【イベントレポート】成長実感に溢れる組織にするには/CORNER DAY Vol. 15
従業員の仕事意欲向上・離職防止などにつながる「成長実感」。従業員の「成長」を意図した施策を進める企業は多いですが、「成長」と「成長実感」を分けて考えて施策を考える企業は多くないのではないでしょうか。
従業員が成長できるための仕組みや仕掛けを用意しているものの、成長環境を求めて転職する社員は一定数出てしまっている企業が多いと聞きます。その要因の一つとして、成長機会はあるが、成長実感が伴わない組織が多いのではないかと考えた時に、全社員が継続的に「成長実感」を得る組織開発により、社員自律もエンゲージメント課題も生産性も同時に解決するのでは?と仮説を立てることができると考えました。
そこで、「成長実感」の有用性に着目して、それが溢れる仕掛けにはどのようなアプローチがあるのか探求することで、企業にお役立ちできるかもしれないということから、CORNER DAY Vol.15(2023年11月8日実施)では『成長実感に溢れる組織にするには』をテーマに、参加者は5つのグループに分かれて以下4つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)成長実感はどのような時に感じられるか
(2)成長実感を持てている社員にはどのような行動が見られやすいか
(3)成長実感を持つために必要な要素は何か
(4)成長実感に溢れる組織にするために、人事としてどのような仕掛けが考えられるか
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計22名)のディスカッションのハイライト、各社の取り組み事例などをご紹介します。
目次
成長実感はどのような時に感じられるか
まず、それぞれや周囲の人が「成長実感を得た瞬間」のシェアからスタートしました。内的・外的要因の双方からさまざまな意見があり、どのようなシーンで成長実感を得られるかは人によってかなり違うことが見て取れました。
【内的要因】
■内省・過去比較
・過去の仕事やアウトプット(企画資料など)を見ると、視座・観点・配慮・言葉の洗練さなどが今と比べて出来ていないことが多く、成長できたのだなと感じる。
・できないと思っていたことができるようになったとき。財務会計や英語が以前はできなかったが、今ではできるようになっている。
・昔より選択肢が増えている瞬間。スキルアップなどにより自分で仕事や環境を選べるようになったことを受け、市場価値としての成長実感を持っている。
■挑戦して成功・失敗したとき
・挑戦に向き合ったときに自己効力感が高められている。
・成功したときはもちろん、仮に失敗しても何かしらを形にできたときは成長実感がある。
・「できるかわからないけどやってみる」環境に身を置いたときに成長実感がある。これは仕事に限らない。成長実感は誰かにフィードバックしてもらって得るのではなく、自分の身を置く環境で得ることが多い。
・前例がないことをやってのけたとき。できないと思っていたができたとき。
【外的要因】
■他者からのフィードバック(評価を含む)
・他者からの影響がないと成長実感は得にくい。特に目の前の業務に追われていると成長実感を得られにくい。
・他者からのフィードバックを自身の中で言語化し、次に繋げることができたとき。きっかけは外的要因だが、最後は内的要因(内省)も含んでいる。
・評価やフィードバックのタイミング。その中で「前の自分とは違う」と思える瞬間をいくつか用意できると、成長実感が得られやすい。
・キャリアカウンセリングで自らの話をすると成長を実感をすることがある。内省を外から促される形。
■相対評価(市場価値・年収・役職など)
・若手ほど市場価値を気にしている。自身の成長をそことの比較で実感しようとしているのかも。社内では昇格や年収が上がったなどの物差しが成長実感に繋がる要素か。
・学生でリーダーとしてやってきた人が、会社に入ると立場的に1番下になる。そのため自己効力感が低くなって、市場価値・年収・役職のような比較対象・物差しを求めるようになるのかもしれない。
■与えられる課題の難しさ
・難しい仕事と向き合ってできたときや、それによる筋肉痛的なものから成長実感を得ることも多い。反対に、取り組みが平坦になると停滞感がある。
・「立場が人を育てる」の言葉もあるように、役職が自分を育ててくれた実感がある。
・環境やミッションが変化し、それを乗り越えたときに成長実感がある。
その他の意見として、「そもそも成長実感がない」というコメントもありました。以下のような意見が出ています。
■そもそも成長実感がない
・実際には成長していたとしても、それを振り返る時間がないほど何かに熱中していると成長実感は持てない。立ち止まって内省したり、踊り場が来たりしたときに感じるもの。「気づいたら成長していたね」くらいが本質なのかもしれない。
・本当に成長している人は成長実感を持っていないことも多い。目の前の期待に応え続けているうちに自然と成長しているもの。その役割から逃げる形で別の道(資格取得など)を目指す方もいるが、それでは成長はできても成長実感は得られないのでは。
成長実感を持てている社員にはどのような行動が見られやすいか
続いて、成長実感を持てている社員に共通する行動について各自の考えがシェアされました。
■自らチャレンジできている
・自分でストレッチゾーンを拾いに行ける人は成長実感が高い。コンフォートゾーンにずっといる人は成長実感を持てていないように感じる
・新しいことに積極的に取り組むとできることが増えるので成長実感を得やすい。そこに加え、きちんと振り返りの時間を意図的に設けられると経験学習サイクルが回りさらに成長実感を得ることができる。なお、その振り返り時にフィードバックをポジティブに受け止められる人はより効果的に成長実感を高められている印象。
・自分から「この仕事をください」と言える人。自分の仕事に熱中しており、良い意味で成長実感を気にしていない。目の前のことに集中している人はそもそも「成長実感がない」などの思考に陥らない。
・サーベイを取ると、若手メンバーの方がチャレンジ機会が多い。年齢を重ねると自身の守備範囲を定めてしまう人もいる。圧倒的に若手の方が成長実感率は高い。
■主体的・当事者意識が高い
・平たく言うとポジティブ。その方だけでなく、他の人にも良いフィードバックや影響を及ぼす形になり、周りに成長実感を促す役割としても活躍してくれる。
・成長実感のある従業員のサーベイ回答はポジティブなものが多い。発言や仕事の拾い方にも違いが出てきている。周りが見ていても嬉しくなるような方。
・無理難題が来たときでも笑顔で「どうにかなるでしょ」的なスタンスがある。
・反対に「受動的」な方は成長実感がないことが多い印象。「なぜ成長実感がないと思うのか」と問いかけると、「機会がない・与えてくれない」などの発言が多い。
■MVVと自分の人生をリンクさせられている
・MVVと自分の人生をリンクすることにより、成長実感がより主観的なものになる。目的に対する差分を自分ゴトとして捉えられている。
■成長をいい意味で意識していない
・成長している社員ほど成長自体にフォーカスしていない。目の前の仕事が楽しくてやっているだけなど。ポジティブな陽のパワーがあり、周囲の評判も良い。
・夢中に仕事している人ほど、後から成長実感が遅れてくる。気づかずに成長している状態。
この中で「成長と成長実感の違い」についても議論が進み、より本テーマについての解像度が上がった印象です。
<成長と成長実感の違い>
・成長しているのに成長実感を持ってない人もいる。
・反対に、成長実感はあっても実際に成長できているかは別問題。
・成長実感はあるのに成長できていないのはなぜか。成長実感は主観であるのに対し、成長は客観だから。いくら成長実感を持てていても、いざ転職となると不安になるのはそのためか。
・社内の等級や資格などのわかりやすい評価をもらえば階段を登れている実感があるが、それでも成長実感を持てない人もいる。
成長実感を持つために必要な要素は何か
ここまでの議論を踏まえて「成長実感に必要な要素」を整理してみると、大きく4つの要素に意見が集まっていました。
(1)主体性・謙虚さなどのスタンス
(2)他者視点(フィードバック)
(3)目標(モデル)・基準
(4)チャレンジ機会
また、ここまでの議論を振り返る中で「そもそも成長実感は重要なのか」といった意見も飛び出し、改めてその重要性について考える時間を持ったチームもありました。以下のように異なった視点から意見が出たことで、より考えが深まった印象です。
「すべての人にとって重要・有用ではなく、日々の仕事が回っていれば良いと考える人には必要ない可能性が高い」
「できることが増えるのは人間の根源的な幸せの1つ。成長実感が求められない仕事であっても仕掛けとしては必要」
成長実感に溢れる組織にするために、人事としてどのような仕掛けが考えられるか
最後に、従業員が成長実感を日々持ってもらえる組織にするために人事ができることについて議論が行われました。中には現在取り組んでいることを詳しくシェアしてくれた方もおり、各チームともに議論が盛り上がっていました。先ほど記載した「成長実感を持つために必要な要素」に沿って一部をご紹介します。
(1)主体性・謙虚さなどのスタンス
主体性などのスタンス面を考える上では「採用」が非常に重要だと考える方が多いようでした。ここでミスマッチがあると従業員にとって苦しい環境になってしまいますし、MVVへの共感やカルチャーマッチなしにはスキルも発揮できないからです。逆に、カルチャーやスタンスが合えば勝手に成長してくれるという意見もありました。
(2)他者視点(フィードバック)
ここでは1on1に関する取り組みが多くシェアされていました。
・バースデー1on1を実施し、1年前の自分と比較してもらう時間を作っている。
・入社5年以内の新卒メンバーに対して、隔週〜月1回のペースでグループリフレクション(内省)を実施。周りからフィードバックをもらうだけでなく、他者に問いを投げる力も身につく。年次の異なるメンバーを同じグループにすることで先輩・後輩との差分に気づくことも。
・直属の上司ではない方からフィードバックをもらう機会を作っている。
・定例の1on1の中で、「昔はそれをできていたか?」などの過去比較ができる問いを意識的に投げている。
(3)目標(モデル)・基準
・入社時に自分の人生のプレゼンをする機会を作っている。フィードフォワード的な考え方。プレゼンする本人への効果はもちろん、それを聞く周囲にも良い影響があり、相互理解・コミュニケーション促進にもつながっている。
・トップからのインナーブランディング(企業理念やブランド価値を社員に伝えて浸透させる活動)実施。マネジャーの立ち位置では言えないことをトップから言ってもらう。今やっていることがそこにつながっていると感じることでバーンアウトを防ぐ効果も。
・組織としての自己効力感を作るために、全社ミーティングの場を活用してMVVとの接続を実施している。MVVを新たに共有し、さまざまな年代のメンバーが入り混じったチームの中で議論を進めていく。上記のような組織効力感を醸成する取り組みを行なっている。
(4)チャレンジ機会
・適切なストレッチを常に与え続けるために、仕事の種類や上司を変えるなどの機会を適宜行っている。
・新規事業コンペの企画・運用。ある企業では年2回開催しており、それぞれテーマを絞って募集をかけたところ300名以上の応募があった。
・一方で、機会にも限界がある。永続的に与え続けることは難しいため、自律的に成長や進化ができる関わり方も考える必要がある。
・ジョブ型が増えると違うミッションへの異動が難しくなるが、スキルにフォーカスすれば違う機会は提供できる。
イベント参加者の声
『各社の状況によって抱える課題感や打ち手が違う。正解がない中で人事として現場を見極めて経営・事業戦略の舵取りをやっていかないといけないと改めて感じた。人事企画として1人で取り組んでいる中で、みなさんも色々悩まれていることを知り、1人じゃないなと思えたことが嬉しかった』
『成長と成長実感を初めて分けて考えることができた。成長実感を1人で得られる人もいれば、他者からの承認が必要な人もいる。会社は成長していても従業員は成長実感を感じていないようであれば、それはサステナブルじゃない。とはいえ、成長実感があれば会社も成長しているとは限らない。成長実感にだけ注力していると会社としても進む方向性を誤る可能性があると感じた。双方のバランスを自社に合わせて実装したいと思った。』
『機会にも限界があるというのが特に学びとなった。機会を潰されたときに人事がどうサポートするのかがポイント。いかに熱狂的な組織を作るかが人事としての次の課題であると思う』
『成長実感にも高さや奥行きがあることを改めて感じた。従業員の層によってはスタンプラリー的な形で成長実感を得られるような仕掛けを作ることも重要。1on1のログを残して過去を振り返ると、成長実感を得やすいという取り組みは非常に参考になった』
まとめ
「成長」と「成長実感」で言葉を分けて考えたことで、より多くの気づきや発見があったようです。また、イベント実施後には他チームの議事録も全体共有され、より多くの学びに繋がっていました。当社は、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 15:参加者一覧)※50音順
飯田 竜一氏(株式会社企画人事)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
遠藤 理恵氏(株式会社CRAZY)
大内 礼子氏(フリーランス)
緒方 崇允氏(株式会社カミナシ)
久保田 慶氏(ファイナンシャルスタンダード株式会社)
小林 杏子氏(株式会社ツクルバ)
小山 侑子氏(株式会社LYL)
佐藤 真治氏(株式会社じげん)
高橋 真寿美氏(STORES株式会社)
永井 慎也氏(株式会社ユーグレナ)
永井 雄一郎氏(株式会社スマートドライブ)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
長谷部 航太氏(アクシスコンサルティング株式会社)
林 英治郎氏(LINEヤフー株式会社)
平山 鋼之介氏(Sansan株式会社)
福島 丈史氏(LINEヤフー株式会社)
舟木 祐介氏(Tesla Motors Japan合同会社)
溝呂木 あい氏(株式会社iCARE)
宮田 ゆかり氏(株式会社クラッソーネ)
他2名
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル
CORNER DAY vol.14:MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス