「短時間正社員制度」による組織影響と導入方法について解説

従来の日本では『正社員=フルタイム勤務』といったイメージが一般的で実際も大多数を占めていましたが、近年では必ずしもそうとは言い切れなくなってきています。「短時間正社員制度」などの多様な働き方を可能にする制度を導入する企業が増えてきているためです。
今回は、萩原 聖矢さんに、「短時間正社員制度」の概要から導入方法に至るまでお話を伺いました。
<プロフィール>
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萩原 聖矢(はぎわら せいや)/法人代表
デジタルマーケティング会社の経営に携わり、その後独立。ベンチャー、スタートアップ企業の顧客を中心にマーケティングの経験も生かした採用コンサルティング事業を幅広く行う。
目次
「短時間正社員制度」とは
──「短時間正社員制度」の概要について、行政の動きやサポートなども含めて教えてください。
「短時間正社員制度」とは、1週間における労働時間が短い正規型の社員のことを指します。フルタイムの正社員とは労働時間が異なりますが、雇用形態は正社員と同じです。また、正規雇用であるため社会保険や福利厚生などの権利を享受できる立場にあります。似た言葉に『時短勤務』がありますが、これは言い方が異なるだけでいずれも労働時間を短く設定した「短時間正社員制度」であることには変わりありません。

なお、「短時間正社員制度」の社会保険の適用対象も段階的に拡大されています。2022年10月からは雇用する被保険者の従業員数が101~500人の事業所で働く短時間労働者が新たに社会保険適用、2024年10月からは51~100人の事業所で働く短時間労働者が社会保険適用へと拡大されています。また、勤務期間に関しては2022年10月から2か月超であれば社会保険の適用対象となります。

ちなみに、行政は働き方改革の一環として「短時間正社員制度」の導入支援を行なっています。
・社会保険適用のサポート(対象の拡大)
・助成金や補助金のサポート(キャリアアップ助成金)
・研修プログラムや相談窓口の提供
「短時間正社員制度」が促進される背景とそのメリット
──「短時間正社員制度」が促進されている背景にはどのような理由があるのでしょうか。企業・従業員双方のメリットなども含めて教えてください。
近年「短時間正社員制度」が促進されている背景には、国を挙げた『働き方改革』の推進があります。リモートワークやフレックスなどを導入する企業が増えたのと同じ文脈です。その中でもライフイベントの変化が激しい女性を対象に「短時間正社員制度」を導入する企業が増えており、出産・育児などに対応する従業員側のニーズに応える形で人材確保・流出防止対策に各社が取り組んでいます。
この「短時間正社員制度」が導入されることによる企業・従業員のメリットはそれぞれ以下です。
企業のメリット
・採用力向上(深刻な労働力不足が課題となる中、優秀な人材の確保につなげられる)
・人材流出防止(ライフイベントに伴う離職防止対策として)
・ダイバーシティ促進(正規雇用が難しいとされていた主婦、シニア層、障がい者などの受け入れ土壌確保)
従業員のメリット
・長期就業が可能になる(ワークライフバランスの実現)
・正規雇用を継続できる(従来だとアルバイトやパートしか選択できなかった状態になっても、正社員として続けられる)

「短時間正社員制度」を導入する上での注意点
──この「短時間正社員制度」を導入する上で、人事はどんな点に注意すると良いでしょうか。
「短時間正社員制度」を導入する上で注意すべき点は、大きく以下の4つがあります。
(1)法令に基づいた適切な措置
労働基準法・雇用保険法・労災保険法など、関連する法令や規制は常にチェックする必要があります。法改正や解釈の変更などが行われる可能性があるためです。
(2)「短時間正社員制度」を利用して働く従業員の不安払拭
「短時間正社員制度」は比較的新しい制度のため、利用する従業員側には不安がつきものです。そのため、将来的なキャリア・条件・待遇などの観点で会社はオープンな情報提供と密なコミュニケーションを行い、「短時間制度」を活用する社員が安心して働ける環境を整える必要があります。
(3)不公平感への考慮
通常の社員と比べて労働時間が短くなるため、関係部署や上長などに業務のしわ寄せが起こり、不公平感が生まれるケースも多々あります。そのため、会社としては属人的な業務をできるだけ効率化したり、関連部署の業務棚卸しをしたりして工数管理を行い、関連部署の納得感を得る必要があります。
(4)残業不可について
法令上は「短時間正社員制度」を利用する従業員の残業が違法となる決まりはありません。ただし、本来は働く時間を短くすることが目的ではあるため、トラブルになる前に対象の従業員と適切なコミュニケーションを取った上で残業について話し合っておくべきです。スタートアップなど状況が変わりやすい環境下にある企業では特に注意が必要です。
「短時間正社員制度」の導入ステップ
──「短時間正社員制度」を導入する際、どのようなステップで導入すると良いでしょうか。
大きく以下3つのステップで導入を進められるとスムーズです。
(1)「短時間正社員制度」の導入目的を明確にする
導入目的によっては、「短時間正社員制度」ではなく『業務委託』などでも対応が可能な場合もあります。なぜ「短時間社員制度」である必要があるのかについて、今後の組織・採用戦略を見据えた上での課題特定・目的設定が肝要です。一般的な課題・目的としては以下のようなものがあります。
・子育て期にある従業員の離職防止
・フルタイムで働けない人材の採用
・アルバイトとして働く従業員のモチベーションアップ
(2)「短時間正社員制度」で働く従業員の役割・労働条件を明確にする
労働時間が短い前提でどの業務を任せるのか、具体的にどれだけ働く時間を設けるのか、などの詳細を決めておきます。将来的にフルタイム勤務への復帰を視野に入れる場合は、これまでとまったく異なる業務にアサインするのではなく、現在の業務を一度棚卸した上で短時間となった場合でも業務全体が回る設計を考えておきましょう。
合わせて、評価制度も見直す必要があります。フルタイム勤務者と比較した際に不公平感が出ないようにするためです。時短を選択すると評価が下がってしまうという形ではなく、フルタイム勤務者と同じ評価基準から短縮した時間内における期待役割や目標設定を行うことが不公平感をなくすベストな方法だと考えています。また、単純に評価基準を当てはめるのではなく、勤務時間に応じた適切な目標を立てられると双方の納得感に繋げられます。
給与や評価は従業員にとってセンシティブな情報であるため、トップダウンで物事を決めてしまうと現場から大きな不満が出たり、離職につながったりしてしまうケースもあります。制度の運用プロセスは慎重に、関係者(該当者・マネジメント層)をなるべく巻き込んで意見を取り入れておくと、未然にトラブルを防ぐことができるはずです。
ちなみに、起きやすいトラブルとしては以下があります。
・評価責任者が制度を理解しないままフルタイムと同じ目標設定をしてしまい、短時間正社員の意欲が下がる
・評価基準に対してフルタイム社員が不公平感を感じ、社内全体の雰囲気に悪影響を及ぼしてしまう
(3)「短時間正社員制度」の社内広報
制度の導入が決まった後は、社内広報の一環としてマニュアルを作成します。その際、制度のメリットだけを伝えるのではなく、デメリットについても必ず言及しておきましょう。また、マニュアル作成時には会社視点だけではなく対象者・他社員・管理職などあらゆる視点で制度の導入目的・及ぼす影響について共通認識を持つ必要があります。
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編集後記
近年リモートワークやフレックスなど働き方の多様化が急速に進みました。「短時間正社員制度」もその1つ。これが当たり前に選べる時代もそう遠くないはずです。それに乗り遅れることのないよう、本記事を参考に自社のメニューとして導入を進めてみてはいかがでしょうか。