メンバーの8割がパラレルワーカー。急激な事業成長を支えた「外部人材主体の組織運営」とは?
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パラレルワーカーを活用して高い成果を残した企業にインタビューをする対談インタビュー企画。
今回は、2021年11月に総額約8.1億円の資金調達を実施し注目を集める株式会社カウシェさんにご登場いただきます。
シェア買いアプリ「カウシェ」は、ローンチからわずか1年あまりで累計アプリダウンロード数が30万を突破。この急激な成長を支えた背景にはパラレルワーカーの力が欠かせなかったと聞きます。どのような考え方や体制でこれだけの成長を実現したのかについて、代表取締役CEO門奈 剣平さん、パラレルワーカー 福井 諒さんにお話を伺いました。
■この事例のポイント
・経営陣以外はほぼパラレルワーカーという体制でサービスローンチへ。現在も8割がパラレルワーカーの組織体制でサービスが急成長
・パラレルワーカー自身も、「サブ」ではなく本業・副業どちらの事業成長にも本気で取り組むことで、双方への相乗効果を実現
<プロフィール>
■門奈 剣平(もんな けんぺい)/株式会社カウシェ 代表取締役CEO
1991年生まれ。日中ハーフ、2007年まで上海で生まれ育つ。2015年慶應義塾大学環境情報学部卒。2012年よりLoco Partners2人目のメンバーとして入社、2人から200人、シード前からM&A後のPMIまで経験。Reluxの海外事業立ち上げから責任者を務め、年間取扱高50億円の大幅な事業グロースに貢献、海外担当執行役員&中国支社長兼任。2020年4月よりカウシェを起業。同年9月にサービスローンチ。
■福井 諒(ふくい りょう)/パラレルワーカー
大学卒業後、大手清涼飲料メーカーの営業職として、400人の新入社員の中から新人賞に選ばれる。その後、経営人材の人材紹介を行う企業に転職し、中小企業の事業承継者不足の課題に取り組む。現在は株式会社リクルートにて、新規事業開発室にて企業のM&Aコンサルタントとして活躍しながら、経営と現場の接続ができるCHROを志してパラレルワーカーとしても活躍中。
目次
驚異的な事業成長スピードの立役者は「パラレルワーカー」
──2020年4月に創業、9月にはアプリ公開、ピッチコンテスト優勝、資金調達、約1年で30万ダウンロード突破とまさに破竹の勢いのカウシェ。これだけのスピード感を実現できた背景には、創業から一貫する「パラレルワーカーと共創する組織体制」にあるそうですね。
門奈さん:はい。創業から1年半ほどの短期間で「カウシェ」がマーケットフィットしつつあるところまで急成長できたのは、パラレルワーカーの方と一緒にやってこれたからです。今もフルタイムが10名、インターンが数名、パラレルワーカーが約50名の組織構成で、この形で成長してこれたのは会社最大の成功体験と言っても過言ではないほどです。
元々この体制をイメージしていたわけではありませんでしたが、私がカウシェを創業した2020年4月は、新型コロナウィルスによる1回目の緊急事態宣言が出されたタイミングで。そんな環境下でもできるだけ早くサービスを世に出したいと思い、知人にとにかく声を掛けるところからスタートしたのがきっかけでした。
みんなそれぞれの領域のプロですから、フルタイムでジョインしてもらうことは簡単ではありません。そこで少しだけなら力を貸してもらえるんじゃないかと考えて相談したところ、その狙いが的中しました。リファラル採用で18名ほどジョインしてもらい、経営陣以外はほぼパラレルワーカーという体制でわずか2カ月間でアプリ公開に漕ぎ着けました。
──事業成長のためにやれる方法を考え抜いた結果、自然とパラレルワーカーと共創する組織体制に行き着いたと。
門奈さん:そうですね。改めてこの組織体制を考えると、これは「三方よし」だと思っています。
まずは会社視点。もし正社員で採用しようとしていたら、募集から入社まで6カ月は掛かっていたはずです。そもそも採用できない可能性もありますし、そうこうしてるうちに世の中が大きく変わってチャンスを逃しかねません。でも、パラレルワーカーの方ならすぐに業務をスタートすることも可能。しかも転職市場に出てこない優秀な人材と一緒に働くことができて、経営スピードを格段に上げてくれます。その後、お互いに納得すればフルタイムに移行することもできますから、正社員として入社する場合のミスマッチも格段に減らせます。
次にパラレルワーカー視点。これまでは転職などの大きなリスクを取らなければ経験できなかったことが、パラレルワークにより可能になります。別の会社でも通用するか腕試ししたい、0→1だけでなく1→10もやってみたい、採用以外の人事業務も経験したいなど、そうした希望を本業と並行して実現することができるのです。これはその方の今後のスキル・キャリア・会社選びを考える上でも、とても有効なことです。
最後は、日本社会の視点。パラレルワークという働き方や受入れが増えることで、転職のミスマッチが減り、ノウハウの流動性が上がります。さらには、中小企業であっても優秀な人材の活用機会がぐっと増えることで、日本全体の生産性を高めることにもつながります。
──福井さんがカウシェにジョインしたのも、こういったメリットを感じたからでしょうか?
福井さん:私は、「CHRO(最高人事責任者)になる」というキャリアビジョンを固め、必要だと思うスキルを求めてリクルートの新規事業開発室へ転職しました。そこで上司と1on1を繰り返す中で「実務としても人事に関わりたい」という思いが強くなり、その上司の応援もあってカウシェに飛び込んだ形です。
創業期のベンチャーならいろんな経験ができるだろうと思っての選択でしたが、まさにその期待通りの環境でした。「こんな仕事も任せてくれるんですか」と驚くシーンが多々あるんです。まだスタートしてから3カ月ではありますが、私のビジネス人生の中でも一番濃い時間になっています。
でも、カウシェに入りたいと思った最大の理由は別にあって。それは門奈さんの「本気」に触れたことです。いちパラレルワーカーとの面談で、なんと4回も場をセッティングしてくれて、本気で向き合ってもらっているんだなと感じました。
ジョインしたのちにその理由がよくわかったのですが、門奈さんにとって契約形態とか、入社前か後か、などは関係ないんですよね。カウシェのメンバーが皆モチベーションも視座も高い状態で働いていられるのは、そんな門奈さんの本気で全メンバーに向き合う姿勢から生まれているんじゃないかなと思います。
きっと私以外のパラレルワーカーの人も、「社員じゃないのにここまでしてくれるの?」と感じているはずです。一般的にパラレルワーカーは即戦力として求められるものなので、「あとは頼んだよ」となるケースが多いものですが、カウシェでは「研修やカスタマージャーニーマップ、マネジメント業務なんかも一緒にやってみませんか?」と学びの機会まで用意してくれるので、より成果でお返ししないといけないなと日々感じています。
──「社員もパラレルワーカーも関係なく向き合う」というのは、門奈さんは意識的にされてるのでしょうか?
門奈さん:意識的にというよりも、自然にそうなっているかもしれません。働く量やフェーズ、会社と心中する覚悟があるかないかなどで人を見分けるのではなく、その方がどんな状態や目的があって今ここにいるのかを軸にして、みなさんとコミュニケーションしています。でも奉仕をしているつもりは全くないし、単純に一緒に働く仲間としてお互いの摩擦係数を減らそうとしているだけで、そこに契約形態は関係ないですね。
その想いは制度としてもアウトプットしていて、副業メンバーにも適用される人事制度「KAUCHE de WORK」がまさにそれに当たります。パラレルワーカーの方も半年に1度査定を実施して評価次第では昇給、また未経験な分野へのジョブローテーションも可能、という制度を彼らと一緒に作りました。一般的な副業はどうしてもスキルの切り売りになりがちですが、そうなって欲しくはないなと。パラレルワーカーのみんなはカウシェにとってなくてはならない存在。そんな彼らのキャリアがより充実するような働き方を提供することで、一緒に成長していきたいと考えています。
応募数は約5倍に。事業成長に欠かせない「採用」のミッションへの取り組み方
──現在福井さんが取り組んでいるミッションやプロジェクトは、具体的にどういった内容でしょうか?
福井さん:今私が担当させてもらっているのは、OKRの最上位にも位置する「採用ミッション」です。
具体的には、私が2021年8月にジョインした当初は、CxOレイヤーやエグゼクティブレイヤーのポジションを採用していくことがミッションでした。そこに対してエージェントや媒体を1つずつ整備して、応募者を集める方法を作っていきました。それらがある程度落ち着いたタイミングで、中堅・メンバークラスの採用にフェーズを移しました。
カウシェは今、想像以上の急激なスピードで成長していて、サービスもマーケットフィットしつつあります。でもネクストフェーズに入っていく中で、やりたいと思っていることの1/10もできていないのが現状で、採用ペースが追いつかなければ事業の勢いを止めてしまいます。
会社としても外せない採用目標を、門奈さんともう1人の採用メンバーと一緒にヒリヒリしながら取り組んでいます。この3カ月間で一定の採用土台を作り上げることができたので、今後はその上に成果を積み上げていくフェーズと考えています。
──高い目標を一緒に追いかけるために、日々の業務などはどのような進め方をしていますか?
門奈さん:ファーストミッションのすり合わせは特に丁寧にやりました。「どれだけの期間で、何がどうなっていると成功なのか」を明確に定義することで、お互いにゴールにどう向かえばいいかをイメージしやすくなります。
より具体的に紹介すると、マンスリー単位で置いた定量のゴールに対して、できる限りやり方はお任せする形をとりつつ、ウィークリーでコミュニケーションをして何か障壁があれば取り除いてあげる。ゴールに向かう上で困りごとがない状態になるようにサポートをしています。
福井さん:ゴールが明確なので、逆算すればやるべきことは見えてきます。どれから手をつけるかなどの優先順位は門奈さんとコミュニケーションしながら進められるので、迷うことは少ないです。
最近は強化期間として門奈さんとの1on1を毎朝20分程度行っています。採用が会社としても外せない目標になっているので、デイリーで進行させてスピード感を落とさないことが狙いです。毎日といっても短い時間なのでそこまで負荷にならないし、むしろ朝に頭の体操ができていいリズムが生まれています。
門奈さん:元々は私だけで採用活動を行っていたところから、福井さんともう1名の方にジョインしてもらうことで応募数は約5倍に伸びています。この3カ月だけでもこの成果なので、今後はさらに目に見える成果が生まれてくるんじゃないかなと思います。
現在60名ほどの組織ですが、1年後には200名規模の組織にするつもりです。もちろん、最低でも半数以上がパラレルワーカーの方であるという体制は変えません。このやり方でカウシェのさらなる急成長を実現し、この道のリーダーシップカンパニーになりたいというのが今の想いです。
パラレルワーカー活用が、マネジメントの進化を生む
──カウシェのようなパラレルワーカー活用の体制を構築する上でのポイントはなんですか?
門奈さん:パラレルワーカーの方を受け入れる上で「マネジメント陣の進化」は欠かせません。
「パラレルワーカーの方との業務連携やコミュニケーションがうまくいかず、ワークしてもらいづらい」と言う悩みをたまに聞くことがありますが、それは相手がパラレルワーカーだからではなく、そもそも社内でもマネジメントがちゃんと機能していなかった可能性が高いです。
毎日顔を合わせてコミュニケーションしている正社員メンバーが相手であれば、「何となくこんな感じで」といった曖昧な依頼でもなんとかやってこれたかもしれません。でも、パラレルワーカーの方とはそうはいきません。パラレルワーカーの方と一緒に働くことで「こんなハイコンテキストな経営・マネジメントをしていたのか」と気づくことが、マネジメント陣が進化する1つのきっかけになるはずです。
福井さん:パラレルワーカー側のポイントを私からお伝えすると、「ゴールは日々変化するものだ」と双方が認識を揃えておいた方が良いという点でしょうか。
例えばベンチャー企業では、採用要件1つとっても日々大きく変わります。それは時の流れに沿ってゴールが変化することはもちろん、応募者との対話がヒントとなって「やっぱりこんな人も必要なのかも」と採用ターゲットに対する解像度が上がることもあるからです。一度こうだと進め方を決めた後でも、柔軟にやり方を変えていきましょうと目線を合わせておくと、互いにやりやすくなると思います。
私自身もその前提に立ち、門奈さんと進め方を随時相談しています。今は「全力で部門にひっついて、課題や採用ニーズをキャッチアップしていこう」ということだけ明確に決めていて、あとはできるだけ柔軟にアクションを変更しています。
──最後に、あらためてパラレルワーカー活用の意義について教えてください。
門奈さん:4回面談したことを未だに覚えてもらっていたり、「社員じゃないのにここまでしてくれるのか」と感じてもらっていたりしたのは、私としても大きな気づきでした。それらの源泉にあったのは、会社としての「本気度」です。できるだけ早くプロダクトを世に出したい。よりみんなに買い物を楽しんでもらえる機会を提供したい。そこに本気になって取り組んだ結果が、この組織体制であり、パラレルワーカー活用です。カウシェがこの組織構成でここまでの急成長を実現したという事実を、ぜひもっと多くの方に知ってほしいです。
またパラレルワーカー活用は、働き方の自由化・多様性に対する「新たな解放」だとも感じます。1人が1社で働き続けることが当たり前だった世の中から、コロナをきっかけにオフライン・オンラインのハイブリッドで自由化された働き方に大きくシフトしました。誰もが複数の会社で“本気で”働くことができる土壌が整いつつあるこの先は、とても素敵な世界が広がっていると確信しています。その世界に行くために必要なのは、先ほど述べた「本気度」だけ。ファーストペンギンになるのは怖いという気持ちはよくわかりますが、そこはその本気度で乗り越えてほしいと強く思います。
福井さん:「CHROになる」という個人的なキャリア目標について、カウシェの成長がまさに自分のキャリア実現につながっている実感をすごく持てています。もちろん時にはパンクしそうになるし、「今リクルートとカウシェ、どっちの仕事をやってるんだっけ?」と思う時もあるほど忙しいのは事実です。でもどちらも妥協することなく本気で取り組むことで思考力や実行力が大きく向上し、本業のモチベーションもこれまでになく高まっています。
こうした働き方は私個人だけでなく、私が所属するリクルート・カウシェの双方にとってもメリットが大きいものだとも感じています。例えば、リクルートで学んだ新規事業に対する考え方やノウハウをカウシェ側で発信したり、反対にカウシェで学んだ採用実務と事業成長の連動性などはリクルート側にも還元したり。当然機密情報の扱いには注意が必要ですが、双方にメリットがある形でノウハウ等を橋渡しできるようにしています。パラレルワーカーがもっといろんなところで活躍するようになれば、企業同士の交流も増え、より日本企業の生産性が高まるのではないでしょうか。
「僕たちはあくまでサブだ」という姿勢では、こういった成果は生まれません。私自身、カウシェもリクルートもどちらも本気で向き合っていますし、どちらでも絶対的な成果を出して事業成長につなげることしか意識していません。その視点を持ち続けてさえいれば、自分自身はもちろん、関わる企業すべてに良い影響を及ぼせる──それだけの可能性がパラレルワークにはあるのだと、今回の経験を通じて感じています。
編集後記
「契約形態は関係ない」「私たちはサブではない」自分たちをそう定義することで、契約形態を超えた関係性を築いているカウシェと福井さん。そこにはお互いの“本気”が重なり合い、共に同じ方向を目指す仲間としての関係性が強く感じられたインタビューでした。
パラレルワーカー活用にもさまざまなTipsはありますが、そうした細かい手段だけに囚われるのではなく、まずはお互いに本気で向き合うこと。そのスタンスから得られる発見や成果は、想像以上に大きなものになるかもしれません。