「組織活性化」に導くための考え方と7つのステップ

限られた人材・リソースで最大限の成果を生み出すためには、いかに社員のエンゲージメントを高めて「組織活性化」を推進できるかがポイントです。
今回は、日本を代表する大手企業の組織・人材開発コンサルティングに従事している株式会社マックリン 代表取締役の北野 正典さんに、「組織活性化」の概要や定義、成功に導くステップなどに至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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北野 正典(きたの まさのり)/株式会社マックリン 代表取締役
大阪大学工学部卒業後、独立系のコンサルティングファームに参画。住宅・外食・小売など幅広い企業に対し、マーケティング、M&A後の統合支援、経営品質改善支援やコンサルティングサービスを提供。その後、不動産投資会社に参画し経営企画と不動産投資を担当。新規事業の立案に携わる中で人材育成の重要性を再認識しキャリアチェンジ。大手人材開発コンサルティングファームのマネジャーコンサルタントとして、大手企業(製薬、電機、インフラ、重工など)を対象に組織開発・人材開発のコンサルティングに従事。部長クラスへのタレントディベロップメント・コーチングを行い、対話と内省を通じて成長を支援する。2021年に株式会社マックリンを設立し、エグゼクティブコーチングをはじめ、様々なコンサルティング業務に励む。
目次
「組織活性化」とは
──「組織活性化」とはどういったものなのか教えてください。また、『組織が活性化している状態』とはどういった状態なのかも教えてください。
「組織活性化」について統一された定義はありません。各社が以下のようなことをビジョン・中期経営計画・現状の実態などを踏まえて議論し、それぞれで定義していく必要があるものです。
・自社にとってあるべき「組織活性化」状態とは何か
・なぜ「組織活性化」が必要なのか
・「組織活性化」によりどんなベネフィットを得たいのか
頻繁に目にするのが、このような前提となる議論抜きに『エンゲージメントサーベイの数値が低いから「組織活性化」しないといけない』と、短絡的に判断してしまうケースです。議論をしていない、もしくは表面的な議論しか行われていないと、「組織活性化」はまずうまくいかないと言えるでしょう。なぜならば、このような「組織活性化」などのプロジェクトや企画をリードする経営陣や人事が現場のマネジャーが納得できるように「組織活性化」の取り組みを説明できなくなってしまうからです。反対に言うと、人事の方が「組織活性化」の目的・あるべき姿をしっかりと腹落ちさせられるレベルまで議論する事が必要になります。詳しくは後ほどお話ししますが、経営陣や現場マネジャーのコミットメントや協力をいかに高めるかが「組織活性化」プロジェクトのキーになります。彼らの協力がなければ、単なるイベントやひとつの研修で終わってしまいかねません。また、「組織活性化」には経営陣だけではなく人事自身が組織文化を変革するチェンジエージェントになることも必要です。人事が本気で組織文化を変えていくんだという本気度がないと、誰もついてきてくれません。
なお、「組織活性化」している状態は一般論として以下のような状態だと言われています。
『中期経営計画や事業目標の実現のために、各職場(部・課など)単位でミドルマネジメントとメンバー、メンバー同士のタテヨコのコミュニケーションが活発に行われ、組織が本来持っている能力を発揮できる状態』
単に仲良くなれば良い、信頼関係が強くなれば良い、心理的安全性を醸成すれば良いといったシンプルなものではなく、業績目標が達成されるように組織が本来もっている能力が十分に発揮される必要があるものです。昨今、対話が非常に重要視される傾向があります。確かに対話は重要な施策の一つですが、対話だけではうまくいかないのが現実ではないかと思います。
こうした組織の潜在的な力を引き出すため「組織活性化」の考え方に『スタイナーの公式』というものがあります。プロセス・ロス(※)による欠損を最小化し、プロセス・ゲインによる相乗効果が発揮される必要があるという考え方で、プロセス・ロスは下図のように『水面下の本音』による損失を指し、反対にプロセス・ゲインはそれらが相互支援や相乗効果につながるものを指します。なお、数式で表すと以下の通りです。
実際の生産性=潜在的な生産性-プロセス・ロス+プロセス・ゲイン
(※)プロセスとは、組織内において人と人の間で起こっていること(感情・関係性など)や、人と仕事の間で起こっていること(目標・役割・手順など)を指します

プロセス・ロスを減らす、プロセスゲインを得るためには、人間関係の質を高める必要があります。人間関係の質が高まると、ポジティブに気兼ねなく意見を言い合うことができることでより良いアイデアが生まれ、それに伴って行動の質が高まり、結果の質につながる好循環が生まれます。これは下記の図のような『成功循環モデル』と呼ばれるものです。

一方で、結果ばかり追いかけると『なぜこういった行動をしないのか』と、できていない行動ばかりに焦点が当たってしまい、メンバーが委縮してしまい上司の顔色を伺って上司に受けいれられやすいアイデアを出そうとしてしまいます。そんな環境下では、人間関係がギスギスしてしまい、思った成果が出なくなり、行動を否定する、といった悪循環に陥ってしまいます。

「組織活性化」を推進する理由
──「組織活性化」を推進する理由は各社さまざまだと伺いましたが、よくある理由としてはどのようなものがありますか?
よくあるケースとしては前述の通り、エンゲージメントサーベイの結果を経営陣に報告した際に『スコアの点数を何とかしてあげろ』と指示されるケースです。グループ会社と比較してスコアが低い、競合他社や業界平均と比較してスコアが低い、などがそのきっかけとなります。
また、近年では若手社員の離職率が高まっていることを受け、自社に対するロイヤリティと仕事に対するやりがいをもってもらいたいと経営会議の中で話し合われた結果、人事部に指示が入るケースもよくあります。
ただ、こうしたケースにおいて見逃されていることが大きく2つあります。
(1)『なぜエンゲージメントサーベイスコアが低くなっているのか』の原因が把握できていない
(2)『スコアが上がるとどんな良いことが起きるのか』の成功シナリオがイメージできていない
この2つに関する仮説・事実がない限り、どのような対策を講じれば期待する効果が出るのかがわからず、結果として「組織活性化」パッケージのコンテンツや研修を導入するのみという表面的なアクションになってしまうことが多いと思います。
「組織活性化」を成功させるためのポイント
──「組織活性化」を成功させるためには、どのようなポイントに注意しておくと良いでしょうか。
「組織活性化」は、小さな成功体験を積み重ねる『終わりのないプロセス』です。組織変革においては下記2点が重要な成功要因であると言われています。
(1)職場のミドルマネジメントが自主的にアクションを引き起こす内発的なエネルギーを高めること
(2)「組織活性化」のプロセスが継続するように経営陣が支援すること
(1)において重要なのは、『小さな成功体験を短期間で積み重ねていくこと』です。成功体験はミドルマネジャーにとっても、組織のメンバーにとっても、『なんだか変わってきた』という手ごたえと自信を与え、「組織活性化」の取り組みをドライブする力を与えます。
(2)において重要なのは、まず何よりも経営陣が本気で「組織活性化」に取り組むことです。ミドルマネジメントが頑張ってアクションを起こしても、『そんなことをしている場合ではない、業績目標達成するために目の前の数字に集中して』といった様に、「組織活性化」に向けたアクションを否定されると、一瞬で熱が覚めてしまいます。
なお、経営陣の関わり方としては『トップダウン型』で取り組みを指示命令するよりも、『ボトムアップ型』で支援した方が効果が出やすいようです。対話型組織開発の権威であるサイモンフレイザー大学 ブッシュ教授の研究結果によると、組織変革のアプローチの違いによって変革のゴールを達成する成功確率が大きく変わることが分かっています。
・トップダウン型の成功確率:0%……リーダーが変革定義し、スタッフが実行する(リーダーの支援がない)
・ボトムアップ型の成功確率:90%……スタッフが変革定義し、リーダーが積極的に支援する

「組織活性化」を進める7つのステップ
──「組織活性化」を推進する上で、具体的にはどのようなステップで進めると良いでしょうか。
私が「組織活性化」に取り組む際には、下記の7つの要素を組み込みながらプログラム設計をしています。
(1)自組織のVisionを考える
(2)エンゲージメントサーベイを読み解く
(3)具体的な解決策を考え実行する
(4)実行結果の振り返りと組織運営の悩みごとを本音で相談し合う
(5)リーダーとしてのありたい姿を考え、自己変革に取り組む
(6)経営陣から支援をもらう
(7)『小さな成功体験』を獲得させ、「組織活性化」活動を加速させる
(1)自組織のVisionを考える
『自分が理想とする組織のVisionは何なのか。誰に対してどんな価値を提供する組織になりたいのか。その時の組織の状態としてどのような状態を目指したいのか』など、まずは理想論を描きます。どうしても現状の組織の実態に引っ張られてしまいますが、本当はどんな組織にしたいのか、まずは理想を描く、ということを大事にします。
(2)エンゲージメントサーベイを読み解く
理想を描けたとしても、実際にはさまざまな問題が自組織にはあるはずです。そこで、どんな問題があるのかをエンゲージメントサーベイを読み解きながら解明していきます。ここで大事なのは『エンゲージメントスコアを上げることが目的ではない』ということです。そもそもこのスコアは社員一人ひとりの主観データでしかなく、その日の気分や直近であった嫌なことなどに左右されるもの。だからこそスコアそのものの向上を目指すのではなく、自組織のVisionを実現する上でどこに問題があるのか、『〇〇が問題だ』とメンバーがコメントをしている原因は何なのかを、同じプロジェクトメンバーや人事と対話をしながら探索していきます。
(3)具体的な解決策を考え実行する
ここまでの工程を経ると、いくつかの根本的な原因が見えてきます。その原因を解決するには、どうしても自分の力だけではできないことも多く、組織体制や人事制度が問題だと他責で考えてしまいがちです。そんな時は、『確かにそういうことはあるかもしれないが、自責でとらえた時にあなたは何ができますか?』と、まずミドルマネジメントが実行できる解決策を考えてもらうように促します。その上で、経営者・人事・他部署にお願いしたい解決策も併せて考え提案するという流れを作ることができれば、「組織活性化」に向けた第一歩を歩むことができるようになります。
(4)実行結果の振り返りと組織運営の悩みごとを本音で相談し合う
実際に解決策を実行しても思うようにうまくいかないことがたくさんあります。うまくいかなかった原因を、部下の積極性のなさや会社の制約の多さだとミドルマネジメントが思っているようでは何も変わりません。そんな時は、まず本音ベースで全部吐き出してもらった後に『もしうまくいかない原因が自分にあるとするなら何がありますか?』と考えてもらうのが効果的です。不思議と『もしかすると自分自身のリーダーシップにも問題があるのかもしれない』というモードになりやすいからです。
(5)リーダーとしてのありたい姿を考え、自己変革に取り組む
ミドルマネジメントに内省を促すと、『そもそもあなたはどんなリーダーを目指したいのか。ロールモデルはどういう人なのか』など自分自身のリーダーとしてのありたい姿に対してアンテナが立ってきます。こうなったら、1on1でのコーチングやグループコーチングを通じて本人のありたい姿を明確にすることを支援し、その実現に向けて具体的にどんな行動によって自己変革をするのかを問うていきます。
(6)経営陣から支援をもらう
活動していく中で、どうしてもミドルマネジメントの権限では突破できない壁が出てきます。その際には経営陣の支援がとても重要です。経営陣とは定期的に進捗状況を共有する会合を持ち、必要に応じて支援の手を個別に差し伸べてもらいます。
(7)『小さな成功体験』を獲得させ、「組織活性化」活動を加速させる
できれば、3カ月以内で「組織活性化」の手ごたえを得られるようなゴールを設定しましょう。『なんだか最近、うちの組織は変わってきた。みんな明るく元気に挨拶してくれるようになってきた。メンバー同士で話し合い提案されることが増えてきた』などの変化をミドルマネジメントが実感できると、内発的なエネルギーが高まり組織変革のプロセスが継続するようになります。
「組織活性化」により生まれた“小さな成功体験”
──北野さんが「組織活性化」を実現した際、実際にどんな変化が組織に起こったかについて教えてください。
実際にこのプログラムを導入した会社では、前述したような『小さな成功体験』が至るところで生まれました。
・拠点長同士が自発的に『社長抜きで議論をさせてくれ』と自主的に話し合いの場を持ち、全体最適の視点で考えて議論できるようになった
・社員全体の帰属意識が高まった
・メンバーが、個人ではなくチームとして考えて助け合えるようになってきた
・指示されたことだけを動くのではなく、自分が考えて動くという行動が現場にて起き始めた
・赤字事業のため仕事の質は落とさず人数を半分にして課題解決に取り組んだが、コミュニケーションの量を増やして取り組みの理由を明確に伝えることで、部下は自分自身が成長できる機会と捉えポジティブな取り組みにすることができた
・部下の話を遮らず最後まで話を聞くことでメンバーが相談しやすくなり、トラブルが発生する前に未然に防ぐことができるようになった
こうした『小さな成功体験』をどれだけ多く生み出せるかが、「組織活性化」のうねりをつくる重要なポイントであり、人事担当者の手腕の見せ所でもあるのだと考えています。
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編集後記
「組織活性化」には統一された定義がないことからもわかるように、抽象的なワードから抽象的な取り組みが場当たり的に実行されることも少なくないように感じます。そんな時は北野さんから教えていただいた『7つのステップ』を参考にしながら、地に足をつけて取り組みを行っていくことで手ごたえを感じることができるのではないでしょうか。
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