【インタビュー】給与を決めるのは市場価値。ベルフェイス式人事制度は未来のスタンダードになりえるか?
ベルフェイス株式会社 経営企画室長兼組織改善責任者 吉本猛さん
ベルフェイス株式会社 経営企画室人事チーム 猿川道代さん
「営業は足で稼げ!」
そんな旧来の価値観を皮肉ったCMでインサイドセールスの認知度を大きく高めたベルフェイス。今、ベルフェイスはセールスの「常識」だけでなく、人事評価制度の「常識」も変えようとしているのかもしれません。
それが「ベルフェイス式人事制度」。この制度の特徴は、「社員が毎年キャリアシートを作成し、市場価値で評価を行い、業界最高水準の給与を支払う」というものです。しかも、キャリアシートは複数社の外部パートナーによって客観的に評価されます。
「市場価値で評価されるべき」という一種の理想論を本当に実現してしまった点には驚かされますが、どう考えてみても、その裏側には並々ならぬ苦労があったはず…。そこで今回は、実際に導入と運用に携わった吉本さんと猿川さんに話を伺うことにしました。
ちなみに猿川さんは、保育園の都合で急遽、自宅からWeb会議システム上「bellFace」で参加。図らずも同社らしいインタビューとなりました。
目次
世の中の評価制度はブラックボックス
―ベルフェイス式人事制度のように「市場価値で給与を決める」という制度は、少なくとも日本企業の中ではほとんど前例のないものだと思います。導入のお話を伺うにあたって、まずベルフェイスのチーム観について教えていただけますか?
吉本さん:
チームのイメージとしては、家族ではなく、スポーツチーム。私たちはベンチャーです。世の中を変えようという高い目標を持っており、それを実現するためのハイパフォーマーのチームを目指しています。
―とはいえ、ハイパフォーマーはどの会社も欲しがるはずですよね。どのようにしてハイパフォーマーを集めるのですか?
吉本さん:
ハイパフォーマーの人たちが求めているのは圧倒的なビジョンと優秀な仲間、そして 適切な評価です。 その中でも今回は評価についてお話ししますね。
世の中には 素晴らしい実績を持ちながらも適正に評価されていない人たちがいます。そこで今回のベルフェイス式人事制度につながります。 その方に、市場における最高水準以上の評価ができれば、ベルフェイスで活躍してもらう理由の1つにはなるだろうと。
―なるほど!ハイパフォーマーの採用と人事制度が関連してくるわけですね。それでは、ベルフェイス式人事制度導入以前はどのような評価制度だったのですか?
吉本さん:
一人ひとり給与テーブルがあって、目標を達成したら給与が一定額上がっていく という…言ってみれば本当に普通の評価制度です。それでも世の中の多くの会社より、ずっと上げ幅は大きかったのですが。
―給与テーブルのある一般的な評価制度も、それほど問題視されることは少ないと思います。いわゆる「普通」の評価制度をどう見ていましたか?
吉本さん:
以前、私もマネジメントをやっていたからよく理解できますが、本当に人の評価って難しいです。勤続年数だったり、感覚的な評価も多くて、正直なところブラックボックスですよね。でも、本当はそれじゃいけない。客観的な評価を入れないと、本当の意味での評価にはなりません。
もうひとつの狙いは給与水準の是正です。ベンチャーではよくあることですが、初期メンバーの多くは、給与や待遇よりもベルフェイスのビジョンに共感して入社してくれていました。そうなると、入社したフェーズによって給与水準が違うという問題も出てきていました。
仮に「どうすれば年収1,000万円になれるんですか?」と社員に聞かれたとしても、「今のペースだと10年後かな…」のような曖昧な解答になってしまう。
―先が見えないと、特にハイパフォーマーほど他社に転職してしまう可能性がありますよね。
吉本さん:
そのとおりです。本当は「こういうことができれば1,000万円プレーヤーです」という、市場価値にもとづいた答えをすべきなんです。
ですが、多くの人事評価制度は、その人の本来の市場価値を見ないモデルになっています。
例えば、市場価値とは、市場における稀少性で決まるはずです。
―需要と供給のバランスで市場価値が決まるということでしょうか?
吉本さん:
はい。今、エンジニアの市場価値が高いのは、プログラミングできる人が少ないからです。でもプログラミングが誰でもできる時代になったら、市場価値は下がるはずですよね。プログラミングに限らず、英語でも何でもそうですが。そこを毎回アップデートしていかないと、とんでもない間違いを起こしてしまいます。
対話、対話、対話…の果てにようやく導入
―導入のバックグラウンドについてはよく理解できました。ですが、「その人の本来の市場価値を見る」ということが簡単ではないことも想像がつきます。実際の導入にあたっては、どんな障壁がありましたか?
吉本さん:
やはり、社員たちにコンセプトを理解してもらうのに苦労しました。ほかに同じことをやっている会社もありませんし、全員がその場で納得するはずがありません。
猿川さん:
「外部に評価を丸投げするのか?」と誤解されそうになったこともありました。1回の説明でみんなに理解してもらえるのはさすがに無理なので、社員向けの説明会を何度も開催して、代表の中島も毎回参加して、とにかく対話の回数を増やしました。
―まずは社内の理解を得ることが大きな障壁だったのですね。
おそらく社員の反応はさまざまだったはずです。すぐにコンセプトを理解してくれた社員、なかなか受け入れない社員もいたのではないかと思いますが、いかがでしたか?
吉本さん:
はい、人によって反応は違いましたね。転職経験が浅い人は不安を抱きがちな傾向があったかなと思います。その逆に、転職の際にエージェントを利用した経験のある人は、イメージしやすかったようです。
―たしかに転職という行為自体、自分の市場価値を見直す機会ですよね。
猿川さん:
でも私からすると、不安を感じるのは当たり前だと思うんです。給与グレードがなくなるんですから。
―というと?
猿川さん:
グレードごとに給与が上がっていくという一般的な給与テーブルがあるということは、今後の給与の見通しが可視化されているということ。たしかに問題はありますが、見通しが見えるから納得して頑張れる、という良い面もあります。
―猿川さん自身も制度導入に不安があったのですね。
猿川さん:
正直、かなりありました。私は前職でキャリアアドバイザーの期間が長くて、どうしてもどうしても従業員目線になってしまいました。家族がいる人、生活がかかっている人もいる。一人ひとりの人生を考えると、あまりに責任が重くて…。
―それでもやるべきだ、と。
猿川さん:
はい、社員を不幸にさせるために作った制度ではないし、むしろその逆。ポジティブな発想で生まれたものなので、絶対に成功させたいと思っていました。
吉本さん:
まったく新しい制度ですから、「全員が大賛成」なんてまずありえないんですよ。最終的には、一度やってみないとわからない。それも本気でやらないといけない。特に、給与が決まる重要な部分に外部評価を導入するので、会社としても強い覚悟が必要でした。
―そこで評価の中身についても伺いたいのですが、人事評価に外部パートナーを入れるという点がこの制度の大きな特徴です。実際に私たちコーナーはキャリアシートの作成を任せていただいていますが、なぜ外部視点が必要だと考えたのですか?
吉本さん:
「全員が大賛成」はありえないとはいえ、制度自体は全員が納得するものにしたいと考えていました。では何に注意すべきかといえば、キャリアシートの作成の上手さで給与が変わってしまっては絶対にいけない。それでは市場評価ではなくキャリアシートの作成の仕方評価になってしまうので。
猿川さん:
だからこそ、コーナーさんのように専門性や知見を持った外部パートナーの力を借りることで、社員自身も気づいていないキャリアのハイライトを引き出し、レジュメに反映してもらうことが必要だと考えました。
パラレルワークや副業の時代にこそ必要な制度
―実際に運用を始めて約1年。今の社内の状況はどうですか?
吉本さん:
全体的に良い反応です。特に嬉しいのは、自分の市場価値を高めるために何が必要かをみんなが自然に考えるようになりました。自分のキャリアについても真剣に考えるようになりますよね。
猿川さん:
それに伴ってマネージャーの役割も変わってきましたね。ベルフェイス式人事制度では、マネージャーはメンバーのキャリアを真剣に考えざるを得なくなるんです。一人ひとりのメンバーをより深く見るようになったと思います。
―では現状、ベルフェイス式人事制度は「成功」と言って良さそうでしょうか。
吉本さん:
うーん、まだその判断は早いかな(笑)。ですが、少なくとも導入については成功したと言えます。その理由のひとつには、もともと自分のキャリアに対するオーナーシップが高い社員が集まっていて、どうにか良いものにしようと協力してくれたことが大きいです。
―ということは、ベルフェイス式人事制度が上手く機能するかどうかは、やはり会社のカルチャーによりそうですね。今後、ベルフェイス式人事制度は市場に広まっていくと考えますか?
吉本さん:
ある程度の規模で広がっていくのではないでしょうか。というよりも、広がるしかありません。これからの時代は終身雇用がない。副業やパラレルワークも普通のことになっていきます。市場価値で評価されるのは当たり前になっていくはずです。
猿川さん:
そうですね。実際にスタートアップなど他社からの問い合わせもありました。ですが、現場や管理の負担は、やっぱりそれなりに大きいです。なので、無責任におすすめはしにくいですね。
吉本さん:
そうですね。市場価値での評価自体は広まっていくと考えていますが、給与に関わる根幹部分でもあり、簡単には真似できるものではないと思います。それぞれの会社に応じて取り入れてほしいと思います。もし話を聞いてみたいという会社がいれば、ぜひお問い合わせ してきてほしいですね 。 一緒に良い制度を作っていければと思います。
[cta id=’35’]
[cta id=’38’]