コンディション変化を察知!「パルスサーベイ」を形骸化させず、エンゲージメント向上につなげる方法

昨今、従業員エンゲージメントの向上に取り組む企業が増え、それに伴い各種サーベイが導入されるようになりました。しかし、半年や1年単位でのサーベイで社員のコンディション変化を把握できるでしょうか?
今回ご紹介する「パルスサーベイ」は、週次や月次などの短期サイクルで組織や個人のコンディションを調査するもので、そのスピード感からも導入企業が増え続けています。
パルスサーベイは導入後の運用が肝で、形骸化せずに継続することが重要です。そこで今回は、500名規模の事業部付けHRBPとして管理職育成・エンゲージメント向上・人事制度整備などの経験を豊富に持つ北野高英さんに、パルスサーベイの効果的な運用方法についてお話をお聞きしました。
<プロフィール>
北野 高英(きたの たかひで)
総合人材サービス業である現職にて、法人営業および個人へのキャリアアドバイザーを経験後、人事部に異動。人事企画や組織開発・人材開発領域を幅広く担当。現在は、500名規模の事業部付けHRBPとして管理職育成やエンゲージメント向上、人事制度整備などの非定型プロジェクトを推進している。▶このパラレルワーカーへのご相談はこちら
目次
パルスサーベイとは
──パルスサーベイとは何でしょうか?一般的なサーベイとの違いも含めて教えてください。
パルスサーベイは「社員のコンディション変化を把握するためのアンケート調査」です。組織全体ではなく社員個人に焦点を当て、匿名ではなく回答者がわかるようにアンケートを取るのが特徴です。
社員の状況変化をすばやく察知するため、頻度は月次で実施するのが一般的です。回答自体が社員の負荷とならないよう、アンケートの質問数は少なめに抑えられています。
<パルスサーベイ> | <組織診断サーベイ> | |
対象 | 社員個人 | 組織全体 |
頻度 | 毎月1回 | 半年〜1年に1回 |
設問数 | 少ない | 多い |
匿名性 | 回答者は特定 | 匿名でも問題ない |
パルスサーベイに似た性質を持つアンケートには「組織診断サーベイ」というものもあります。従業員満足度調査とも呼ばれ、パルスサーベイが社員個人に焦点を当てるのに対し、組織診断サーベイは組織全体の状態を把握するために行います。1年もしくは半年に1回実施され、組織に関するさまざまな質問を行います。
パルスサーベイの導入目的・効果と注意点
──パルスサーベイの導入目的や効果にはどのようなものがありますか?また実際に導入する際に注意が必要な点があれば合わせて教えてください。
コロナ禍以降、リモート環境で働く人が急速に増えました。これまでは毎日オフィスで顔を合わせていたのが、今ではお互いの顔を1週間見ない──なんてことも珍しくありません。悩みを抱えていたり仕事でつらい思いをしていたりする人がいても、周囲がなかなか気づいてあげられなくなっています。
このような問題への解決策として、社員のコンディション変化をすばやく把握できるパルスサーベイは今とても注目されています。コンディションが悪化している社員の声をすぐに拾い、改善策を講じることができるためです。こうして個々の不満を一つひとつ解消することは、会社全体の社員満足度を向上させることにも繋がります。
一方で、パルスサーベイを導入すればすべて問題が解決されるわけではありません。導入する際にはいくつか注意すべき点があります。
① サーベイ回答に対応できる体制を準備する
パルスサーベイは、回答が集まり次第タイムリーに対応しなければ意味がありません。コンディションが悪化している社員にはすぐ連絡を取り、詳細な状況を確認する必要があります。特にパルスサーベイ配信直後の数日間は回答が殺到するため、迅速に対応できるような体制にしておきましょう。
② サーベイ回答を見るのは誰なのかを明示する
パルスサーベイが本来の目的を果たすためには、ネガティブな内容をいかに本音で書いてもらえるかが大切です。部下の回答が上司に筒抜けになってしまうようであれば、上司への不満を書いてもらうことはできないでしょう。回答内容を見るのは誰なのかを明示し、社員に安心してもらう必要があります。
③ 他のサーベイとの整合性をとる
すでに組織診断サーベイや従業員満足度調査がある場合には、頻度や時期、設問内容を調整します。社員からすると、似たようなアンケートが何度も送られてくるのは億劫に感じるもの。重複している質問はないか、配信時期は離れているか、などを確認しましょう。
パルスサーベイ質問項目の作り方

──パルスサーベイの質問項目は、具体的にどのような内容にすると良いでしょうか。
社員個人のコンディション把握のみを目的とするのか、それとも組織コンディションにまで言及するのか。パルスサーベイの導入目的によって質問は変わります。
すでに組織診断サーベイを導入しているのであれば、パルスサーベイは個人のコンディション把握に特化させたほうが整合性が取りやすく社員の納得度も高まります。他のサーベイがないのであれば、個人・組織のどちらにも言及する形でも問題ありません。
<テーマ> | <質問例> |
仕事 | ・やりがいを感じるか ・業務量は適切か ・働き方に満足しているか |
人間関係 | ・上司との関係は良いか ・同僚との関係は良いか ・自組織の雰囲気は良いか |
体調 | ・体調は良いか ・夜は眠れているか ・食欲はあるか |
質問のテーマは「仕事」「人間関係」「体調」大きく3つです。この3つを細分化させて質問項目を作っていきます。
・「仕事」:やりがい、業務量、ストレス、働き方、残業時間、就業環境、報酬など
・「人間関係」:上司、同僚、自組織の雰囲気など
・「体調」:体調そのもの、夜は眠れているか、食欲はあるか、強い不安・心配はないかなど
質問数は多くても10問程度にするのが好ましいです。たった3問だけのパルスサーベイもあります。自社の問題意識と照らしあわせながら、必要最低限の質問数にしてください。
パルスサーベイは毎月くり返し回答していくものなので、できるだけ社員の負担にならないように工夫することが大切です。サーベイの質問だけで個人の詳細を知ろうとせず、アラートが察知できれば良しとしましょう。
パルスサーベイ導入時の具体的な手順
──初めてパルスサーベイを導入する際、どのような手順で進めると良いでしょうか。また継続的に運用して効果を出すために重要なポイントなども合わせて教えてください。
まず大事なのは「現場の管理職に対して導入目的をきちんと説明し理解を促す」ことです。
管理職にとってパルスサーベイは「部下から後ろ指を指される」かもしれない取り組みでもあります。よって部下から不満の声が上がりそうな管理職ほど、サーベイを嫌がる傾向があります。
中には「パルスサーベイに本音を書いたら評価を下げる」といった圧力を部下にかける管理職も現れます。そのような管理職を生まないよう、導入前にきちんと説明し不満・不安を解消しておきましょう。
パルスサーベイ導入後は「回答結果を放置せずしっかりと反応していく」ことも大切です。
経営陣や人事から反応を示さないと、社員はサーベイを回答する意味を感じなくなってしまいます。フリーコメントに気になる声があった人、回答結果が悪い人にはすぐにメールで連絡し、内容によっては直接話を聞きに行くことも必要です。
社員から話を聞くときは、不満や要望の背景にしっかり耳を傾けます。経営陣や人事が解決できない相談の場合は、聞いた内容を現場の上長に開示をして良いかを必ず確認します。これをしないと「話した内容が上長に筒抜けになった」となり、かえって強い不信感を生んでしまうからです。
また、パルスサーベイで挙がった声は匿名性を担保した上で全体に共有します。要望や不満の中には、会社としてすぐに改善できないものもたくさんあるでしょう。それらに蓋をせず「要望や不満はしっかり経営に届いています」と伝えると、それだけでも社員はパルスサーベイを前向きに回答してくれるようになります。
社員への伝え方としては、例えば以下のような方法があります。
・社内のコミュニケーションツールを通して社長から回答する
・毎月の定例報告の場で検討状況を共有する
・社長と社員との定期的な座談会を設け、その際に話題として触れる
これを怠ると「会社に都合の悪い要望は取り合ってもらえない」と思われてしまい、次第に当たり障りのない回答だけになったり、回答自体が集まらなかったりという状況に陥ってしまいます。これがパルスサーベイを形骸化させてしまう大きな要因の1つです。

在宅勤務で効果を発揮したパルスサーベイ導入事例
──北野さんがこれまで実践されたパルスサーベイの事例について、その導入目的や効果も含めて具体的に教えてください。
現在私が所属している企業では「社員の就業満足度」を高めるために導入しました。
以前より「社員意識調査」は行っていましたが、年に1度しか行っておらず、かつ匿名だったため、社員1人ひとりの状況を察知するのには不向きだったのです。そこでパルスサーベイを導入し、社員個人の声を即座に拾い上げられるようにしたいと考えました。
実際に導入したパルスサーベイは、「3つの質問」と「フリーコメント欄」だけのシンプルな内容です。すでに組織診断サーベイを別で実施していましたので、新しく導入するパルスサーベイは個人にフォーカスし極力シンプルにしました。
パルスサーベイ導入後に感じた効果は、大きく以下3つです。
① 組織で起こっている事象や課題がタイムリーに分かる
② 不安を抱えている社員がバイネームですぐに分かる
③ 状況を把握するまでのスピード感が画期的に速くなった
これらの効果を顕著に感じたのが、2020年4月の緊急事態宣言時です。当時、当社でも多くの社員が在宅勤務への移行を余儀なくされました。しかも、コロナの感染拡大によって経済動向の見通しも不透明。社員が不安を感じていることは容易に想像できましたが、在宅勤務で個々人の状況まで細かくは把握できません。
そこで活躍したのがこのパルスサーベイです。この緊急事態宣言直後のパルスサーベイで挙がってきたフリーコメントを一部抜粋してご紹介します。
「家の通信環境が悪く、業務に支障が出ています」
「何気ない雑談がなくなってさみしいです」
「リモートでも想像以上にスムーズに仕事ができています」
「お客様に直接会えないので、営業活動が難しくなりました」
「このような大変な状況だからこそ、できることを見つけて前向きに仕事をしたい」
「ずっと椅子に座り続けているので腰が痛い」
「リモートワークがとても快適です。コロナが収まっても続けてほしい」
「保育園休園に伴い、自宅で子どもを見ています。とても仕事になりません」
「このままいくと賞与がカットされそうで心配」
「チーム内でお互いが今どんな仕事をしているのか、まったくわからない」
どれもリアルに挙がってきた声ばかり。パルスサーベイを導入していなければ、ここまで細かい情報をタイムリーに集めることはできなかったはずです。
社員個々の状況をタイムリーに把握できること。これがパルスサーベイ導入の1番大きなメリットだと感じます。
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編集後記
「組織や個人のコンディションが今どうなっているか」という現状は、人事としてさまざまな取り組みをする上で土台となる重要な情報です。それらをいかに正確かつタイムリーに把握しておけるかが、その他施策の効果を左右するといっても過言ではありません。
またパルスサーベイでは高い頻度で調査を行うため、データがどんどん蓄積されていきます。パルスサーベイを現状把握だけに留めず、そのデータを活用して新しい価値へと繋げていくことができれば、より大きな効果を実感できるのではないでしょうか。