には多くの共感が集まっていました。
また、こうしたギャップがない=組織が変化(成長)していないことでもあります。そのため、「ギャップは生まれるもの」の前提に立ちながらも、可能な限り埋める作業を常に続けていく必要があることを多くの方が再認識したようです。
他にも、以下のような背景・要因がシェアされていました。
■社内外の変化
・20~30名規模から7年間で250~300名規模の組織に。創業期はサークルっぽい雰囲気もあったが、上場・資金調達を経て毎月5名程度が入社する今ではリスクマネジメントの必要性も高まり、価値観を入れ替えなくてはいけないフェーズになったと感じている。コロナ禍によるマーケット変化に対応するための構造転換(組織・役割)が求められたこともそれを助長している。
■「MVV」と「今の事業との接続」ができていない
・事業が変化してはいるものの、正しくMVVを理解していればそこまでギャップは生まれない内容になっている。しかし、都度「今の事業との接続」を行っていかなければ、社員の“解釈”にズレが生じてしまう。
・それ以外にもベンチャーキャピタルが入ったことでプレッシャーが高くなったことも要因になっている。経営陣は上場を目指しているが、メンバーにまでそのモチベーションが適切に共有されていない。さらに、ビジョンでは社会的意義を含むことを言っていても、現場館としては現実は業績を上げるためのHOWの連続で、その接続ができていないことがギャップを生む要因になっていると感じる。
■採用の重要性
・採用時点でコアな部分がズレてしまっていると、そのギャップを埋め切れることがなくなってしまう。多少のズレを調整することは後からできるが、根本がズレてしまっていれば対処が難しい。
・価値観やコアバリューに共感している人ばかりを採用で集めたからといって、多様性がないわけではない。人はそもそも多様。その上で考え方や大切にしていることが似ているというだけなのでギャップは存在してしまう。
従業員の価値観や行動様式が自社の成長にフィットし続けられるようにするために必要なアプローチとは
最後に、ここまでシェアされたギャップに対してどのようにアプローチすれば良いかの議論がなされました。いろんな角度からのアプローチがシェアされ、参加者にとっても発見の多い時間となったようです。
■現状理解を常に行う
・「1on1おじさん」と称して社員ヒアリングを継続している。他にも週2日は出社し、オフィス内を歩き回ってさまざまな方とコミュニケーションを取っている。そうしてアンテナを張り続けていると組織内の小さな変化にも気づけるようになる。
・退職者面談を1人で行っていた中で、一時期は朝から夜までその面談に時間を使っていたことも。そこで退職理由をヒアリングし続けることにより、組織の現状や特徴、さらには問題までもが見えるようになった。
・Geppoを導入している。工数を掛けずに組織状態を把握できるツールだが、「雨(状態が悪い)で報告すると人事に目をつけられるから晴れ(状態が良い)にしておいた方がいいよ」と一部で言われていることを知り運用方法には注意が必要だと感じているが、従業員のコンディションを測るアプローチ方法として活用している。
■アウトプットの工夫
・社内に大手広告会社出身のコピーライターやデザイナーが在籍しているため、MVVなどもその方々の知見を借りてワーディングを行っている。具体的には句読点1つにもこだわって表現している。従業員への伝わり方も全然違う。
・「あえて明確にしすぎない」ことを意識している。探求し続けること自体を自社のカルチャーとしていること、なぜ・どうしてと問い続けること=自分ゴト化だと考えているため、あえて曖昧な部分を残すことで探求の余地を作っている。
■コミュニケーションの工夫
・経営陣からの真摯なコミュニケーションを継続している。具体的には3か月に1度の経営戦略会議でMVVに紐付けた話をしてもらい、そこに対して社員がなんでも質問できる対話の場を作った。それ以外にも、普段から各チームで部長を起点にしたMVVに紐づくコミュニケーションを取り続けている。
・最近ピボット (事業の路線変更) をして、会社の事業ドメインとしてとしてはITサービス業から建設業になった。しかし、MVVへの共感度が高かったこと、一貫性のあるコミュニケーションにこだわってきたことを受けて離職は極少で済んでいる。「お客様への提供価値(豊かな暮らしを届けること)に変わりはない」と社員が考えてくれていることが要因でそうできている。
・人事は言わば「組織の中間管理職」。経営と現場の間に立ち、その両者にズレがあればつなげる作業を継続して行うことがミッション。その具体的な手法にはMVV浸透や1on1などがある。
■スタンスの工夫
・そもそも「事業や組織は変わるものだ」の認識を持ち、変われていない側の意見に惑わされないようにしている(例:昔は良かったと発言する古参メンバーなど)。現状とフィットしない人とは適切に距離をとったり、タイミングを見て卒業してもらったりすることも重要。こう聞くと厳しく聞こえるかもしれないが、事業成長なくして組織なしであるため、より良くして変化していくために必要な判断は行っていかなければならない。
■時間軸の工夫
・数年後を先に想像して行動様式を考えている。価値観や行動様式は組織が迷ったり濁ったりしたときに立ち戻るべきもの。現状は順調だったとしても、いざ低調になってしまったときのことを想定して考えておく必要がある。
・こうした課題は組織のフェーズや人数規模により共通する部分も多いため、「先を行く企業に学ぶ」ことも重要。業種や業態は違ったとしても、自社がこれから直面するであろうフェーズを経験した企業・人事から学ぶことができれば、課題に対して先回りすることもできるため。
イベント参加者の声
『考え続けることに価値がある。正解や終わりはない。ギャップをほっておくと組織は腐っていってしまうため、常に磨き続ける大切さを理解できたとともに、各社でそれが行われていること自体が美しいなと感じた』
『ギャップはあって良いものだと再認識できた。一見ネガティブに見えてしまうギャップであっても、それは会社や組織が変化(成長)したからこそ生まれたもの。前向きに捉えた上で、どう埋めるかは考えていきたい』
『すぐに変化する経営と、ゆるりとしか変化しない組織(社員)をどんな言葉でつなぐか。ここは内容はもちろん、言葉1つひとつなどの表現に至るまで検討・工夫しきる必要性を感じた』
『MVVやカルチャーはピンチの時ほど有効なのだと学んだ。特に問題のない好調時であっても、いずれ来る可能性がある有事に備えてその浸透度やギャップに目を向けておくことが大切だと思った』
まとめ
「ギャップはあって良いもの」の前提を再確認することで、「そこからどうするか」を考えやすくなった印象を持ちました。また、イベント実施後には他チームの議論サマリーが全体共有され、より多くの学びに繋がっていました。当社は、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 16:参加者一覧)※50音順
井上 朋一氏(パンチ工業株式会社)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
遠藤 理恵氏(株式会社CRAZY)
岸下 晶子氏(エムスリーキャリア株式会社)
小金 蔵人氏(株式会社ZOZO)
小林 杏子氏(株式会社ツクルバ)
永井 雄一郎氏(株式会社スマートドライブ)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
永島 寛之氏(トイトイ合同会社)
中野 雄介氏(株式会社iCARE)
野田 敬子氏(ココネ株式会社)
長谷部 航太氏(アクシスコンサルティング株式会社)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
藤田 大洋氏(株式会社ツクルバ)
前田 宏美氏(ソウルドアウト株式会社)
宮田 ゆかり氏(株式会社クラッソーネ)
吉川 彩加氏(READYFOR株式会社)
他1名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス
CORNER DAY vol.15:成長実感に溢れる組織にするには