「アセスメントセンター」を活用して次世代のミドルマネジメントメンバーを発掘・育成する方法
管理職や次期管理職候補の方々の能力を把握したり開発をすることを目的に活用される「アセスメントセンター」。近年ミドルマネジメント層にさまざまな期待や役割が課せられていることもあり、注目が集まっている手法です。
今回は、人材育成・組織開発分野で豊富な経験を持つ土屋 裕介さんに、「アセスメントセンター」の概要から導入方法などについてお話を伺いました。
<プロフィール>
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土屋 裕介(つちや ゆうすけ)/法人代表
国内大手人事コンサル会社などを経て、株式会社マイナビ教育研修事業部にて責任者を務め1年半で売上約140%増を達成するなど事業成長に貢献。その後独立し、人材サービスの事業者へのアドバイザリーや、クライアント企業のキャリア自律支援を中心に人材育成・組織開発分野のコンサルテーションを行う法人を設立し現在に至る。2024年1月より東京大学大学院聘研究員を務めるなどHR領域の研究活動も行う。主な共著に『活躍する若手社員をどう育てるか:研究データからみる職場学習の未来』(2022年慶應義塾大学出版会)、『なぜ、学ぶ習慣のある人は強いのか? 未来を広げるライフシフト実践術』(2021年日本経済新聞出版社)などがある。
目次
「アセスメントセンター」とは
──「アセスメントセンター」の概要について教えてください。
「アセスメントセンター」とは、管理職やその次期管理職候補者などを対象に、職場の課題解決や部下指導など管理職としての能力を評価・開発する手段のことです。具体的には、研修形式でマネジャーとしての職務を想定した演習(ビジネスシミュレーション)を実施し、演習中の行動や言動などをアセッサーと呼ばれる評価者が評価を行い、強みや啓発点を判断する形の取り組みです。職務に近いビジネスシミュレーションを実施し、実際の行動を基に客観的な評価を行うことで管理職に期待される役割や能力の現状・課題を明確にすることができます。
この「アセスメントセンター」を導入すると、従業員である管理職や次期管理職候補にとっては、自社において求められる管理職の能力や役割が明確になります。また、会社にとっては客観的な評価を踏まえてマネジメント適正が高い社員を管理職に据えられ、組織運営の最適化ができるというように、従業員・会社それぞれにとってメリットがあります。
「アセスメントセンター」の人員構成・役割・内容
──通常の人事評価とは異なる形で実施される「アセスメントセンター」。どのような人員構成・役割・内容で実施されるのが一般的でしょうか。
一般的な「アセスメントセンター」の構成要素はおおよそ次の通りです。
人員構成・役割
(1)受講生
研修や評価会に参加する受講者のことです。もっとも多いのは課長などの管理職への昇格候補者ですが、すでに課長などの管理職として働いている方や、それ以上の役職者を対象として実施することもあります。
(2)アセッサー
受講者の研修や評価会の中での言動をチェックし、評価をする立場の方です。
(3)リードアセッサー
通常「アセスメントセンター」は複数名の受講者で開催されるため、アセッサーを統括するリードアセッサーを置くことが多くあります。このリードアセッサーが各アセッサー間の評価のばらつきを調整することで評価軸が統一される効果もあります。
内容(コンテンツ)
(1)演習課題
ビジネスシミュレーションのテーマのことです。インバスケット演習(※)や部下指導演習、グループディスカッションなどを実施することが多く、マネジャーが実際に直面する場面・状況を模した演習が用いられることが一般的です。
(※)インバスケット演習とは、限られた時間の中で未完了のタスクを精度高くどのように処理していくかを見る演習のこと。問題解決に関する総合的な能力を評価するもの。
(2)ディメンション
マネジャーに求められる能力要件のことであり、「アセスメントセンター」を実施する上での評価項目となるものです。その項目は企業によっても異なりますが、一般的には情報処理能力や多様性受容力などが該当します。
(3)フィードバックレポート
「アセスメントセンター」を実施した後に作成されるレポートのことです。受講者全体の能力や態度の傾向を総括したレポートと、個人ごとの強みや啓発点を記したレポートの2パターンを作成するのが一般的です。
「アセスメントセンター」の実際の流れ
──この「アセスメントセンター」を実施する際、どのような流れで進めると良いでしょうか。
「アセスメントセンター」の一般的な流れは以下の7つのステップです。
(1)目的の設定
昇進・昇格者の決定、能力開発、組織内での配置変更など、企業によって「アセスメントセンター」を活用する目的はさまざまです。目的を明確に定めずに実施してしまうことのないように、事前に目的をはっきりさせておきましょう。なお、最も多い目的は受講者の能力を評価した上で『課長候補などの管理職選抜』を行うことです。
(2)計画・準備
対象となる職位・役割に必要なスキル・能力を特定し、それに基づいて評価基準(ディメンション)を作成します。その上で、作成したディメンションを評価することが可能なビジネスシミュレーションを自社内の事例や環境なども参考にしながら決定します。
(3)アセッサーの選定・育成
アセッサー(評価者)は公平かつ一貫した評価を行うことが求められます。適切なアセッサーを選定し彼らに評価を実施する上で必要な知識やスキルのトレーニングを提供します。
(4)受講者の選定・連絡
ひと通り計画・事前準備が整ったら、該当受講者へ案内を送ります。その際、受講者の上司にも案内を送り理解を求めると共に、実施前後のフォローを依頼するとより効果を高めることができます。
(5)「アセスメントセンター」の実施
決定された日程で実施します。アセッサーは各参加者のパフォーマンスを観察・記録した上で人事や委託した運営担当者などの管理者へと報告します。なお、リードアセッサーがいる場合はそこへ報告を行い、リードアセッサーが評価軸を踏まえて評価のバラつきがないように調整まで行います。
(6)データ分析・フィードバック
収集したデータを分析し、受講者ごとに評価を実施します。収集するデータは、各演習時に受講者がどのような行動・発言をどのようなシチュエーションで行ったか、などです。研修風景を録画しておくと後ほど確認できるようになります。
分析方法としては、組織内の他部門や他社との比較を通じて行います。ディメンション毎の評定結果や演習内での実際の行動へ個別コメントをつけるのが一般的です。これらの結果をもとに個別フィードバックや今後のキャリア開発のための提言までを行えると良いでしょう。
(7)実施後施策
結果に基づいて、昇進・昇格などの人事施策を実行します。
なお、(2)以降は研修会社や人事コンサルティング会社などに依頼をして進めて行くことが多くあります。そのため、人事は研修会社の選定~運用フォローを行うことがメインになります。特に(3)については専門性も高い領域のため、専門性を持ったプロ人材へ一任することがほとんどだと思います。(6)のデータ分析についても同様に研修会社にて実施することが大半ですが、その結果をどう活用するかは人事次第です。結果をそのまま鵜呑みにするだけではなく、自社の基準に沿って判断する際の参考として捉えることが重要です。
「アセスメントセンター」を成功に導くポイント
──「アセスメントセンター」の実施を成功させるために、人事が押さえておくべきポイントについて教えてください。
私の過去の実体験も踏まえて、人事の方が押さえておくべきポイントを3つご紹介します。
(1)「アセスメントセンター」の目的とディメンションの乖離
実施目的とディメンションが乖離してしまうケースはよくあります。一例として良い例と悪い例を挙げます。
<良い例>
目的:中長期的なマネジメント能力向上
ディメンション:現状の能力を把握できるよう汎用的な項目を使用
結果:現状の能力に応じた育成計画を立てることができた
<悪い例>
目的:一般的な課長としての能力・スキルを評価する
ディメンション:自社独自の人事評価の項目をアレンジして使用する
結果:自社独自の指標に寄り過ぎてしまい、世間一般との比較ができなかった
こうして文章に起こすと『そんな乖離は起こらないだろう』と感じるかもしれませんが、意外とこのようなケースが発生してしまうのが実態です。世間一般の基準を自社に持ち込みたいのであれば、依頼した研修会社のディメンションを活用して平均と比較するなど、尺度も一般化する必要があります。
(2)依頼するプロ人材の選定(多くは研修会社)
パートナーによって特徴がそれぞれ異なります。A社は事例が豊富で客観的な評価に定評がある、B社は事例こそ少ないがフィードバックに定評がある、などの違いです。これらの違いをクリアにした上で、自社の実施目的に沿って依頼パートナーを選定していきましょう。例えば、『課長の能力・スキル向上』が目的だとすれば、評価自体に強みがある会社ではなく、ディメンションの設定やフィードバックに強みがあるパートナーを選定する必要があります。
(3)「アセスメントセンター」実施後のフォローアップ
「アセスメントセンター」において最も重要なのはスコアが出てからのフォローアップです。むしろそこからすべてが始まると言っても過言ではないでしょう。ここで得たデータが、言わば個人を育成する上での羅針盤となり、その後の育成や研修実施に活用していくことができるものだからです。昇格判断に活用することはもちろんですが、1人のメンバーを中長期的に育成していく上でも重要な情報となることを認識した上で、その後のフォローや施策を検討してみてください。
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編集後記
ミドルマネジメントの登用・育成は、今や多くの企業で課題視されています。その中で今回ご紹介した「アセスメントセンター」は、管理職やその候補者の適切な人材配置はもちろん、能力開発の土台となる情報を得られる取り組みでもあります。目的を明確に定めた上で、ぜひ積極的に活用したい施策と言えるのではないでしょうか。