「勤務間インターバル制度」努力義務化の概要および導入・運用方法とは

勤務終了後~翌日の出社までの間に、一定以上の休息時間(インターバル)を確保することを定めた「勤務間インターバル制度」。働き方改革の一種として、健康やワークライフバランス向上のために導入する企業も多くあります。
今回は、実際に勤務間インターバル制度の導入経験をお持ちである人事パラレルワーカー 高田 優一さんに、「勤務間インターバル制度」の定義や努力義務化の流れ、導入により見込める効果〜運用方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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高田 優一(たかだ ゆういち)/会社員(企業人事) 兼 人事パラレルワーカー、社会保険労務士資格保持者
企業で制度企画や労務、給与計算等を中心に約10年、出向先にて人事部立上げ及び人事部長として約5年、人事経験15年以上。直近は越境学習、キャリア自律やEX向上に関する取組みに関心あり、他社留学や社外メンターを実践。第2種衛生管理者、社会保険労務士、CDA(キャリアディベロップメントアドバイザー)等、人事関連資格を保有。
目次
努力義務化された「勤務間インターバル制度」とは
──「勤務間インターバル制度」の概要について教えてください。
「勤務間インターバル制度」とは、労働者の生活・睡眠時間を確保することを目的として退勤~翌日出社までの間に一定以上の間隔(インターバル)を設ける制度のことです。2019年4月1日に施行された働き方改革関連法(※1)に基づき労働時間等設定改善法(※2)も改正となり努力義務化されました。
※1:働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)とは、計8本の労働法に関する法律改正を目的に2018年6月に国会で成立した法律のこと。
※2:労働時間等設定改善法とは、労働者の健康で充実した生活の実現と経済の発展を目的に、企業に労働時間等の設定の改善を求める法律のこと。1992年に期間限定で制定された「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」(通称:時短促進法)が前身。

具体的なインターバルとしては9時間~11時間の設定が推奨されており、休息時間が翌日の勤務時間と重なってしまう場合は『始業時間を繰り下げる』『重複する時間を働いたものとみなす』などの対応を求めています。2021年9月に過労死認定基準が約20年ぶりに見直され、労働時間以外の過労死要因に『勤務間インターバルがおおむね11時間未満』等が追加されたことも、「勤務間インターバル制度」を後押しする形になっています。
なお、日本ではまだ努力義務であるため罰則は特にありません。しかし、厚生労働省は2025年までに「勤務間インターバル制度」の導入企業割合を15%以上(2021年調査では4.6%)にする目標を掲げ、助成金制度なども設けながら導入の後押しを行っています。ちなみに、EUでは1993年に『EU労働時間指令』を制定して最低11時間の休息を確保することがすでに義務付けられています。
厚生労働省が定義する「勤務間インターバル」の内容
──「勤務間インターバル制度」は、どのように定義されているのでしょうか。実際に企業が導入を考える際に気を付けるべき条件などと合わせてお教えください。
定義としては、『当日の出勤は、前日(暦日)の退社時刻から10時間あけると就業規則の中で規定すること』としています。
しかしながら、前述の通り現状はまだ努力義務です。それを踏まえ、いきなり規定化を行うのではなく、まずはトライアル的な位置づけで始めるのが良いと思います。人事部からの文書発信のみのスモールスタートくらいでもちょうど良いかもしれません。その中で社内周知や運用上の課題抽出を進めていく形です。
そもそも「勤務間インターバル制度」は働き方改革の一環に過ぎず、それ単独でワークライフバランスやウェルビーイングを実現できるものではありません。その他施策や取り組みと複合的に実施していくものであり、その中で社員の理解を促進していくことが重要だと考えています。
また、「勤務間インターバル制度」を守ることはもちろん大切ですが、それにより顧客や緊急時の対応が疎かになってしまっては事業への悪影響も増えてしまいます。そうならないよう、やむを得ない場合は認める、認めるケースの代表例を事前に各部署長とすり合わせておくなど、会社の方針やルールを決めておくと良いでしょう。
なお、実際に設定するインターバル時間は“全社でできる水準”を規定する必要があります。よくある失敗例として、特定部門の都合や目線が優先されたインターバル時間が設定されたことにより一部の部門において業務に支障が出てしまった、などのケースがあります。
特にお客様対応やシステムの監視・保守などシフト勤務や夜間作業などが発生する部署がある企業については、それぞれの部門の業務性質や勤務形態を鑑みる必要があるでしょう。いきなり大胆なインターバル時間とするのではなく、段階的に設定していくことも検討しておくと良いかもしれません。

「勤務間インターバル制度」導入により見込める効果
──「勤務間インターバル制度」の導入により、組織にはどのような良い影響があるのでしょうか。
大きく以下3つの効果が期待できます。
(1)残業時間の削減
(2)各部署の生産性向上
(3)採用力の向上
(1) 残業時間の削減
「勤務間インターバル制度」導入が全社的な残業削減意識醸成につながります。私が以前導入に関わった企業では、前期対比での10%超の残業時間削減を達成できました。36協定の締結内容である年間上限(特別条項)の時間短縮や、各部署の残業削減目標の組み入れ等も併せて実現するなど、複合的な施策に繋げられたことも成功の要因だったと考えています。
(2)各部署の生産性向上
制度を導入することで、会議やそこで使用する資料作成時間を減らすためのルール化など、人事以外の取り組みにも波及することができます。「勤務間インターバル制度」導入をきっかけに時間的な制約に対する意識が高まったことで、業務の優先順位付けが自然と行われるようになったり、『もう帰らないと明日午前中の打ち合わせ準備ができなくなるから早めに切り上げよう』などの声掛けのきっかけが生まれたりする効果もあります。
(3)採用力の向上
「勤務間インターバル制度」導入により『働き方改革に能動的な企業である』という認知が広がり、求職者に対しても良い印象を与えることができます。現状、就業規則にまで盛り込んでいる企業はそこまで多くないため、採用競争力を高めやすい環境があります。制度自体の認知度もまだ高くないことから、求職者に対してその説明をする過程で会社自体に興味・関心を持ってもらうきっかけとなることも期待できます。
「勤務間インターバル制度」導入時における課題と対策

──「勤務間インターバル制度」を導入する上で直面しやすい課題にはどんなものがありますか?その対策についても併せて教えてください。
課題としては大きく以下2つが考えられます。それぞれ対策と合わせてご紹介します。
(1)仕組み・システム面
(2)運用・感情面
(1)仕組み・システム面
「勤務間インターバル制度」を導入すると労務管理項目が増えることになるため、結果として関連部門(人事・経理・各部門長など)の業務管理が煩雑になり工数も増加します。特に年度末の計画策定や繁忙期においてその傾向が顕著です。
<対策>
労務管理システムなどの改修により、『勤怠管理システム上で就業・始業登録をする際にアラートが出る』『管理者側もしくは勤務者本人が勤怠登録をする際に必要なインターバル時間が表示される』などの設定・制御を行うことで、スムーズに運用を進められるようになります。システム改修の費用や工数は発生してしまいますが、アナログ運用で乗り切ることは相当難しいため、制度導入と合わせて検討しておく必要があります。
(2)運用・感情面
働き方の変化による社員の行動や感情の変化にも注意が必要です。以下のようなケースが導入企業においては散見されます。
・上司側の理解や意識変革が進まず、結果的に今までと同じ指示がなされることによる部下側の不満発生
(例)翌日午前中納期の仕事を当日夕方に依頼する など
・業務のペースや生産性は個人によっても異なるため、「勤務間インターバル制度」が障害となり仕事が進めにくくなったなどの声が一部社員から出る(フレックスタイムや裁量労働制を望むなど)
・人員余力がない部署から増員要請が強まる
<対策>
トップメッセージや各部署のマネジメント層への注意喚起・理解促進のみではなく、実際に働く社員の声を聞く機会や意見交換の場をつくることが有効です。実際に私が所属する会社では、月1回開催している安全衛生委員会の審議事項の1つとして意見交換の場を設けました。そこではこれまで人事部では気づけなかった各職場の細かいルール(鍵当番、臨時的なお客様対応など)や、業務の進め方に関する課題などが多く共有され、運用改善の大きなヒントとなりました。
また、その意見交換の場に産業医・保健師も参加いただいたため“休息をとることの大事さ”を医学的見地からもアドバイスをもらうことができました。それらを議事録として全社掲示板にアップすることで、委員会内のみならず全社周知にもつなげられたと思います。
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編集後記
現在は努力義務に留まっている「勤務間インターバル制度」。ですが、厚生労働省の力の入れ方や諸外国の動向を見る限りでもいずれ義務化される可能性が高いものだと考えられます。早いうちから制度内容についての理解を進め、試験的にでも社内で進めておけると、よりその効果を享受できるのではないでしょうか。