「カジュアル面談」を良い形で運用し、良い候補者体験につなげるためには

選考とは関係なく、企業と応募者の相互理解の場として設けられる「カジュアル面談」。お互いにリラックスした状態で情報交換を行えることなどから、近年多く用いられるようになりました。
今回は、中途入社者に向けた「カジュアル面談」の企画・設計・運用のご経験がある人事パラレルワーカーの大村 千明さんに、「カジュアル面談」を取り入れるメリットや設計のポイント、運用時の注意点などについて伺いました。
<プロフィール>
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大村 千明(おおむら ちあき)/人事パラレルワーカー
2012年に新卒で株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)に入社し、5年間中途採用領域のコンサルティングを経験。より企業に入り込んで採用支援を行いたいという想いから個人事業主として独立し、2018年より中途採用領域の採用戦略設計、母集団形成、面接代行、オファー面談など幅広い案件に従事。大手から中小ベンチャー企業まで幅広くお取引中。人材・人事領域で10年目。
目次
「カジュアル面談」とは
──「カジュアル面談」とはあらためてどのようなものか教えていただけますでしょうか。
「カジュアル面談」とは、企業の担当者と就職希望者が相互理解を深めることを目的に行う選考要素のない面談のことを指します。リラックスした空気感を演出するため、スーツではなくオフィスカジュアルな服装が推奨されていたり、実施場所も会議室ではなくオンラインなどで実施されたりすることも多いようです。

採用をうまく進めていくためには、いわゆる『転職顕在層』だけではなく『転職潜在層』にもアプローチしていく必要があります。ダイレクトリクルーティングサービスや、求職者と企業が直接繋がるビジネスSNSサービス等の出現なども、世の中で「カジュアル面談」の必要性を高まっている証の1つであるように感じます。
また、新型コロナウイルスの影響でコミュニケーションのオンライン化が進んだことで、これまで地理的な問題や時間調整が難しかった方々とも場所や時間を選ばず気軽に接点を持てるようになったことも、面談のカジュアル化を大きく後押ししました。こうして採用候補者との接点を最大化させられたことを受け、従来の採用手法だけでうまくいかない企業を中心に+αの動きを取る流れが起きたことも「カジュアル面談」に注目が集まった理由だと考えています。
「カジュアル面談」を実施する目的
──「カジュアル面談」の目的について教えてください。
「カジュアル面談」における一番の目的は、企業と候補者の『相互理解』を進めることです。この『相互理解』を具体化するにあたっては、転職候補者の心理を理解しておく必要があります。実際に、候補者が転職をする際の心理は大きく分けて以下6段階があると考えています。

・STEP1:情報のアンテナを張り、現職に拘らずキャリアを考えようと思う。
・STEP2:声をかけられたら、とりあえず話を聞く。
・STEP3:自分の市場価値を含め、自分から情報を取りに行く。
・STEP4:検討企業の比較を始める。
・STEP5:内定企業の選択をする。
・STEP6:現職企業に退職意向を伝える。
候補者はこの6段階の心理的なステップを踏んで初めて転職先を決める形となるわけですが、その中でもSTEP1~2とSTEP3~4にいる方では取るべきコミュニケーションが異なります。
STEP1~2の方は、まだ受動的で企業からの発信を待っている状態です。転職活動の実施状況などを尋ねるのは構いませんが、その状態で自社への転職意思や志望動機などを聞いてしまうとギャップが生まれてしまい、離脱に繋がってしまいます。ちなみに、私自身が「カジュアル面談」を行う目的は、このSTEP1~2にいるターゲットをSTEP3以上に上げるためのものと定義して実施しています。ここで意向が上がりきらなければ、次回の面接設定がスムーズにできないだけでなく、次の面接で候補者のパフォーマンスを高めることもできません。
候補者の面接パフォーマンスを上げるためには、自身のキャリア・転職活動と本気で向き合い、志望度の高い企業への準備が適切にできている必要があります。そのためにも、「カジュアル面談」を通じて候補者のキャリアと向き合い、転職活動に向き合うための下準備と自社への志望度向上を同時に行っていく必要があるのです。
こうして「カジュアル面談」を適切に実施することができれば、転職意欲が『顕在化』する前にいち早く候補者とコミュニケーションを取ることができるようになります。さらに、候補者のキャリアを一緒に考える(味方になる)ことができれば、採用競合より先に信頼を獲得することも可能です。
つまり、「カジュアル面談」はいわば『採用人事の営業の舞台』です。候補者をジャッジするのではなく、候補者に営業をかけて本気にさせ、次のステップに進めることを目的に行うということを改めて認識しておく必要があります。
良い「カジュアル面談」の定義
──「カジュアル面談」を実施してはいるものの、なかなか採用にまでつなげられていない企業もあるかと思います。大村さんが考える、良い「カジュアル面談」とはどんなものでしょうか。
前述した通り、「カジュアル面談」は『採用人事の営業の舞台』です。候補者をジャッジするのではなく、候補者に営業をかけて本気にさせ、次のステップに進めることを目的とします。
この目的を達成するためには、『面接官』としてではなく、『キャリアアドバイザー』として候補者のキャリアと向き合う必要があります。キャリアアドバイザーとは、候補者のキャリアに対して過去⇒現在⇒未来という時間軸で向き合い、キャリアの棚卸しを一緒に行う存在です。その対話の中で、候補者が潜在的にやりたいと考えていること、現状の不満、未来の希望を引き出していきます。
人材紹介会社を利用して候補者と接点を取る際には、前述したSTEP3以降の方とお会いできていることになります。しかし、その他採用ツールを利用する場合は、このキャリアの棚卸が完了していないケースも往々にしてあるものです。その状況を逆手に取り、候補者がキャリアの棚卸が完了していない(転職潜在層である)タイミングで先んじて『キャリアアドバイザー』として向き合うことで、採用競合よりも先に信頼を勝ち取ることができるというわけです。
ただ、そうは言っても「カジュアル面談」の場でどのように『キャリアアドバイザー』として向き合えば良いのか迷ってしまう方も多いと思います。そんなときには、大きく以下3つの流れと内容で「カジュアル面談」を進めて行くと良いでしょう。
(1)まずは自社・自己開示から
「カジュアル面談」としてお誘いした場合、基本的に候補者は『話を聞きにくるスタンス』で来ます。ご自身がメインで話をする場ではないと考えていることが多いため、そのまま進めてしまってはただの一方的な情報伝達の場になりかねません。候補者からもキャリアに対するニーズなどを聞き出せるように、対話がしやすい環境を作ることが必要です。そのきっかけづくりとして有効なのが、企業側からの発信による自社・自己開示です。
具体的には、まずアイスブレイク・自己紹介からスタートします。自己紹介では面談者自身のこれまでのキャリアはもちろん、なぜ現職にジョインしたのか、今まさに何にチャレンジをしているのかなどをお伝えすることで、後ほど候補者のキャリアについてやんわりと聞くきっかけにできます。
その後の会社説明では事業内容をお伝えするだけでなく、ミッション・ビジョン、採用背景などに至るまでをお伝えすることで、候補者側は自身がチャレンジできる幅を感じることができます。なお、こうして説明している際のリアクションなどを注意深く観察しておくことで、候補者がどういった領域に興味を持っているかもチェックしておきましょう。
(2)『キャリアアドバイザー』としてのヒアリング・棚卸し
候補者が興味を感じている部分をキャッチアップできたら、候補者が今までやってきたこと、なぜ今日この場をいただけたのか、どういった領域に興味があるのか、などを『キャリアアドバイザー』としての視点で切り込んでいきます。ここで気をつけたいのは、スキルジャッジを行うスタンスになってしまわないこと。選考目的ではなく、あくまで候補者の可能性を純粋に探究する仲間としてヒアリング・相互理解を行うことが重要です。
(3)次回の面接設定(クロージング)
相互理解が進み、候補者の意向が高まっていると感じたら、次回面接のセッティング(クロージング)を行います。ここでは率直に『興味を持ってもらえたのであれば、より深くお話をする面接のステップに進んでいただきたいのですがどうでしょうか?』とお伝えしてOKです。その際、『少し考えたい』と候補者が回答するようであれば、採用人事としての“商談”は失敗したと受け止めて良いでしょう。『ぜひ!』という回答があって初めて、その「カジュアル面談」が成功したと判断するのが適切だと思います。
候補者の意向が上がらない、あるいは「もう少し考えたい」と距離を取られてしまった場合は、少し時間をおいてから改めてご連絡させていただく旨をお伝えして、その場は終了します。「〇ヵ月後にまたご連絡させてください」といった形でご縁は保ちますが、上記のようなご回答があった場合には、そもそもカジュアル面談自体は失敗してしまったと考えた方がいいでしょう。
上記3つの流れをご覧いただき、現状実施している「カジュアル面談」と比較して違いはありましたでしょうか。
『面談冒頭から候補者の話を聞こうとしてしまっていた』
『ヒアリングの目的がスキルジャッジになっていた』
『候補者のキャリアを一緒に棚卸しできていなかった』
もし1つでも思い当たる部分があれば、今一度面談内容を見直してみることをオススメします。

「カジュアル面談」の企画・設計・運用ポイント
──先ほど「カジュアル面談」の進め方を教えていただきましたが、企画・設計・運用する上で考えておくべきポイントなどがあれば教えてください。
「カジュアル面談」を企画する上で重要なのは、候補者に合わせた対応ができるよう社内で可能な限り『カード』を用意しておくということです。敢えて『カード』と表現しましたが、「カジュアル面談」を有利に進行するためには候補者に合わせた会社の面を見せることがポイントだからです。
この『カード』には、『面談者の属性』と『会社の見せ方』が含まれています。候補者の属性やバックグラウンドに近しい面談者を準備しておくことで、どんなパターンの候補者にも対応できるようになります。また、『会社の見せ方』も大きなポイントです。例えば、自社を一面でしか捉えられていない面談者では、会社説明も1パターンしか考えられないため、候補者の多様なニーズ・キャリアに応えることができません。現職で事業の頭打ち感を感じている候補者に対しては、自社がいかに完成された事業を行っているかではなく、伸びしろの大きさを伝えることが必要になります。そういった意味でも、「カジュアル面談」を導入する前に、自社の現状とお伝えの仕方を可能な限り洗い出してみることも有効な取り組みの1つです。
面接者の属性パターン例
・新卒入社者
・中途入社の若手
・同業他社から移ってきた経験者
・勤続10年以上のベテラン など
会社の見せ方パターン例
・今後の事業の伸びしろが大きい
・競合優位性がある
・手厚い教育制度がある など
さらに、ピックアップした面談者に対して、洗い出した会社の多面的なパターンと「カジュアル面談」のレクチャーを行い、対応クオリティにバラつきが出ないようにすることも忘れてはいけません。私自身も「カジュアル面談」を導入する際には、必ず面談方法をレクチャーするためのキックオフを実施しています。その際は、一方的に話をするのではなくロープレも含めて実施し、採用を面談者全員が自分ゴトとしてとして捉えられるように工夫しています。多くの人を巻き込む「カジュアル面談」は、スクラム採用(全社員が一丸となり取り組む採用方式)の第一歩と言っても過言ではありません。
「カジュアル面談」を進める上での注意点
──「カジュアル面談」を進める際に、気を付けるべき注意点があればお教えください。
これも繰り言になりますが、「カジュアル面談」が『ジャッジの場』になってはいけないということは改めてお伝えしておきたいところです。候補者の潜在的な課題を引き出し、採用企業側が求めているアクションをとってもらえるよう『提案』するのが「カジュアル面談」の本質です。だからこそ、その場で候補者をジャッジしてしまうのはこれ以上ない愚策と言えます。
しかしながら、企業と候補者の関係性がある以上、どうしても面談に選考要素を入れようとしてしまうケースは一定数存在します。『企業は採用する立場、候補者は採用される立場』という、昔ながらの採用市場を引きずった価値観もそのような判断を引き起こす理由の1つだと理解した上で、事前に対策をしておく必要があります。
その対策として有効なのが、前述した「カジュアル面談」実施前の『キックオフ』です。ここで面談の実施方法などはもちろん、「カジュアル面談」を行う目的・意義、さらにはその本質的なところまで深く情報共有・理解促進を行うことで、面談クオリティのバラつきも防ぐことができます。
なお、面談クオリティがバラつくと次回面接への設定率が引き上がらないだけでなく、その内容次第では候補者の満足度が下がり、周囲の人へ不満として伝えたり、SNSなどに悪評を書かれたりすることにもつながりかねません。こうしたリスクに対しても『キックオフ』は有効ですし、それらを通じて面談者のやる気を引き出すことも採用人事の大事なミッションだと考えています。
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編集後記
「カジュアル面談」は、企業・候補者の双方にとってメリットの大きな取り組みである一方、進め方次第では候補者の満足度を大きく下げる結果にもつながりかねません。『面談だと聞いていたのに面接された』『転職理由や経験ばかりヒアリングされて不信に思った』などのコメントはよくSNS上でも見受けられます。ぜひこの記事を参考にして、「カジュアル面談」を良い方向で活用いただければと思います。