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経営戦略としての「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」とは

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「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉を聞く機会も増え、所属組織で何らかの取り組みをされている方も多いかもしれません。
資生堂、カルビー、花王などの国内大手企業もWebサイト上でそれぞれのスタンスを発信しています。

しかしながら、日本においてはその本質的な理解が進んでいない印象です。
またその推進目的も「今の世の中的に必要だから」「他社もやっているから」といったものも多く、半ば受身的に推進していることも多いように感じます。

そこで今回は、リクルートやP&Gで組織開発に従事し、現在はパラレルワーカーとして活躍する大場幸子さんに「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の本質的な目的と、その推進事例についてお聞きしました。

<プロフィール>
大場 幸子
大学卒業後、リクルートにて採用・研修・組織開発のコンサルティング営業に従事する。その後P&Gジャパンにてダイバーシティ・マネージメントや従業員コミュニケーションを担当したのち、石油関連企業にてダイバーシティ部門の立ち上げ、3年連続で「なでしこ銘柄」受賞。現在は、(株)コーチ・エイにて対話を通じた組織風土変革を複数企業で牽引している。
また、プライベートではビジネススクールと協働で「ミドルマネージャーによる変革」に関するリサーチを行っている。

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ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは

──まず「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」について教えてください。

言葉を直訳すると、ダイバーシティは多様性、インクルージョンは受容です。
ダイバーシティという言葉が日本社会に登場したのは2003年の日経連(当時)のレポートからであり、アメリカの影響を受けて最近はインクルージョンという言葉も含めて「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」が使われるようになりました。
言葉自体の認知度はかなり高まってきたと感じますが、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という言葉にモヤモヤした気持ちを持っている方も少なくない印象です。

例えば日本では、ダイバーシティ(多様性)と聞くと「女性活躍」を最初に思い浮かべる方が多いと思います。
しかし、本来はもっと多くの観点があり、大きくは以下2つに分類できます。

①目に見える個人の違い
(例)外見、性別、人種、国籍、年齢、働き方など

②目に見えない個人の中の違い(イントラパーソナルダイバーシティ)
(例)経験、育った環境、文化、宗教、学歴、キャリア、価値観など

最近では、人種や国籍など、取組みの対象を増やしている企業も増えていますが、多くの日本の職場でダイバーシティの捉え方が性別に偏ってしまう要因は、男性×総合職・女性×一般職の新卒採用、終身雇用、年功主義などの長らく続いていた日本独自の人事制度や慣習にあると考えています。
これらが、男性だけでなく、女性自身にも性別の役割固定観念であるバイアスを生み、職場で女性の活躍が促されてきませんでした。

2013年に第2次安倍政権が掲げた「日本再興戦略」の中で、女性登用推進は一定加速しました。
しかしこのテーマは、歴史を遡ると雇用機会均等法が施行された1985年から35年以上かけて日本が取り組んできたものであり、それだけ日本では女性活躍が進まなかったという証明でもあるのです。

※参照:厚生労働省「平成30年度雇用均等基本調査」

ちなみに、2019年7月30日に厚生労働省が出した「平成30年度雇用均等基本調査」によると、平成30年度で課長相当職以上の女性管理職割合は11.8%。安倍政権が女性活躍を推進し始めた平成23年度が9.4%であるため、ほとんど進んでいないことが数値からも見て取れます。

近年注目されている背景と、その推進目的・メリット

──近年特に「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」が注目されている理由はなんでしょうか。また、企業がこれらを推進する目的やメリットを教えてください。

背景として大きく2つあると思います。

女性活躍推進法

安倍政権が掲げた「日本再興戦略」を受け、2015年に「女性活躍推進法」が10年間の時限立法として施行されました。
2016年4月1日より、常時雇用する労働者301人以上(2022年4月1日より101人以上)の事業主は、女性の活躍状況の把握、課題分析、女性の活躍推進に向けた行動計画、女性の活躍に関する情報の公表などが義務付けられたというものです。

なお、女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画」の策定等が、2022年4月1日からは常時雇用労働者101人以上300人以下の企業にも義務づけられます。
つまり、今後は大企業だけでなく、中小企業でも女性活躍を推進していくことが必須になります。

イノベーション

上記の女性活躍は、企業が自ら積極的にダイバーシティ&インクルージョンを推進したというよりも、政府からの外的動機によって推進されているという話です。
しかし、「イノベーション」を生み出すために積極的にダイバーシティを経営戦略に積極的に取り入れていこうと動いている企業もあります。

「イノベーションに必要な新しい知は、既存知と別の既存知の新しい組み合わせによって生まれる」

経済学者であるシュンペンターがこう主張するように、不確実性が高いVUCAの時代において既存事業の先行きが不透明になった各企業が、組織に多様性を増やすことで様々なイノベーションや変化を起こそうとしているのです。

そういう意味では、個人的にはダイバーシティ&インクルージョンよりもダイバーシティ&イノベーションと言った方が、ダイバーシティを加速させる意図が分かりやすくて良いかもしれません。

政府から女性管理職30%を目指してほしいと言われ、急遽女性活躍を意識し始めた企業もあるとは思います。
しかし「ダイバーシティ&インクルージョン」自体が目的ではなく、その先の「イノベーション」まで見据えた上で組織風土を変えていくというマインドセットで活動しなければ、その本質的な効果は実感できないでしょう。

では「イノベーション」を目的としたときに組織が増やすべき多様性は、果たして「性別」の多様性だけなのでしょうか?

私が以前所属していた消費財メーカーでは、ジェンダーダイバーシティがビジネスに活かされる機会が多々ありました。男性向けカミソリの開発に女性が加わることで、いつもと違う視点が持ち込まれてプロダクトイノベーションが起こる──といったイメージです。

しかし、BtoBでビジネスをしている企業や重厚長大系企業では、性別の違いというよりも、これまでのキャリアバックグランドや文化的な違いの方が、組織に新しい視点をもたらし、変化を起こす原動力にしやすいのではないでしょうか。
性別などの「目に見える個人の違い」だけでなく、「目に見えない個人の中の違い」であるイントラパーソナルダイバーシティにも着目していくことが、これから多くの企業にとって重要だと思います。

ダイバーシティ&インクルージョンの推進事例・ポイント

──大場さんが関わったダイバーシティ&インクルージョンの推進事例を具体的に教えてください。

私が以前在籍していた石油関連企業の事例をご紹介します。

まず結果からお伝えすると、経済産業省が毎年発表する「なでしこ銘柄(※)」を2015年・2016年・2017年と3年連続で受賞することができました。これは、社員が男性中心の均質で固定化していた組織にとっては驚きの出来事でした。

※「なでしこ銘柄」とは、女性活躍推進に優れた上場企業40社を、「中長期の企業価値向上」を重視する魅力ある銘柄として選定することにより、企業の女性活躍への取組に対する投資家の注目を高め、上場企業各社の取組を一層加速化していくことを狙いとして、2012年より経済産業省と東京証券取引所が共同で実施しているもの。

女性活躍推進、女性管理職登用に関しては、こちらの記事「なぜ女性管理職は増えないのか?現状と企業が陥りがちなポイント」もご参考にご覧ください。

この成果につながったポイントは、大きく3つあります。

外圧を積極的に利用する

消費財メーカーから転職し、この石油関連企業へはダイバーシティ推進部門の立ち上げ役として中途入社しました。上記で記載したように、安倍政権の流れを受けて女性活躍にスポットライトが当たっていたタイミングのことです。

前職の消費財メーカーでは女性活躍を推進する理由が明確でしたが、石油開発企業の女性活躍推進の目的を私自身なかなか腹落ちできませんでした。旗振り役の私がそのような状態ですから、社員はもっとわかりませんよね。

その目的を探すべく経営陣や社員と対話を続けた結果、「ジェンダー(性別)ではなく年齢やキャリアの多様性を増すことがこの企業の事業戦略を加速させられる」と強く腹落ちすることができました。
石油業界の未来が不透明な中、新しい事業をスタートさせ、さらに新規事業を作っていこうとするのであれば、年功で昇格し、自社の事業しか知らない均質的なメンバーでは変化は起きにくい。硬直化して変化を起こしにくい組織風土を改善すること。それが当社のダイバーシティ推進の本質的なテーマだと確信しました。

ダイバーシティは当社の重要な経営上の戦略である。そう確信したものの、それは私の中だけのもの。
ダイバーシティ推進担当者の方々と話していると、推進担当者に任せたきり経営は無関心で困っているという声を聴きますが、同じ状況でした。
ただ、女性活躍推進法のおかげで、女性活躍については当然のように様々新しい施策を進めていくことができましたので、1年目は女性活躍の文脈で多様性を意識する取り組みを開始しました。

社員を巻き込み、変化を自分事化してもらう

人事が何かやりだしたぞと社員が感じだした2年目は女性活躍だけではなく、社員共通テーマにしやすい「働き方改革」を変化のうねりを大きくするテーマとして設定しました。
この改革の推進メンバーを社内で募ったところ、4名(若手女性3名・高卒男性1名)が手を上げてくれました。大卒男性主体の組織を変革するチームとしては願ってもないメンバーです。

彼らと共に、まずは「お試しフレックス制度」を導入することにしました。ちょうど政府が「プレミアムフライデー」を投入したタイミングであり、変化を嫌う組織に対して外的な契機を利用しながら体験してもらえるまたとないチャンスです。
それにこれらの施策は人事主導でやると反発も大きくなりがちですが、若手社員が進めるということもあって比較的スムーズに受け入れてもらえました。

その翌年は「本格フレックス制度」を半年間導入。そこで残業時間を減らせることを全社で確認し、現場の希望も聞いた上で本格導入することになりました。

「この時代に今さらフレックス制度か」と思われる方もいるかもしれません。しかし、この会社では20年来導入できなかったものが導入できたこともあり、「悲願が叶った!」と声を上げる人もいたほどでした。
変わらないと思っていた自分の会社でも変われた──こう社員が実感できたことは、残業時間を減らせたこと以上の効果があったと思います。

ダイバーシティを経営戦略の文脈で考える

当時、会社は新規事業を増やしていこうとしていましたが、前述した通り均質化した組織で変化に乏しく、新規事業を模索するには変化推進力が弱い組織風土でした。
そういう意味では、ダイバーシティを高めて変化を促す組織風土に転換していくことは経営上でも重要なポイントとなります。
変化推進力を高めるという目的から考えると、単にダイバーシティを高めるだけでなく、多用化した社員の活躍を促す能力開発、評価や報酬制度も変えていく必要があります。

1年目は外圧を利用する形で「女性活躍」をテーマにスタートし、2年目は社員全員が関心を持ちやすい「働き方」にテーマをシフトし実績も残しました。
すると3年目を迎える頃には「今年は何を変えるのですか?」と、周囲も変わること自体を毎年の恒例行事のように捉えだしてくれたのです。
まさにダイバーシティ推進を皮切りに組織風土が変わった瞬間です。

そこで3年目には年功的人事を緩和する「人事制度改定」をテーマに設定。
本来なら労働組合などの意見もあり変えていきにくい年功人事も、「変える・変えない」の議論にはならず、「どう変えようか」の議論にできたのはそれまでの積み上げがあったからだと思います。

<参考>当時のインタビュー記事

編集後記

これまで内容や目的がぼんやりとしていた「ダイバーシティ&インクルージョン」が、大場さんの話を通じてクリアにイメージすることができるようになりました。

行政の動きなど大きな潮流もありますが、イノベーションを起こすための方法としてダイバーシティ&インクルージョンを推進するという点に改めて気づき、また、重要だと感じました。

こういった自社にもたらすメリットに焦点を当てる事により、単純な数値目標ではなく、具体的な行動を改善し、評価制度にまで目を向ける事で、本当の「変革」に繋がってくるのではないでしょうか。

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