「内部通報制度」を活用して透明性のある組織運営を実現するためには

社内の問題や不正行為を専用窓口に通報できる「内部通報制度」。2022年6月に労働者数が300名を超える事業者に「内部通報制度」の整備が義務化されたことに加え、昨今ニュースを賑わせた数々の企業不祥事などもあり、改めて注目されている制度です。
今回は、「内部通報制度」を含めた組織構築経験を豊富に持つパラレルワーカーの方に、「内部通報制度」の概要から窓口設置方法に至るまでお話を伺いました。
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目次
「内部通報制度」とは
──「内部通報制度」の概要について教えてください。
「内部通報制度」とは、企業の不祥事やトラブルを内部者(従業員・関係者など)が匿名・記名で告発・通報できる仕組みです。その告発対象には組織内における法令違反・倫理的な問題・不正行為などがあります。この制度の目的は、企業内部にある問題を早期に発見して解決することです。組織の透明性や倫理的な文化を促進して信頼性の向上を図り、インシデントを未然に防止します。告発・通報は主に専用窓口やホットラインを通じて電話・メールなどのツールを用いて行われます。この体制があることにより、従業員は報復や仕事への影響を心配することなく告発・通報できます。
私が勤務している組織では、より意見を挙げやすくするために外部弁護士による社外窓口と、内部窓口として複数の報告ラインを整備しています。また、定期的に実施する従業員サーベイの機会を活用し、「内部通報制度」がどのように運用されているか、告発後、どのような形で調停されるのかなどの一般例を伝えながらを問題解決に取り組む企業姿勢を従業員へ示しています。
「内部通報制度」の窓口設置パターン

──この「内部通報制度」の窓口設置方法にはいくつかのパターンがあると聞きました。パターンごとの特徴とメリット、適した組織形態などについて教えてください。
窓口設置方法には大きく以下3つのパターンがあります。それぞれのメリットと適した組織形態について解説します。
(1)社内に設置
社内設置のメリットは、事業・業務内容を熟知している方が対応するため話がしやすく、調査を行う際にも迅速に対応しやすい点にあります。ただし、従業員が自組織のことを透明性のある組織だと認識していることが前提です。その前提がない場合、意見が挙がりにくくなるなどのデメリットがあります。また、組織が小規模の場合や、窓口を担当する部署が人事や法務の場合は、そもそも相談が上がりにくいなどのリスクがあります。
(2)社外に設置
社外設置のメリットは、従業員が意見を挙げやすい点にあります。ただし、匿名による通報となった場合や、事業・業務内容の理解からスタートしなければいけない場合などには、調査のアクションにすぐ移れないケースもある点には注意が必要です。なお、社外窓口としては窓口の委託業者と弁護士に依頼するケースがあります。前者は社外設置であることから従業員にとって相談しやすい印象を与える影響があります。弁護士に相談する場合は敷居を高く感じる印象も与えがちではありますが、告発内容は法令違反などの重いものに偏重する傾向があります。なお、社外に設置の場合でも、企業内外の労働組合に通報者が相談することもあります。
(3)両方に設置
スピードを優先しやすい時は社内窓口、社内にできるだけ知られたくない時は社外窓口など、従業員が選択できる点がメリットです。特に、グループ会社が多い企業では組織規模も大小さまざまなため、社内外の両方に窓口が用意されていることでどんな規模感の組織に在籍している方でも意見を挙げやすくなります。本件のデメリットを挙げるとすれば、従業員目線ではどこに相談するかを迷うことと、企業側としては費用が上がる点となります。
「内部通報制度」設置のための社内整備
──「内部通報制度」を新設しようと考えた際、社内でどのような準備・整備を行うと良いでしょうか。
大きく以下7つの観点から準備・整備を進めておくと良いでしょう。
(1)規程整備
就業規程などに「内部通報制度」に関する内容を記載し、内部通報者に対して不利益が生じないようにすることを明示します。合わせて、内部通報者に対して不利益を生じさせた者に対する処分方法についても明示が必要です。これらは明示するだけにとどめず、社内への周知を行うことで通報者へのカウンターリスクを回避し、会社として内部通報制度を重要視しているというメッセージを発信できます。
(2)社内告知
従業員が「内部通報制度」を利用しやすいように、社内ポータルサイト上などで告知を行います。いつでも利用できるように、社員証などと合わせて通報先が記載されたカードなどを携帯してもらうようにするなども良い取り組みです。
(3)経営陣への理解促進
「内部通報制度」を通じて寄せられた従業員からの告発内容は、一般的なレポートラインとは別にする必要があります。万が一にも誤って通報した従業員の上司や告発対象者などに知られてしまい、通報者に不利益が生じる可能性をなくすためです。対策としては、人事や法務部署など限られた担当者の中のみで情報を管理し、ヒアリングなどを実施する場合も情報をマスキングして確認しながら進めるという方法がよいでしょう。経営陣などから『なぜこの情報にはタッチできないのか』などの疑問が出る前に、この制度の目的やルールについて理解してもらう必要があります。
(4)ステークホルダーへの広報と啓発
「内部通報制度」の体制構築を行ったことをステークホルダー(従業員、社外広報、協力会社など)に知らせます。不祥事を未然に防ぐことはもちろん、現場としてそうしたリスクの察知・回避体制があることを広く伝えて安心感を醸成します。また、「内部通報制度」を従業員に正しく活用してもらうためにも、どんな場面で利用するのが良いかなどを研修などを通じて啓発します。組織内における法令違反・倫理的な問題・不正行為などはビジネスモデルや商慣習・社内カルチャーなどにも大きく左右されるため、『自社の常識が世間では非常識にもなりえること』なども併せて伝えていく必要があります。
(5)グループ会社との連携強化
グループ会社の従業員から通報があった際、本社とすぐに連携できる体制を事前に構築しておくことが重要です。なぜなら、グループ会社のガバナンスは人員不足などもあって本社よりも弱いケースが多いため、本社がフォローできる体制を作っておくと良いです。
(6)「内部通報制度」のネーミング
「内部通報制度」という名称をそのまま使ってしまうと、従業員は『敷居が高い』『通報により組織から仲間外れにされてしまうのでは』などのネガティブなイメージを持ってしまうこともあります。従業員にとって馴染みやすく、自社にあったネーミングを検討してみてください。『〇〇ホットライン』といったネーミングにしている企業もあります。

「内部通報制度」で被害を未然に防げた事例
──「内部通報制度」があったことで何らかの被害や損失を未然に防げた事例について、可能な範囲で教えてください。
具体的な社名や状況まではお伝えできませんが、身近な事例として2つほどご紹介します。
内部通報から組織的な不正が発覚した事例
内部通報窓口に相談があり迅速に調査を行ったところ、当初の担当者は『大きなインシデントにつながる内容ではない』と見立てていました。しかし、その後の現場ヒアリングを多くの方に行ったところ、組織ぐるみの不正が行われていたことが発覚。即座に対象者の処分や是正を行い、全社レベルで不正撲滅に成功。加えて、再発防止のタスクフォースも立ち上がり、組織体制が大きく強化されました。
内部通報をきっかけに社員の信頼感を醸成できた事例
キャリア採用者から内部通報が入り調査を開始。本人へヒアリングしたところ、『こんなことは前職ではやっていなかった。不正行為に該当するかもしれないと思って通報した』とのこと。転職後間もないタイミングで、まだ新しい会社のカルチャーにも慣れていないこともあって通報・相談してくれたようです。
調査には時間を要したものの、結果的には不正とは断定されませんでした。通報者であるキャリア採用者にもその旨を伝え、改めて自社のカルチャーや商慣習などを説明することで『信頼できる会社に転職して良かった』と評価をいただくまでに進展。また、この件の調査を通じて業務フローに課題があることが顕在化し、その改善にもつなげることができました。
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編集後記
企業のコンプライアンスに対する世間の目は年々厳しくなっており、その範囲も法令順守だけでなく社会規範・企業倫理にまで拡大しています。そんな中で違反行為が明るみに出てしまうと、企業が受けるダメージは甚大です。それらを未然に防ぐためにも、「内部通報制度」などで万全の備えをしておきたいものです。