【対談インタビュー】パラレルワーカー活用により抜本的な人事制度の見直しを行った事例
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パラレルワーカーを社外から受け入れ、事業推進を行った企業にインタビューをする「対談インタビュー企画」。これまでも採用戦略から設計を行った事例や、わずか2カ月で採用母集団を2倍に拡大した事例など、数々のエピソードをご紹介してきました。(他の事例記事はこちらから)
今回ご紹介するのは、 ITを活用した中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」事業などを展開する株式会社ツクルバが、パラレルワーカーと共に人事制度を抜本的に見直した事例です。
その経緯やプロセスについて、ツクルバ 人事総務部の部長 飯塚 武尊さんとシニアマネージャー 小林 杏子さん、そして人事パラレルワーカーの佐藤 恵一さんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・企業成長に合わせて人事制度を細かく継ぎ足してきたことにより制度が複雑化。「マイナーチェンジでは解決できない」と役割等級制への大幅な組織体制改定へ挑戦。
・個別最適だった体制から全体最適化へ。また現場でのギャップが出ないよう、ヒアリング・拡散・集約・改善のルーティンを回せる体制を確立。
<プロフィール>
■飯塚 武尊(いいづか たける)/株式会社ツクルバ 人事総務部長
慶應義塾大学総合政策学部卒。成長を求めて新卒でベンチャー企業(株)アイルに入社し総務・人事部で採用を担当。その後さらなる成長を求め、外資系コンサルティングファームのアクセンチュア(株)に転職し移行コンサルティングに従事。2014年(28歳)、起業を決意し退職。起業準備中にかねてより友人だった村上(ツクルバ 代表取締役CEO)から誘われ、2015年(株)ツクルバに入社。コーポレート機能立ち上げ、上場を経て人事・総務領域を担当。
■小林 杏子(こばやし あんず)/株式会社ツクルバ 人事総務部 人事企画チーム シニアマネージャー
青山学院大学卒業後、アパレル企業へ入社。販売職を経て人事採用を経験。2016年、1人目の採用担当としてツクルバへ入社。採用担当として30人から100人までの組織拡大を推進した後、上場後のMVV再構築、CIリニューアル等に携わり、現在は人事企画領域を担当。
■佐藤 恵一(さとう けいいち)/シャインフォース株式会社 代表取締役
新卒で映像機器メーカーに入社し、25歳で中国法人の営業本部長として部門再編と営業網整備を実施。その後、組織開発のコンサルタントに転身。IT企業の人事職を経て、東証1部上場企業の経営戦略部門シニアマネージャーとしてグループ組織再編を担当。海外法人設立・経営など、事業会社2社の取締役ならびに人事責任者としてグループ人事部門を再編。そして独立し、経営戦略・人事コンサルティングを手掛けるシャインフォース株式会社の代表取締役に就任。
目次
不足を補う最適解としての人事パラレルワーカー活用
──2011年の設立から順調に成長し、2019年7月には株式上場も果たしたツクルバ。今回のパラレルワーカー活用の背景には「人事制度の改定」が大きなテーマだったそうですね。
飯塚さん:はい。依頼した当時はちょうど2025年の中期経営目標達成に向け、組織や制度を見直そうとしていたタイミングでした。特に人事制度はこれまで事業成長に合わせて細かく継ぎ足してきたこともあり、中身がかなり複雑になっていたんです。具体的には、現場からも以下のような声が出ており、改善が急務となっていました。
「人事評価制度に関する規定・ルール情報が多すぎてキャッチアップできない」
「評価基準が定性的で、評価者によって差異が生じやすい」
「解釈の幅が広くて使いづらい」
しかしながら、人事部門のリソースも不足していたため、この改定プロジェクトに充分な人員アサインするだけの余裕がありませんでした。加えて、人事制度に明るいメンバーも限られていたため、部内にもノウハウが蓄積されていない状況でもありました。リソースとノウハウ、この双方を補うためにはパラレルワーカー活用がベストだと考え、コーナーへ依頼することにしました。
人事制度は経営課題と密接に紐づくものなので、「制度だけできる人」「採用だけできる人」ではなく、会社全体を広く俯瞰してその後の運用までイメージしながら制度改定を行う必要があります。そうした高いオーダーにも、今回お願いした佐藤さんは事前の打ち合わせ段階から応えてくれました。制度改定の経験や、他社における実績が豊富な点も素晴らしいですが、本質から当社の課題に向き合ってくれそうと感じたことが、佐藤さんをパートナーとしたかった一番のポイントです。
──佐藤さんはパラレルワーカーとしてこのプロジェクトにジョインした際、どのようなお気持ちでしたか。
佐藤さん:このプロジェクトに参加しようという決め手となったのは、初めて飯塚さんや小林さんとお話しした際「とても話しやすい方たちだな」と感じたことかもしれません。というのも、改善系のプロジェクトにおいて、旗振り役となる方と意思疎通が円滑にできることはマスト条件だからです。
よくある失敗に、最初の要件定義から意図せず方向性がズレていってしまうケースがあります。役員が中心となって要件定義を行い、旗振り役が意思を持てないままプロジェクトが進んでしまった場合、下手すると「役員陣がこう決めたんで、とにかくやってください」といった着地になることがあるんです。こうなると、課題解決できるものもできなくなってしまいがちです。その点、飯塚さんや小林さんからは意思を強く感じたし、改善に向けたディスカッションにも会社を挙げて参加してくれたので、これならとことん伴走できるなと。
あと、ツクルバが直面していた課題は私としても経験値が高い領域でしたので、お役に立てるポイントがたくさんあったことも本プロジェクトにジョインした理由の1つです。
提案をもとに「ミッショングレード制のコンセプト変更」へ
──今回のプロジェクトの内容を教えてください。当初の要件定義からかなり変化したそうですね。
佐藤さん:当初は「シニア層のグレードと役職の整備」をテーマとしていただいていたのですが、ツクルバとのアクションやディスカッションを繰り返す中で「ミッショングレード制(役割等級制)のコンセプト」を根本から変更してしまった方が課題解決につながると考え、提案を行いました。
──提案に至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか。
佐藤さん:人事制度は「会社の歴史そのもの」だと考えています。いろんな人の思想や考え方が試行錯誤を繰り返す中で複雑に絡み合ってきた過去がありますし、将来的に会社をどうしていきたいのかといった「To be」もそこには含まれています。だからこそ、まずはその点を理解することが特に重要となります。
そこで、当初いただいた要件定義やコンセプトからタスク面だけでなく、これまでの会社の歴史や人事制度の成り立ち・意思決定者の想い・理想との差分、今後どういう状態になっていればいいのかなどの「現状把握」にまずは注力しました。すると、当初情報としてもらっていた「現状の課題」もより輪郭がくっきりしてきます。そうして明確化した課題と1つひとつディスカッションしながら向き合っていった結果、本当に必要な施策が当初の要件定義とは変わることは少なくありません。
今回私が「ミッショングレード制のコンセプト変更」を提案したのも、この「To be」に対する意識からです。最初いただいていたご要望通り、最初はシニア層のグレードと役職の整備だけにフォーカスすることも考えました。しかしながらツクルバが抱いている期待感や事前にお話した感覚の中で、単に目の前の問題だけに取り組むのではなく、今後、会社が進みたい「To be」の方向に沿って根本的な部分から変えていった方がいいのではないかと考えました。
飯塚さん:プロジェクトスタート当初は、佐藤さんの現状把握ヒアリングターンが続きました。その上で「ミッショングレード制のコンセプト変更」の提案をもらい、ディスカッションしながらネクストアクションを設定して、取り組み結果を次回に持ち寄って──といった形でプロジェクト自体がスムーズに進んでいきました。
最初私たちからは「等級の部分的な整備」と「役職の整備」を要件定義としてもオーダーしていたのですが、佐藤さんの提案から「ミッショングレード制自体のコンセプト変更」へと舵を切り、全体の等級構造をシンプルにして経営方針を軸に整合性をとっていく方向に変わっていきました。初期オーダーから大きく取り組み内容は変わりましたが、佐藤さんはツクルバの歴史や想いをすべて理解した上で根拠を持って「やっぱりこの課題を解くならこっちに手をつけなければいけませんね」と本質的な価値を見据えて提案してくれたので、経営陣にも説明がしやすく提案に乗っかりやすかったです。
その際「人事制度は経営が武器として使えるものであるべき」と佐藤さんが言っていたことが、今でも強く印象に残っています。
外部人材だからこその価値
──外部人材という客観的な視点ならではの提案だったのですね。
小林さん:社内だけで検討すると、どうしても目の前の経営方針や短期的な成果に着目してしまいがちです。でも佐藤さんは、会社の歴史や想いを踏まえた上で“引きで見た示唆”をポンっと投げてくれて。「こうあるべきじゃないですか?」という佐藤さんの投げかけに何度ハッとさせられたことか…。盲目的になりやすい人事としては本当に価値ある提案だったと感じています。
そうした客観的な視点に加え、“生きたノウハウ”も相当勉強になりました。なにせツクルバで人事制度を作った経験のあるメンバーは人事本部長しかいませんし、私自身も採用領域がメインで人事制度については初めてのことばかり。本やネットなどの情報でフレームワークなどは知っていても、実際の現場での経験はないわけです。人事制度を変更する中で「最近の社員は年収で見ますよ」などの生モノの示唆をいただけたことは本当にありがたかったし、目から鱗の連続でした。
最近は特に短期的な成果がより求められる環境があると思っていて。人事のアクションは成果が出るまでに時間が掛かるものも多く、自分たちの仕事に無力感を感じることも少なくありません。でも佐藤さんが「人事は組織を通じて業績に貢献できる存在」「組織運営の先頭に立ってるのが人事」と断言してくれて、とても勇気付けられました。今後人事としてキャリアを歩んでいく上でも、常に念頭に置いておきたいマインドです。
佐藤さん:人事には経営管理として労務や法令対応などの“守り”の面と、会社という商品の価値を向上させ市場に訴求する人事企画・採用としての“攻め”の両面があります。「事業を作る人事」という言葉にもあるように、収益を上げる組織をいかに作るかを考える上では、人事だからこそできることがたくさんあります。その分、仕事に際限がなく、人が密接に関わる仕事だからバランスをとることも難しいともいえます。
飯塚さんや小林さんと話す中で、お二人の会社に対する愛着や意思を強く感じていました。そんなお二人だからこそ、人事として「こういうことまでやっちゃっていいんじゃないか」という本音でのコミュニケーションをさせて頂きました。「人事とは」みたいな概念的な話までここまで一緒になってできる会社は、そうないと思います。ツクルバのカルチャーでもあるんでしょうね。
あとは、コミュニケーションを取る上ではなるべく「気を楽にして話せるように」ということには気をつけていました。だって、ただでさえ制度の話って複雑で疲れるじゃないですか(笑)。それにお二人は制度改定以外にもミッションを持っていて忙しい。リラックスした状態でないといい話はできませんからね。よりリアルで本音に基づいた話ができるよう、そうした環境作りも大切だと思います。
お互いにノウハウを共有することで生まれる価値
──ここまでの取り組みを通じて、どんな成果があったと感じますか?
飯塚さん:もし今回の取り組みを別のところへ依頼していたら、金額面でも相当な額になったはずです。それがかなり抑えられた上に、成果以外のさまざまな示唆や考え方のヒントなどもいただけて自分たちのトレーニングにもつながったことを考えると、相当中身が濃く費用対効果に優れたプロジェクトだったと感じています。
具体的な成果としては、次期制度アップデートの大枠構造を今回まとめることができました。あとは中身の詳細を詰めていけば完成です。そこが大変なのですが(笑)。一番企画脳を使う土台のところをサポートいただき、短期間でここまで持ってくることができたのは大きな成果だと感じています。引き続き導入・運用部分でもサポートいただきたいと考えており、そのタイミングを見計らっているところです。
佐藤さん:人事制度に限らずですが、制度というものは全体最適で見た場合、個別の不整合が必ず起きるものです。ツクルバの場合、これまで個別を中心に制度のチューニングをかけてきたことが今回の課題(複雑化による現場混乱)につながっていましたから、全体最適の視点からも物事を考えていかねばなりません。ただ全体最適で考えたとしても、個別のどこに違和感があるのかは常にチェックが必要。ヒアリング・拡散・集約・改善のルーティンを回せる体制を作れたことも、1つの成果かなと思っています。
あと、チェックインの話は私にとっても楽しく良い機会となっていました。いろんな組織のサポートをさせていただく中で、人事や組織のあり方をクライアントから学ぶことも多くて。これらは日々変化するものですし、企業や人事担当者によっても全然違うので、日々発見なんですよね。こうしたコミュニケーションから自身のアップデートを行えている感覚があるので、毎回教わる気持ちでプロジェクトに関わっています。
今回で言うと、ツクルバの成長過程で必死に取り組まれてきた飯塚さん・小林さんから聞ける話はとても貴重なものでした。「人事ってしんどいけど、やりがいがある仕事だよね」という共通の価値観の中で、お互いが持っているノウハウやマインドを共有し合えたことが、もしかしたらこのプロジェクトの最大の成果なのかもしれません。
──改めて、人事パラレルワーカーを活用してみて感じたことを教えてください。
飯塚さん:当初、社内リソースもノウハウも足りないところからのスタートだったにも関わらず、ここまで短期間で本質的な企画が進められたのはまさに佐藤さんのおかげ。きっと我々だけであればもっと時間が掛かっていたはずです。
あともう1つ感じるのは、「相談するだけでも価値がある」ということ。コーナーにはいろんな専門性を持った人材がパラレルワーカーとして登録されているし、オンボーディングや要件定義からコーナーの担当者がサポートしてくれるので、「これだけ投資すればこうした取り組みができるかもしれない」といった可能性を知ることができます。それだけでも十分に発見があるのではないでしょうか。
小林さん:佐藤さんが担当してくれたからなのかもしれませんが、対応の「フレキシブルさ」が特に魅力だったなと感じています。
今回のケースで言うと、「そもそも何を実現したくて、そのためにどういうプロセス・アウトプットが必要かを定義しきれていなかった」という点が最大の課題でした。その根本から一緒に考えてもらえた上に、プロジェクトがスタートした後も都度「そもそもの目的は?」と振り返りながら柔軟に進めていただけるなど、こうした身軽さ・軽快さは外部人材ならではのものだと思います。
編集後記
今回の事例で印象深かったのが、飯塚さん・小林さんと佐藤さんの関係性でした。ただ経営・人事課題を解決するプロジェクトメンバーとしてだけでなく、いち人事に関わる人間としてマインドやスタンスに至るまで良い影響を与え合う関係性になれることは、パラレルワーカー活用におけるかけがえのないメリットなのだと再認識することができました。