ミッション・ビジョン・バリューの再構築から、採用の根本変革までを実現したパラレルワーカー活用事例
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「お父さん、オレの奨学金を使い込んでくれてありがとう。」
このキャッチコピーが話題になった父の日広告をご存知の方も多いかもしれません。今回取材に協力いただいたのは、この広告の掲載主であり、ポイント最大還元アプリ「AI-Credit」を開発・運営しているAIクレジット株式会社のCEO 荒井 健太さんです。
このサービスがリリースされたのは2019年。わずか2年で利用者を大きく伸ばし成長しています。そんな中、2021年4月からプロ人事であるパラレルワーカーの活用を決め、ミッション・ビジョン・バリュー (MVV)再構築から採用戦略立案・運用に至るまでの一大プロジェクトを実施。わずか4ヵ月ほどの期間ながら大きな成果を残しました。今回はその経緯やプロセスについて、パラレルワーカーも交えてお話を伺いました。
■この事例のポイント
・ミッション・ビジョン・バリューの言語化/活躍人材のコンピテンシー明確化を通して、スタートアップが陥りがちな「感覚的な採用」を脱出
・採用戦略立案〜採用手法やフロー構築までをパラレルワーカーと共に進めることで、社内へのノウハウ蓄積も実現
<プロフィール>
■荒井 健太(あらい けんた)/AIクレジット株式会社 CEO
ユナイテッド株式会社の創業時からジョイン。ネット広告、アドテク、スマートフォンアプリ事業を担当。2015年8月にAIクレジット株式会社を創業。現在は仕様設計ディレクション・マーケティング・営業・カスタマーサポート・人事・財務など全般。2015年12月に資金を使い切り、2016年1月からバイトも掛け持ち。1年間、会社に住み込んで働く。事業ピボット。EC事業の買収・譲渡、社員8人中5人が退職などを経て「AI-Credit」を立ち上げる。
■足澤 憲(たるさわ けん) AIクレジット株式会社 CTO/COO
2013年に大学院修了後、ユナイテッド株式会社にてWebエンジニアとして活躍。その後2015年にAIクレジット株式会社を共同創業。CTOとしてキャッシュレスマップアプリ「AI-Credit」のプロダクト化を実現。
■Aさん/パラレルワーカー
※お名前は非公開としており、文中「Aさん」と表記いたします。
現在フリーランスで複数企業の人事業務に従事。大企業と成長企業において経営戦略との連動を意識した人事制度改革、人材育成改革(含む組織開発)などの戦略策定から実運用までに携わり、HRの面から企業変革に貢献。
目次
過去の失敗を踏まえて決めたパラレルワーカー活用
──父の日広告の反響はすごかったですね。ユーザーもかなり増えたのではないかと思います。今回のパラレルワーカー活用も、それに伴う増員採用が目的でしょうか?
荒井さん:ありがとうございます。おかげさまであの広告を出してから取材依頼も多くいただいて、「AI-Credit」アプリの利用者も大幅に増えました。
ただ、今回プロ人事であるパラレルワーカーにご協力いただいたのは「目の前の採用」ではなく、「会社の根幹となるミッション・ビジョン・バリュー (MVV)を再構築して採用要件や基準を明確にしたい」というのが一番の目的でした。
そう考えたきっかけは「過去の失敗」にあります。「AI-Credit」リリース前はクライアント企業のWEBサービスやアプリ開発をメインにやっていたのですが、その時に8人いた社員のうち5人が辞めてしまった経験がありまして。
当時はミッション・ビジョン・バリュー (MVV)も私やCTO足澤の頭の中にしかなく、採用要件もフワフワしたまま採用活動をしていたことが、結果的にミスマッチを生んでしまったのだと思います。
「同じことを繰り返してはいけない」という思いから、「AI-Credit」が伸びてきてこれから採用を強化する前に土台を固めよう、そのためにパラレルワーカーの力を借りようと決意したのです。
元々エンジニア領域で副業人材の活用経験はあったので、人事領域でも類似のサービスがあるのではと探したところコーナーを知り、知人を通じて利用を開始することにしました。その際、オンラインマッチングサービス「corner works」を使ったのですが、求人掲載から間もなく多くの応募がありまして。経歴を見ると選りすぐりの方ばかり。こんなに優秀な方が応募してくれるんだと驚いたことを覚えています。
──Aさんはこれまでもフリーランスとして活躍されてきましたが、今回このプロジェクトに参画しようと思ったのはどんな理由からですか?
Aさん:まずは経験面で「自身の経験がフルに活かせそうだ」と感じたからです。これまでも1人目人事的な形で人事全般を担当したことは何度かあり、このプロジェクトにおける動き方も事前にイメージできる部分が多くありました。また前職で在籍していた企業と事業領域が似ており、採用だけでなくマーケティングなどでも役に立てることが多くありそうだなと思ったことも応募理由の1つです。
あとはシンプルに「AIクレジットの事業や人に惹かれた」から。スタートアップは勢いのある若い方が多いイメージがありますが、AIクレジットは経験豊富な荒井さん・足澤さんが中心の組織であり、これまで成功も失敗も多く経験されてきた上で経営をされています。そんな方と一緒にミッション・ビジョン・バリュー (MVV)から再構築できる機会はとても貴重ですし、より深い話ができるのではないかという期待がありました。
そして始まったミッション・ビジョン・バリュー・採用戦略の再構築
──プロジェクトはどのような流れで進めていったのですか?
荒井さん:大きな流れとしては以下のような形で進めました。
①ミッション・ビジョン・バリュー (MVV)策定
②採用戦略立案(採用計画→ペルソナ設計→採用フロー整備→採用チャネル選定→採用プロセス設計)
③面接フロー構築(面接方法のレクチャー、スカウトテキスト作成など)
まず、私や足澤の頭の中だけに留めていたミッション・ビジョン・バリュー (MVV)を言語化するところからスタート。父の日広告の制作もしてくれたコピーライターの長谷川哲士さんにも協力いただき、ただ言語化するのではなく「人に伝わりやすい言葉」になるように整理していきました。「お得」「節約」という言葉が並ぶとどうしても「セコイ」イメージが先行してしまい、当社が本当に実現したいことが伝わらなくなってしまうからです。
またAさんにもこの段階から関与いただき、この後採用戦略に落とす上でどんなポイントで検討していくべきかのアドバイスをもらっていました。その後、再検討したミッション・ビジョン・バリュー (MVV)をベースとして、採用戦略から面接フローに至るまでを1つひとつ落とし込んでいった形です。
Aさん:実際にミッション・ビジョン・バリュー (MVV)再構築を進める中で、荒井さんと足澤さんの頭の中だけにあったものが言語化され、より人に説明しやすいものに整理されていくのが見て取れました。その過程から関与させてもらえたからこそ、その後の採用戦略に落とし込んで行くフェーズにおいてもより理解度高く進めることができたと感じています。
採用戦略構築部分から私がメインで関与する形になりましたが、そこで心掛けたこととしては「私だけで進めない」ということです。荒井さんに一連の流れを経験いただいて、私が離れた後でも自走できるようにする。それがこのプロジェクトにおける個人的なゴール設定でした。そのため、私からその時々で押さえておくべきポイントや考え方(思考のフレームワーク)などをお伝えして荒井さんに委ねることも多く、一緒に考えを深めていく部分と、荒井さんに考えを深めてもらうための手伝いをする部分を切り分けて進めるようにしていました。
ミッション・ビジョン・バリューは言語化され、採用要件は180°変わった
──このプロジェクトを通じて「採用要件」も大きく変わったと聞きました。
荒井さん:そうなんです。元々あった採用要件が「足澤みたいなエンジニア」というなんとも漠然としたものだったのですが、Aさんから「それなら足澤さんのコンピテンシーチェックをやってみるのはどうでしょう?」と提案いただいたことをきっかけに、活躍人材のコンピテンシーを明確にして1つひとつ言語化していったのです。これによって解像度が一気に高まり、他者にも説明しやすくなりました。
また、変わったのは解像度だけではありません。採用要件の方向性にも大きな変化がありました。これまでは私の中でも「一緒に上場目指してストックオプションもバンバン付与して……」という人材をイメージすることが多かったのですが、ある時Aさんから「社員みんながそういう人ばかりだと大変ですよ」とフィードバックをもらいまして(笑)。スタートアップだからという概念にとらわれすぎていたんですね。
その時にもAさんから企業を4象限に分けて考えるフレームワークを教えてもらい、改めて自社が目指す方向性を整理。その上でどんな人材が自社にマッチするかを考えていくと、いわゆるスタートアップ的な人材よりも、サービス開発や運用にやりがいを感じる現場志向の強い方のほうが合うのではないかと考えが変わっていきました。
Aさん:一般的なスタートアップは指数関数的な成長を目指すイメージがありますが、荒井さんと足澤さんからはそういったイメージがあまり感じられなくて。どちらかと言うとこの事業の意義や価値を大事にしながら着実に成長させていきたいという印象が強く、パーパスドリブン的に組織運営していくのが良いのかもしれないと思っていました。それもあって、ある時「どんな企業文化をつくっていきたいですか?」と質問したことで、採用要件の方向性を変える1つのきっかけになれたのかもしれません。
採用要件が大きく変わったことにより、求人票や選考の中で伝えるべきメッセージも大きく変化しました。新しく採用向けのプレゼン資料も荒井さんに作ってもらったのですが、そこで完成したものがとても分かりやすく、企業の考えや特色が理解できるものになっていて、今回のプロジェクトがうまくいっていることを実感できたような気がします。
こうして作り上げた土台の元、いよいよこれからは採用を具体的に進めて行くフェーズに入ります。採用活動はもちろん、入社・定着・活躍に向けた制度も一緒に考えさせていただく予定で、まずは等級・報酬・評価制度あたりをスコープにしています。
パラレルワーカー活用が持つ可能性
──今回のプロジェクトを通じて、パラレルワーカー活用にどのような可能性を感じましたか?
荒井さん:自分たちだけでやっていると「これで正解なのか」と不安に思うことがたくさんあるのですが、今回はプロの人事であるAさんに関与してもらえたため、迷うことなく進むことができました。採用はもちろん、経営視点も持った上で第三者的に客観的なフィードバックをもらえるというのは、私たちにとってとても価値のあることだったように思います。
またプロの方に依頼できると、こちらのマネジメントコストが低く済むため、事業により集中することができる点も大きなメリットでした。一般採用だとどうしてもスキル的なアドバイスが必要だったり、時にはモチベーション管理が必要だったりと何かと手を取られることがあると思うのですが、そういったことが必要ないのは経営陣としてもとてもありがたいものです。
とはいえ、丸投げしてしまうのは違うかなと。その方が最大限動きやすいような環境を整えて、こちらで責任もって取り組むべきことはちゃんとやる。そうした情報開示範囲や裁量、役割分担などはプロジェクト開始前にできる限り詰めておく必要はあります。ちなみに当社では情報をフルオープンにしていました。隠す必要も何もないからですが(笑)
Aさん:今回特にやりやすかったのは、「今起きていることをリアルタイムで共有してくれた」点にあります。定例ミーティングだけだとその時間が確認で終わってしまい、何をどんな経緯で考えたのかまでつかみにくいことも多いのですが、リアルタイムであれば時系列に沿って考えの変化もつかめるので、こちらも動き方を考えやすかったです。
また我々のようなパラレルワーカーを活用いただくメリットは、その場の課題解決や実運用の代行だけでなく、プロジェクト終了後も企業内で活用できるノウハウが残ることにあります。だからこそ今回のプロジェクトのゴールも「私が離れた後でも自走できるようにする」としていたし、そのためにできるだけ実運用部分を荒井さんや足澤さんに担当いただけるような形で進めてきました。
すべて答えを導き出すのではなく、クライアントと一緒に考え、企業の採用力や組織力そのものが高まる支援をすること。それこそがプロ人事であるパラレルワーカーのミッションであり、存在意義なのかなと。もちろんスポット的な活用も可能ではありますが、そうしたマンパワー的なものではなく、知識やノウハウの習得も含めて期待いただけると、パラレルワーカーとしてもよりスキルを発揮できるのではないでしょうか。
編集後記
ミッション・ビジョン・バリュー (MVV)再構築という最上流からスタートした今回の事例。わずか4ヵ月という短い期間にも関わらず、企業の根幹となる考えを言語化し、それを元に採用戦略が見直され、採用要件が大きく変化したという数々の成果が生まれました。
コンサル的に上流の要件定義だけに終わらず、アウトソーシング的に実務の遂行だけに終わらず、クライアント企業が継続的に発展していくためのヒントやノウハウを存分に伝えていく。これこそがプロフェッショナルなパラレルワーカーの強みであることを、改めてこの事例からも感じることができました。
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