「ワークサンプルテスト」で採用をより確かなものにする方法とは

入社後に担当する業務を疑似体験してもらう形で行う面接手法「ワークサンプルテスト」。ジョブ型採用が主流の欧米で広がりを見せ、日本でも専門職採用の活発化と共に、この「ワークサンプルテスト」を活用することを検討している企業も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「ワークサンプルテスト」の効果や導入事例について、現在10社のマーケティングアドバイザリーや人事制度の検討を進められている中谷 悠輝さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
中谷 悠輝(なかたに ゆうき)/法人代表社員
大手家電メーカーで営業として勤務後、ベンチャー企業に転職。人事責任者として10名から40名の拡大期の採用戦略の設計から実行、また新規事業立ち上げの事業責任者を担う。D2C事業の立ち上げや新規メディアの立ち上げなどを行った後、独立。現在は10社のマーケティングアドバイザリーや人事制度の検討などを行う。
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目次
「ワークサンプルテスト」とは
──「ワークサンプルテスト」の概要について教えてください。
「ワークサンプルテスト」とは、採用候補者の活躍度合いを図るスキルチェックテストのことです。具体的には、実際の仕事に近い状況や想定課題を候補者に提示し、その回答を作成してもらう形で実施します。例えば、メディアディレクター採用時に自社メディアの課題を共有して、1週間かけてメディアの改善に取り組んでもらうなどもその1つです。
企業の中には『お試し入社期間(1週間程度)』を設けて選考を進めているところもありますが、受け入れ現場の負荷が大きく、不採用時の説明も大変になるなどデメリットが目立ちます。一方、「ワークサンプルテスト」は選考内で完結できますし、設計内容次第では現場の協力がなくとも人事のみでスキルチェックを行えるなど、メリットが多分にあります。
昨今よく聞く『ピープルアナリティクス』の言葉通り、現代では社員1人ひとりの適性に合わせた人材マネジメントがこれまで以上に求められるようになってきました。具体的には、適性検査などによる社員データの定量化・拡充、活躍人材像の明確化、採用要件・ペルソナ設計、選考基準の明確化などの取り組みがそれにあたります。その点、「ワークサンプルテスト」では提出してもらった内容を採点・点数化することで定量的なスキルチェックができるようになるため、人事に関わる方々からの注目度が日に日に高まってきていると感じます。
「ワークサンプルテスト」の導入背景
──「ワークサンプルテスト」を導入する企業には、一般的にどんな背景があるのでしょうか。
採用単価や採用難易度が高まり続けている現代の環境下では、入社後のミスマッチによる早期退職などの損失は、企業にとって非常に大きいインパクトとなってしまいます。そのため、このミスマッチをなるべく減らせるように、あらかじめリスクヘッジとして選考方法の見直しや工夫が各企業にて行われています。
今まではいわゆる定性的な選考(面接を複数回こなし、複数の面接官の目から多面的に選考をすることで候補者を見極める方法)がメインでしたが、最近では定量的な選考フローを検討する会社も増えてきたように感じます。その1つが「ワークサンプルテスト」であり、構造化面接(※)や統計学に基づくような適性検査もそこに含まれます。それらの中でも特に「ワークサンプルテスト」は入社後のミスマッチを防ぐために事前に正確にスキルを測る上で重要視されており、人事や採用担当者が選考フローに導入するケースが増えてきているように思います。
(※)構造化面接とは、あらかじめ設定しておいた評価基準・質問項目を基に、手順通りに進める面接のこと。誰が面接官であっても、一定の基準で応募者を評価できる特徴があります。

「ワークサンプルテスト」のメリット・デメリット
──「ワークサンプルテスト」を導入することで、具体的にどんな効果が得られるのでしょうか。
導入するメリットとしては大きく以下の3つがあげられます。
(1)採用マッチ率向上(採用後のミスマッチの減少)
(2)採用工数削減(現場社員を面接に入れることなく採用を完結できる)
(3)候補者の意欲向上(実際の仕事に近い体験をすることによる仕事イメージの明確化)
上記の中でも(3)については意外に思われるかもしれませんが、有効な手法でもあります。私が実際に経験した中で、過去に選考中の候補者様への「ワークサンプルテスト」実施を経て、最終的に入社を決めてくださった方にヒアリングしたところ、『ワークサンプルテストを実施することで、実際の仕事のイメージをリアルに持てたからこそ、この会社へ入りたいと思った』と回答してくれたこともありました。「ワークサンプルテスト」は企業側のメリットが連想されやすい取り組みですが、実は応募者側にとってもメリットが大きい取り組みなのです。
とはいえもちろんメリットばかりではありません。以下のようなデメリットも実際に存在します。
(1)事前工数が多い(ワークサンプルテストの設計作成に時間が掛かる)
(2)選考期間の長期化(設計を実際の業務に近づけると選考日数が長くなる)
(3)選考辞退の増加(選考意欲が高くない候補者は辞退することが多い)
私の過去事例からお伝えすると、(1)のワークサンプルテスト設計・作成には1カ月程度掛かることが大半です。一般的には現場ヒアリングをベースに設計を行ったものを再度現場メンバーにチェックしてもらう形となります。そこに加えて合格基準のすり合わせも必要になるため、上位職種になればなるほど事前工数は増えるイメージです。
なお、(2)に関しては現職中の方も多いため、必然的に「ワークサンプルテスト」に対応するための期間が長くなりがちです。少なくとも5日〜1週間程度はテスト期間として設けておく必要があります。
上記メリット・デメリットを理解した上で、導入の是非を検討すると良いでしょう。実際に導入する際は、その職種において「ワークサンプルテスト」が本当に必要なのか、そのテスト内容で入社後の成果が測れるのか、などの観点から担当職種のマネージャー等とも話し合って検討した上で設計・実行に移ることをおすすめします。
「ワークサンプルテスト」の実施事例

──中谷さんが実際に関わった「ワークサンプルテスト」の導入・実施事例について教えてください。
以前、とあるベンチャー企業の人事責任者として社員数を10名から40名までに増加するという拡大期に関わったことがあります。その際に自社メディアの運用担当者を募集した時の事例をご紹介します。
当時はまだ10名の正社員メンバーで事業運営を行っており、売上増加のためには増員採用が必須のフェーズでした。しかし、選考には現場責任者メンバーが3名参加する必要があり、採用に力を入れて面接数を増やせば現場の仕事が回らなくなってしまいます。かといって現場責任者メンバーが面接しなければ正確に候補者のスキルチェックができず、即戦力採用ができないといったジレンマを抱えた状態でした。なんとかして人事メンバーのみで選考フローを組み、最終選考では定量的なエビデンスの元で責任者メンバーが判断を行える形を設計する必要があったのです。考えに考え抜いた結果、選考の中で「ワークサンプルテスト」(当時はまだその単語がなかったため課題と呼んでおりましたが)を設計することにしました。
まずは「ワークサンプルテスト」を作成するべく、現場責任者に実際の仕事でメンバーに任せている仕事をヒアリングし、より入社後の仕事内容に近い課題を設計できるように取り組みました。実際の仕事場面と同じ条件として5日間でアウトプットを作成してもらう形式にしました。
具体的には、実際の記事作成におけるキーワードを設定し、自社メディアで公開するとしたらどのような記事作成を行うかについて5日間で作成してきてもらう形のテストを行いました。目標PV数や最低限入れ込む内容の共有なども細かく行い、仕事結果のアウトプットの実例なども共有することで、候補者側で実際の仕事を想像しながら取り組むことができるように工夫しました。さらに、テスト課題の各採点項目を用意して各責任者側に採点を依頼。テスト結果については最終選考時に事業責任者から候補者にフィードバックを行ってもらうフローも追加。これにより、選考フローは以下のように変化しました。
■以前の選考フロー
人事メンバーによる面接→現場責任者による面接→代表取締役・事業責任者・人事責任者による最終面接→内定
■「ワークサンプルテスト」導入後の選考フロー
人事メンバー・人事責任者による面接→ワークサンプルテスト→代表取締役・事業責任者による最終面接→内定
結果、現場責任者メンバーは「ワークサンプルテスト」の採点結果を踏まえて合否を判断することができるようになり、選考に割く工数を減らしながらも即戦力採用を増やすことに成功。社員数は40名にまで拡大し、組織が発揮できるインパクトも格段に大きなものとなりました。
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編集後記
『人事の仕事は、オールド3K(記憶・勘・経験)からニュー3K(記録・客観性・傾向値)に変化してきている』という話もあるように、データ面から人事を捉えていくことはもはや避けられない流れです。今回中谷さんからお聞きした「ワークサンプルテスト」もその1つ。それぞれの課題に合わせて導入を検討してみてはいかがでしょうか。