「みんなでつくる」が自社らしい人事施策を生み出す最適解
リレーインタビュー企画の第8弾は、前回記事の茅根 孝太郎さんよりご紹介いただいた竹内 富貴さんの登場です。
新卒でジェイエイシーリクルートメントの人材紹介担当として入社した竹内さん。その後は企画側へ転身し、現在はマネーフォワードにて急拡大している組織の人事企画全般(組織開発・制度設計・サーベイ活用・成長支援など)に取り組まれています。
今回はそんな竹内さんに、人事施策を作る上でどのような部分に注力されているかについてお話を伺いました。
<プロフィール>
竹内 富貴(たけうち ふき)/株式会社マネーフォワード People Forward本部 Talent Growth部 部長
新卒で株式会社ジェイエイシーリクルートメントに入社し、企業の中途採用支援やキャリアコンサルタントを経験。その後、株式会社エムティーアイ、日清食品ホールディングス株式会社で新卒採用や人事企画を担当し、現在は株式会社マネーフォワードにて組織の急拡大に合わせた人事企画や人材開発(組織開発・制度設計・サーベイ活用・成長支援など)に取り組んでいる。
目次
自社らしい人事施策を作るために
──採用から人事企画まで経験されてきた竹内さん。現職のマネーフォワードではどのような活動をされていますか?
今やっているのは、急拡大する組織に合わせた人事企画全般です。組織や人の成長を支援するため、主に人事制度の策定・運用や研修体系の構築・実施、HRポリシーの検討などを行っています。
成長支援体制については、そもそもベンチャーに入社してくれるような方はみんな成長意欲が高く、社内にも多くの機会があるため、これまでは研修などの機会を会社が用意しなくてもなんとかなっていたという面がありました。しかしながら、会社のフェーズが変わり、組織が急速に拡大した昨今において、研修関連も充実させることで、メンバーの成長を更に後押しする体制を作ることがより重要になってきていると思います。そのため、今はまずリーダー向けのトレーニング企画・導入から進めているところです。
──竹内さんが組織開発を進めていく上で、重視していることとはなんでしょうか。
大前提として持っているのは、「どこにでも当てはまる人事施策はない」という意識でしょうか。ミッション・ビジョン・バリュー・カルチャーは百社百様ですし、事業フェーズ・経営課題・メンバーの考え方などは日々変化するもの。それらをキャッチアップし続け、理解した上で人事が意志を持ってアクションするように心がけています。
マネーフォワード入社当初も、まずは会社を理解することからスタートしました。サーベイなどから定量的に理解することはもちろん、サーベイやアンケートのコメント、1on1、また日頃のmtgやSlackでのやりとりから、どのようなことが重視されて意思決定されているかなど、コミュニケーションを通じて定性面からも全体の課題感や組織や人に対する考えなどを把握していきました。
また、人事施策の草案段階から人事以外のメンバーに「今こんなことを考えているんだけど、どう思います?」と聞いて意見をもらったりもしています。マネーフォワードには昔から「共創文化」があり、質問や相談に対してみんな積極的に応えてくれますし、より良いアウトプットにするために様々なアイディアを出してくれます。社長をはじめ役員も、積極的にメンバーに意見やアイディアを求めたり、「いい考えがあったら教えてください」というコミュニケーションが自然と行われるほど、フラットに意見を出し合ったり共創していくことが文化として深く根付いているんです。だからこそ施策を作る段階から、極力人事だけで閉じた議論をせずに、周囲を巻き込んでいくようにしています。そうしたほうが内容もより良いものにブラッシュアップされるのはもちろん、メンバーの納得度も大きく変わってきて、制度や施策が形骸化しづらいと思います。
……と、今だからこそ話せますが、昔はメンバーにフィードバックをもらうことを怖がっていました。例えば人事評価ってお金に直結するものだし、全員が納得できるものをつくるのは難しいじゃないですか。そんな考えもあって、人事以外のメンバーを巻き込んだり、自分からフィードバックをもらいにいくことを避けがちだったと思います。でも、結局みんな同じ目的を持って会社に集まっている仲間だし、目指している方向は一緒なんですよね。そう考えて思い切って相談したり、フィードバックをもらいに行ったり巻き込むようにしてからは、絶対こっちの方がいいなと思うようになりました。人事だけで閉じた議論をするのはなるべく避けて、周囲から意見やフィードバックをもらいながら施策を考えたり、アップデートしていった方が良いと、今は強く思いますね。
また、事業や組織が急成長していく中で、それでもカルチャー自体の濃度は薄めることなく進めていくためにはどうすればいいのかといった観点から、「カルチャーのローコンテクスト化(明文化)と浸透」にも関わっています。
マネーフォワードは昔からカルチャーを大事にしてきた会社です。社員数が少ないうちはハイコンテクスト(暗黙の了解的な形)な運用でも問題なかったのですが、直近半年で400名も増加している現状ではそうもいきません。抽象度の高いカルチャーを多様化・急拡大する組織に浸透させるためには、あらゆるバックグラウンドを持つ方が見てもわかるアウトプットをつくることが大事だと思っています。現時点でも表彰制度「Culture Hero」や、朝会などのあらゆる場面でカルチャーに関連する発信を継続的にし続ける取り組みなどをしてカルチャーの浸透は進んでいますが、よりみんなが理解しやすいアウトプットもこれからつくっていく予定です。
周囲の共感・理解を得ながら変革を進める方法
──人事として、どうすればうまく周囲を巻き込んで進めていけるのでしょうか?
大事なのは「みんなが参加したいと思える状態をつくれるかどうか」だと思います。例えば、何か施策について共有するときも、どのような言葉や伝え方、あるいはデザインにすれば、みんなが共感したり興味を持ってくれるだろうというのを考えて工夫します。時には、人事だけでなく自社のデザイナーに協力してもらってデザイン性・ストーリー性のあるものに仕上げていくこともあります。
人事から「人事制度を改定します!」と伝えて、その改定内容を記載するだけではどうしても共感は得づらいものです。何のために・何を実現したくて人事制度を変えるのかを、受け取り手であるメンバーが共感・理解できるようなストーリーとするためにどうしたら良いんだろうというのは常に考えていますね。見て聞いてワクワクするもの、ぜひやっていきたいと思えるものにするためにはどうしたらいいか、人事内でディスカッションしたり、時には役員やデザイナーにも相談して工夫を重ねています。
また、普段から言葉の使い方をとても大事にしていて。例えば、「現場に施策を“落とす”」という言葉は基本的に使わないようにしています。施策は人事から落とすものというより、みんなと作り運用していくものとしたいと考えているからです。あとは「育成」というワードもあまり使いません。人事がしているのはみんなが成長したいという想いを支援するものだと思っていて、「成長支援」という言葉を使うことが多いです。些細なこだわりに聞こえるかもしれませんが、こうした言葉使いの1つひとつが積み重なって、人事のスタンスが形成されていくと思うんです。
──実際に進めている人事施策にはどのようなものがありますか?
たとえばリーダー向けに行った研修では、以下のような内容を実施しました。
(1)管理職向けトレーニング
組織の急拡大に応じてマネージャー向けのトレーニングの必要性が増したため、1on1トレーニングや目標設定研修を導入しました。その際に工夫したのは、「なぜやるのか」をしっかり発信すること。人事だけでなく社長からもなぜ今やることが大事なのかを発信していきました。「みんなが参加したくなるもの」と先ほどお伝えしましたが、なぜやるのかといったWHYを発信することもそれに繋がると思っています。人事だけでなく、社長からもこうしたWHYを回数を重ねながら丁寧に発信したことで、「会社として1on1を社員の成長支援として大事にする」というメッセージを伝えられたのではないかと考えています。
結果的に、病欠者以外は全員が出席してくれただけでなく、研修受講後にある管理職の方が起点となって1on1をより良いものにするための「1on1トライポット」なる取り組みも生まれました。これは1on1を上司・部下のタテだけで行うのではなく、ヨコ・ナナメなどランダムでも実施してフィードバックをし合うことでさらに1on1の質を高めたり、1on1の意義の理解を深めたり、チームの相互理解を深めようとしていくものです。1on1研修に参加したメンバーが「何のためにやるのか」に対して共感し、今後チームや個人の成長に活かしていきたいと考えるようになってくれたからこそ、こうした取り組みの自然発生に繋がったのだと考えています。
(2)リーダーシップフォワードプログラム
参加者をハンズアップで募り、リーダーシップに関する研修プログラムを実施しました。マネーフォワードグループの次世代を担うリーダーの成長を支援するためのプログラムですが、副次的な狙いとして「リーダーを目指したい・あの研修プログラムに参加したい」と周囲からも思ってもらえるようなものにしたいという想いもありました。大事にしたのは、「Let’s make it!」というスタンス。研修受講メンバーに「この研修をより良い場にするために、一緒につくっていきましょう」という想いを発信し、そのスタンスで研修運営を行いました。
結果的に、受講メンバーは一緒に研修をつくるスタンスで行動してくれましたし、研修での学びをnoteで発信する方、チームに持ち帰ってシェアするメンバーまで現れました。「次は参加したい」と言ってくれる方も増え、運営メンバーとして嬉しく思います。
カルチャーを浸透させるために必要なこと
──お話を伺う中で、マネーフォワードはカルチャーが強い組織だと感じました。竹内さんから見て、その要因はどんなところにあると感じていますか?
「地道な取り組みをこれまで続けてきたから」だと思います。経営陣が毎週行われる朝会でカルチャーになぞらえたエピソードを話すこともその1つ。他にも先ほどチラッと紹介した「Culture Hero」という取り組みで、カルチャーを体現した人を表彰してその取り組みや経緯を語ってもらう場もある。こうした全社的な取り組みとは別にカルチャーに関するワークショップを自部署で行っている組織もあります。このような取り組みを何年も継続してきたからこそ、カルチャーが全社に根づいているのだと思います。今では、例えば半期に1回行なっているサーベイなどでも「カルチャーを体現しているメンバーが多い」という声が多く寄せられます。「今の行動はとても”Respect”を感じるね」といった当社のカルチャーに準えた会話が社内で自然とされるなど、着実に浸透しているのを感じますね。
結局、カルチャーは社員1人ひとりの価値観・行動から生まれるものだと思います。長年みんなで紡いでいった結果が共通認識・共通言語になっていると感じます。
──カルチャー浸透に課題を持つ会社にアドバイスするとしたら、竹内さんなら何をお伝えしますか?
自分たちが策定したカルチャーに込めた想いやその言葉を策定した背景を言語化して伝えていくことが大事かなと思います。また、言葉だけが飾られている状態にならないように、行動を一致させていくことが何より大事だと思っていまして、カルチャーを体現する行動を表彰したり、そのエピソードを繰り返し発信したりすることも大事だと考えています。そのエピソードやストーリーにメンバーが共感して行動することでカルチャーは浸透していくのではないでしょうか。
私は、人事こそカルチャーを体現しているべきと感じています。カルチャーを体現するのは「人」であるからこそ、働くメンバーや組織の成長に向き合う仕事をしている人事がカルチャーを体現して行動すると共に、施策に反映することが大事だと思っています。
「人事」のあるべき姿・役割
──改めて、竹内さんが考える人事の役割とは何でしょうか。
「事業と人の成長を両立させ、ミッション・ビジョンの実現に貢献すること」でしょうか。
そうあるためには、事業を理解すると共に、人や組織の状態を知り、人事としての意思を持って動くこと。例えば経営メンバーの顔色を伺って指示されたことだけをそのままするというのも人事としてありがちな行動かもしれませんが、事業・組織・メンバーの状態をより深く知ることで、「このビジネスを進める上でこういった打ち手を今やることが良いのではないか」といった人事としての提案に繋がってくるのではないかと思います。自分自身、理想の状態までまだまだ道なかばではありますが、事業と人の成長に貢献してビジョンの成長に寄与できる人事パーソンとして日々学び成長していきたいですね。
編集後記
「人事こそカルチャーを体現するべき」という言葉には、いろんな気づきが含まれているように感じました。「人事の成長が企業の成長に直結する時代」とも言われ、多くの企業でCHROポジションが生まれているように、人事が経営と密接に関わって組織をリードしていくことが今より求められています。会社や組織、人のことを深く理解し、良くしていこうという気持ちと意思こそが、人事としての“次の手”を考える契機になるのだと竹内さんのインタビューを通じて学びました。