【イベントレポート】「権限委譲」による管理職育成と環境整備/CORNER DAY Vol. 11
事業や組織を拡大していく中で、上位役職者が持つ権限を適切に委譲していくことは必要不可欠です。しかし、そのタイミングや方法論は一様ではなく、各社の状況やフェーズに合わせたアレンジが求められます。
そこでCORNER DAY Vol.11(2022年12月7日実施)では、『「権限委譲」による管理職育成と環境整備』をテーマに、参加者は5つのグループに分かれて以下2つの問いについて議論しました。
<問い>
(1)「権限委譲」をする目的・推進背景について
(2)「権限委譲」をスムーズに進めるために必要な環境面とは
今回は、本イベントに参加した人事責任者・担当者・スタートアップ経営者(計21名)のディスカッションのハイライト、各社の取組事例などをご紹介します。
目次
「権限委譲」をする目的・推進背景について
まず、各社の取り組み状況についての共有が行われました。それによると、約9割の企業がすでに『権限委譲を進めている』、残り1割の企業も『これから行う予定である』と回答し、全企業が「権限委譲」の取り組みを進めている様子が見て取れました。
「権限委譲」を行う目的と背景
大きく以下3つの観点に意見が集まりました。
(1)経営(意思決定)のスピードを早めるため
組織が拡大していく際に起こりがちな経営(意思決定)スピード感の低下を防ぐべく、ミドルマネジメントや現場などへ「権限委譲」を進めている企業が多く見られました。また、専門性の高い領域においてはその分野のプロが主体的に業務を進められるように権限を委譲を行い、業務推進スピードを高めようとしている企業もあるようです。
(2)組織・人材開発を進めるため
次世代のミドルマネジメントや幹部候補の育成など、『社員を1つ上のレベルへ引き上げるための手段』として「権限委譲」を進めているという意見も多く聞かれました。上位役職の責任・権限を渡し、成功・失敗を通じて同ポジションにおける経験を深めてもらうことが狙いのようです。そうした社員の能力開発以外にも、モチベーションやエンゲージメントの向上・組織活性化・社員の主体性を育むなどの組織開発的な観点からの目的も共有されました。
(3)組織・業績拡大に対応するため
今後さらに組織が拡大していくことを見越して「権限委譲」を進めているという声も多くありました。中でも、『権限を委譲することでボードメンバーの業務負荷を軽減し、中長期的な取り組みに注力するリソースを確保したい』と考える企業は多いようです。また、IPOを視野に入れている企業では、組織ガバナンス観点からも「権限委譲」の重要性は認識されているようでした。
今まさに感じている課題
「権限委譲」の取り組み目的や背景については各社似たようなポイントに意見が集まりましたが、課題感についてはややバラつきがありました。大きく以下4つの観点から、それぞれの課題がシェアされました。
(1)思ったほどスピードが上がらない
経営(意思決定)スピードを早めるために「権限委譲」を行ったものの、合議制の色合いが濃くなった、個別決裁が必要になった、などの理由から狙った効果を得られていない企業も少なくないようです。中には『トップが独断決裁を行っていた時代の方が意思決定スピードは早かった』と感じている企業もあり、「権限委譲」後の決裁方法や運用の在り方も重要であるとの意見には多くの共感が集まりました。
(2)どこまでの範囲で「権限委譲」を行うか
金額、時間軸、組織構造に基づく権限、会議体に紐づく権限──ひと口に「権限委譲」と言っても、どの範囲にどういった権限を委譲するかを設計することは簡単ではありません。その目的や企業フェーズなどによっても変わってくるため、常に試行錯誤している様子が伺えました。また、『組織マネジメントに必要な権限委譲は一定できたものの、事業成長に向けたチャレンジングな権限委譲(修羅場経験や配置を含む)まではまだ取り組めていない』などの意見もあり、「権限委譲」の深さにも各社で違いがあるようです。
(3)「権限委譲」できる候補者が不足している
「権限委譲」や抜擢をしていこうという気運は組織内にあるものの、それに見合う人材が不足している状況があるようです。内部登用や育成では間に合わず、外部登用も視野に入れて進めている企業が多いようですが、昨今の採用難易度の高さからそれも容易ではないことから、先々を見越したタレントマネジメントとの重要性が再認識されていました。
(4)組織環境・スタンスの観点
「権限委譲」をする側がいかに失敗を許容できるか、引き上げようとしているかといった環境やスタンス面に課題を感じている企業も少なくないようです。また、同じ会社でも部門ごとに環境やスタンス、業務の状況や前提が異なることから、「権限委譲」を行う前にそうした下地(業務効率化・生産性向上など)を整えておくことも大切であるといった意見もありました。
「権限委譲」をスムーズに進めるために必要なポイントとは
一通り現状と課題についてシェアされた後は、各社の取り組みや工夫事例なども含めたディスカッションが行われました。非常に多くの観点から意見が集まったため、グルーピング&抜粋してそれぞれをご紹介します
『権限』の種類や定義を明確にする
各社が考える『権限』の定義はそれぞれ違うようです。『人とお金 / 戦略』の2面で考える企業が多い印象でしたが、中には『パフォーマンスマネジメント / ピープルマネジメント』の2面で捉えている企業も。また、大半の企業においては『戦略』面の委譲はなかなかされず、幹部メンバーで決めている実状もあるようです。
「権限委譲」が必要なタイミング
組織規模、事業内容、企業フェーズなどによって「権限委譲」が必要なタイミングは異なります。例えば、100名未満の組織であればトップの独自決裁だけでも回る印象で、それ以上の組織規模を志向する上では「権限委譲」が必須であるというのが共通の認識のようです。一方、ガバナンスの観点から考えると組織規模に関わらず「権限委譲」は進めた方が良いといった意見もありました。
「権限委譲」先の候補者確保・育成
候補者確保の方法としては、内部登用と外部採用の2つの選択肢が挙げられました。ある企業では、内部登用時にはまず候補者に自信を持たせることから始めているそうです。その方法論としてもいくつかアイデアや事例が上がり、早いうちから上位層の会議に参加させることで候補者自身の体験と内省を深め成長を促す取り組みなどが共有されていました。
また、外部採用時にはオンボーディングやサポートが重要であるとの意見も。ある会社では外部採用者への「権限委譲」が効果的にワークする確率を2割~3割程度と見ており、その率を高めるために採用前から社内の一定レイヤー以上の社員全員との会食機会を設けてオープンな話をしていると言います(秘密保持契約も締結した上で)。その会社独自のカルチャー・風土にアジャストするためのサポートは欠かせないという認識は多くの企業で共通しているようでした。
抜擢人事による「権限委譲」
ある企業では、25歳の若手社員を開発部門の役員に抜擢したり、取締役に女性マネジャーを抜擢したりといった取り組みを行ったそうです。このような形で明らかに権限を持っているポジションに抜擢することも、「権限委譲」の1つのやり方である一方、こうした抜擢人事によって周囲の人材が退職してしまうケースも見受けられました。そのリスクも見越した上で、抜擢人事は行う必要がありそうです。
長期スパンで「権限委譲」をアレンジする
ある会社から、『5年スパンの次世代リーダー育成プログラムを進める中で「権限委譲」を進めている』といった共有があり、この取り組みには多くの関心が集まりました。具体的には、毎年次世代のリーダー候補を招き、参加1年目のメンバーが部門の組織課題を解決するといった内容のものです。今の管理職もこの取り組みを経験しているメンバーばかりのため、その取り組み背景も知った上でうまくサポートできるようになっています。こうした形で中・長期的に取り組みを進めることができれば、委譲先の候補者・能力不足などの課題も軽減できる効果がありそうです。
『権限の委譲』ではなく『経験の配分』と考える
ある方から『“権限”を委譲するという表現になるから難しくなる。経験を配分・継承していくと考えればイメージしやすい』といった意見が飛び出し、共感が集まっていました。次世代を担うミドルマネジメントメンバーにどんな経験を配分すればよいかの観点で「権限委譲」を考えると、おのずと委譲するべきものが見えてくるというイメージです。
任せきる胆力が大事
表面上は「権限委譲」が行われていても、裏側では任せきれていなかったなどの事象はよくあるようです。『基本的には任せるが、毎週報告は欠かさずに。』といった状態も二律背反にあたるとし、委譲する側の任せきる胆力の重要性が議論されました。一方で、責任までもすべて委譲されてしまってはチャレンジが進まず成長できないことから、結果責任は引き受けた上で権限のみを委譲する姿勢がポイントになりそうです。
イベント参加者の声
『イベントへ臨む前は抽象度の高いテーマだと感じていたが、実際に参加してみると具体的なHOWの部分まで議論や情報共有ができて良かった。自社の課題感にフィットした事例やアイデアももらえたため、すぐに活かせそう。』
『2~3年ほど前から「権限委譲」については進めてきた。今回のイベントを通じて、その取り組みの答え合わせ的なことができたと感じている。今後足すところ・引くところを考えるきっかけにもなった』
『「権限委譲」をしようと思えば思うほど、うまく行かないのかもしれないなと感じた。自然とそうなっていく方があるべき姿。手段が目的になってしまうと、結果として意思決定スピードを落としてしまうなど狙った成果は逆の方向へ行ってしまう可能性がある。』
『経験資源の配分という考え方についてはちょうど議論したいと思っていたところだった。また、概念的な話だけでなく各組織のリアルな話も聞くことができたので、自社でも何に取り組むと良いのかといった示唆を得られた。』
『一番の学びとなったのは、5年スパンの育成プログラムの話。長期スパンでの取り組みの重要性を再認識した。現在の人事メンバーも3~4年前を知っている人が少ない中で、どうすれば長期的な施策を検討・実施・継続できるかは今後も引き続き考えたい。』
まとめ
今回は各グループがそれぞれの視点から議論を深めるスタイルで実施しました。多くの参加者が組織拡大とともに最適化して運用しているものであることから、意識していなかった視点での意見が出るたびに示唆が得られていらっしゃった印象です。実施後には議事録も参加者に共有され、議論しなかったテーマについても学びが深まっていらっしゃいました。
当社コーナーは、今後もCORNER DAYを通じて先駆的な人事課題を解決するきっかけを作り、事業と組織の連動性の向上に貢献していきます。
<CORNER DAYとは>
“経営と人事のレジリエンス”を探究するコミュニティイベントとして、株式会社コーナーが定期開催しているイベントです。第一線で駆け抜けている経営者や人事の方に多く参加いただき、毎回白熱した議論が交わされています。
<CORNER DAY Vol. 11:参加者一覧)※50音順
上田 明良氏(株式会社with)
小笠原 修裕氏(株式会社ハウテレビジョン)
小河原 英貴氏(株式会社Schoo)
唐澤 一紀氏(株式会社Nint)
久保田 慶氏(株式会社CAMPFIRE)
栗原 萌氏(株式会社Gunosy)
小金 蔵人氏(株式会社ZOZO)
高橋 真寿美氏(STORES株式会社)
高村 美穂氏(スパイスファクトリー株式会社)
中澤 真知子氏(株式会社I-ne)
中野 雄介氏(株式会社iCARE)
福島 丈史氏(ヤフー株式会社)
藤田 大洋氏(株式会社ツクルバ)
舟木 祐介氏(株式会社TBM)
満沢 将孝氏(株式会社スタメン)
和田 翔氏(株式会社リンクライム)
清涼飲料水メーカー 人事
人事コンサルティング企業 経営者
<過去イベントレポート>
corner day vol.1 :レジリエンスを高める組織・制度とは?
corner day vol.2 :MVVをベースとした自律的な組織の作り方
corner day vol.3 :人的関係資産が薄れる中でのミドルマネジメントの人材開発
corner day vol.4 :採用後の早期戦力化
corner day vol.5 :経営・事業に貢献する最適なエンゲージント施策の効果測定
corner day vol.7 :コロナ禍におけるミドルマネジメントの新たな課題と可能性を探る
corner day vol.8:リモートワーク環境下のメンタルヘルス不調を未然に防ぐために
CORNER DAY vol.9:人的資本経営にも大きく影響する「ミドルマネジメント」の人材開発とは
CORNER DAY vol.10:経営戦略・事業戦略に基づいたタレントマネジメントとは