「セカンドハラスメント」の種類・発生原因・適切な対処方法を解説
さまざまなハラスメント問題が話題に挙がる中、ハラスメントの申告者がハラスメントを受けてしまう「セカンドハラスメント」なる言葉を聞くことも増えました。問題が表層化しにくいなどの特徴もあるようで、組織としても対策が求められています。
今回はこの領域に知見を持つパラレルワーカーの方に、「セカンドハラスメント」の概要から対策に至るまでのお話を伺いました。
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目次
「セカンドハラスメント」とは
──「セカンドハラスメント」の概要について教えてください。
「セカンドハラスメント」とは、ハラスメントを受けた人が被害について相談したことによって起きてしまう二次被害のことです。助けを求めて相談したにも関わらず、ハラスメント被害窓口(人事担当者など)や加害者から逆にバッシングを受けたり、嫌がらせを受けたりなどの二次的被害が起きてしまうことを指します。しかし、「セカンドハラスメント」をしている当人にその認識があるとは限りません。それどころか親切心から言葉を掛けているケースも多く、そうした無自覚の言動が「セカンドハラスメント」対策をより難しくしています。
「セカンドハラスメント」の典型例としてよく取り上げられるのは、女性から女性への同姓によるものです。例えば、セクハラや痴漢などの性的被害を受けた女性に対して『そんな格好をしているほうが悪い』『なんで2人きりになったの?』などの言葉を投げかけるケースが該当します。このような言葉で被害を受けた人はさらに傷つき、周囲からの協力を拒んで自ら孤立してしまうこともあるのです。企業内においても同様に、良かれて思って対応したことが「セカンドハラスメント」となり事態を悪化させてしまうケースも多く発生しています。また、ハラスメント相談窓口の担当者が正しい知識を持っていないことが原因で『勇気を出して相談したのに対応してもらえなかった』『相談内容が噂で他人に広まってしまった』といったトラブルも起きるなど、組織問題として捉える必要があるものです。
「セカンドハラスメント」の種類
──「セカンドハラスメント」の種類にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的なものには以下のようなケースがあります。イメージいただきやすいように、ハラスメント被害を訴えた方に対してかけてしまう、具体的な返答例と共にご紹介します。
ハラスメント被害を信じてもらえない
『あなたの勘違いではないか』
『あなた自身に問題があったのではないか』
被害者が逆に攻められる
『会社のことを考えてほしい』
『金銭や物品などの対価が目的なのでは』
『〇〇さんが異動になったら業務は代わりにできる人がいない』
『〇〇さんに対してそのような言い方をしたらそうなってしまうのはしかたない』
『なんで〇〇といった行動をしなかったのですか』
価値観や一般論(のようなもの)を押し付けられる
『それくらいはよくあることです』
『昔はもっと大変でした』
『社会人ならそのくらいのことは我慢できたほうがいい』
被害者の不利益を強調する
『大事にしてしまうと社内に居づらくなる可能性がある』
『あなたに異動してもらわないといけなくなるかもしれない』
『出世や昇進・評価に影響してしまう』
加害者の肩を持つ
『〇〇さんに悪気はないのでは』
『〇〇さんは誰に対してもそのような態度だ』
いずれも、ハラスメント被害者が勇気を出して相談したにも関わらず、被害者に対して『裏切られた』『理解されなかった』と感じさせてしまうようなもので、「セカンドハラスメント」の被害となってしまっています。
また、上記以外にも『ハラスメント被害をバラされてしまう』ケースがあります。ハラスメントの窓口担当者は主に人事の方が担当していることが多いと思いますが、被害者から相談を受けた窓口担当者が、良かれと思って被害者の同意なく加害者に話をしてしまったり、人事チーム内で共有した内容が不用意に漏洩してしまう、というった場面が想定されます。ハラスメント被害はとてもセンシティブな問題にも関わらず本人の同意なく社内にバラしてしまうことで、結果的に被害者が職場に居づらい雰囲気になってしまったり、相談をしたことが加害者側に伝わり嫌がらせ行為がエスカレートしてしまったり、ということも発生しています。
「セカンドハラスメント」が起きやすい場面
──「セカンドハラスメント」が起きやすい場面や、よくある要因について教えてください。
「セカンドハラスメント」の発生要因は、大きく以下2つに分類できます。
(1)体制問題
(2)運用(担当者)問題
(1)体制問題
パワハラ防止法(※)により、どんな会社であっても相談窓口を設け、各種ハラスメント研修を行うなどの対応は行われています。しかし、実際にハラスメントが起きてしまった際の対応が適切にできているかは別問題です。実際に対応・解決手順が確立できていない企業も多く、場当たり的に行った対応が逆効果となり「セカンドハラスメント」へ発展してしまうケースが多々あります(解決しようと部内会議で共有したら、逆に広まってしまった、など)。
(※)パワハラ防止法:『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称:労働施策総合推進法)』が正式名称。同法にパワーハラスメント防止に関する規定を盛り込む法改正が行われたことを踏まえ、パワーハラスメントの略称を用い『パワハラ防止法』と呼ばれるようになった。
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(2)運用(担当者)問題
適切な対応を取れるかどうかは、ハラスメント窓口を任された担当者の認識・知識レベルにも大きく左右されます。担当者にハラスメント対応の正しい理解がない場合、以下のような問題が発生し「セカンドハラスメント」を誘発してしまいます。
・『とりあえず話を聞いてあげたら落ち着くだろう』と、被害者が解決を求めても具体的な対処をしない。
・『そのうち対応策を考えておく』『近いうちに対応を検討する』など、対応を先送りにしてしまう。
・『気にすることはない』『大したことじゃない』といった何気ない気休めのつもりの言葉を言ってしまう。
・『これが大事になれば会社側に不利益がある』と公平・中立な立場で判断できない。
実際にハラスメント対応経験のない人事担当者が窓口になっていることも多く、本来被害者と同性が窓口になった方が良いセクハラ相談も異性が行わざるを得ない場合も往々にしてあるようです。また、一定経験がある担当者だったとしても、ハラスメント基準のアップデートができていないことにより対処しきれないケースもあります。
「セカンドハラスメント」への対策
──「セカンドハラスメント」を発生させないためには、どのような対策を行うべきでしょうか。
「セカンドハラスメント」の防止策には、大きく2つの観点があると考えています。まず1つ目は、『そもそもハラスメントを発生させない』ことです。当然ながら、ハラスメントが発生しなければ「セカンドハラスメント」も発生しようがありません。以下のような取り組みを通じて、根源となるハラスメント防止に取り組みましょう。
各種研修やセミナーの実施
ハラスメントの定義や、それらの防止に向けた模範行動などが分かるような研修を実施します。ハラスメントへの理解が深まることで、自然と「セカンドハラスメント」への理解も深めることができるようになるためです。また、ハラスメントは各自の無意識な思い込みや偏見から発展するケースも多いため、アンコンシャス・バイアス研修として取り組むのも良いでしょう。
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社内制度・ルールの明示・周知
会社にとってハラスメントの改善努力は義務であること、ハラスメントがコンプライアンス違反である事実を社内制度などに明記した上で周知します。また、ハラスメントへの対応方法を個人に委ねてしまうとバラつきが生まれてしまうため、社内で対応ルールを策定して広く周知します。
実態把握できる環境整備
どれだけ対策しても、ハラスメントをゼロにすることはなかなか難しいものです。できるだけ早く察知し対処するためにも、より効果的な改善策を講じるためにも、実態の把握は非常に重要です。従業員アンケートなどを活用しながら、ハラスメントがどういう場面で発生しているのか、どんな環境だと発生しやすいのか、などの把握を通じて潜在段階から見つけられるように取り組みます。
NOと言える雰囲気づくり
組織内で誰もがNOとはっきりと言える環境を構築することもハラスメントの予防策になります。社員がNOと発言するには、経営者やマネジャーとの信頼関係が必要不可欠です。日々のメンバーコミュニケーションを通じて信頼されるような経営者・マネジャーの育成が重要になってきます。
2つ目は、『セカンドハラスメントへの対策を常にアップデートし続けること』です。ハラスメントの種類や事例は時代と共にアップデートされており、常にキャッチアップし続ける必要があります。一度ハラスメント関連のBCP(事業継続計画)を策定して満足するのではなく、定期的に見直す機会を設けて必要に応じて変更していくことが重要です。加えて、相談窓口担当者に向けても最新事例やトピックスなどを含めた研修をこちらも定期的に行いましょう。個人に情報アップデートを委ねるのではなく、組織側から随時提供していく姿勢が求められます。
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編集後記
一度「セカンドハラスメント」を発生させてしまえば、被害者はもちろん、組織側にも甚大な損害を招く恐れがあります。場合によっては経営の存続をも揺るがしかねない事態に発展するケースもあるほどです。そうならないためにも、特に管理職や相談窓口の担当者に対して適切かつ定期的な教育・啓蒙は欠かせません。本記事内の事例や対策を、実際の企業活動に役立てていただければ幸いです。