「チームビルディング」の概念を理解し、再現性高くGoodチームをつくる方法とは

時代の変化やグローバルな環境変化が要因となり、個々の多様な価値観や働き方の変化に対して組織としての順応力が求められています。
また、世の中やビジネスにおいては働き方の変化や外部環境の動きも速くなり、より速い意思決定が要求されていることを感じられている方も多いのではと思います。組織のあり方の見直しが求められている中、改めて 「チームビルディング」やチームとは何か、ということについて考える機会が増えているのではないでしょうか。
そこで今回は「チームビルディング」の概要からプロセス・施策事例に至るまでを、組織開発コンサルタントとして大手企業のチームビルディング/リデザイン(再設計)に伴走してきた今野 弘仁さんにお聞きしました。
<プロフィール>
今野 弘仁(こんの ひろひと)/ 法人代表
コンサルティング会社にて、次世代の経営を牽引するリーダー人材の育成。組織強化事業に長年携わる。現在は独立して大手企業のチームビルディング/リデザイン(再設計)を独自アプローチで伴走支援している。
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目次
「チームビルディング」とは
──まず「チームビルディング」の意味・定義について教えてください。
「チームビルディング」とはその言葉通り、チームをビルド(建築)する=チームを作る・設計するという意味合いがあります。
ただ 『チーム』といっても様々な状態があり、一人ひとりの過去の(公私を含めた)チームへの関わり度合によって、なぜチームでなくてはならないのか、チームとは何か、どんな時にチームが必要なのか、誰がチームを作るのか、どうすればチームになれるのかなど、チームへの定義や考え方も統一感がない状況であることが大半なのが実態です。
そのため、私は依頼をいただいたチームの状態を、大きく以下3つのコンディションに分類するようにしています。
(1)集団
(2)チーム
(3)Goodチーム
(1)集団
一人ひとりが自分のすべきこと・できることのみに焦点を絞りすぎることで視野狭窄に陥り、チームの理想・ゴールに関心がなく、自己中心的・保身的な個々が集まっている状態を指します。『自己都合を優先する個人の集合体』というイメージです。
(2)チーム
『皆がチームを主語に捉え、チームのためであれば自分の役割でなくとも自ら行動する』といった前向きな考え方が、チーム全員の意識習慣として定着しており、かつ実際の行動に現れている状況を指します。
(3)Goodチーム
雑談・会話・対話を通したコミュニケーションがチーム内で行われており、チームのリスクにチームメンバーが自ら察知でき、簡単に答えが導き出せない領域に対する議論が習慣化しており、個ではなくチームで初動できている状態を指します。
これらのチームの状態は固定化されたものではなく、『集団』状態であっても、あるタイミングで一面を切り取ると『Goodチーム』だったりといったように、状況によって変化していくものです。チームがそれぞれの状況でどの状態にあり、どのような処方箋が必要なのかを理解することは「チームビルディング」のアプローチとしてとても大事なことなのです。
時代と共に変化する「チームビルディング」の目的・重要性

──近年「チームビルディング」がより注目されていますが、それはなぜでしょうか。また時代によってその重要性に違いはありますか?
・コロナ禍など世の中の変化によって不確実性が増していること
・働き方の多様化やリモートワークが定着する中で生産性向上が求められていること
・ハラスメントやコンプライアンスなど、チームメンバーと関わり合う際に留意する点が多く、コミュニケーションに対しての敏感度が増していること
・ビジネスシーンにおけるチームづくりの難易度が高まっていること
これらの要因が「チームビルディング」が注目されている理由だと考えています。
特に近年ではチームマネジメントの役割を担う管理職の方々のチームづくりへの関心の高まりを私自身も感じています。管理職の方は、チームづくりの理想をトップダウン型チームではなく『ボトムアップ型チーム』と言うことが多い様に感じます。部下がコミュニケーションの起点となり報連相(報告・連絡・相談)が始まる、部下から重要かつ緊急なタスクやリスクについてアップデートされる、部下が上司の見解や助言を受け入れながら主体的に業務遂行・問題解決に動き出しているなど、フォロワーシップ(組織・集団の目的達成に向けてリーダーを補佐する機能・能力のこと)に焦点を当てたチームづくりを目指されている管理職の方々が多いようです。
時代によって「チームビルディング」の重要性も変化しています。
多くの若手社員が入社3年以内に離職する傾向が多業界にて散見されています。その解決策として、心理的安全性の高い組織づくりを通して定着率を高めることを定めている企業も増えている様に思います。
ですが一方で、場合によっては個人が心理的安全性を重視しすぎてしまい、自分のみの心理的安全性を優先し、ともすれば身勝手なチーム運営を要請されてしまうという状況が発生してしまうこともあります。個人だけではなくチームとしても心理的安全性を確保することがより必要となっており、そのような背景や時代のトレンドにおいて「チームビルディング」 の注目度が高まっている要因と言えます。
そもそも、なぜビジネスにチームが必要なのか。それはチーム活動シーンで発生する『スキマ』を最小限にするためだと私は考えています。この『スキマ』とは何か、以下のような例が挙げられます。
・組織活動において業務が細分化され個人活動が進み、ノウハウが個人のみに蓄積されている
・チーム間コミュニケーション不足によって、個人が獲得したノウハウがチーム間で連携しない状況に陥る
・チーム内連携不足から『ズレ・スキマ』が広がり、『ムダ・ムリ・ムラ』が発生、チームが得た資源((人・モノ・金・情報など)がモレ落ちてしまい、チームに蓄積されない
チーム内のムダ・ムリ・ムラの放置は、『忙しいけど儲からない』『製品品質が安定せずクレームが続く』などの、非効率な組織運営とその負のスパイラルから脱却できない状況が続いてしまいます。これらの課題がリモートワークの普及によってあぶり出され、ビジネスにおけるチームづくりの重要性が再認識されてきた様に感じています。
ちなみに、2000年頃の「チームビルディング」のトレーニングと言えば、若手社員がアクティビティーに取り組んで現場の活性度を高めるアプローチが一般的でした。現代はフォロワーシップの考え方の重要度が高まり、『マネジメント×リーダーシップ×フォロワーシップ』が三位一体となったチームづくりの重要性が再認識される流れができたように感じています。

「チームビルディング」の5段階プロセス
──「チームビルディング」を進めていく上で、効果的なタイミングやプロセスはあるのでしょうか。
組織においてチームメンバー全員がチームを意識するタイミングがありますので、そこは抑えておきたいポイントです。それは『新しく仲間が加入する・入れ替わる』タイミングです。新入社員の配属、中途社員の採用、異動による人員編成などが該当します。このタイミングでしっかりと、なぜチームづくりが必要なのか、といった目的を明らかにすることが重要です。その状態でトレーニングやオンボーディングに入ることで、想定以上の効果を得られることもあります。
「チームビルディング」のプロセスを考える上では、有名なフレームワークに『タックマンモデル』があります。これは組織やチームの成長プロセスを以下の5段階で示したモデルで、ブルース・W・タックマンというアメリカの心理学者が1965年に提唱した概念です。

このタックマンモデルに新入社員の配属エピソードを交える形で、チームが進化する過程をイメージしてみましょう。
(1)形成期
新入社員が配属され、チームが形成されたばかりのタイミング。受け入れ側の管理職がまだチームの存在意義や目標を定義しきれておらず、指導役に対しても『指導をよろしくね』といったような、漠然とした指示となってしまい、指導役の若手社員も苦手意識を抱えたり理解が不明瞭なまま指導に入ってしまう。
(2)混乱期
管理職としても若手社員に期待して指導役を任せたものの、ふたを開けてみれば効果的な指導ができていない状況が発覚。さらには新入社員が放置されている状況まで散見され、新入社員は不安・不信感を募らせている様子が伺える。
(3)統一期
混乱期の状況を目の当たりにした管理職が、チームに対するリーダーシップ・マネジメント・フォロワーシップの必要性に気づき、チームメンバーのどのような行動がチームの成果につながるのかを意識し、行動に現しはじめた段階。そして、いよいよ新入社員をチームで指導・支援するのチームづくりが再スタートする。
(4)機能期
新入社員が迷っていること・困っていること、指導役の負荷、上手く指導できていない実情──こうした悪い知らせにふたをする悪しき習慣が少なくなり、悪い知らせが速くチームでオープンに共有されるようになり、チームで問題解決に動き出せている状況。
(5)散会期
各種プロジェクトなどにおいては分かりやすい区切りがあるが、新入社員の配属においては『散会』という概念はなく、配属後は継続的に「チームビルディング」の試行錯誤は進められていく。
このプロセスの中でも特に重要なのは(3)統一期と(4)機能期に何をするのか、です。
新入社員を受け入れた側がチームとして組成され、様々な問題が起こり、それを乗り越えていく形でGoodチームが形成されていく様子を、少なからずイメージいただけたのではないでしょうか。
「チームビルディング」の各フェーズにおける施策事例
──前項でご紹介いただいた5段階プロセス(タックマンモデル)の中でも(3)統一期と(4)機能期が特に重要だという話がありました。それらのフェーズにおける効果的な施策について、今野さんが実際に関わった事例なども踏まえて教えてください。
私の「チームビルディング・アプローチ」は、所属チーム単位でワークショップにエントリーいただくことから始まります。実はここが「チームビルディング」における最大の山場。受講する社員皆様の理解が得られれば、「チームビルディング」は6合目に到達したと言っても過言ではありません。
では、なぜチーム単位でワークショップにエントリーするのか。それは階層別研修などの様に特定の階層やリーダーや管理職だけを受講対象としてしまうと、後の活動が1人よがりになったり、チームに働きかけ動かすための負荷が特定の管理職などだけに偏ってしまい、大きなエネルギーを要することになります。そうすると、越えなくてはならない壁が高すぎてしまい、意気消沈してしまうなど、ワークショップの効果が得られなくなってしまうためです。それを避けるには、管理職クラス・スタッフクラスに分けてワークショップを開催し、事後課題をチームで取り組むことが有効です。
なお、効果的なワークショップのアプローチをここでは2つ紹介します。
チーム・コンパス(羅針盤)づくり
『チームとは経営体であり、管理職はチームの経営者である』という意味合いがこのワークショップの背景にあります。経営には羅針盤=コンパスが必要で、これはチームにも同じことが言えます。各メンバー全員が『チーム』を主語にビジョン・ゴール・バリュー・ルールの切り口でチームへの想いを棚卸し、管理職が主導的な立場に立ち、チーム共通の『軸』をつくりあげる取り組みです。
EQオープン・ラーニング
これは私が20年来携わっている『EQ=心の知能指数』をチームメンバー全員が受検し、診断結果をチームメンバー間で共有し、行動変容も共有するワークショップです。『心の知能指数』とは感情をコントロールして応用できる能力のことで、24要素・3領域に分析された診断結果をチームメンバー全員でオープンに共有することから始まります。
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(メンバーの「EQ(感情知性)」を向上させ、組織パフォーマンスを高める方法(前編・後編)
その後、24素養の中から特に高い指標や低い指標を各人が振り返り、その指標を放置することでチームにどのような悪影響を及ぼすのかを振り返ることで内省機会をつくっていきます。チームに悪影響を及ぼす行動変容を決めたら、その行動内容をチームメンバー全員で観察・フィードバックし合います。その際、新入社員が管理職の行動変容の観察役を担い、フィードバックをすることもあります。
人間というものは先んじている人はいても、完成された人はいないものです。その前提の中、チームメンバー間でお互いを観察し、指摘し合い磨き合う取り組みを通して世代ギャップを乗り越え、心理的安全性の高いチームの基盤はつくられます。
Goodチームというものは自然と出来上がることはとても難しいものです。ビジネスシーンでのGoodチームは、各種取り組みによって再現性高くつくり上げることができるものだと考えています。「チームビルディング」の概念や事例を学び、根拠を持ってチームに働きかけていくことは、これからの管理職に必要不可欠な要素となるのではないでしょうか。
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編集後記
組織や働き方に関する研究が進み、人事に関するあらゆる領域で『情報の解像度』が上がってきているように感じます。「チームビルディング」に関しても同様です。良いチームがつくられるプロセスにはどんなものがあるのか、また各フェーズにおける効果的な取り組みは……など、知っておくだけでも役立つことが多々あると感じました。チームである意味を感じられていない方は、まず「チームビルディング」という概念を知ることからスタートしてみてはいかがでしょうか。