「ピアボーナス」で組織に称賛し合う文化を作る方法とは

社員同士が報酬を送り合う「ピアボーナス(※)」。日ごろの評価や感謝を伝える手段として導入されるだけでなく、送られたポイントを報酬に換算できることから一種の手当や賞与としても用いられています。
今回は、Sansan株式会社の人事としてミッション・カルチャーの浸透など社員の共通認識醸成に携わってこられた佐藤 琴美さんに、「ピアボーナス」の概要や導入・運用における具体的な進め方などをお聞きしました。
(※)ピアボーナスはUnipos株式会社の登録商標です。
<プロフィール>
佐藤 琴美(さとう ことみ)/Sansan株式会社 人事本部 Employee Success部
パーソルキャリア株式会社(旧株式会社インテリジェンス)にて法人営業に従事した後、海外法人(中国)へ出向。帰国後はスタートアップの組織コンサル企業にてベンチャー企業向けの各種研修企画やPJT管理、コラム執筆や営業を担当。2016年に現職へ入社し、中途採用担当を経てEmployeeSuccess部に異動。カルチャー・オンボーディング・コミュニケーション領域の制度企画や運用ほか、研修や表彰制度の構築、各種全社イベントの事務局を担当。現在はキャリア支援領域などを担当。
目次
「ピアボーナス」とは
──「ピアボーナス」の概要について教えてください。
「ピアボーナス」とは、その言葉通りPeer(仲間)である社員同士が報酬(Bonus)を送り合う制度のことです。ピアボーナスを通じて組織変革を促すサービス『Unipos(ユニポス)』によると、以下のように定義されています。
『従業員同士が “貢献に対する称賛のメッセージ” と “少額のインセンティブ ”を送り合う仕組み』
ただ、Unipos利用顧客の中にはBonus=報酬としていない企業も多々あるようです。一口に「ピアボーナス」といっても、利用企業によって多様にアレンジされている様子が伺えます。
また、Peer(仲間)についても解釈の幅が広く、グループ会社を含めて広く活用するケース、一部の部署かつ限定された同僚間のみなど狭い範囲だけで活用するケースなどさまざま。導入企業が置かれている状態や利用目的により、ピアボーナスの設定や運用方法は大きく異なっているのが現状です。
「ピアボーナス」導入により得られる6つの効果
──「ピアボーナス」導入によって期待できる効果には、どのようなものがあるのでしょうか。
導入目的や運用方法によっても変わりますが、一般的には以下6つの観点から効果が期待できます。
(1)心理的安全性の向上
「ピアボーナス」を通じて役職や所属に関係なく感謝・称賛を伝えることにより、1人ひとりが発言しやすい土壌が形成され、挑戦や発言への心理的ハードルが下がります。
(2)組織の一体感づくり
「ピアボーナス」をミッション・ビジョン・バリューに絡めて運用すると、行動指針や価値基準と紐づいた行動が社員に促され、結果として社内カルチャーや行動指針の浸透が進んで組織に一体感が生まれます。
(3)エンゲージメント向上
オープンなフィールドで感謝や称賛を送ることにより、社員1人ひとりの承認機会を増やすことができます。また、経営陣・人事・上長などの評価者からは見えづらかった社員の貢献や活躍が共有されることも増えるため、『日々誰かが見てくれている』という安心感も強まってモチベーションも向上します。
(4)マネジメント強化
上長からメンバーへの労い・感謝・称賛につなげられることはもちろん、上長が普段見えていないメンバーの貢献や行動を他者からのボーナスを通して把握できるようになります。
(5)他部門連携の促進
部署を越えて「ピアボーナス」を送り合えるようにすると、リモートや勤務地が異なる場合であってもオープンに部署間で思いが伝達できるようになります。また、部門を跨いだボーナスのやりとりがオープンになると、部門間連携の様子も把握しやすくなります。
(6)社内交流ツールとして
組織拡大やリモートワークの増加などにより社内交流機会が減少し、それを課題に感じている企業であれば、「ピアボーナス」は交流促進ツールとしても活用できます。

「ピアボーナス」設計・運用時のコツや注意点
──「ピアボーナス」の導入に向けて設計・運用する際、どのような点に注意するべきでしょうか。
まず大切なのは『なぜピアボーナスを導入するのか』『何を解決したいと考えているのか』といった目的を明確にすることです。
前述した通り、「ピアボーナス」の導入目的・定義・実施内容はまったく異なります。それぞれの企業が実現したいことを踏まえて、「ピアボーナス」のあり方を決めていきましょう。
導入目的や定義が明確になったら、次は具体的な内容を設計するフェーズです。「ピアボーナス」のボーナスをどのような形で送るのか(給与に含めるか、ポイント制にするか、ギフトにするかなど)、送るタイミングはいつにするか、対象範囲はどこまでにするか──これらを導入目的や企業風土・組織規模に沿って検討・調整していきます。
例えば、企業風土として福利厚生の充実を重視するのであれば、ボーナスは福利厚生として社員に喜ばれるものにすると良いでしょう。あるいは、社内制度としてポイント制が活用されているなら、その制度に連動するようにボーナスもポイントとしてカウントするなどが考えられます。
制度の内容が固まれば、いよいよ導入です。しかし、どれだけ良い内容だったとしても組織内で浸透し活用されなければ意味がありません。「ピアボーナス」を送り合うことが習慣となるような取り組みや仕掛けを人事主導で行う必要があります。
<取り組み例>
・毎週もしくは毎月「ピアボーナス」を送る日を全社で設定する
・制度浸透を目的としたイベントやキャンペーンを行う
・「ピアボーナス」制度の名称を社内に馴染みやすいものにする
・アイコン的に日々目にするキャラクターを作る
・活用度の高い既存制度とのコラボや応用を考える
など
会社規模や導入フローにもよりますが、よりスムーズな導入を目指すのであれば、社員が一同に会する全社会議の場などで、初ログインからのユーザー動線を知ってもらうために、その場で実際に一度操作してもらうと効果的でしょう。あるいは、そのような場がないのであれば、部署毎に同様の場を設けたり、役職者にその役割を託して役職者向け説明会の場を設けるのも一手だと思います。
導入後は定期的に利用率や課題点を見ながら小さな改善を重ねたり、全社の動きに合わせて期間限定の使い方をしてみたりと、アレンジを加えていくことが制度を形骸化させないためにも重要になってきます。「ピアボーナス」の内容や金額変更、社員への贈呈方法の変更など、組織規模・利用者状況・課題などと常に照らし合わせながら改善や工夫を重ねていくことは簡単ではありませんが、効果を最大限に高めるためには避けては通れないものです。
Sansan株式会社の「ピアボーナス」導入事例

──佐藤さんが所属するSansan株式会社でも、数年前に「ピアボーナス」を導入したそうですね。その時の目的や導入におけるポイント、そして運用方法や効果について具体的に教えてください。
制度運用ツールのアップデートに伴い、ピアボーナスを当社でも導入しました。
導入目的
(1)既存制度運用のアップデート
Sansanには仲間に日々の感謝や称賛を伝える『見つカッチ』という人事施策が元々ありました。投稿数も多く非常に盛り上がっていたのですが、当時使用していた人事ツールの都合で称賛メッセージはクローズドな場でしかやりとりができず、他の人からはまったく見えない状態でした。それをオープン化し、ポイントで仲間への称賛を可視化したいと考えたのが事の始まりです。
(2)称賛・感謝の伝達ツール強化
当時、組織としては質実剛健で硬派な雰囲気があったこともあって、『リスペクトしているけれども伝え方がわからない』『面と向かって言葉にするのは恥ずかしい』といった社員の声もありました。そこに応えられる仕組みを作ることも目的の1つでした。
(3)組織拡大に伴う一体感醸成やミッション・ビジョン・バリュー浸透
組織成長と共に各組織の動きや全社のつながりが見えづらくなっていたため、社内のつながりや他部署での出来事、社員の活躍を見える化したいと考えていました。さらに、当時全社で議論していた新しいSansanのカタチ(いわゆるミッション・ビジョン・バリュー)の浸透にも活用できるのではと期待していました。
導入時のポイント
前述した人事施策『見つカッチ』を踏襲しアップデートする形で「ピアボーナス」制度を導入したため、導入においては比較的スムーズに進めることができました。
まずは事前準備として、人事内でトライアル利用を実施。UXやユーザー体験をテストする中で、必要な説明や改善事項を洗い出し、導入ツールや説明ツールを精査していきました。改善が必要な点やツール利用上の不明点はあらかじめ全社向けQ&Aの形に起こしておき、社員から質問が出てもすぐに回答できるよう準備しました。またツールの設計上、当社で利用する箇所・しない箇所を明確化し、まずは必要最低限の機能から利用しはじめました。
実際に全社に導入を進めていく際には、利用対象社員が一同に会する会議にて、制度の趣旨やツールの機能を紹介すると共に、その場で、初回ログインからの操作方法をデモで見せ、その後、すぐにアカウント発行し社員にログイン&利用開始してもらいました。このような流れにすることで、『触ってみたい』『やってみたい』と感じてもらえるようになったかと思います。もし今この手順を見直すなら、社員のアカウントを事前に発行しておき、会議の場で実際にログインしてもらうようにすると思います。
また、導入時には制度のアイコンを作成したり、ポイント名称を制度名と合わせてみたりすることで、より認知度が高まる工夫も加えました。
運用〜得られた効果
前制度の頃からも活発に投稿されていた称賛メッセージですが、ピアボーナスを導入して新制度としてオープンしたことでその投稿数はさらに大幅に増加。実際に投稿されたコメントを見ていると、全社・各部門で今日どんなことがあったのかが、メンバー同士のコメントや拍手数などからリアルに感じられるようになりました。
その後、投稿時に当社のバリューズ(いわゆる行動指針にあたるもの)のハッシュタグをつけるようにしたため、日々バリューズを意識・体現できる環境づくりにも成功し、以下のような取り組みや制度がそこから生まれていきました。
・HVD(HappyValuesDay)
毎週ポイント付与される月曜に今週のバリューズを2つピックアップ。その前の週のバリューズタグをつけて送られた称賛コメントを取り上げ、良い事例として全体に共有しています。
・SVS(SansanValuesStar)
特定の組織属性毎に最も多くバリューズタグを受け取ったメンバーを毎月オンラインで共有し、称賛しています。また半期毎に全社会議の場で表彰式を行い、個人やグループを表彰しています。
・社内での動画共有(SansanTV)
表彰者へのインタビューを通じて社内メンバーの活躍や具体的なエピソードなどを社内配信しています。
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編集後記
ボーナスという言葉から、金銭的な報酬や手当がイメージされやすい制度かもしれません。しかし佐藤さんからお話を伺う中で、「ピアボーナス」の本質は評価や報酬ではなく、称賛が社員同士でオープンに行われることによる組織文化醸成や心理的安全性の向上にあるのだと理解できました。自社の目的や課題に「ピアボーナス」がどう寄与しそうかを一度検討してみるのも、組織を見つめ直す良い機会となるかもしれません。