【対談インタビュー】何もかもが不明な状態からの脱却。外部人事が雰囲気を変えた、組織体制強化事例。
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パラレルワーカーを社外から受け入れ、事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、街の⾃動⾞修理・整備ができるお店をネットで簡単に予約できるサービス「メンテモ」を山梨県甲府市の拠点から展開している株式会社メンテモの事例です。
20代中盤の若い経営陣2名が中心となって、ひたむきに事業成長と向き合ってきたメンテモ。ですが、その組織経験の少なさや専任人事が不在だったことなどが要因で、事業の成長スピードに社内体制や人事制度が追いついていない状態だったと言います。そんな時に株主からのアドバイスをきっかけに外部人材活用を決定。「何をどうすれば良いかわからない」状態からパラレルワーカーと一緒に課題を抽出し、最終的にはミッション・ビジョン・バリュー (以下MVV)の再構築を通じて組織体制の強化に成功しました。その経緯・プロセスについて、代表取締役社長 若月 佑樹さんと CCO 冨樫 海斗さん、そして人事パラレルワーカーのAさんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・事業成長に社内体制や人事施策が追いついていない状況を打破するべく、「外部人材活用」を決断して要件定義からプロジェクトをスタートさせた。
・課題が多方面に渡っていたことから、プロジェクト当初はメンテモの未来に向けたブレストからスタート。その後、人事パラレルワーカーのアドバイスを受けMVV再構築に着手し、結果的に組織体制強化とリスタートに成功した。
<プロフィール>
■若月 佑樹(わかつき ゆうき)/ 株式会社メンテモ 代表取締役社長
1998年生まれ、山梨県甲府市出身。2017年に駿台甲府高等学校を卒業後、都内のスタートアップにジョイン。同9月、株式会社UNDEFINED (現社名:株式会社メンテモ) を創業。チャットアプリ NYAGO を始めとするコンシューマ向けモバイルアプリを企画・開発・運営。2020年、祖父が鈑金業を営んでいたことから「メンテモ」をスタート。今乗りたい車は空冷ポルシェ。
■冨樫 海斗(とがし かいと)/ 株式会社メンテモ CCO
1997年生まれ。北里大学海洋生命科学部を卒業後、大手小売店にて店舗運営に従事。2021年に株式会社メンテモに入社し、CCO (最高顧客責任者) に就任。「メンテモ」のウェブマーケティングから加盟店獲得、お客様対応まで取り仕切る。愛車はダルマセリカ (1977年式)。
■Aさん/パラレルワーカー
※お名前は非公開としており、文中「Aさん」と表記いたします。
大学を卒業後、新規事業立ち上げや経営企画、人事部長を経験。1から10にする事業成長の伴走や人材・組織開発を得意とする。学校や自治体、企業の人・組織に関するプロジェクトに多数携わっている。
目次
「課題はある。でも、どうしたら良いか分からない」
──今回の外部人事活用にあたり、当初は何が課題だと考えていたのでしょうか。
若月さん:今だから言えるのですが、当時は事業の成長スピードに対して社内体制や人事制度が追いついていない状態でして。というのも、私自身が若くして企業したため組織の中で働いた経験がほぼなく、レバレッジをかけた事業推進がうまくできていなかったのです。今後さらに事業を推進して組織を大きくしていきたいとは思っていましたが、そのために人事的な側面から何をすれば良いかが検討もつかず……。とはいえ専任人事を配置できるほどの余裕もなかったので、何からどう手をつけたら良いかと頭を悩ませる日々でした。
また、本社が山梨にあることもあって、一般的なスタートアップと比べても働く方々の属性がダイバーシティに富んでいます。しかしながら、それだけの多様なダイバーシティを活かしきることができていなかったことも目下の課題となっていました。
Aさん:その対策として最終的には「MVVを再構築する」ことになったのですが、当初はそんな話は1ミリもしていませんでした。私が外部人材としてジョインさせてもらってからの1~2か月は、「この組織にはもっと可能性があるはず。でも、どうしたら良いか分からない」という若月さん・冨樫さんに寄り添いながら、メンテモの未来に対して何をどうしていけばよいかをブレスト形式で対話を進めて行きました。人事評価システム、個別の昇給/降給、昇級/降級の策定コミュニケーションの方法論・スクリプトの作成──あらゆる角度からやるべきことを検討していきましたが、「どれだけ事業スピードが上がり人材が多様になっても、みんなが立ち戻れる場所さえあれば土台は揺るがないのではないか」という結論に到達し、その手段としてMVV再構築からスタートすることに決めました。
パラレルワーカー活用を決めた動機
──当初考えていた課題に対して、パラレルワーカー活用に踏み切った動機や決め手は何だったのでしょうか。
若月さん:都内のスタートアップに入社したものの半年も満たずにメンテモを創業した私にとって、人事業務は未知の領域と言っても過言ではありません。それ故に全体像もつかめず、組織の完成系からバックキャストして計画へと落とし込んでいくロードマップも引けない……。この「何をどうすればよいか分からない」状態を打破するためには有識者に相談するしかないと思うものの、誰にお願いすれば良いか分からずで。そこで、要件定義からサポートいただけるコーナーにお願いしたいと考えたのがコトの始まりです。
コーナーの担当者に当社の状況や実現したいことをヒアリングいただき、その要件に沿った方を3名ご紹介いただきました。その中でもAさんにお願いしたいと思った理由は大きく2つあります。
1つは、「事業に対しての解像度が高そう」だと感じたこと。人事としてのバックグラウンドがありながらもビジネス立ち上げや営業企画、営業プロセス・採用要件定義などに至るまで幅広く経験されていたので、より広い視野でサポートいただけそうだなと。今回のプロジェクト終了後に採用活動を再開した際にも強い味方になってくれるのではないかとも思っていました。
もう1つは、「オーナーシップを持って導いてくれそう」だと感じたこと。最初の面談後にさっそく「具体的なたたき台を用意します」と話をしてくれたことは、人事に関する専門分野がない我々にとって大きな安心となりました。この方であれば任せられると信頼できたのは、プロジェクトを成功させる上でも重要なことだったと振り返っています。
Aさん:複業はお金のためではなく、組織変革などに挑戦したい方の力になる中で自身のスキルもアップデートできればと思ってやっています。「何をどうすれば良いか」から一緒に考えていけることはなかなかないので、貴重な機会だなと。
また、若月さんたちの姿勢や目指すものに感銘を受けたことも本プロジェクトに参画することを決めた要因の1つです。実は、若月さんと初めてお会いした際に少し失礼なことを申し上げてしまっていまして……。というのも、現状の課題に対しても勢いで乗り切ろうとされていた印象があり「それではきっと失敗しますよ」と率直に思ったことを伝えさせてもらったのです。それにも関わらず信頼いただいた懐の深さに、なんとか力になりたいと思ったことを覚えています。若いながらに資本も集められ、今後もさらに組織拡大していくはずだから、そこに自分が持ち合わせている知見を混ぜ込む形で役立てることが多いとも感じていました。
MVV再構築が事業に与えた効果
──「最初の1〜2か月はメンテモの未来についてブレスト形式で対話を進めてきた」と伺いましたが、なぜそこから取り組みをスタートさせたのでしょうか。
若月さん:当初は現状の課題に対して、何を・いつまでに・どうやるか的な話から対話をスタートしたわけですが、「そもそも会社の現在地や組織のありたい姿が見えていないよね」という話になり、まずはそこの言語化から着手することになりました。その方法は、Aさんから問いを投げかけてもらい、それに私たちが答える形で1つずつ言語化していった形です。具体的には以下のような問いがあったと記憶しています。
・メンテモが目指すビジョン
・ビジョン実現に向けて必要なケイパビリティとは
・そのケイパビリティを持つために必要な組織体制とあり方とは
・メンテモが理想とするバリューとそこへの乖離
・ミッションやビジョンをどう共有・同期させるか
上記以外にも「これって本当に関係あるのかな?」と思うような問い(私たちが好きな車についてなど)もありましたが、今思えばそれらがすべてMVVにつながっているなと感じています。
Aさん:エグゼクティブコーチングのご依頼もいただくこともあるのですが、経営者の方は意外と自分のことを客観視できないものです。客観視し過ぎることが時にリスクある決断を鈍らせるから。でも、どこかで誰かにフィードバックしてもらいながら現在地を確認したり、オープンに考えを話せたり相談できたりする場所がないと、間違った方向に突き進んでしまうことはよくありますからね。
具体的な問いとしては、主に過去の事柄や考え方などです。メンテモの前身としてチャットアプリを開発していた時のこと、良いと感じる組織や採用の在り方、過去に制定したMVVでの失敗話、お金周り、好きな車の話……多岐に渡ることを細かくヒアリングする中で、事業の柱となる要素を抽出していきました。これらには1か月以上時間を費やしましたが、それだけの時間が掛かってでもやるだけの価値があると考えていましたし、その方が会社としてもう一段も二段も強くなれると信じていました。
──Aさんとの取り組みを進める中で、事業にどのような変化や効果がありましたか?
若月さん:まず、「これまでの課題点」を正しく振り返ることができました。これまでの反省を踏まえ、何を大事にこれから歩んでいけばいいのかを言葉で残すことができた──これは、組織を成長させていく上で大切となる土台を強固なものにしてくれたと感じています。
あとはこれから組織が大きくなっていく中でも、今と同じようにみんなが同じ方向を向き続けられるかどうかが重要。ここが次の課題であり、そこでできた新しいチームがどうなるかによってさらに今回の取り組みやMVV再構築の成果を実感できるのだと思います。
冨樫さん:今回の取り組みによって組織が同じ方向を向けるようになり、結果的に前向きさも増している気がします。また、感情面だけでなく採用などの実務面でも変化がありました。採用者を選び、入社後にマネジメントしていく基準としてもこのMVVが拠り所になってくれている実感があります。これまでは迷ったときに立ち返る先がなかったのですが、今はそれが明確になっていて精神的な支柱として組織を支えてくれていますし。今後はもっと広く見える場所にMVVを掲げて、社内だけでなく社外に向けても発信・浸透を進めていきたいですね。
Aさん:MVV再構築の裏目的には、「一回過去に踏ん切りをつける」がありました。会社には節目があり、タイミングを見て意図的にシフトチェンジしなくては持続的な成長は望めません。「100人の壁」などと言われるものがそれに該当します。だからこそ、これまでの成功や失敗と向き合い、節目としてその指針となるものを言語化しておくことは将来を見据える上ではとても大事な取り組みだったと思います。
パラレルワーカーの活用で得た気づき
──今回、Aさんとプロジェクトを進めてみて改めて感じたことを教えてください。
若月さん:まるで人事としての「上司」ができたような気持ちでした。初めてのことをどうやって進めていくのかを間近で見ることができたし、その中で物事の考え方やスタンスなども1つひとつ目の当たりにすることができた。「Aさんから盗めるものは積極的に盗もう」と当初から考えてやってきたので、この取り組みから学んだものは相当大きかったと思います。
しかし、こう言えるようになったのも本プロジェクトを成功させることができたからで、当初は外部人材活用に対してやや懐疑的だったことは間違いありません。なぜなら、過去に業務委託で外部の方に仕事をお願いしたことがあったのですが、うまくいかないことが多々あったから。今思えば「期待値のすり合わせ」と「どっちがボールを持つか」を明確にできていなかったことが要因なのかなと。今回うまく進められたのは、Aさんの手腕によるところはもちろん、コーナーの担当者の方が間に入ってその2つを事前に明確に定めてくれたことがポイントだったなと思いますね。
なお、Aさんには今後も引き続きサポートいただく予定です。具体的には、今いる採用候補者にお試しで働いていただく中で、どれくらいの期間でどういう評価をしていけばお互いの相性を確かめられるだろうというところまで一緒に描き切りたいなと。
冨樫さん:若月さんが「Aさんから盗めるだけ盗もう」と考えていたとは初めて知りました(笑)。これまでの会社はいわば“猪突猛進型”でしたが、この取り組みを通じて振り返ることをするようになったのは大きな収穫なのかなと。目の前の仕事を目いっぱいやるだけでなく、一度立ち止まって考えて次に活かしていくことは、これから別の問題に直面した時にも活かすことができそうです。
あと、これまでは社外の人とコミュニケーションを取ることに難しさを感じるシーンが少なくなかったのですが、Aさんとは時間・タイミング・スピード感が合うことが多く、そのあたりのストレスもほぼありませんでした。常にボールの在処も明示してくれましたし、多くのボールをAさんが持ってくれたこともあって、うまく任せることができればより自分たちの可能性を拡げられるなとも感じましたね。
Aさん:外部人材活用においては、最初の段階の要件定義が重要だと思っていて。というのも、表面的なニーズは「人事制度を変えたい」「採用したい」だったとしても、本当にあるべきはもっと抽象度の高い取り組みだったりするわけで。抽象と具体を行き来しながら本質的に必要な取り組みを選択していくことは誰にでもできることではないので、そこにプロが介入する意味があるのだと思います。
メンテモにおいても最初は課題が多方面に渡っていたことから、メンテモの未来に向けたブレストからスタートしましたが、結果的にMVV再構築になりました。人事施策はあくまで手段なので、その前に経営的なやりたいこと(経営スピードを上げたいなど)が抽象論としてあるはずなんです。そこを第三者が客観的な視点を持って介入することにこそ外部人材活用の価値があるのだと思っているし、そこに貢献できた今回のプロジェクトは私にとっても意味ある仕事だったなと振り返っています。
編集後記
組織や人事に関する経験がほぼない中、山梨というロケーションでスピード感が求められるスタートアップを経営するのは至難の業です。こうしたケースにおいて専門性を持った外部人材の存在は非常に心強いものであり、我々コーナーのありたい姿を体現してくれた事例だと思います。こうした事例を1つひとつ積み重ねることにより、人事を変え、組織を変え、ひいては世界を変えることにつなげていきたいです。
取材協力先:株式会社メンテモ
Webサイト:https://mentemo.com/