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メンバーの「EQ(感情知性)」を向上させ、組織パフォーマンスを高める方法【後編】

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「知能から知性の時代」へと変化していく中で、自分の感情も他者の感情も上手く扱うスキルは、IQ(知能指数)と並べて「EQ(感情知性)」と定義され注目を集めています。
EQの高さは天性のコミュニケーションスキルや性格だけによるものではなく、後天的に鍛えることができるもの。前編の記事では、2011年からこの「EQ」について実践と研究を進めてきたEQトレーナーの池照佳代さんに、定義や重要性について教えていただきました。今回の後編記事では、EQの鍛え方、組織への活かし方などを具体的にご紹介していきます。

➡️前編の記事はこちら

<プロフィール>
池照 佳代/株式会社アイズプラス 代表取締役
マースジャパン、フォードジャパン、アディダスジャパン、ファイザーなどで一貫して人事職を担当。人事制度設計・運用やタレントマネジメント、ダイバーシティ、女性活躍推進プログラムの企画実行など、人事業務全般に携る。出産後、法政大学経営大学院在学中にアイズプラスを設立。主に企業向けの人事支援に携わり、コーチング、マネジメントスキル講師としても活躍。最近では、女性活躍支援のための制度・職場づくりにも関わり、人事職で培ったスキルと、EQトレーナーならではのコミュニケーション・ファシリテーションスキルを兼ね備えたIC(インディペンデント・コントラクター)として、高い評価を得ている。2021年4月から山野美容芸術短期大学 特任教授。著書に『感情マネジメント ~自分とチームの「気持ち」を知り最高の成果を生みだす』(ダイヤモンド社)など。

EQは後天的に鍛えられるもの

──鍛錬せずとも自然とEQを発揮できている人もいるように感じます。そもそもEQは後天的に鍛えられるものなのでしょうか?

できます。かく言う私も、EQを学んで少しずつ身につけようと模索中の1人です。EQを学んでからはあらゆる関係性が良くなったことを実感しているので、もっと早い段階から知っておきたかった……というのが本音です。

自分を奮い立たせる力、人との関係性を作る力、人のニーズを表情や言葉から受け取る力、自分や他人の感情に惑わされすぎない力──こういったEQの能力は、これまでは各家庭における躾や、その人のセンスによるものだと思われており、トレーニングによって鍛えられるものだとは考えられていませんでした。

もちろん、生まれ持ったセンスでEQを発揮できている人もいます。各組織に10%くらいはそういった方がいるのではないでしょうか。この方たちは仕事においてもいろんな方とうまく関係性を作り、人を巻き込んで成果を出していけるので、組織の中でも早く出世したり多くの人をマネジメントする立場になったりしやすいです。でもこれには弊害もあって。この元々センスがある方々がディシジョンメーカー(決裁者)になると、「御社の課題はEQです」と伝えてもなかなか理解してもらえないことがあります。なぜなら、その方々にとっては意識せずに当たり前にやっていることだから。それがどう経営や組織パフォーマンスにつながっているかをイメージできないのです。

「感情を聞くなんてあたりまえでしょ?池照さんもできているじゃない」と言われますが、その度に「いや、私も学んでいるからできるんですよ。そうでなかったらひどいもんです(笑)」と答えています。

社員のEQを高めるために人事ができること

──では人事担当者が社員のEQを高めようと考えた際には、どのような取り組みが有効でしょうか。

この質問は本当に良く聞いていただけるのですが、「こうすればすぐに高められるよ!」といったテクニックの類はあまりありません。また、EQの導入や向上はあくまで手段です。企業の変革ニーズに沿ってEQと共にリーダーシップ向上やエンゲージメントを高めることを目標とし、これらの目標にそったプログラムをカスタマイズして導入します。または、この概念に沿った制度や組織改革を企画・実施しています。

お薦めとしては、少し地道な話にはなりますが、「まず自分の感情を知り、そして相手の感情を知る機会やツール」を現場リーダーにインストールし、組織の関係性を高めることから始めるのが良いと思います。

そこで使えるツールのひとつに「ムードメーター(上図)」があります。イェール大学のマーク・ブラケット教授が提案する感情状態を把握する手法です。縦軸にエネルギー、横軸にフィーリング(感情)をそれぞれ10点満点で点数化し、言語化するものです。

➡️ムードメーターのダウンロードはこちら

アメリカでは感情教育を主体においた幼稚園・小学校・中学校があり、そこでは幼稚園生の頃から毎朝登園時に自分の気持ちを数値化しています。「今朝お兄ちゃんとケンカしたから2かな」といった形です。

さらに、その幼稚園の中にメディテーションルーム(自分の気持ちと向き合う部屋)が用意されていて、自分と向き合う時間ををとったり、先生とゆっくり話すこともできます。イライラしているなら、どうすれば解消できるのかを整理した上で集団の中に戻っていくのです。それらを通じて自分の感情との向き合い方を学んでいくという訳です。

またこのムードメーターは何も自分の気持ちを知るだけではありません。他の人の感情を知る上でもとても有効です。

例えばある企業では、毎朝朝礼でこのムードメーターを使って互いの感情を表現しています。初めのうちはなかなか自己表現できなかったメンバーも、続けることで徐々に自分の感情を周囲に伝えられるようになります。すると「この人はこんなときにテンションが上がるんだ」といった発見がチーム内にも生まれ、自己理解はもちろん他者理解も進んでいく、というわけです。

就業時間外にメールが届くことがストレスだと思っているメンバーがいることにこの取り組みで気づき、「それ以降夜中にメールを送るのは辞めました」というリーダーもいました。明日の仕事のために良かれと思ってやっていたことでも、感情に着目してみると実は裏目に出ていたなんてことはよくあります。

──池照さんが日々EQを鍛えるためにしていることはありますか?

毎朝「感情の予約」をしています。私自身、元々精神的に落ち込むことも多く、人の感情や顔色をうかがいすぎてそこに振り回される傾向がありました。でもEQを学び、「なにが起こっても自分の感情だけは自分でコントロールできるんだ」ということを知ってからは、今日起こるであろう予定に対して事前に「どんな感情でそれを迎えるか」を予約しておくのです。その思考や予約は誰にも邪魔されることはありませんからね。

もう1つは「自分の感情をチーム内に開示すること」です。例えば、「今日こんな取材があった」とただ報告するのではなく、合わせてその時感じた気持ちを入れるようにしています。それにより自分の感情に気づくことができるのはもちろん、周囲のメンバーも「感情は出してもいいものなんだ」「そういうことを言ってもいい組織なんだ」という認識が生まれます。それだけでも組織の雰囲気は大きく変わってくるはずです。

EQが活きるのはビジネスだけではない

──自分の感情をうまくコントロールできるようになると、仕事以外にも良い影響があるのでは?

まさにその通りで、EQはビジネスだけでなく、人生そのものにも良い影響をもたらします。夫婦や家族関係、地域や学校のコミュニティ、PTA活動などもそう。日常のどんなシーンにおいても感情はついて回るので、EQはまさに人生のOSとしてずっと機能し続けるものなのです。

年配の方とお話しをする際、「池照さんの言うことは良くわかる。でも私はこのスタイルで長くやってきたから今さら変わることはできない」と言われることがよくあります。でもそんな時には、こんな風にお伝えするようにしています。

「あなたの会社員キャリアはあと数年で終わるかもしれない。でも、その後も人生はまだまだ続く。社会やコミュニティで求められる・役立つ力がなんなのかを一度考えてみてください」

昭和時代を生き抜いた方々からすると、今さら「感情を大切にしなさい」と言われてもピンと来ないのも無理はありません。しかし、これから日本が「個に着目し、個を活かす」という方向に着目していくのであれば、まずは私たち大人から感情のフタを外し、自らと他人の感情を知り活用していくことは避けられません。

「今さら変われない」と言うベテランの方も、子ども時代はEQの塊のような存在だったはずです。泣きたいときに泣き、笑いたいときに笑う。でも大人になるにつれ、いつしか感情を扱いづらいものとしてフタをし、それを他人にも強制してしまうようになります。大人がこの状態に気づかなければ、今後も悪気なく次の世代の子どもたちの感情を抑えこんでしまうことでしょう。

EQは1人ひとりの多様な違いに気づくツールでもあり、その違いを活かすためのツールでもあります。組織パフォーマンスを上げる効果だけでなく、人々の人生をより豊かにする上でも、誰もが活用できる大きな可能性を持ったものです。EQがまさにOSとして世界に組み込まれていけば、もっと幸せに生きられる人が増えるはず。そんな世界を実現する一助になれるよう、これからも活動を続けていきます。

編集後記

近年、ミドルマネジメント層の負担が過重になっていることを組織課題として挙げる企業が増えています。経営陣と現場の板挟みになり、そこに加えて人事からもミドルが感じている課題感や感情を理解しないまま、一方通行の取り組みが進んでしまうことはよくあるものです。

でもそんな時にこそまずは人事がこの「EQ」を実践し、組織の在りたい姿をイメージした上でミドルマネジメントの感情に寄り添う──それがEQを組織パフォーマンスにつなげる上での最初の一歩になるのかもしれません。

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