「構造化面接」により組織の採用力を高める方法とは

応募者全員に同じ質問を投げかけ、あらかじめ定めた基準に従って回答を評価する面接スタイルである「構造化面接」。定量的な面接方法として調査研究などにも用いられています。
今回は、大企業を中心に新卒・中途採用全体の設計をリードしてきた浦 拓平さんに、「構造化面接」の導入に必要なステップや注意すべきポイントを伺いました。
<プロフィール>
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浦 拓平(うら たくへい)/採用コンサルタント
2004年大学卒業後、新卒から約20年に亘って人材ビジネスに携わっている。新卒・中途採用の計画立案支援、およびそれに基づくブランディング戦略・選考設計・育成計画の提案・実施に従事。拠点立ち上げや事業部再生などマネジメントポジションでの経験も多く、食品系商社時代には人材開発担当として自社採用・育成計画を自ら構築、その他人事制度設計・評価も数多く経験。
目次
「構造化面接」とは
──「構造化面接」の概要について教えてください。
「構造化面接」とは、事前に定めた設問と評価指標に基づいて体系的に面接を実施することにより評価エラー発生を抑える面接手法です。臨床心理学分野では以前より使われてきた手法ですが、Google社が導入したことを受け一般企業においても注目が集まりました。
この「構造化面接」と真逆にあるものが『非構造化面接』です。面接時の質問項目をあらかじめ用意することなく、各面接官がそれぞれ考えた質問を行った上で異なる評価基準・指標を基に合否を決定します。その自由度の高さから候補者に合わせた臨機応変な面接ができるメリットはありますが、どうしても評価にバラつきが出てしまうだけでなく、面接官にも一定以上のレベル感が求められるデメリットがあります。
一方、「構造化面接」では事前に定めた設問と評価基準・指標を用いて候補者を評価するため、面接結果の平準化はもちろん、採用決定に至った経緯を客観的に可視化できるようになります。また、同じ質問項目を基本的には同じ順番で質問していく形になるため、面接官のレベルをそこまで問わない点もメリットの1つです。
「構造化面接」導入に向けた事前準備と質問例
──「構造化面接」を行う上では、『質問項目』を検討する必要があると思います。どのようなフレームワークに基づいて質問項目を検討すれば良いのでしょうか。
取り入れやすいフレームワークに『STAR』があります。過去の行動を深掘りする中で個人の志向・行動特性を把握する面接手法であり、実績や能力を客観的に判断するためのフレームワークとして広く利用されています。
S……Situation(状況)
T……Task(課題)
A……Action(行動)
R……Result(結果)
Situation(状況)
過去に直面した問題・課題や担当プロジェクトなど特定の状況について具体的に説明してもらうことで、候補者が何に対して影響を受けやすいか・興味を持ちやすいかを把握します。
<質問例>
『なぜその業界・企業を志望したのか、またそのきっかけは?』
Task(課題)
候補者がその状況・課題に向けどのように取り組んだのかを問うことで、候補者の能力や計画性を評価します。
<質問例>
『志望業界・企業に入るために何か自分なりの計画を立てたりしましたか?』
Action(行動)
候補者が実際にどのような行動をとったかを具体的に把握し、その中でどのようなスキル・能力を発揮したかを確認します。
<質問例>
『志望業界・企業に入るために行動したことは?』
Result(結果)
候補者の行動の結果や成果を聞き出し、候補者の業績や貢献度を客観的に評価することができます。
<質問例>
『計画・行動してみた結果、どんな成果があった?』
この『STAR』は幼少期・部活・バイト・サークルなどといったさまざまな切り口から複眼的に質問することで、より本人の適性・価値観を深く掘り下げて理解できるようになります。また、重要なのはResult(結果)よりもそこに至った状況・課題・行動です。ここに着目すると入社後に再現性のある行動ができるかどうかを判断できるようになります。
上記に加えて、判断の精度を高めるうえでの重要なポイントは下記の3つです。
・なぜなぜなぜの行動選択の理由やその行動に至った現体験の深掘り
・深掘りした複数の現体験の一貫性の確認
・経験した事柄を踏まえ、現在進行形で今取組んでいることの確認と過去との一貫性の確認
過去から現在、そして今後の未来に一貫性を持ち、行動を行えていれば、今後についても再現性を持って行動を継続していくことが可能と判断ができます。

──「構造化面接」を行う上で見極めるべきポイントと、そのために必要な質問項目について教えてください。
「構造化面接」に限った話ではありませんが、見極めるべき事項は大きく以下2つに分けられます。それぞれの観点から代表的な質問例をいくつかご紹介します。
(1)経験と能力
(2)志向性と価値観
(1)経験と能力
主に登用ポジションに求められるパフォーマンスが発揮できるだけの経験・能力がある人材かどうかを見極めます。
<質問例>
『過去どのようなプロジェクトや業務を担当し、どのような成果を上げましたか』
→どのようなシチュエーションで、どう思考し、どのような行動をとったかを確認
『その成果を出す過程で培った再現性ある専門知識やスキルは何ですか?』
→成果を生み出す過程でどんなものを意識的に習得してきたかの認識を確認
(2)志向性と価値観
候補者の志向性・価値観が採用企業の組織・カルチャーにフィットするかを確認します。なお、そこで確認した志向性・価値観は採用時のクロージング要素としても活用できます。
<質問例>
『あなたが仕事を選ぶ際に重視する要素は何ですか?』
『現職を選ばれた理由は何ですか?』
『バイト・部活・前職など、自身が所属してきた組織を選んだ際の背景や基準について教えてください』
→組織を選択する際に重視する・してきた要素を過去・現在・未来と時間軸を分けて確認
上記の回答を踏まえ、過去・現在・未来と一貫性のある場合は、その方向性に基づき自社カルチャーとマッチするか判断をしつつ、自社魅力を訴求していきます。一方で、一貫性のない場合には矛盾点を挙げながら、判断基準が異なる理由や背景を深掘りして本質的な価値観を確認していきます。

「構造化面接」の導入事例
──浦さんがこれまでに導入・実施された「構造化面接」の事例について教えてください。
某メディア企業(売上高:約50億円 従業員数:約150名)に「構造化面接」を導入した際の事例をご紹介します。この企業の面接官を務めていたのはメディアにも登場する個性的&職人気質なメンバーが多かったため、それまでは面接方法もそれぞれに委ねられており完全にブラックボックス化していました。そこで、面接内容を統一化することで、より効果の高い質問内容やコミュニケーション方法を突き詰めるよう目指しました。
導入時の課題
・人気業界・企業であるため応募総数が多く、選考業務負荷が高い
・面接官の人員リソースに限りがあり、1人当たりが選考に使える時間も限られている
・採用競合企業も人気企業のため、選考離脱者が多い
実施施策
・面接官ごとに担当した候補者の選考推移率や入社承諾率を数的に可視化
・入社決定率が高い面接官、低い面接官の面接同席&会話記録
・決定率を分ける要因を導き、限られた時間の中で確認すべき質の高い質問を決定
・決定率が高い面接官が行っていたフィードバック内容を蓄積して形式知化を実施
・各面接官へ評価理由をヒアリングし、評価基準の標準化を実施
・面接官マニュアルの作成ならびにトレーニングを実施し、全面接官の面接スキルを平準化
結果
・曖昧になっていた評価基準が標準化され、合否結果に対する納得感が高まった
・面接時間の効率化だけでなく、同時に入社決定率も上昇した
(導入前_内定承諾率:41%→導入後_内定承諾率:55%)
そんな状況下ではありましたが、私が外部人事として内部人員だけでは難しい実態調査を行ったことで、これまで人事が把握しきれていなかった各面接官の効果的な質問や動機形成を行うためのテクニックなどもオープンにすることができました。
また、それらを新任面接官にも共有することで組織的な面接スキル向上につながっただけでなく、面接結果に対する人事メンバーの納得感も高めることができました。
「構造化面接」を行う上で注意すべきポイント
──「構造化面接」における注意すべきポイントや取るべき対策があれば教えてください。
「構造化面接」は性質上、SNSなどを通じて応募者間で質問項目が事前に共有されてしまうリスクはあります。それ自体を防ぐことはできませんが、『一問一答の短い回答に対する評価を避け、候補者本人しか語ることのできない経験に基づく回答を引き出す』ことでそうしたリスクも回避できるようになります。その際のポイントを以下に4つほど紹介します。
(1)事例や具体的な経験を聞き出す
具体的な状況・課題・取り組んだアクション・結果・学びなどを詳しくヒアリングを行うことにより、回答が具体的で情報量のあるものとなります。
(2)考え方や価値観を聞き出す
具体的な行動や結果だけでなく、なぜそのようなアプローチを選んだのか、どのような判断軸や価値観を持っているのかまでヒアリングすることで、候補者の考え方や価値観まで把握できるようになります。
また、価値観については非常に把握することが難しい内容となりますが、一つの側面だけで価値観を把握しないことが重要です。対象者個人のこれまで下してきた複数の意思決定や行動選択の理由から見られる傾向を掴むと自ずとその対象者が持つ価値観を把握することが可能となります。
(3)問題解決の過程を確認する
結果だけでなく、問題解決に至る過程までを明確に確認することが重要です。問題が発生した背景や要因、解決策の検討や評価、実施した手段や手順などを詳しく確認することで、候補者自身の分析能力や論理的思考力を確認することができます。
(4)逆質問
面接の場において候補者側からの質問を求めることも大切です。寄せられる質問を通じて候補者の懸念事項を確認することはもちろん、なぜその質問を行ったかまで把握できればより深く価値観を理解できるようになります。
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編集後記
「構造化面接」を実施することで、各面接官の主観や経験に頼っていた採用活動を定量化できるようになることが浦さんのお話からも理解できました。“勘・経験・気合”から脱却し、根拠に基づいた採用活動を展開する上では非常に効果的な取り組みだと言えます。一方、導入にはそれなりの工数がかかること、候補者に機械的な印象を与えかねないことなどのデメリットがあることも見逃せません。導入においてはその目的を明確にして進めて行くと良いでしょう。