【対談インタビュー】専門性高い領域の「人事制度構築・導入」にパラレルワーカーと取り組んだ事例
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パラレルワーカーを社外から受け入れ、事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、日本最大級の医療プラットフォームで地域医療を支援し、未来の医療のインフラとなることを目指しているスタートアップ企業のファストドクター株式会社が、パラレルワーカーと共に人事制度構築・導入に取り組んだ事例です。
その経緯やプロセスについて、ファストドクター株式会社 人事部シニアマネージャーの佐田 雅弥さん、株式会社コーナー 代表取締役の門馬にインタビューしました。
■この事例のポイント
・アルバイトスタッフもビジネスの重要部分を占める同社。しかしアルバイトスタッフ向けの人事制度は整備されておらず、整備しようにもその他の重要アジェンダに優先順位が押され、『人事部にリソースさえあれば……』といった状態だった。
・大人数かつ複数職種にまたがるビジネスを運営する企業におけるアルバイトスタッフ向けの人事制度を構築・導入した経験がある方が世の中的にも少ない中、この領域に専門性を持つパラレルワーカーの方と出会い、一緒に中長期的な視点も含めて制度構築を行った。
<プロフィール>
■佐田 雅弥/ファストドクター株式会社 人事部シニアマネージャー
慶應義塾大学法学部卒。新卒でトヨタ自動車株式会社に入社し人事領域で労務管理、新卒採用、海外(インドネシア)駐在、人材開発に従事。2019年からヘルスケアスタートアップ領域に転じ、2022年にファストドクター株式会社に入社。人事部の立ち上げ及び組織・人事企画業務を担当。
■門馬 貴裕/株式会社コーナー 代表取締役
新卒で株式会社インテリジェンスに入社。人材紹介部門の法人向けコンサルタントや、ファッション業界向け新規事業責任者として企業の人事戦略、採用支援に一貫して関わりトップコンサルタントとして活躍。その後は人材紹介部門にてマネジャーに従事、兼務にて100名超の新入社員研修等も行う。2016年に同社を退職し、株式会社コーナーを創業。
目次
採用は止めずに、人事制度を作りたい
──人事制度づくりを外部人事であるパラレルワーカーと一緒にやろうと考えたきっかけから教えてください。
佐田さん:当社の社員数は現在180名ぐらいで、アルバイトスタッフまで含めると1000名規模になります。アルバイトと言ってもそのメンバーは看護師など専門性を持った人材も少なくありません。救急往診・オンライン診療事業などを展開する当社にとって、まさにコア的な存在です。
ただ、アルバイト向けの人事制度がそもそも用意できておらず、その都度現場の判断で時給設定なども行っており、今後も持続的に成長していくためには基盤づくりが必要であると認識していました。加えて専門性を持ったアルバイトスタッフの採用難易度も年々上昇し、時給も上昇しています。そこに、医療ニーズが高まる繁忙期が重なるとアルバイト採用はさらに激化するなど、このままでは経営のボトルネックになりかねない懸念もありました。また、そうしたアルバイト採用に現場マネージャーの工数負担が相当発生していたこともあって、アルバイトスタッフ向けの人事制度整備に着手しようと考えたのです。
しかし、当時の人事体制は私と派遣社員の方を含めて3名。労務は別チームにて担当してくれてはいましたが、月間100名単位のアルバイトスタッフ採用とそれに付随する人事周りの業務はすべてこの3名で回しており、人事制度を企画から現場インストールまで担うにはリソースが全然足りてなかったのです。経営陣ともこのアジェンダ重要性を議論し、アルバイトスタッフ向けの人事制度企画・導入はパラレルワーカーの方にも協力してもらい、その間に運用メンバーを採用してちゃんと回し切れる体制を作る形で進めようと同意を得ました。これが2022年9月くらいのことで、ちょうどコーナーへの相談も始めた時期です。
門馬:佐田さんからの相談を受けた際、「佐田さんがもう1人~2人いたら実現できるだろうな」と感じました。やりたいことや課題認識がかなり明確だったからです。でも、現実ではそういうわけにもいかない。ちょうどこのプロジェクトを進めている最中もコロナの第8波が来ていて、その期間中だけでも200名程度のアルバイト看護師採用を佐田さんは進めていましたからね。
──パラレルワーカーへ依頼する以外の選択肢もありましたか?
佐田さん:門馬さんを前にして言うのもあれですが(笑)、パラレルワーカーではなくコンサルティングファームへ依頼する選択肢ももちろんありました。さまざまな選択肢からメリット・デメリットなどを踏まえて検討した結果、当社がやりたいことである『アルバイト向け人事制度のアウトラインを作り、年始までに運用をスタートさせる』ことを実現される上で一番マッチしたのがパラレルワーカー活用だっただけなのかなと。
ちなみに、そのマッチしたポイントは「経験」でした。というのも、「アルバイトスタッフを対象とした人事制度の構築・運用経験」は非常にニッチなものだと自覚していたからです。社員向けの人事制度をアルバイトスタッフにも転用していくケースはよくありますが、アルバイトスタッフ向けに人事制度を作ることはそう多くありません。そうした経験を持つパラレルワーカーの方とお会いできたことが、今回の選択に至った1番の理由です。
門馬:このニッチな領域を自社の知見だけで乗り切ろうとすると、どうしても一定のトライ&エラーが必要で時間が掛かったと思うんです。だからこそ、専門性を持った方と一緒に人事制度構築・導入を進めることで、スピード感はもちろん内容もより良いものにできるだろうと考えていました。
これだけのプロジェクトではありましたが、結果的にはかなり短期間で一気に作り上げることができたと感じています。
「現場」と「パラレルワーカー」の異なる視点を、組織のあるべき姿から接合させる
──アルバイトスタッフ向けの人事制度構築・導入に向けて、パラレルワーカーの方とどのように進めていったのでしょうか?
佐田さん:まず、私や経営陣がこのプロジェクトに対してどういう問題意識を持っているのかについてパラレルワーカーの方とコミュニケーションを取ることからスタートしました。
目の前の短期的な課題解決(採用強化)だけでなく、中長期的な組織づくり(正社員登用・その後の活躍)も考えたプロジェクトであることをお伝えし理解いただくことで、近視眼的な取り組みで終わらないようにしたかったからです。
また、その後に予定していた現場の部門長へのヒアリング実施に向けた狙いもそこには含まれていました。というのも、現場の部門長は日々課題に向き合っているため、目の前の問題意識や課題に対する解像度が高まる一方で、中長期的な話に至らない可能性がありました。そして、そこに引っ張られてしまうと取り組みが近視眼的になってしまいます。しかし、事前にパラレルワーカーの方と中長期的な視点や目的について共通認識を持てていたので、「現場のリアルな今」と「組織の将来的なあるべき姿」の双方にフォーカスがあたった状態で人事制度の企画を進めて行くことができました。
──パラレルワーカーに依頼したからといってすべてお任せにするのではなく、全体を見て必要な関与をしていったのですね。その後は結果的に等級・評価制度へと落とし込んでいったと聞きましたが、なぜそこに取り組もうと考えたのでしょうか。
佐田さん:以前から「例えば、ユニクロさんのように、アルバイトからスタートした方が現場の中心を担い、ゆくゆくはマネジャー・シニアマネジャー・部長などの要職を担ってもらえるような組織にしたい」と考えてはいました。当社は医療サービスを提供しているので、オペレーションがヘビーなんですよね。コールセンターで依頼を受け、往診・オンライン診療の調整からそこで必要な医療機器のパッケージング、、診療報酬報酬の算定等々──専門性も一定求められるため、それらに対応できる方が長く勤めてもらえる環境・制度づくりがどうしても必要だったんです。
門馬:ユニクロさんの場合、店舗の販売職が対象です。しかし、ファストドクター様ではそこに複数の職種軸が絡んできます。評価の等級数が一緒だったとしても、職種ごとに賃金などが異なってくるはずなので、ユニクロさんよりも複雑性が高くなるだろうと思っていました。そこで、プロジェクト開始直後の2022年10月は現状の見える化に取り組んで課題を明らかにすると共に、各職場の目線を揃えることに注力。11月で各部署のやりたいことに合わせて落とし込むための型を作り、12月いっぱいで評価基準や要件の言語化をしていこうと計画を立てて進めて行きました。
──等級・評価制度を新設する上でどんな点に苦労しましたか?
佐田さん:「なぜこの基準で評価を行うのか」を現場にインプットすることに苦労しました。基本的にはスキルレベルに基づいて等級を決定し、それに応じて時給が変わる形の評価制度を作ったのですが、「現場が評価したい人材」との齟齬がいくつかあったからです。
例えば、「たくさんシフトに入ってくれる方の給料を上げたい」という現場心理です。そうした方はシフトを組む上でありがたい存在であり、それに報いたいという気持ちがあることも十分に理解できます。しかし、それだけに捉われてしまうと、そもそも人事制度を作る意味もないですし、我々が目指すあるべき姿にもいつまで経っても到達できません。「長く・たくさん働いていればそれでOK」的なメッセージにならないためにも、スキルを基準として評価をするんだという意識伝達・改革は特に丁寧に行いました。
もう1つ苦労したのは、「スキルレベルの項目や基準を整えていくこと」です。事業責任者を中心にスキルレベルシートの案を作ってもらったのですが、中にはスキルというよりも、例えば貢献度といった定性的なものも多くあったのです。先ほど挙げた“たくさんシフトに入ってくれる”もその1つ。これはスキルに該当する・該当しないのコミュニケーションを1つひとつ丁寧にしながら、「何を評価するべきか」の目線を現場と揃えていく作業をパラレルワーカーの方にもサポートいただきながら進めて行きました。具体的には、事業責任者が作ってくれたスキルレベルシートに対してパラレルワーカーの方にフィードバックをもらい、その観点を踏まえて私が現場とコミュニケーションする形です。社内だけの関係性だと共感して終わらせてしまっていたかもしれない部分も、パラレルワーカーの方が介入してくれたことでシビアに見極めることができたと感じています。
こうした人事制度の説明や導入は我々社内のメンバーが担うべきものだという認識がこれまではありましたが、今回パラレルワーカーに入ってもらったことでより明確に言語化できた上、現場とのコミュニケーションスピードも大幅に向上した実感があります。また、ここのスピードが上がったことで運用→改善にも早く着手することができ、結果として人事制度の改良と定着が素早く進められたと振り返っています。
門馬さん:打ち合わせやヒアリングした内容をドキュメントに落とし込み、佐田さん・各事業責任者の方・パラレルワーカーの方の間で認識齟齬がないかを時間と労力をかけて丁寧に進めていった結果が、これだけのスピード感を実現できた要因かなと感じています。
「見えないバイアス」に気づくことの重要性
──このプロジェクトにより生まれた効果について、副次的な面もあれば合わせて教えてください。
佐田さん:理想形としてイメージしていたユニクロさんのような形までは当然ながらまだ至っていませんが、少しずつ正社員登用される方が増えてきた実感はあります。加えて、正社員登用された方がその後も順調に活躍してくれているのも嬉しいポイント。スキルレベルシートがうまく活用され、必要なスキル開発が行われている結果だと捉えています。
もう1つの成果としては、アルバイト募集を行う上での時給基準を明確化できたことです。これまでは繁忙期などの急募時には時給をいくらか上乗せする形で対応していましたが、それによって「なぜ後から入った人の時給の方が高いのか」などの不満につながっていました。でも今はスキル基準に応じて時給を決定しているため、基本的な時給はいくらで、急募時の特別割り増し手当としてはいくらプラスしているかを明確に説明できています。入社タイミングによって時給が異なる事実については解消しきれていませんが、スタッフにちゃんと説明できることは非常に重要だと考えています。
今後は、正社員登用した方が要職に就いていけるサポートをもっとしていきたいと思っています。元アルバイトだからキャリアに見えない天井がある──みたいな組織は嫌ですし、現状そうしたものがあるわけでもないのですが、実績がまだないうちはメンバーからもそう見えてしまう可能性はありますからね。
──最後に、パラレルワーカーを活用してみて感じたことや可能性について教えてください。
佐田さん:「客観的な視点を、専門性と共に持ち込んでもらえる」ことがこれほどまでにも効果的なのかと、今回のプロジェクトを通じて実感しています。自分たちだけでやっていると、どれだけ気をつけていても「見えないバイアス」は残ってしまうものです。そこに引っ張られることなく、自分たちが目指す組織像に向けて最適な手法を選択・検討していけることは、パラレルワーカー活用ならではの意義だと感じます。
こうしたパラレルワーカーの活用がもっと広がっていけば、各社の取り組み自体の品質やスピード感もさらに上がっていくでしょうし、各社が実現しようとしているビジョンやミッションもより推進されていくはず。そんな世界にもっとなっていけばいいなと、今改めて思いますね。
門馬さん:今回のプロジェクトがうまく進められた要因の1つに、「ファストドクターや佐田さんが組織の未来をしっかり描けていた」ことがあると思っています。そこに対してコーナーやパラレルワーカーの方が手段・手法を提案し、ハンズオンで解決に向けた役割分担やアクションを実行できただけなのかなと。これからもまだまだ実現したいことが多くあると聞いているので、引き続き必要なタイミングで支援できれば嬉しいです。
編集後記
「見えないバイアス」という言葉が非常に印象的だった今回の事例。特に組織内でもはじめての取り組みや、世間的にも珍しい取り組みを行う際には、そうしたバイアスを知らず知らずのうちに頼ってしまうことも少なくないはず。そんな時には特に、高い専門性と客観性を持ち合わせたパラレルワーカーの活用を検討するのはいかがでしょうか。