「人員計画」を事業計画と連動させて運用までする方法を解説
経営目標の達成に向けて計画的に人材採用・配置を行う「人員計画」。労働人口の減少による人手不足や採用難易度の向上などを受けて、よりその重要性が増してきています。
今回は、人事責任者として組織拡大に貢献した経験を持つ、株式会社フルリノ 代表取締役の開原 崇友さんに、「人員計画」の概要から作成・運用方法にいたるまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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開原 崇友(かいはら たかとも)/株式会社フルリノ 代表取締役
外資メーカーでグローバル人事を経験した後、建築系ベンチャー企業にて人事責任者として、50名から350名の組織拡大に貢献。2023年に独立し、リノベーションポータルサイト開発事業に従事する傍ら、建築会社、ベンチャー企業を中心とした事業戦略・人事コンサルティングにも従事している。
目次
「人員計画」とは
──「人員計画」の概要や目的について教えてください。
「人員計画」とは、組織の目標達成に必要な人材を適切な時期・場所で確保するための計画です。具体的には、採用・配置・昇進・退職など人材の流動を管理します。次年度の経営戦略・事業計画を構築するにあたって予算編成を行いますが、その中でも大きな要素となるのが「人員計画」です。
予算編成を行うにあたり、業種にもよりますが販管費の大きな割合を占めるのが人件費。人員1人を雇用するコストは法定福利費を含めると最低でも年300万円程度のインパクトがあり、たった1人採用人数が変わっただけでも利益に大きく影響を与える可能性があります。
また、解雇規制の厳しい日本の法令下では人件費のコントロールが難しく、1度雇用すると永続的にコストがかかってきます。だからこそ、経営戦略に基づいて人材リソースの効率的な活用を行うために「人員計画」を立てて採用や異動などのオペレーションを行う必要があるのです。
この際、現時点の状況や短期的な視点で計画を立ててしまうのではなく、2~3年後の計画も見込んで採用を行うことが重要です。
中長期的な視点で「人員計画」を立てることにより、会社や事業の変化に適応し、将来的な余剰人員にならないか、採用の選択肢が本当に適切なのか、どのような人材を長期的に育成していくのか、などを判断できるようになります。
「人員計画」と事業計画の連動方法
──「人員計画」は事業計画との連動が重要になるかと思います。その連動方法について教えてください。
「人員計画」は、あくまで事業計画に紐づく多くの戦略の1つに過ぎません。具体的には、営業戦略・財務戦略などと横並びの関係にある人事戦略の1つという位置づけです。
中期経営計画などから事業計画を構築し、その計画を達成するための戦略・手段としてどのリソース(ヒト・モノ・カネなど)が適切かを判断した上で、ヒトが適切である場合に「人員計画」を立てます。
この際、必ず経営・現場視点の両要素を踏まえて計画を立てなければなりません。当然のことですが、経営側の視点だけで理想論を並べてしまっては、結果的に現場のオペレーションが回らない事態にもなりかねません。かといって現場側の視点だけでは将来的な展望を見据えた計画を考えづらく、今後の事業成長を踏まえた人員配置を検討することが難しくなります。
そこで、多くの企業ではオーナー役をつとめることの多い人事部門側で、経営・現場双方の意向を吸い上げ、将来を見据えたリアルな「人員計画」を立てていくことが大切になります。
「人員計画」の作成ステップ
──「人員計画」を作成するにはどのようなステップで進めていけば良いでしょうか。
大きく以下6ステップで作成を進めて行くと良いでしょう。
(1)事業計画案策定
(2)「人員計画」シート配布・ヒアリング・作成
(3)人件費シミュレーション
(4)経営協議(採算性などを確認した上で必要に応じて現場協議・人員計画修正)
(5)人件費再シミュレーション・経営承認・人員予算確定
(6)全社展開(要員管理表の配布)
(1)事業計画案策定
まずは、経営層レベルで経営計画から事業計画が策定されます。
(2)「人員計画」シート配布・ヒアリング・作成
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事業計画が策定されたら戦略を現場管理者に落とし込み、その達成に向けて必要な人員の要件について情報を収集します。そのために上記のような「人員計画」ヒアリングシートを作成し、現状の人員を記載した上で各管理者に配布します。
「人員計画」ヒアリングシートには、企業の状況にもよりますが、事業計画内容や管理者からの要望、増員希望や退職・異動予定者の有無、人員数の分布などの項目を用意するとよいと思います。
事業計画からのKPI達成に必要な人員に対する記載もそうですが、直近の休職予定者(育休など)、昇格予定者、定期異動者、退職予定者などの状況も回収します。工数が増えてしまうという側面はありますが、より実態把握をするためにも各管理者に直接ヒアリングを行えると良いでしょう。
KPI達成に向けた人材戦略のストーリーの確認は特に大事です。現場業務に集中していて十分に考えきれていない管理者も多いため、ある程度の時間をとって、人事が一緒に経営計画を確認し、部門への落とし込みを考えていくことも大事です。
また、ヒアリングする際には、どの社員にどのくらい負担がかかっているのか、退職リスクがあるのか、などの数字で見えない部分まで確認をしておくと、根拠のある「人員計画」を立てることができます。ヒアリングを行うだけではなく、可能であれば経営層からの要望やニュアンスについても現場管理者と話をしておくと、最終的な人員調整時にもスムーズに話が進みます。
余裕がある場合は3か年、難しい場合でも2か年のスパンで管理することをおすすめします。理由は、仮に年度の途中に増員をする場合、単年度でのインパクトはどのタイミングで増員するかによって、販管費への影響はそれほど大きくなくなりますが、翌年度以降は通年在籍となるためインパクトが大きくなるためです。
(3)人件費シミュレーション
その後、回収した「人員計画」シートをそのまま人件費予算として数値化していきます。数値化していく際は、昇給、残業手当、法定福利費、通勤交通費、退職金もしっかり計上する必要があります。人員規模が100名を超えてくると法定福利費なども営業利益に大きな影響を与えるので、残業実績や社会保険の月額変更なども考慮して作成すると正確な数字を算出できます。
昇給など不確定要素の強いものは、前年度の評価を適用して昇給シミュレーションを行う、あるいは、前年の会社全体の昇給額を適用するなど、割くことのできる工数に応じてシミュレーションも加えておくと良いでしょう。
また、中途採用を行う場合は採用にかかる人材紹介料や媒体費用などの採用コストも計上します。新規の増員だけでなく、これまでの離職率などから欠員が出る予測を立て、欠員補充費用や欠員分の給与差引も行います。
(4)経営協議(採算性などを確認した上で必要に応じて現場協議・人員計画修正)
人件費予算の初版を確認し、事業計画の収支計画との乖離を確認します。このタイミングで経営側とコミュニケーションを取り、事業計画や「人員計画」の修正点の有無を確認します。
経営側で想定した事業計画を達成するための人件費を計算すると、人件費が膨らんでしまい、想定した利益を出すことができないということも大いにあり、事業計画を精査する必要がでてきます。そもそもの事業計画の収益性に問題はないのか、本当にこの増員は必要な増員なのかなど、経営レベルでの高度な判断を行いながら、修正をかけていきます。
「人員計画」の修正が必要な場合、再度現場側と協議を行い修正します。基本的には人員数を減少させる変更があるケースが多いため、シビアなコミュニケーションとなることもあります。
(5)人件費再シミュレーションと経営層承認
修正した「人員計画」を基に人件費を再度シミュレーションし、問題がなければ経営側での承認を得て人員予算を確定します。まだ修正する必要がある場合は、再度現場とのすり合わせの協議を行うなど、繰り返して最終的な「人員計画」にブラッシュアップします。
(6)全社展開(要員管理表の配布)
経営承認が取れたものを最終版として全社へ展開します。確定した「人員計画」は各部署に配布し、定員数を通知します。この「人員計画」が確定後、採用計画や人材育成計画などに落とし込んでいきます。
なお、今回ご紹介したのは事業計画からブレイクダウンしていくトップダウン型のステップです。反対に、ボトムアップ型で現場の吸い上げから行うケースもあります。どちらを選択するかは会社の状況に合わせて判断しましょう。
「人員計画」のPDCAを回すために
──「人員計画」は作成のみならず、運用上で困っている企業も多いと聞きます。どのようにPDCAを回していけば良いでしょうか。
「人員計画」は立てて終わりではありません。予実管理をしっかり行う必要があります。理想は毎月、少なくとも4半期に1度はできると良いと思います。急な退職や休職は常に発生するため、想定していた人材リソースがどのような状況なのかを経営層でも見えるようにし、常に適切な経営判断を行えるようにすることが目的です。
そのためには、「人員計画」に対して人員の過不足を確認する要員管理表を作成し、「人員計画」の進捗について確認する方法があります。退職や休職の発生などによる計画からの乖離を見えるようにするためです。
その際、「人員計画」だけでなく人件費予算からの乖離も確認します。欠員の発生に伴い残業が増加している様子などもこれにより『見える化』でき、関連する点についても洗い出しをすることができます。その乖離から採用計画の見直しや社内異動の検討など、適切な人員配置を検討します。
なお、予算の乖離が大きい場合は半期に1度修正予算の作成を検討することをおすすめします。人員の状況は半年単位でもドラスティックに変わってしまう場合も多々ありますので、その場合は「人員計画」そのものを見直し、その時の状況に合わせた人員予算を作り直すことで、適切な人材管理のロードマップとすることができます。
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編集後記
どうしても近視眼的になりがちな「人員計画」。事業計画からブレイクダウンして考えていくべきものであることは認識していても、急な休職や退職によりバタバタしてしまうことはよくあることです。そうならないように常に状況把握ができる体制を構築し、物事を“想定の範囲内”に収められるかどうかが人事の腕の見せ所なのではないでしょうか。