【対談インタビュー】企業/パラレルワーカー/コーナーの三者がワンチーム。オープンな関係性が成果につながった
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パラレルワーカーを社外から受け入れ、事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、空中店舗「フィル・パーク」およびガレージ付賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」などの空間ソリューションサービスを提供している株式会社フィル・カンパニーの事例です。
2005年設立の同社は、2016年の東証マザーズ上場時において当時史上最少人数である13名での上場を果たすなど少人数で事業を拡大してきました。しかし今後の成長を見据えて、独立した人事部門の組成を行うことになり、外部人材を活用することで早急に採用機能を強化することを目指しました。その経緯やプロセスについて、執行役員人事本部長 吉水 将浩さん、人事パラレルワーカーの小林 清佳さん、株式会社コーナー コンサルタントの菅野 日南子にインタビューしました。
■この事例のポイント
・採用機能を強化するというミッションを早急に達成するため、外部人材の活用を決めた。
・外部人材を決定したのは、経験やスキル以上に、同じ方向を向いて二人三脚で取り組めるかどうかがポイントだった。
・企業が自社の状況を積極的に開示し、企業、パラレルワーカー、コーナーの三者で情報共有と役割分担をスムーズに行えたことで、最適な打ち手を選択できた。
・定性目標だけでなく、定量目標の達成にこだわり続けたことが重要だった。
<プロフィール>
■吉水 将浩(よしみず まさひろ)/株式会社フィル・カンパニー 執行役員人事本部長
外資系大手化学メーカーで営業として活躍していたが、30歳を目前にキャリアを見つめ直し、転職を決意。ベンチャーやスタートアップなどさまざまな企業を見る中で株式会社フィル・カンパニーと出会い、独自性の高いビジネスモデルや将来のビジョンに惹かれて入社を決めた。入社後は企画開発本部の営業職としてキャリアをスタートし、社長室長などを経て現職に至る。
■小林 清佳(こばやし さやか)/人事パラレルワーカー
複数社の人材採用と人事向けコンサルタント経験に加え、30代からは新規事業開発責任者としても活躍し、現在は人事パラレルワーカーとして複数社の支援を行っている。事業全体を俯瞰して、経営に近い目線で中長期的な人材戦略を事業戦略・経営戦略から逆算的に構築し、具体的な実行施策を打ち出し、自らPDCAを回すことを得意とする。人材採用領域全般と、事業立ち上げ時のマーケティング・サービス企画、営業戦略企画と実行、広報としてプレスリリース執筆とSNS運用など、限られたリソース下における事業立ち上げのスキルセットを併せ持つ。メディア出演実績も多数。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
同じ方向を向いて二人三脚で取り組めることがポイントだった
──まずは、外部人材活用を決めた背景から教えていただけますでしょうか?
吉水さん:一番の理由は、外部人材を活用することで採用機能を強化するというミッションを早急に達成したかったからです。それまで当社では、新卒採用はプロジェクトベースで存在し、中途採用は各部門ごとで実施、新人研修は私が行っており、人事機能がバラバラに存在していました。そこで、機能を集約させて人事部門を独立させる必要がありました。こうした状況から、専門性を持つ外部人材に入ってもらうことで立ち上がりも早く、成果も出るだろうと考えたんです。
──外部人材を活用する際には、どういった点を重視されたのでしょうか?
吉水さん:私と同じ方向を向いて、二人三脚でチームを創り上げていくことにコミットいただける方にお願いしたいと考えていました。営業の菅野さんの紹介で多くの方にお会いさせていただきましたが、最終的にお願いをした小林さんは、実は『パラれる』のインタビュー記事(※)を読んでいて、考え方がマッチしていたのでぜひお会いしてみたいと菅野さんに指名でお願いしていたんです。
※:パラレルワーカー インタビュー記事
菅野さん:小林さんとお会いしたいという相談はいただいていたんですが、最初はどういった判断基準が良いか分からないところもあるだろうと、まずはいろいろな方にお会いしていただくようにしていました。
──最終的に外部人材を決定するにあたり、どういった不安点がありましたか?また、その不安をどのように解消したのでしょうか?
吉水さん:当社はビジネスの特性もあり、「リアル」をとても大切にするカルチャーがあります。自社のことを理解してもらい、お互いに踏み込んだ話をするためには、顔を合わせてやりとりをすることが重要だと考えました。業務だけならオンラインでも完結しますが、やはり「人と人」の仕事ということもあり、お互い分かりあうために直接話がしたいと菅野さんにもお願いしていました。
小林さん:その点では、菅野さんのコーディネートが良かったと思います。企業と面談する際はオンラインが多いのですが、菅野さんから「直接お会いしたほうがお互いのことが分かるので、直接オフィスに行きませんか?」と言っていただいたんです。
──そんな経緯があったのですね。実際にお会いしてみた印象はいかがだったでしょうか?
小林さん:直接お会いして話して良かったです。吉水さんが私のインタビュー記事(※)を事前に読んでくださって私のことを理解してくれていると感じたのはもちろん、会社のパンフレットや小冊子などを使い、会社のことを丁寧に説明してくださいました。なぜこの事業をするのか、なぜ採用をやるのか、目的から説明してもらうことで本質的だと感じました。何より、フィル・カンパニーさんの事業自体が面白いと思い、ぜひ参加してみたいと思ったんです。
吉水さん:私自身も小林さんとお会いして、改めてぜひお願いしたいと感じました。考え方はもちろん、直接お話しする中で自社のカルチャーに一番フィットすると感じたんですよ。
関係者全員を巻き込みながら、採用したい人材の解像度を上げていく
──2022年7月からプロジェクトが開始したとのことですが、開始後はどのようにプロジェクトを進めていったのでしょうか?
菅野:フィル・カンパニーさんでは外部人材を活用して採用活動をするのは初めての試みで、2部門のマネージャー2名の採用を目標にプロジェクトからスタートしました。そのために、採用活動の全体戦略設計から実行支援までを行いました。
ニーズが生じたら各部門ごとに採用していたというやり方を、まずは人事部門に集約するところからスタート。吉水さん、小林さん、私で議論しながら、何をするか、どう進めるかを決めていきました。
小林さん:細かいところだと、ダイレクトリクルーティングサービスはどう使うか?人材紹介会社との関係性を強めるにはどんな施策を打つべきか?などやることを洗い出すところから始めました。役割分担は縦割りでも横割りでもなく、やることを決めたうえで「ここは私が」「そこは吉水さんが」と得意分野などをもとに自然と決めていきました。
菅野:実務者が小林さんだったので、私はPMとして、想定される歩留まりから必要な応募者数の洗い出し、そのために必要な月単位、週単位のアクションプランの具体化などを担当しました。また私自身が人材紹介会社出身でエージェントコントロールもできたので、小林さんと一緒にエージェント開拓やエージェントネットワークの強化などにも努めました。
──その他、プロジェクト開始後に工夫した点があれば教えてください。苦労した点があれば、それをどのように乗り越えていったのかも教えてください。
吉水さん:部門ごとに中途採用を実施していたため、中途採用のノウハウが蓄積されていませんでした。だからある部門、あるポジションで採用活動を始める際、どんなペルソナを設定し、どういう手法で、どんなアプローチをすべきかという採用プロセスの整備と仕組化も進めていきました。それを決めていく際には、小林さんの経験やノウハウが大いに役立ちました。
小林さん:人材の要件定義を検討していく際には、吉水さんと相談しながら、必要に応じて各部門の管掌役員に会わせていただき、人柄や考え方などを伺いながら人材の解像度を上げていきました。会社の事業内容やプロフィールはホームページを見れば分かりますが、役員の方々がどんな人柄で、どんな価値観を持っているのか、どんな人と一緒に働きたいのかなどは話してみないと分かりません。役員の方々と直接お話しして、採用人材の解像度を上げられたことは良かったです。
吉水さん:私の言葉や文字では表現しきれない、各部門の管掌役員が持つ事業に対する情熱や考えは実際に話す機会を設けて感じてもらいました。皆、事業に対して熱い想いを持っているので、そのような点もどのようにエージェントや求職者に伝えるかこだわって進めています。また、条件だけではない「想い」の部分をヒアリングする機会を通じて、各部門が「採用は人事の仕事」と切り離すのではなく、積極的に協力してくれるようになっていきました。
菅野:吉水さん、小林さん、私の3人でフィル・カンパニーさんの物件を見学したり、フィル・パーク物件内の飲食店にご飯を食べに行ったりもしました。人材紹介会社向けにに物件見学ツアーも実施しました。そうやって関係者を巻き込んでいきながら、この会社にどんな人材が合うのかを実感できるようにしたんですよ。
吉水さん:外部人材の方に参画してもらうにあたって、同じ立場で議論ができる環境づくりを意識してコミュニケーションを取っていきました。こちら側もできるだけ情報開示して、言いたいことを言える環境をつくること、ただ言いたいことを言うだけではなくきちんと当社の事業や考えを理解してもらった上で建設的な議論ができる関係性です。
定性目標だけでなく、定量目標の達成にとことんこだわる
──プロジェクトを進めていくにあたり、小林さんが大事にしたことは何でしょうか?
小林さん:今回のプロジェクトでは、「採用機能の強化」という定性目標と、「2部門でマネージャーを2名採用する」という定量目標がありました。このように定性と定量の目標が走った場合、定性目標ばかりに目が行きがちです。「採用目標は達成できなかったけど、人事部門に採用機能はできた」となればカタチになった感はありますから。しかし、外部人材として参画するにあたり、何より数字は落としてはいけないと考えていました。だからこそ私は、定性目標だけでなく定量目標の達成にこだわりました。
まずは採用目標の達成をミッションと据えて、開封率、応募率、内定発生率について、改善を繰り返しながら数値を追いかけました。具体的には、求人票とターゲットリスト、スカウト文面を私が作成したうえで、吉水さんからターゲットリストに人選ポイントのコメントを頂き、求める人材の精度を高めていきました。最初はコメントを入れていただいていましたが、途中からはなくなったので、フィル・カンパニーらしさを私が理解でき、任せていただけていると感じました。
菅野:吉水さんが候補者人材のリストを単にチェックするだけでなく、「この経験を持つ方なら、ベンチャーの弊社に向いている」「大手企業でこの役職にいた方で転職を考えているなら、自社の裁量の大きさをアピールしてください」などソフト面に触れたコメントを記載してくれたのが良かったです。この作業を繰り返すことで、フィル・カンパニーさんにどういう人材が合うのかという理解が深まっていき、最終的にスカウトからの応募率が約20%までになりました。
──定量目標にこだわり、細かい作業を繰り返したことが採用精度の向上につながっていったんですね。プロジェクト開始後に成果が出始めたのはいつ頃でしょうか?
小林さん:プロジェクトが始まって3ヶ月後、ダイレクトリクルーティング経由で初めて入社決定が出たときに、手ごたえを感じました。
菅野さん:小林さんがすごいと感じたのは、採用が決まって良かったねで終わりにしなかったこと。その1件をもとに、なぜうまくいったのか、どのプロセスでどんな工夫をしたのか、今後改善できる点は何か、などかなり細かい振り返りを行ったんです。
小林さん:それに関しては、定性目標の達成を意識しての行動です。例えば「半年以内に10名採用する」というミッションのみであれば採用人数目標さえクリアすればOKです。しかし今回は、「採用機能の強化」というミッションもあったため、チームに新しいメンバーが入ってきた際、メンバーが自走するためには、採用に対する考え方や物事の判断基準を共有できるように言語化しておく必要があります。だからこそ候補者一人ひとりについて、何がポイントになり、どうクロージングする必要があるかなどを細かく話すことを意識しました。
吉水さん:人事部のメンバーと接する際も、「こうしなさい」と指示するのではなく、「こういうケースではどう思う?」と答えを引き出すようなやりとりが印象に残っています。彼らが自分で考えて行動できるような支援をしてくださっていると感じました。
定量に向かいすぎると、今度はチーム雰囲気が悪くなったり、視野が狭くなって課題に直面したときの解決策が狭くなりがちだと思いますが、小林さんには外部人材として、客観的な意見や、マーケット感を踏まえた意見など、メンバーの刺激になるような働きかけをしてもらいました。
プロジェクトを通じての変化と、外部人材の活用について
──このインタビューの時点でプロジェクト開始から約1年が経過しましたが、変化や好影響が出たと感じる点があれば教えてください。
吉水さん:小林さん、菅野さんのおかげで、中途採用と新卒採用が両軸で回るようになり、事業推進のバランスが取れ始めていると感じています。コンスタントに人材を採用するようになり、新卒社員がベテランの中途社員から刺激を受けたりと、社内も活性化したように感じています。今後も多様性のある組織作りを進めていきたいですね。
菅野:当初は2部門でのマネージャー採用からスタートしましたが、今では中途採用だけでも月5~6名の採用と、多くのポジションで採用活動をするようになっています。
小林さん:プロジェクト開始当初より社員数が増え、オフィスも築地の大きな自社ビルに移転しましたよね。当初は部門ごとに単発で採用をしていたのが、今では事業計画、組織計画に基づいて採用活動をするようになったと感じています。
吉水さん:戦略的に採用をするようになったことで、各部門のマネージャーの意識も変わりました。以前はどんな人材を採用すべきか迷っていたのが、今ではこんな人材が欲しい、こんな人材を育成していきたいと明確に言語化できるようになってきています。即戦力の経験者採用だけでなく、ポテンシャルのある人材を採用して育成するなど、自分たちの取りうる選択肢も増えました。
また、各部門の拡大戦略と人材採用・育成プランがかみ合い始めた印象です。少人数だと業務が属人化していきますが、人事部門による採用機能を強化したことで、自分の仕事を任せ合える組織づくりが出来ていると感じます。
──最後に、それぞれが感じる外部人材を活用する上でのポイントを教えてください。
吉水さん:「人と人」で物事を進めていく以上、一歩踏み込んだコミュニケーションというか、お互いに何でも言い合える関係性を築くことが大事だと思います。その点、小林さんは思った以上に踏み込んできてくださったので、それは良い意味でのギャップでした。
コーナーの菅野さんも、私たちの会社をしっかり理解してもらい、ピッタリ合う外部人材をご紹介いただけました。さらに紹介して終わりではなく、プロジェクトに入り込み、プロジェクト全体のマネジメント、パラレルワーカーの小林さんのサポート、さらには実務サポートまでしていただきました。「この業務だけやってください」と外部人材に依頼するケースもあるかもしれませんが、私たちの会社は違います。会社に入り込み、同じ方向を向いて一緒に頑張ってくれたことが早期の成果にもつながったと感じています。
小林さん:踏み込んで話すという点に関しては、「それがプロジェクトの目標達成のために必要か」を判断基準にしています。ゴールを常に忘れず、そのために必要だと感じたことは伝えるようにしています。
吉水さん:その点では、企業側として良いところ、悪いところ全てさらけ出すことが重要だと思います。もちろん守秘義務の観点から言えないこともありますが、まずはすべて伝えたうえで、忖度せずに感じたことを言ってくださいというスタンスで臨むのがいいでしょう。外部人材はここまでと線引きしてしまうと、結果にコミットしようと思っても、お互いに踏み込めない領域が出てきてしまいますから。言いたいことを言い合える関係性を築けないと、同じゴールに向かえませんから。
編集後記
取材で印象に残ったのが、吉水さんが「世の中が大きく変化している中で、内部とか外部とかは関係なくなってきていると思います。会社の成長フェーズに合わせて組織は変わっていきますし、そのフェーズごとに何が大事かを考えながら、最適な選択肢を取っていけばいい。どうしても正社員じゃなきゃいけないことはなく、同じ方向を向いていればいい。その際に求心力を発揮できるよう、事業の魅力、人の魅力は磨き続けたい」と仰っていたこと。働き方が多様化する中で、人事組織や採用のあり方も大きく変わってきてます。そんな変化の時代だからこそ、何を実現したいかさえしっかり共有できていれば、このプロジェクトのように、外部人材を活用するなど、より柔軟な体制ができると感じました。