【対談インタビュー】老舗企業が外部人材と共に“ゼロ”から採用広報に取り組んだ事例
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パラレルワーカーを社外から受け入れ、事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。今回ご紹介するのは、1947年に創業した医療機器メーカーであり商社でもある株式会社常光が、外部人材と一緒にゼロから採用広報に取り組んだ事例です。
その経緯やプロセスについて、株式会社常光 経営管理本部人事部 課長の畑中さん、そして人事パラレルワーカーの神谷 愛美子さんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・採用広報の重要性は自覚していたものの何を・どう取り組めばいいのかがまったく見えず、人事メンバーも既存業務で手一杯な状態。そこで外部人材活用に踏み切り、ゼロから採用広報・コンテンツ制作に取り掛かった。
・外部人材の視点から現場メンバーへのインタビューを繰り返す中で、社内メンバーが気づいていない同社の魅力を多数発掘。結果的に採用だけでなく、社内のコミュニケーション促進・活性化につながった。
<プロフィール>
■畑中(はたなか)/株式会社常光 経営管理本部人事部 課長
ホームセンター本社教育部のトレーナー、派遣社員の勤怠管理、労務管理部門の主任などを経て、2008年常光に人事として中途入社。労務管理全般から新卒・中途採用、研修など人事業務を担当した後、2019年に課長に就任。人事と労務を管轄する。
■神谷 愛美子(かみや まみこ)/パラレルワーカー
医学会・医療系セミナーのイベント企画運営ディレクター時代に「すべての仕事の成功にはヒトの力が大事」と痛感し、それまでに培ったマーケティングスキルを活かして採用マーケター(人事)にジョブチェンジ。2020年からはフリーランス人事に転向し、採用・採用広報を中心に複数企業の採用・人事業務支援を行っている。
目次
工数・知識・センス──すべてが足りず手詰まりに
──採用広報を外部人材と一緒にやろうと考えたきっかけから教えてください。
畑中さん:「求人サイトなどに掲載しているだけじゃ限界がある」という話は、実はずっと前からしていました。当社は中小企業かつ顧客も医療機関が対象となるメーカー・商社なので一般知名度もない。加えて近年はSNSなどで企業情報を調べる方も増えた中、自社Webサイト内の採用ページくらいしか発信できておらず。このままではいけないって自覚はあったんです。でも、いざ採用広報に着手しようにもそこには大きな壁が2つありました。
まず1つ目は「工数面」。共感いただける方も少なくないと思うのですが、中小企業の人事は本当に忙しいんですよね。当社の人事部も多分に漏れず、給与・賞与・勤怠・採用・研修・入退社管理まで少人数で幅広くカバーしています。採用だけ切り取っても同じくで、以前は私と担当者1名で新卒採用と、10職種以上の中途採用を担当していたほど。どうあがいても採用広報にまで手が回らないどころか、優先順位高く取り組むべき新卒媒体の人事ブログや自社採用サイトの更新すらもままならない状態が続いていました。
そして2つ目は「知識面」。仮に私の手が空いていたとしても、広報的な知識・スキルはもちろん、実際に採用広報を進めた経験もありません。採用広報の一環として記事コンテンツ制作をしようと思えばそれなりのものは作れるかもしれませんが、中途半端なクオリティのコンテンツを世に発信してしまうと逆効果になる恐れもあります。さらには、こうしたコンテンツを採用広報だけでなく社内メンバーが自社の魅力を再認識できる場所にもできたらと考えていたこともあって、その両軸をどう実現していけば良いかも検討する必要がありました。
こうした壁から手詰まりになり、「もうこれはプロに助けを乞うしかない」と考えるようになりました。もちろん、適任者を正社員採用することも検討しましたが、採用広報のみで1名採用するほどのウエイトはどうしても取れず。そもそも、それだけハイレベルな方が採用できるかどうかも怪しいですしね。そうした背景からコーナーに相談して、採用広報に強い神谷さんを紹介してもらったという流れです。
──神谷さんと一緒に進めようと思った理由は何でしょうか?
畑中さん:「神谷さんなら、当社が気づいていない魅力を見つけて発信してくれる」と感じたからです。神谷さんが過去に担当された記事を見て、「こんなにもこの会社の魅力を見つけて発信できるんだ」と驚いたことを今でも覚えています。
というのも、当社は謙遜上手のアピール下手な傾向があり、自社の魅力について聞かれてもあまり多くを語らない風土がありまして。そんな組織相手でも、神谷さんならきっと魅力を見つけてくれるはず。それに男性中心の会社なので、女性ライターの視点から客観視してもらえればまた違った一面が見つかるかもしれないとも期待していました。
神谷さん:常光様は歴史ある企業なので、昔ながらの固い会社なのかなと思っていましたが実際は全然違いましたね。むしろ採用広報など新しい取り組みにも積極的で、ゼロベースからオープンに相談いただけたので、なんとアグレッシブな企業だろうと感動したくらい。私自身「何も決まってない」くらいのフェーズから関わるほうが得意なので、そういう面でも相性が良さそうだと感じました。
それに、実際に畑中さんや社員のみなさんとお会いしたときの優しげで柔らかな雰囲気も印象的でしたね。実際にプロジェクトがスタートすればいろんな現場社員の方へインタビューすることになるので、そうした方が多い組織ならきっと魅力も多く見つけられるはずだと考えたことも今回ジョインした理由の1つです。
第三者視点があったからこそ生まれた「取り組み」と「発見」
──神谷さんジョイン後、どのように採用広報を進めて行ったのでしょうか。
神谷さん:そもそも「何も決まっていない」状態だったので、まずは採用広報の目的を整理する上でも課題の洗い出しや言語化を先だって進めて行きました。そこで明らかになったのは、「表面的な給与や短期的な待遇で採用競合に見劣っていること」です。見方を変えると「長期就業する上で活用できる福利厚生が多々ある」わけですが、求職者やエージェントはもちろん社内メンバーもその認識が浸透していない状態でした。
ここを解消することを採用広報の目的と定め、結果的にはWantedlyストーリー(※1)で発信をしていくことに決定。また、その対象範囲は社外だけでなく社内も含めて行うことに決めました。この意思決定においては私側でいくつかの選択肢をメリット・デメリット踏まえて提示した上で、畑中さん側で最終のGOをかけてもらうようにしました。何事も自分で決めなければ自分ゴト化もできませんからね。
※1:Wantedlyストーリーとは、Wantedlyが提供するコンテンツ作成プラットフォームのこと。
あとは求職者・エージェント・社内に何を・どう伝えるか、課題に応じて整理し、コンテンツとして制作・発信していくだけ。特にエージェント向けについては、常光様の事業領域である医療・ナノテク分野に明るいエージェントは稀なので、彼らが自信を持って転職希望者に紹介できるような情報発信が必要でした。また、こうして積極的に採用広報に取り組む姿勢を見せることで、採用熱度の高さを印象づけることもできると考えました。
──部署横断でコンテンツ制作に取り組む上では、苦労することはなかったのでしょうか。
畑中さん:実際に物事がスタートしてからは、神谷さんのリードもあってどれもスムーズに進みました。進め方としては週1回定例の場をセッティングして、記事ネタのアイデア出しやガントチャートを元にした役割分担・スケジュール決めを実施。記事のトンマナなどは最初に目線合わせを行い、あとは随時フィードバックしていった形です。最初に8か月分もの記事ネタを決めてあとは作るだけにできたのも、すべては神谷さんの手腕によるものです。
神谷さん:ありがとうございます!でも、それは私の力ではなく、常光様の魅力があったからこそできたことだと思っています。というのも、常光様って「働けば働くほど実りあるキャリアが描ける会社」なんですよね。確かに、表面上の待遇だけを見れば他にもっと充実した会社は山ほどあります。でも、実際は長く安心して働くための仕掛けや環境、福利厚生がかなり充実しているんです。それらは目に見えづらいし、何より長く勤めて初めて実感できることも多いので、意外と社員の方もそこに気づけていないようでした。今回の採用広報は社内の人にとっても発見の多いコンテンツになるはずだという想いも持って記事制作を進めていました。
また、採用広報は社内協力なしにはできません。常光様は情報発信に不慣れで、SNSを好んで使う社員さんが多いわけでもない。それに経営陣も含めてみんな照れ屋なので、どれだけ協力してくれるかは正直なところ当初少し心配していました。でも、人事部を管掌している社長が率先して協力してくれ、最初に社長の記事を掲載したことで自然とみんなが協力しやすい雰囲気を作ってくれたんです。これは本当に大きかったなと。
あと、インタビュー慣れしていない方が多いと聞いていたので「どうやって魅力を引き出そうか」と思案していましたが、それも杞憂に終わりました。いざインタビューを始めると、意外とみんなしゃべってくれるんですよ(笑)。もちろん、私もインタビュアーとして相手の年代・経歴・人柄に合わせて質問内容や深ぼり方を変えたりしていましたが、それ以上にみんな内なる熱い想いを持っていたんですね。
外部人材活用を進めて見えた「変化」と「可能性」
──採用広報はすぐに結果が出るものばかりではありませんが、現時点でも感じる変化は何かありますか?
畑中さん:神谷さんのフラットな視点から常光を捉えてもらったことで、自社の魅力も課題点もかなり明確になりました。これまで「ここは魅力だろう」と感じていた部分も、実は世間一般の基準からすればそうでもなかったり、そのまた逆もしかりだったり。これはパラレルワーカーとして広い視野やマーケット・トレンド感を持っている神谷さんの知見をお借りできたからこそ気づけたことで、まさにプロの仕事。我々だけでは到底できなかったところです。
あと、社員インタビューを通じて「あぁ、この部署ってこんな想いを持っていたのか」「この方は実はこんなビジョンを持っていたのね」といった発見が多くあったことも貴重な成果でした。これをコツコツと積み重ねていけば、きっとみんなが「うちの会社の良いところは〇〇だ」と答えてくれるようになるはずです。それに、こうしたコンテンツをいつでも誰でも読めるようにしていること自体が、多方面に良い印象を持ってもらえるきっかけにもなります。
あ、そういえば、先日入社してくれたメンバーが役員面接の中で「Wantedlyの記事が決め手になった」と話してくれたと耳にしました。社内でも「あの記事はいつ出るんだ?」と待ち遠しい様子で聞いてきてくれたベテラン社員の方もいましたし、徐々に効果が出てきていることを実感しています。こうして楽しみにしてくれている方が他にもいるかもと考えると、思わず笑みがこぼれてしまいますね(笑)
神谷さん:インタビューが後になればなるほど、ある程度みなさんが記事を読んでくれているなと感じる場面が多くありました。きっと自分がインタビューを受ける前に事前準備的に読んでくれていたのだとは思いますが、意外ときっちり読み込んでくれているようで、その関心度の高さを肌で実感しています。
あと、常光様は若手とベテラン間でお互いに気を使い合っている部分があるような気がするんですよね。ベテランメンバーは若手が働きやすいようにといろいろ気を揉んでいるけど、わざわざそれを口には出さない。逆に若手は「もうちょっと厳しくしてもらってもいい」と考えているのに先輩に言えていない。インタビューを通じてお互いに言えていなかった気持ちを汲み取り発信することができれば、社内のコミュニケーションはもっと活発になると思っています。そうしたポジティブな影響が徐々に増えていけば、長期的に採用にも大きな影響があるはずです。
──最後に、外部人材を活用してみて感じたことや可能性について教えてください。
畑中さん:「必要な項目を、必要な時に、必要なだけ、高クオリティなプロを提供してもらえること」外部人材活用のメリットはこれに尽きると思います。ここに気づいた今では、労務関係のプロジェクトも外部人材の方にジョインいただいて前に進めています。これからも活用の場はさらに広がっていくでしょうね。
神谷さんへの相談領域もどんどん広がっていて、最近は新卒採用向けのノベルティについてもアドバイスをもらっています。こうした制作物も自社だけで進めると独りよがりになりがちですが、神谷さんに入ってもらうと一般的な視点も踏まえて検討できるようになるのでありがたいです。他にもインターンシップのカリキュラム、研修ネタ、Z世代との関わり方などなど…もう我々人事部のお悩み相談室状態と言っても過言ではありません。小さなことから大きなことまで回答してくれるので、ホント大助かりです。
神谷さん:「外から会社がどう見えるか」をフラットに意見できるのは、パラレルワーカーならではの価値だなと思います。特に、採用広報は「自分たちがどう見せたいか」よりも「候補者様の知りたい情報は何か」の方が大切なので、この視点を持てるかどうかで成果も大きく変わってきます。
あと、スモールスタートで「とりあえずやってみる」という実験的な動き方ができるのは外部人材ならではかもしれません。私も企業人事として働いていた時期がありますが、正社員だと「やるべきこと」に忙殺されて「やった方が良いこと」の優先順位がなかなか上がってこないものです。「せっかくやるならちゃんとやろう」という心理も働くので、フットワークはさらに重くなります。採用広報のように「とりあえずやってみる」ことの価値が高い領域は、特に外部人材の活用と相性が良いのかもしれませんね。
編集後記
「いつまでも社内で抱えて動けないより、プロに任せてググっと前に進めてしまった方が得られることが多かった」という畑中さんのご意見には、外部人材活用のメリットや学びが凝縮されているように感じました。また、多くの企業がメリットとして挙げる“外部人材が持つ客観性”も、お任せする領域によってさらに活きる可能性があることを、このケースから理解していただけるのではないでしょうか。