「リフレーミング」活用で目指す、社員の多様性を認める組織づくり

物事の視点や解釈を変え、ポジティブな方向に導く「リフレーミング」。昨今の激しい環境変化に影響されがちなメンタルヘルスのケアにも効果的な思考法です。
今回は、教育業界・官公庁においてコーチングを用いた組織変革などを牽引してきた五島さんに、「リフレーミング」の概要から人事ができる活用方法などについてお話を伺いました。
<プロフィール>
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五島 希里(ごとう きさと)/港屋株式会社 代表取締役社長
プロコーチ歴11年、コーチング実績500時間超。大学卒業後、人材サービス企業にて3年間、財務IRや新規事業、子会社設立を担当。2010年よりコーチ・エィで、パブリック・セクター事業開発チームの立ち上げと併せ、企業・官公庁等でコーチ、営業、プロジェクトマネジメントを担当。2015年より1年間のフリーランスを経て、2016年港屋株式会社設立。上場企業やスタートアップ等でエグゼクティブコーチ、組織開発を支援しながら、中高生・大学生のプロジェクト型教育を支援。ミャンマーや英オックスフォード等でも活動。
目次
なぜ今「リフレーミング」が注目されているのか
──「リフレーミング」の概要について、昨今注目されている背景も含めて教えてください。
「リフレーミング」は、考え方や視点などの枠組み(フレーム)を組み直すことで物事をポジティブに解釈するための思考法です。元々は心理学の概念でしたが、近年では組織開発や人材開発の文脈でも用いられるようになりました。
分かりやすい例え話として、イソップ寓話の『3人のレンガ職人』の話があります。
旅人がレンガを積む職人に『ここで何をしているのか』を尋ねると、1人目の職人は『朝から晩までレンガを積んで辟易としている』と言う。2人目の職人は『大きな壁を作っているんだ。家族を養うためにね』と言う。3人目の職人は、『みんなが集うための、歴史に残る大きな教会を作っているんだ』と言う。
同じレンガを積む仕事であっても、捉え方は三者三様です。捉え方を変えることで、目の前の事象が自分にとってまったく違う意味を持つことがあります。主観や思い込みで立ち止まってしまう、ネガティブな捉え方から抜け出せない、異なる考えの相手と分かり合えない──そんな時に、それまでとは別の考え方に思考の枠組み(フレーム)をシフトさせることで新しい理解を促す方法論が「リフレーミング」なのです。
昨今「リフレーミング」が注目されているのは、まさに時代の過渡期を目の当たりにしているからだと思います。パンデミックや戦争、1ドル=147円台を記録した32年ぶりの円安など、さまざまな出来事がありました。社会に対する不安以外にも、ハラスメントに対する考えやダイバーシティ、働き方の変化など、親や管理職世代が新入社員だった頃ともまったく異なる環境です。こうした世代間格差や、上司・部下間の考え方の差異などの生じる環境下では、個人的に感じる不安や憤りも生まれやすく、自分以外の考え方が気になることも多いものです。また組織側にも『このままではいけない』という焦燥感から、思考のシフトが自ずと求められているように感じます。なお、多くの場合「リフレーミング」は個人に対して使われますが、それ以外にも人材育成やマーケティング、商品開発など組織側にも応用できる考え方です。
「リフレーミング」の実践方法(3ステップ)
──「リフレーミング」を行う際はどのように進めるのが良いでしょうか。フレームワークなどがあれば合わせて教えてください。
ネガティブな人、固定概念に囚われがちな人、柔軟な思考が持てない人、偏見の強い人──世の中にはいろんな思考パターンを持つ方が存在し、個々に合わせた対応が必要であることは言うまでもありません。しかし、どんな方にも共通するのは『主観に埋没している』状況にあるということです。
主観から客観へと意識を拡張し物事の捉え方を変えるサポートをするために有効な進め方として、ここでは3つのステップと6つの視点をご紹介します。
ステップ1:今どう見えているか(主観の確認)
今その方(あるいは自分自身)が感じているのはどんな感情か、どんな捉え方・考え方・解釈をしているか、何に対して不安や憤り、怒り、正しさの主張をしたいと思っているのかを、できるだけ正直に洗い出します。文字にしたり口に出したりすることもオススメです。
ステップ2:他にどんな選択肢があるか(客観による拡張)
このステップでなるべくたくさんの選択肢に出会うことができると、自分の立っている場所を深く理解し、新しい場所へ移行することに希望を持ちやすくなります。その際、以下6つの視点で考えるとより多くの選択肢と出会うことができるはずです。
(1)言葉 | ネガティブ→ポジティブワードにする |
(2)役割 | 「Z世代なら?」「あの人なら?」「社長なら?」 |
(3)場所 | 「ここが北欧なら?」「あの会社なら?」「学校なら?」 |
(4)時間 | 「10年後の自分なら?」「10年前の自分なら?」 |
(5)資産 | 「得られたものは?」「すでに持っているものは?」 |
(6)事実 | 数値化をする(100回やったうちの3回が失敗だった、▲割は成功だったなど)、想像か事実かを見極める |
ステップ3:どれを選ぶか(思考の選択)
目標達成のために、ありたい自分のために、前進するために、先ほど抽出した選択肢の中からどれを選び取るかを決めます。その上で、その捉え方によって自分にどのような変化があるかを言葉にします。また、物事の捉え方を変える上では『スイッチとなる言葉』があると意識を切り替えやすいです。例えば、『あの人ならどうする?』を口癖にする、『ネガポ辞典(ネガティブワードをポジティブに言い換える辞典)』を手元に置く、などの仕掛けを用意することで、自身がシフトしたい方向へ進みやすくなります。
「リフレーミング」を活用する際の注意点
──先ほど教えていただいた方法で「リフレーミング」を活用する中で、注意しておいた方がよいポイントなどはありますか?
「リフレーミング」は強制的に行うものではありません。あくまで関わる側(管理職など)はサポート役として、相手が自分自身でリフレーミングできるように手伝うことが大切です。また、関わる側が持つ枠(フレーム)が相手に良くも悪くも影響することがありますので、その点も注意が必要です。
また、それ以外にも注意すべきこととして以下3つがあります。
(1)事実の否定をしない
『あれは自分の失敗ではない』『ミスなんて起こらないはず』など、事実を歪曲したり現実逃避したりするのは「リフレーミング」とは異なります。
(2)“今”を否定しない
今感じている感情や捉え方を否定する必要はありません。感情が湧くことは悪いことではないので、それを修正しようとするのではなく、感情が湧いた後の解釈・捉え方・考え方に選択肢を持たせるのが「リフレーミング」です。
(3)成長のための課題を見過ごさない
「リフレーミング」をポジティブにし過ぎると、本来成長のための必要な課題から目をそらしてしまうことがあります。そうならないよう、課題は課題として取り扱う分別が必要です。

「リフレーミング」を組織・人材開発に活かすためには
──「リフレーミング」をチームビルディングや人材育成に取り入れようと考えた際、具体的にはどのような活用方法や研修内容が考えられるでしょうか。
「リフレーミング」を活用する目的や課題によっても対策は異なりますが、よくお聞きする課題には以下のようなものがあります。
・クリエイティビティが発揮されない
・マネジメント層に上がりたくない人が多い
・M&A後のPMIがうまくいかず、一体感がない
・主体性のある人が育たない など
こうした思考に対して効果をもたらしたい場合、研修などを通じて管理職側の関わり方に「リフレーミング」を取り入れることが好ましいです。リフレーミングは実践的なスキルのため、知識だけ知っていてもあまり役に立ちません。管理職がその構造や効果、取り組み方について理解し、問題が発生した際にメンバーと一緒に「リフレーミング」を用いた対話ができる状態にすることで、組織のあらゆる場所で思考の転換を促すことができるようになります。
ただし、前述したステップ3(今どう見えているか)をできるだけ正直に吐き出せる心理的安全性がなければ、表面的なリフレーミングになりかねません。研修のような大勢の前ではなかなか言いづらいことがある場合もありますので、もしそうした場で実施する場合にはペアワーク・口外禁止などの配慮が必要になってきます。なお、すでに1on1制度などに取り組まれている場合は、その中でフレームワークをシート化したものなどを一緒に確認しながら対話することも効果的です。

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リフレーミングを行う際には、相手の話を否定することはせず、まずは「あなたはそう思ったんだね」と受け止めるところから始めましょう。また、自分自身も相手から見られていることを忘れずに取り組む姿勢が重要です。時には管理職自身も、行なった対話に対してのフィードバックを対象者から受けることで、自身も時間の意義を実感することができることでしょう。こうした内容は、過去に「メンタリング」について取り上げた別記事とも通じるところがあると思いますので、そちらもご覧ください。
※参考:人材育成術としての「メンタリング」。メンター・メンティー共に大きく成長する方法・手順
「リフレーミング」研修の実例紹介
──『「リフレーミング」の活用には管理職側の理解浸透が重要』とのことですが、実際に五島さんが実施された研修内容などについて可能な範囲で教えてください。
私もコーチとして関わった企業の事例をご紹介します。その会社の管理職にはほぼ全員にコーチがついており、みな経理・会計系に明るくプレイヤーとしても優秀な方ばかり。しかし、かねてより『ディスカッションを目的とした会議が硬直化しやすい』という課題を抱えており、その解決法に頭を悩ませていました。1対1で話すときはまったく問題がないのに、会議になると途端に意見が言えなくなってしまうというものです。
そこで、管理職1人ひとりと対話をしながら『その時に何が起きているのか』を一緒に辿ることにしました(ステップ1)。すると、そこには職業的な枠組みに捉われた思考があることが見えてきました。経理や会計では『ミスしないこと』が何より重要です。間違えてはいけない、誤解が起きるようなことを言ってはいけない、解釈に幅が出るようなことを伝えてはいけない──悪気なく、むしろプロフェッショナルであるからこそ持っていた枠組みが、新しい発想を阻害していたのです。
その枠組みはプレイヤーの時はマッチするけれども、管理職として会議に参加する際には不適合です。管理職メンバー1人ひとりが『プレイヤーから管理職の枠組みにシフトする重要性』に気づき、数ある選択肢の中からそうあることを選びました(ステップ2)。
同時に、会議の途中でマネジメントのトップから『会議全体をメタ認知させる質問』をしてもらうように働きかけました。具体的には、会議が硬直しかけたときに『今この会議はどういう状態?』と質問を投げかけることで、参加者全員が今の状態を客観視し、目指すべき方向(ディスカッションを通じて新たなアイデアを創出する、新規事業を生み出す)に進めているかについての気づきを促すようにしました。
これらによって会議は一変。以前の硬直化したものから、自由闊達なディスカッションの場として生まれ変わりました。また副次的な効果として、管理職のメンバーが「リフレーミング」の効果を実感したことにより、メンバーと話す際にもそのエッセンスを活用できるようになりました。
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編集後記
五島さんから教えていただいた3ステップの実践方法を活用すれば、自分1人でも「リフレーミング」を行うことができるなと感じました。まずは自分自身をフレーミングしてみるところから始めてみると、その後組織内に広めていく際などにもより明確なイメージを持って進めていけるのではないでしょうか。