【イベントレポート】MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス/CORNER DAY Vol. 14

ミッション・ビジョン・バリュー(以下MVV)を策定して組織内へ浸透させることにより、従業員の自発性を引き出したいと考える人事は多いでしょう。しかし、自発性を引き出したいと考えながらも“浸透させる”という指導性の強さに矛盾を感じている方もいるのではないでしょうか。
そこで、CORNER DAY Vol.14(2023年8月30日実施)では『MVVに基づく内発的動機を引き出す、人事施策の指導性と自発性のバランス』をテーマに、参加者は5つのグループに分かれて以下4つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)従業員のMVVに基づいた内発的動機の発揮度合いについて、理想の状態と現在のギャップはどの程度でしょうか?
(2)これまでの内発的動機の発揮度合いを高めるための施策を教えてください。
(3)これまでの施策について、指導性(浸透や教育施策)と自発性を重視する施策のバランスは、どのようにしていますか?
(4)理想状態に近づいていくために、次に行う一手はどのようなことが考えられますか?
今回は、本イベントに参加した人事責任者クラスの方々(計19名)のディスカッションのハイライト、各社の取り組み事例などをご紹介します。
目次
MVVに基づいた内発的動機の発揮度合いにおける理想と現状のギャップ
まず、事前のアンケートで各自内発的動機の発揮度合いについて、現状の点数をつけてもらったところ20点~90点まで幅がありました。大半の方が60点前後を付けており、まだ理想には遠い印象を持っている方が多いようです。なお、理想と現状のギャップ(≒課題)としては以下のような点に意見が集まっていました。
■バリューの定義は分かるが体現できていない
多くの方から挙がっていた課題は、バリューの言葉自体は定められており、その定義も従業員にしっかり伝わっている感覚はあるものの、行動としてなかなか表れない点に難しさを感じているようでした。中には、従業員の多くがが自社のバリューを諳んじて言えるにも関わらず、組織が求める行動変容やスピード・本質的な理解・自発性には繋がっていないと話す企業もありました。
理想としては「バリューについては覚えてなくても、行動は合っている(自発性がある)」といったバリューが当たり前になっている世界観を多くの方が描いていました。一方で、日常会話にバリューが出てくると「良い状態」、バリューにそぐわない行動を取っている人に指摘がないと「悪い状態」として組織を観察しているとの意見もありました。
■経営陣の内発的動機の引き出し不足
従業員の内発的動機を引き出す上で、「そもそも経営陣は発揮できているんだっけ」といった疑問も投げかけられました。経営陣の日常的な行動・発言からMVVを体現していかなければ、従業員の見本となることはできません。また、MVVの発信・浸透は人事ではなく経営陣から行った方が有効であるとの意見もあり、いかに経営陣の内発的動機を引き出すかは1つのポイントと言えそうです。
■MVVが組織・事業の“今”とマッチしていない
メルカリ社の有名なバリューに「Go Bold(大胆にやろう)」がありますが、いかにすばらしいバリューであっても自社に合うかどうかは別問題だという話も挙がりました。また、組織・事業のフェーズによっては元々あったMVVの世界観とズレが生じている可能性も指摘され、見直し・塗り替えの必要性についても議論されていました。
■レイヤー間でのギャップ
インターンでMVVを伝えることで内発的動機を発揮してくれる方がたくさん入社したものの、受け入れ側の組織・上司がそれに追いついておらずギャップが生まれて退職してしまうケースもあるとの意見も。また、「経営者は内発的動機で動いているが、中間層が外発的動機で動く方ばかり」という状況に違和感を覚えた良い従業員が退職してしまうケースもあるなど、新規入社者・既存従業員の双方にギャップが生まれてしまっている現状があるようです。
内発的動機の発揮度合いを高めるための施策
続いて、先に議論された「理想と現状のギャップ」を埋めるために各社が取り組んでいることについて共有がありました。
■制度関連
・MVVを評価として毎月運用。半期ごとの評価も要素の半分はバリュー
・マネージャー昇格基準にフィロソフィーの理解/浸透施策/実績が含まれている
・バリュー策定時に「みんなでつくる」(従業員間の相互理解と理解度・共感度向上のため)
■表彰・称賛
・バリュー評価を通じて良い行動を称賛する
・バリューに基づいて毎月のMVP表彰
・関係性の良いクライアントへ取材を行い動画化(自社サービスについて外の声を拾って社内に伝える)
■採用関連
・採用基準にMVV共感を含める
・採用面接時にMVVに共感した要因となる原体験を語ってもらう
・アルムナイ採用(同じような思いを持っていた方が違う場所で活躍している姿を現社員に見てもらい、自社の中からは見えない自社の魅力を知る機会にもなる)
■業務内での支援・取り組み
・willに基づく成長のための業務アサイン
・ビジョンワークショップの実施(週1時間、中長期的に緊急度より優先度が高いこととビジョンパーパスをつなげてチームで議論してもらう)
・フリーディスカッションで組織の未来について語り合う場を作る
・新卒若手メンバーを中心に孤独を生まないためのオフィス環境やサービスの提供
・1on1での振り返りによる成長支援(バリューの自分事化サポート)
■研修・イベント関連
・入社時研修によるMVVインプット
・MVV関連の各種コンテンツ配信(ラジオ・インタビューなど)
・全社総会でMVV発信の時間を必ず設ける
・執行役員合宿を通じて、それぞれの自部署のメンバーのMVVを元にした自発性発揮を執行役員に担ってもらう
・マネジャーへのフィードバックトレーニング
・バリュー起点で考え言語化するワークショップ
・研修後アンケートを行う際は「満足度」ではなく「そこから何を学んだのか」という問いの実施・「参加する側」ではなく「提供する側」の機会創出・提供

指導性と自発性のバランス
この指導性と自発性のバランスについては、コーナー社内でもイソップ童話「北風と太陽」になぞらえて話が挙がるテーマです。北風のように力ずくで相手を動かそうとしてもうまくいかず、太陽のように、相手の立場を考えて自分で行動するように促すアプローチの2つをなぞらえています。自発性を引き出すためにやること・やらないことなどについて、議論が行われました。
■行動するから浸透する
いくらインプット的な浸透・教育施策を実施しても、それと連動したアウトプット(行動)がなければMVVは本当の意味で浸透しない(体現されない)といった意見には、改めて大きな共感が集まっていました。また、「MVVがあるから自発性が上がる」のではなく、「結果的にMVVを体現することでわかりやすいメリットがある状態」を用意できれば自発性も生まれるのではないかとの見方もあり、いかに「行動」を促すかが施策のバランスを考える上でも重要なようです。
また、行動を促す上で「生み出す苦労を感じてもらい、自発性を引き出している」という方も。研修やイベントに参加して受けとるだけでは行動変容が期待できないため、反対にそのイベントや研修を生み出す側に回ってもらい、その苦労を経験する中で自発性を引き出そうとしている企業もあるようです。
■ミドルマネジメントへの関わり
メンバー1人ひとりの自発的な行動を引き出す上でキーマンとなるミドルマネジメント。そこへのサポートや関わりも重要視している企業が多いようでした。今回の参加企業ではありませんが、ある会社のミドルマネジメント向けのMVV浸透施策・MVVと連動させた評価制度などの話も挙がり、いかに組織内キーマンの自発性を高めて伝播させるかの重要性についても議論されていました。
MVVを自分事化し行動の源泉にする。端的に言えば、自身のこだわりや情熱をうまく社会や組織に接続することは、とても高度でトレーニングが必要なものです。音楽や芸術など自身のエゴをどうにか接続しないと成立しない世界でやっていた方などであれば接続しやすいものですが、そうではない大半の方は誰かのサポートが欠かせません。その役割を一番近いところで担えるのが、ミドルマネジメントなのかもしれません。
■状況やフェーズに応じて「指導性」と「自発性」のバランスを変える
施策のバランスはいつも同じではないことについて各チームでも議論が深まっていました。いろんな視点がありましたが、例えば「有事の際には指導性を出し、平時になったら自発性にシフトする」などの基準を持っている方も。採用においても有事には自発性がそもそも高い方を採用しなければ業績が傾いてしまうが、平時にはまだ自発性が引き出しきれていない方でも採用して浸透・育成を行っていくなど、具体的なアクションの変化についても紹介してくれていました。
また、時間軸やフェーズでもバランスが変わるという意見もありました。何事でも立ち上げ期は一定指導性を強めて方向性を定め、それが軌道に乗った一定のラインから自発性を徐々に高めていく形をイメージされている方が多いようです。
日本全体の話で言うと、これまでは指導性の比重が多い企業が大半だったように思います。しかし、昨今では自発性を重視する割合が徐々に増えている印象もあり、各企業ともに「どう自発性を引き出そうか」と思案しているように感じます。ただ、そうした世の中の流れだけに捉われず、自社の状況やフェーズに合わせたバランスを模索することも忘れてはいけないのかもしれません。
理想状態に近づくための「次の一手」
最後に、より理想的な状態に近づいていくためにこれから行いたいと考えている施策について、それぞれの考えがシェアされました。
■採用
「MVVの浸透と言っているが、結局採用が一番強い」という意見はスタートアップ〜ベンチャーフェーズの企業の方から多くの共感が集まっており、採用の影響力の強さを感じました。実際に採用がサーベイ数値に一番効果をもたらしている企業もあるなど、「合う人を採用し、合わない人は引き止めない」といった新陳代謝の重要性については議論が盛り上がっていました。
■研修・イベント系
現在行っている取り組みシェアの中でも多くの意見が挙がった本項目。そこに刺激を受け、自社でも取り入れてみようと感じたものが多くあったようです。中でもただインプットするのではなく、研修やイベントを通じてうまくアウトプットを引き出してMVV体現行動を増やそうとする取り組みについては多くの注目が集まっていました。
■バリューの再考
市況や自社の変化に合わせて、これからバリューを再考していこうと考えている企業もありました。すでに経営側とも合意が取れており、MVVの中でも特にバリューが自社にマッチしなくなってきている(どの会社でも言えてしまう)状態の改善を目指すとのこと。なお、この際は100名以上いる従業員の方全員を巻き込みながら、第三者の力も借りてバリューの再考・言語化を進めて行かれるそうです。
イベント参加者の声
『共通の悩みも多くあり、自身を客観的に振り返る良い機会となった。自分の中の最適解に収まらず、外の方と話すのはとても大事です』
『これまでHR系のイベントには参加したことがなかったが、今回は他社のリアルな状況についてその当事者になっている方々と直接話をできてとても役に立った。調べても出てこない情報ばかりだったと感じる』
『MVVは主観だと思っていたが、自分の部下の体現度を話すなど客観的に感じさせる仕組みが重要だと感じた。主体性を引き出す上でも重要。言葉としてアウトプットさせるのも効果的なので、自社でもパーパスワークショップをやってみようと思う。こうして毎回持ち帰れるものが多くて嬉しい』
まとめ
事業規模やフェーズが異なる方々が、リアルケースを引き合いに出しながら議論をしたことにより、いつもと違う視点や角度の発見が多くあったようです。また、イベント実施後には他チームの議事録も全体共有され、より多くの学びに繋がっていました。
当社は、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 14:参加者一覧)※50音順
飯田 竜一氏(フリーランス)
石原 健一朗氏(ダイドードリンコ株式会社)
伊藤 允晴氏(株式会社PETOKOTO)
上田 明良氏(株式会社エニトグループ)
浦川 雄志氏(アビームコンサルティング株式会社)
小倉 将氏(株式会社アカツキ)
唐澤 一紀氏(株式会社Nint)
佐藤 恵一氏(シャインフォース株式会社)
高橋 真寿美氏(STORES株式会社)
永井 慎也氏(株式会社ユーグレナ)
永井 雄一郎氏(株式会社スマートドライブ)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
永島 寛之氏(Qrious合同会社)
中野 雄介氏(株式会社iCARE)
野村 吉貴氏(ユーザーライク株式会社)
長谷部 航太氏(アクシスコンサルティング株式会社)
林 英治郎氏(LINE株式会社)
舟木 祐介氏(Tesla Motors Japan合同会社)
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは
CORNER DAY vol.11:「権限委譲」による管理職育成と環境整備
CORNER DAY vol.12:「非生産的職務行動」が起きない組織運営、起きた場合の対処方法
CORNER DAY vol.13:次世代リーダーが直面する課題と解決に必要な経験・スキル