社外へ貢献することで、企業のファンを増やし続ける「コンカーアカデミー」の取り組みとは
複業・兼業の促進、プロボノ活動の増加、外部人材活用など、社内と社外の境目が溶け始める現在において、これまでの内向きな会社のあり方を見直したいという経営者・人事も多いのではないでしょうか。
このテーマにおいて、独自の取り組みで注目を集める企業があります。「働きがいのある会社」ランキングで4年連続1位を獲得している、出張・経費管理クラウドシステム日本トップシェア企業「株式会社コンカー」です。
同社は「日本企業の競争力強化」というミッションを実現するために社外への貢献を重視しており、その中心的な取り組みである「コンカーアカデミー」では、自社のノウハウを無償で提供しています。
口コミでその良さが伝わり、毎回定員オーバーになる「コンカーアカデミー」とはどんな取り組みなのか。そこにはどんな狙いがあるのか。立ち上げから運用までを担当している山崎 晴夫さんに、その目的・運用内容・今後の展望などを聞きました。
<プロフィール>
山崎 晴夫 / 株式会社コンカー HRスペシャリスト
新卒でパーソルプロセス&テクノロジーに入社。エンジニアとして働く中でビジョンと現場のギャップに課題を感じ、その解決をするために新卒採用部門へ異動を希望。年間300人規模の新卒採用責任者としてビジョン採用へのシフトを実現し、SaaS事業の中途採用領域に携わる。「働きがいのある会社」ランキング1位の会社がどのような仕掛け・文化を創っているかに惹かれ、2020年5月にコンカーへ転職。採用・研修と「コンカーアカデミー」の企画運営を担当。
目次
コンカーアカデミーとは
──まず、コンカーアカデミーの全体像を教えてください。
コンカーは「経費精算のない世界を創る」というビジョンを掲げ、日本企業に対して「日本企業の競争力強化に貢献する」、社員に対して「はたらきがいと成長にコミットする」ということをミッションにしている企業です。
「コンカーアカデミー」は、そのミッション達成のために2020年6月から始めた取り組みで、社会人や学生を対象に現在は主に以下3つのコンテンツを無料提供しています。
(1)オンライン公開講座
コンカー社内の研修内容やノウハウを社外に提供することで、世の中の生産性を高めることを目的にオンライン公開講座を実施しています。
・プレゼン力向上講座
・コンカー流フィードバック研修
(2)インターンシップ(1Day)
コンカーの文化に触れ、社員・社風を知ってもらえる機会として、現場社員とのワークショップやディスカッション(オンライン)を実施しています。
・インサイドセールス体験ワークショップ(SPIN)
・導入プロジェクト体験ワークショップ
(3)インターンシップ(長期)
実際の業務に携わってもらうことで企業や仕事理解を深めることはもちろん、社外から参加される方の力をお借りすることでコンカー自身の成長にもつなげたいと考えています。そのため報酬もお支払いしていますし、リモート就業も選択できるようにしています。
コンカーアカデミーをはじめた背景
──これらを無料で実施されているのは、どんな理由からでしょうか。
はじまりは2020年5月に代表三村のTwitterに届いた一通のDMからでした。学生インターン募集の投稿に対して、ある社会人の方が「私もインターンしたいです」と声を上げてくれたのです。
それを受けて「何かできないだろうか」というミーティングを、三村と入社したばかりの私で実施し、まずは「社会人インターン」の取り組みとしてスタートさせることにしました。
せっかくやるならちゃんと目的や狙いも決めておきたいよねと、下図のような形で「公開講座」「インターン」「継続インターン」の3つのコンテンツに整理していきました。
当時は緊急事態宣言下でリモートワークが急激に浸透したこともあり、顧客の事業の在り方はもちろん、人々の働き方も大きく変化し、外部人材の活用もこれまで以上に促進されていることを感じていました。社内と社外の境目が溶け始めたこの変化を受け、社会人インターンだけではなく社内の研修やノウハウをオープンにしていく公開講座も追加し、タイトルも「コンカーアカデミー」に変えることにしました。
元々弊社には、「日本企業の競争力強化に貢献する」というミッションがあります。また「職場でも、職場以外でも、貢献の心を育み、カタチにする」というカルチャーが浸透していて、社内外問わずgiveする姿勢がありました。
これらとコンカーアカデミーを組み合わせれば、CSRやブランド認知度アップにつながることはもちろん、結果的に採用にも良い影響を出せるんじゃないか。そう考えたのが、コンカーアカデミー立ち上げの背景です。
──開始してから1年経過しますが、現在の主軸はどこに置かれているのですか?
現在は、「日本の競争力向上」「顧客とのリレーションシップ」に貢献したいという想いが強いですね。
そもそもコンカーはソフトウェアを提供する会社として、「経費精算をなくすこと」を目指しています。では、なくした先にどういうことを目指しているかというと、やっぱり日本の競争力を上げたいんですよね。
ソフトウェアは、中長期的には差別化がなくなってくると思います。機能だけでは戦えない。では、どんなところで価値を発揮するか。「コンカーとつながっていることで学びや気づきがある状態」、そこまでいけば、選ばれ続ける企業になることができるはずです。
単にソフトウェアを提供するのではなく、コンカーのナレッジ・マインド・ソフトスキルも提供する。それによって、コンカーのミッションである日本の競争力・生産性向上に貢献できたら本当にいいなと。
元々私がコンカーに転職した理由も実はそこにありました。「働きがいランキング4年連続1位になった会社が何をやっているのかを学びたい」という思いもありましたが、「社内だけでなく、世の中にも価値や機会を提供したい」というものでした。それがこのコンカーアカデミーで早速実現できているのは、人事としてもとてもありがたいなと思いますね。
参加者がつながり続けるコミュニティ
──コンカーアカデミーでは参加者が継続的にコミュニケーションできる環境があるそうですね。具体的にはどんな取り組みなのでしょうか?
オンライン公開講座後に、参加者の方には弊社で用意したFacebookグループに参加してもらっています。
ソフトスキルは一度学んだだけでは身につきにくいもの。そこで、アカデミーで学んだ内容や実践した感想をグループ内でシェアしたり教えあったりすることで、知識の定着をフォローしています。
私が1人でこのコミュニティマネジメントを行っているのですが、ありがたいことに現時点でかなりの規模になっており、すでに100名近いグループが5つほどある状態です。お恥ずかしいことに手を回しきれていないところもあるのですが、このコミュニティの参加者の成長意欲の高さにとても助けられていまして。自主的に実践後のアウトプットをしてくれたり、オフラインで会う場の企画や開催をしてくれたり。積極的にコミュニティを活用して盛り上げてくれています。
私の方でもグループ内のコミュニケーションがより進むよう、いくつか仕掛けを用意しています。
例えば、オンライン公開講座内で答えきれなかった質問に対し「みなさんならどう考えますか?」と考えてもらう機会を作ったり、みんなが気持ちよく利用できるよう最低限のルール(giveの精神で投稿しよう、営業活動はやめようなど)を設けたりして、投稿しやすい環境整備をしています。
今後はここにコンカー社員も交えて、継続的に社内外がインタラクティブにコミュニケーションを取れる場に進化させたいなと。こうしてコンカーとつながり続ける中で、より興味を持った方はインターンシップも選択できるし、お互いのタイミングがあえば採用して一緒に働くこともできるという形です。
コンカーアカデミーが生んだ変化
──運用開始からまだ1年足らずですが、現時点で感じている変化や成果などはありますか。
「多くの方が参加してくれた」という事実も嬉しいのですが、それ以上にこのアカデミーを通じて「コンカーが実現したい世界観に共感してくれる方が増えた」ことが何より嬉しい変化です。
というのも、オンライン公開講座の実施後に毎回NPS(※)をとっているのですが、ありがたいことにそこでの満足度が非常に高いんですよね。「有料でも参加したい」と言ってくれる方も多く、コンカー関与者のロイヤリティが高まっていることを実感しています。
※NPS(ネットプロモータースコア)とは・・・顧客ロイヤルティを測る指標。今まで計測が難しかった「企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか」を数値化することで、企業の顧客との接点における顧客体験の評価・改善に生かされています。さらに、NPSは事業の成長率との高い相関があることから、欧米の公開企業では3分の1以上が活用しているとも言われており、日本でも顧客満足度に並ぶ新たな指標として注目を浴びています。
「フィードバック研修」参加者の声
講義と演習のバランスが良く、4時間があっという間に過ぎました。特に三村さんの身近な具体例を多用していただけたことで理解がしやすかったと感じます。
上司の改善点を伝える際にどのような点に注意すべきかが、綺麗に言語化されており、効果的にインプットできました。また、演習内容も非常に良く起こりがちなケースが用意されており取り組みやすかったです。このレベルの研修が無料で受講できることが本当に信じられません!ぜひ引き続き貴社の研修に参加させていただきたいです。
三村さんから直接お話を伺えたこと、実践の場があったことで非常に良い時間を過ごせました。プレゼン資料も見るだけで勉強になりました。さらに学生の立場でも参加できたことで、社会人の方々の視座や現場での課題を知ることができたのも非常に貴重な経験でした。
体系的に整理されており非常にわかりやすかったです。今まで実践されてきた内容を踏まえての内容でチーム運営のヒントをいただきました。
自分のチームメンバーのリーダー候補に対して、理想(将来期待する役割)とのギャップフィードバックを強めにしすぎている自分の傾向に気づき、週明けから伝え方の改善をしたいと思います。また、フィードバックのフレーム等を共有し、チーム内にフィードバックし相互に成長する文化の醸成をしていきたいと思っています。
演習を交えながらやるため、とても身についた実感がありました。フィードバックの受け止め方やギャップフィードバックに対する考え方がとても勉強になりました。今後の人間関係を大きく変えていけそうです。
相手の成長を思いフィードバックをする、傾聴の姿勢など、自分がこれまで意識して行動できていなかったお話が聞けて本当に良かったです。改めて自分のこれまでの行動を見直す良い機会になりました。フィードバックの仕方なども実際の例を用いてお話いただけたので、状況をイメージしやすかったのも良かったです。
参加者として、このような実りある研修を多く展開されるコンカー社には毎回感銘を受けます。演習の機会はとてもよかったです、実際に実演しないと、口を慣らさないとフィードバックは本当に難しいと改めて感じました。
フィードバック文化を形成するには「どうフィードバックするか?」もさることながら、「どう受け止めるか?」というコーチャビリティの醸成の方が、数字としても影響が大きいというのは、考え方が180度変わりました。
参加者の満足が口コミを呼び、応募経路にも変化が見られました。これまではTwitter経由からの申し込みが大半でしたが、今では10%近くが「知人紹介」経由に。ゼミの教授に誘われて、会社の人事から案内を受けて──多方面でそういったつながりが増え、まさに理想のサイクルが生まれつつあるなと感じます。
さらには「自組織に転嫁したくて学びに来ました」という方も増え、間接的にコンカーが関与できる方が今後倍々に増えていくことにも期待しています。
──ちなみに採用につながった方もいらっしゃるのですか?
そうですね。実際に「山崎さん、実はコンカー受けたいんですけど」と個別に声をかけてくれる人も増えました。
でも、コンカーからはなるべく声をかけず、あくまで自主性に任せるスタンスを取っています。確かに「採用につながったらいいな」という気持ちはありますが、そこをメインにしてしまうとお互いにフラットな関係性で居づらくなってしまうなと思っていて。
コンカー内にあるノウハウや情報をできるだけオープンにして、それに喜んでくれる人がいたり、考え方や文化に共感してくれる人がいたり。そうしてゆるく長期的につながり続ける中で、お互いが一緒になるべきタイミングが来ればそうするくらいの方が、よりマッチングも高まると思うんですよね。だからこそコンカーアカデミーのWebページは、採用ページとは別で独立させています。
そんな意図もあって、「コンカーアカデミー経由でいつまでに何名採用しよう」みたいな目標やKPIは一切設定していません。結果的に良い方が良いタイミングで入社してくれたらいいな程度に留めています。
また少し違った活用方法としては、現在採用選考中の方にこのアカデミーに参加してもらうことで企業文化などの理解を深めてもらい、入社意欲を高めてもらうといったこともやっています。あくまでコンカーアカデミーは会社のファンになってもらうための取り組みであり、採用目的ではないのです。
──コンカー社員の方も積極的にアカデミーに協力してくれていると聞きました。社内には何か変化はありましたか?
そうですね。現時点で大きく2つの変化があったかなと感じています。
(1)社内の自己理解が進み、自己肯定感が高まった
オンライン公開講座で提供しているコンテンツは、普段社内でやっていることをほぼそのまま出しています。そのままといっても「そこまで作り込まなくてもいいですよ」と言いたくなるくらい参加者の方に伝わりやすいようにみんなカスタマイズしてくれるのですが(笑)。ここは本当に会社のマインドやスタンスが表れているなと感じますね。
それらの社内情報を社外に出すと、「ぼくらの当たり前は一般の当たり前じゃないんだな」ということが結構あって。
例えばコンカーでは、部下から上司にフィードバックするのは当たり前のことです。でも世の中的にはそうじゃない。そうすると「コンカーって結構おもしろいことやっているんだな」ということに改めて気付けて、自分たちをより正しく理解できたり、強みに気づいて自己肯定感が高まったりすることが多々あります。これは社外へ発信してつながりを持たなければわからなかったことでした。
(2)自社にマッチした人材像がブラッシュアップされた
一般的な求人募集だと、比較的似通ったタイプの方とお会いすることが大半です。しかし、コンカーアカデミーだと実施する講座の内容によっても参加者が大きく異なります。そういった方々と現場社員が接点を持つ機会が増えることで、「今まで考えてもなかったけれど、こういうタイプの方もうちの組織にマッチしそうだな」と気づけるのです。
もちろん採用だけでなく、普段接点をとらないようなタイプの方とのコミュニケーションを通じて学べることも多々あります。それをメリットだと感じた社員は、「今回もコンカーアカデミーに参加したい」と声を上げてくれるようになりました。
編集後記
「今後はもっと社内の情報をオープンにしていきたい」「それ以外のコンテンツも拡充しながら、さらに日本の競争力向上に貢献したい」そう話す山崎さんの表情は、とてもイキイキとしていました。
社内外のコミュニケーションをマネジメントし、社外のファンを増やしたり、自社員のロイヤリティを高めること。これら広報的な活動も人事が行っていくことは、これからさらに増えていくでしょう。そんな未来を感じさせてもらえたインタビューでした。